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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第6話 それぞれの事情
22/120

6-2

 コニールが剣を抜き、ユウキに対して構えた。それを見てユウキは表情を変えずに答える。


「待ってくださいよコニールさん……。あなたと俺が戦ったって……!」


「いいから。一度現実を見せてやる必要があると思うからな」


 “現実”という言葉を聞き、ユウキの頭の中で何かがキレる。


「わかりましたよ……! じゃあやってやりますよ……!」


「ユウキ……!」


 コニールの剣に不殺魔法をかけ終わったアオイはユウキに駆け寄っていく。ユウキを心配して肩に手を置くが、ユウキは優しくアオイの手を握り返した。


「大丈夫……ちゃんと上手くやるから」


 ユウキも剣を抜くと、アオイに不殺魔法を依頼する。アオイは何か言いかけようとしたが、結局言うことができず、黙ってユウキの剣に不殺魔法をかけた。そしてアオイは離れていくが、今度は代わりにシーラがユウキに近づいていく。


「兄さん、本気ですか?」


「ん? ああ、こうなったらやるしかないだろ?」


「そうですか……」


 シーラはユウキの肩に手を回し、コニールの方を見ながら言う。


「じゃあ特別サービスっす。……コニールは昨日のスズキセンパイとの戦いで右手首を痛めてます。……右方向が弱点です」


「え……?」


 ユウキは急なシーラのアドバイスに戸惑うが、シーラはウインクしながら言った。


「兄さんがコニールに負けるとは思いませんけど、コニールとどちらを応援するって言ったら兄さんですからね。頑張ってくださいよ」


 シーラは手を振ってユウキから離れていく。そしてようやく周りに人がいなくなったことで、準備が整ったと判断してコニールはユウキに言う。


「よし……じゃあ始めようか」


「……ええ」


 ユウキも剣を構えるが、アオイから見てもユウキとコニールの剣の構え方には大きな差があった。――というよりユウキの剣の構えは構えになっていなかった。ただ持っているだけと言っても過言ではなかった。


 それでもユウキはなぜコニールがこんな不利な戦いを挑んできたのか、その意味を測りかねていた。昨日の一連の戦いでコニールの動きは見ており、自分の身体能力についていけないのははっきりをわかっている。絶対に勝ってこないのに――。


「っつ!?」


 一瞬だった。その一瞬でコニールがユウキに詰め寄り、剣を突く。ユウキはその身体能力と、動体視力で剣の動きを見切りはするが、防ぐのが精一杯――どころか防ぐことすらできず、コニールの突きが次々と身体に当たっていく。


「がっ……痛っ……! なんで……!?」


 ユウキは見えていて反応できているのに防げない理由がわからなかった。そして距離を取り、コニールの剣の射程外へ逃れると、今度こそこちらから攻撃に移ろうと剣を向ける。そして振りかぶった瞬間、振り下ろすよりも早くコニールの剣がユウキに向かい、ユウキが剣を振り下ろす前にコニールの攻撃がユウキに当たっていた。


「なんで……!?」


 自身の動きが全くできないユウキに、コニールは説教をするように言う。


「その構え方だ! そんな下手くそな剣の振り方で、隙をさらして攻撃してくださいと言っているのと同じだろう! 君は脇は開きすぎだし、ちゃんとした構えが決まっていないからいちいち剣を握りなおしている! そんなので私に勝てると思ってるのか!?」


 ユウキは歯ぎしりをしてコニールをにらみつける。コニールの攻撃は不殺魔法がかかっているとはいえ、それなり深く入っているためか打撲痕ができており、ズキズキと痛んでいた。


「まず実験その1。痛みの感じる度合いがどんなもんか、か……」


 ユウキは小さく呟いた。昼にシーラと話した痛みの実験が、実戦レベルで行われることになってしまっていた。だがその言葉をつぶやいたことで、シーラの存在を思い出す。そして戦闘前にシーラに言われたことも。


 ユウキはジリジリとコニールの右側に寄ろうとする。コニールは右側を取られまいと立ち位置を調整しようとし、その場で互いに位置を回転させていくことになる。そして互いに焦れてきた瞬間、ユウキは一気に跳躍し、コニールの反応できないスピードで裏に回ろうとする――が。


「がっ!?」


 何かに足を引っ張られ、体勢を崩して転んでしまった。急いで立ち上がろうとするが、すでに遅く首筋に剣が突きつけられる。


「私の勝ちだな」


 コニールはユウキを見下して言った。ユウキは手から剣を離し、両手を挙げて降参を示す。


「ま……負けました」


× × ×


 ユウキとコニールの戦いが終わり、ユウキはコニールにより剣の訓練を受けることが決まったものの、不機嫌な態度を崩さずに一人離れていた。テントの設営が終わり、続いてシーラの食事の手伝いをしていたアオイは、コニールに話しかける。


「本当にユウキに剣の訓練をするんですか?」


 アオイからの問いにコニールは頷いて答える。


「ああ。……私から見てユウキ君、そしてアオイ君にもつながることなんだが、大きな弱点がある」


「弱点……?」


「それはだな……」


「基礎力不足。これに尽きますわな」


 シーラが二人の会話に入るように割り込み、お椀をアオイに渡す。


「コニールが散々言う通りに元々一般市民ですしね。兄さんは剣の振り方がめちゃくちゃだし、姉さんは瞬間移動以外に何もできないし」


「君も似たようなものじゃないか」


 コニールはシーラに言うが、シーラは知らん顔して言い返す。


「その代わり私には“知識”があるから。こればっかりは役割の違いって思ってもらわないとね。だいたいこのキャンプの道具一式や食料だって、ほぼ全部私の金で買ったものだし」


 そう言われるとアオイもコニールも何も言い返せなかった。シーラは何故か年齢に不相応な金を所持しており、今回の旅に出るにあたって、ほぼ全額シーラが出費していた。――シーラが大臣を殴ったせいで話がこじれたのもあったが。


「だから兄さんとコニールが戦い始めた時も、私は少し手を加えた。……コニールに負けたら兄さんも、自分の実力不足がわかるだろうし」


「……まさか」


 アオイはシーラの言葉であることに気づく。ユウキが戦っている最中に不自然に転んだことを。アオイが気づいたことを受け、シーラは右手でクルクルと糸を回した。


「はい。さっき兄さんがコニールと戦う前に、兄さんの足に仕掛けをさせていただきました。ああ、コニールも事前に知ってましたからね。そんでコニールが右手を痛めてるっていうのも嘘。あれは兄さんがコニールに追い詰められて、なりふり構わなくなった時に、私に背を向けてもらうように誘導するための仕掛けでしてね。糸が兄さんの力に耐えられるかはちょっとした賭けでしたが、バランス崩すだけでも作戦は成功ですからね」


「……はぁ。知識担当、頭脳派なのは言葉通りね……」


 アオイはシーラの用意周到さに呆れるしかなかった。


「で、兄さんがコニールに稽古をつけてもらう間、私も一つ姉さんに提案があるんですよ」


「何……?」


 アオイは不安になってシーラに尋ねるが、シーラは笑顔で答えた。


「姉さん。“魔法”、使えるようになりたくありませんか?」


「魔法……!?」


 アオイはシーラからの予想外の提案に驚きながら言った。


「いや、でも魔法使いになるのだって、学校とかに通ったりする必要があるんでしょう?そんなの私ができるとは……」


「いや~姉さん結構どころじゃない才能がありますよ。その軽く使ってる不殺魔法だって、本来はとんでもなく難しいものなんですから。ひいお祖母ちゃんにも才能があるとか言われませんでした?」


 シーラはアオイたちを世話していたディアナのことに言及する。アオイは当時のことを思い出そうと頭を押さえた。


「……そういえば言われた」


 アオイはディアナに不殺魔法を教わった時のことを思い出していた。あの時は自衛のためにと簡単な魔法だと聞いており、軽いノリで教わったものだったが、のちにシーラから非常に高度な魔法だと聞いて驚いたものだった。そして昨日の炎を操る異邦人たちと戦った時にも、アオイはあることを言われていたことを思い出す。“魔法に関するステータスが高い”と。


「兄さんは逆に魔法面では全く素養はなさそうですし、もしかすると二人でそういう才能が分かれたのかもしれませんね」


 シーラはまだ遠くで不貞腐れているユウキを指さして言う。


「……そして私は魔法の知識“だけ”は誰にも負けない自信があります。もし、姉さんがよろしければですが……」


 少し謙遜していたシーラにアオイは少し引っ掛かりを覚えた。アオイがシーラに聞いた話では、魔法学校に通っていたが素養がなく、試験で落ちたことをきっかけに一時休学し、パンギア城下町の叔父の下で世話になっていたということしか聞いていなかった。だがアオイもこれまでの戦いで自身の立場に思うことがあった。


「……うん。お願いしていいかな」


「本当ですか!」


 アオイの返事を受けて、シーラは何故か非常に嬉しそうに反応した。あまりにシーラが嬉しそうにするのでアオイは嬉しさ半分、怪しさ半分の気持ちを抱くくらいであったが。


「君は随分と素直に受けるんだな」


 アオイが素直にシーラの申し出を受けたのに対し、コニールはユウキを暗に持ち出してアオイに尋ねる。


「ええ……。“元”は同じと言っても。やっぱり立場の違いがあれば……ですね」


 “魔法”という非現実的な神秘を教わる好奇心があることは否定できない。これだけでも身体を鍛えろというユウキと違って、心理的なハードルが相当低いことも。だがそれ以上にアオイはここまでユウキに守られてばかりであったという負い目があった。


「ここまでユウキばっかり苦労させてきたんだ……!私もやれることはやらないと」


 ――それは逆に言えばアオイですらユウキの心境を掴めていないということでもあった。この場にいる誰もが、ユウキがコニールの訓練を受けたがらない“理由”を、本質で理解できていなかった――。


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