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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第4話 存在理由
15/120

4-3

 ヨウが剣を装備しシズクと並ぶ。それに対応しコニールとアオイも臨戦態勢を取る。シーラは二人の邪魔にならないように、ゆっくりと後ろに下がっていった。


「アオイ君、私の剣にも不殺魔法をかけてくれるか?」


「え……?」


 コニールの申し出にアオイは少し戸惑うが、コニールは表情を強張らせながら言う。


「私も殺人をしたい訳ではないということだよ。それにあの異邦人たちも若すぎる……。殆ど子供じゃないか」


「……鈴木先輩は、もし年齢がそのままなら18歳のはずです」


 自分の年齢を当てたアオイに、シズクは口に手を当てて思考する。そして“アオイ”と呼ばれていたことを思い出し、ある考えがシズクの脳裏に浮かんだ。


「やっぱりそうだ。君、もしかして結城君なの? 最初はただ似てるだけかと思ってたけど……姉妹がいるなんて聞いたこともなかったしね。」


 シズクがアオイを指さして言う。アオイは答えに困るものの、少し悩んで頷いた。


「……ええ、そうです。あいつも結城ですけど、私も……俺も、結城です」


「まさか……!」


 シズクはアオイの正体を知り驚愕していた。――が、すぐにそれは怒りの表情に変わっていった。


「許せない……! そんな簡単に性別を変えられるなんて……! それがあなたの能力……!?」


「急にどうしたんですか……!?」


 アオイはシズクの豹変ぶりに疑念を抱くが、コニールは察したようにアオイに言う。


「あれは……少しわかるような気がする」


「コニールさん?」


「君の言うアイキドーなる武術を、彼女は真剣に学んでいたのだろう? なら、どこかでぶつかるはずなさ。“男”と“女”の“差”ってやつに」


 コニールの推理にアオイは顔を引きつらせていた。


「いや、鈴木先輩は男相手でも喧嘩に勝ってましたよ?」


「でもそれは君が彼女と知り合いだった時……数年前のことだろう? じゃあ参考にはなりにくいな。大人になれば、もっと差が出始めるから……」


 コニールはそこまで言いかけハッとする。


「そうか……そういうことだったか」


 コニールは先ほどのユウキとシズクの立ち合いを思い出していた。あれだけの力を持つユウキを相手にしているにも関わらず、シズク側の方に目立った動きがなかったことが、コニールは気にかかっていた。――そしてシズク側に動きが無いことは当然だったのだ。なぜならその時異常が起こっていたのは“ユウキ”の方だったのだから。


「……アオイ君、私があのスズキという者を相手にする。君は横の少年を何としても止めてくれ」


「え? ちょ……ちょっと待って……!」


 コニールはアオイの回答を待たずにシズクに向かっていく。向かってくるコニールに、ヨウはシズクの前に立ち、剣を構えて立ちふさがる。


「どけえ!」


 コニールはヨウに対し剣を振り下ろす。コニールはヨウの構えを見て直感していた。こいつがド素人であると。ユウキもそうであったが、異邦人は戦闘の訓練を積んでいるようには見えず、コニールはそこに容易に付け込めると思っていた。


「そんな構えで防げると思うか!」


 コニールはヨウの構えた剣ごとたたき切ろうとするが、剣と剣がぶつかった瞬間、コニールの剣だけが叩き折られていた。


「なっ!?」


 弾き飛ばされた剣先を目で追い驚愕する。ヨウの持っている剣は傷一つついていないのに、自分の剣は根本からひん曲がって折れていた。そうなった理由は一つ。異邦人の持っている剣が、異様に硬いからだった。


「なんなんだその剣は……!」


 コニールは慌てて下がってヨウの剣の射程外に離れる。ヨウは勝ち誇った顔でコニールに言う。


「さっすがダイヤ素材の剣!本当のダイヤモンドはこんな使い方するもんじゃないとは思うけど、能力で作り出したものだしな!」


 コニールが下がったことで間合いができ、ヨウはスマホを操作する隙を確保する。


「剣もない状態で、これが防げるか!」


 ヨウは能力を使い、コニールに向かって大量の木の槍を出現させる。


「くっ!?」


 突然の奇襲にコニールは対応が遅れるが、槍がコニールに向かう直前に、目の前に石の壁が出現して槍をすべて弾き飛ばす。コニールが後ろを振り向くと、アオイが右手をこちらに向けており、周りの床がえぐれていた。


「アオイ君、助かった!」


「あの能力……私の能力に似ているけど、なんか凄い既視感があるというか……まるで、ゲームのような……?」


 アオイはヨウが使った能力に思うところがありながらも、今度は先ほど拾い集めていたフォークなどの食器類を左手に掴む。


「私の能力に似ているなら……これくらい防いでよ!」


 アオイは能力を使い食器類をすべてヨウに向けて飛ばす。ヨウは目の前にブロックを積み重ねて壁を作り出すと、アオイの食器の動きをすべて止めた。


「あれは……瞬間移動みたいな能力!? っていうことはシズクが今言っていた、男と女に別れる現象はまた別なのか!?」


 アオイはここまで能力を使う機会がなかったこともあり、ヨウ達はアオイの能力を誤認していた。――そしてもう一つ、ここまででアオイはヨウに能力を誤認させる仕込みをしていた。


「目の前に壁を作り出すことはわかっていた……! でもその状況で、前はしっかり見えるかしらね!」


 ヨウはアオイの言葉を聞き、急いで壁を消して視界を確保する。――が、次の瞬間後頭部に強い衝撃を感じ、足に力を失い地面に倒れる。


「がっ……!?」


 ヨウは立ち上がろうとするが、コニールがそれをさせるわけがなかった。先ほど弾き飛ばされた自分の剣先を握ると、それを使い倒れているヨウの頭へと思いっきり叩きつける。不殺魔法がかかっているためか、刃の部分を直接握ってもコニールの手が傷つくことはなかった。


「全く……そういう使い方もあるのか……!」


 コニールは感心しながら言う。先ほどヨウが立っていた場所で、テーブルが衝撃の余韻で揺れていた。ヨウが受けた後頭部の衝撃は、このテーブルがヨウの背後から出現したものによるものだった。


 あくまでアオイの能力は物を飛ばすだけ、とヨウに先入観を与えることで、背後に瞬間移動させることへの警戒心を薄くして、真正面からの不意打ちを決めたのだった。


「さて……あとは彼女だけということだな」


 コニールは残ったシズクに対して言う。


「今なら降伏すれば悪いようにはしない。異邦人は倒せば消えてしまうという事なら、生きた情報を手に入れるには、そちらからの協力が必須だからな」


「……勝てると思ってるわけ?」


 シズクはヒューゴの方をチラリと見た。ヒューゴもヨウと同じくユウキにやられてしまったようだが、ユウキの方も肩の痛みからこれ以上動けないようだった。そしてアオイに関しては能力のタネがわかった以上、自分の相手にはならないと判断していた。問題は目の前の女だけだった。


「異邦人でもなく、武器はさっきヨウに折られてもう無い。そんなんで……!」


「ああ、勝てるな。君程度なら」


 コニールは一切の躊躇なく言い放った。


「ユウキ君の同郷ということだが、なら君も“ニホン”出身なんだろう? そんな甘ったれた場所で“挫けた”程度の女なら、容易に勝てると言っているんだ」


 コニールの挑発に、シズクは顔を真っ赤にする。


「挫けたって……何かあったんですか?」


 アオイはシズクを心配するように声をかけるが、それがシズクの琴線に触れたのか、シズクは喚き散らすように言った。


「うるさい! うるさい!! うるさい!!! お前らなんて殺してやる!!! もう絶対に許さない!!!」


 シズクはコニールに向かっていく。コニールにはシズクの“能力”の詳細が掴みかけていた。――ただ問題があるとすれば。


「わかっていたところで、どうしようもできない“能力”なんだよな……」


 コニールはシズクの突きを防ぐが、防ぎきれずに後方へ弾き飛ばされる。先ほどのやり取りをみて、コニールが圧勝すると思っていたアオイは、自分の横まで飛ばされてきたコニールを支えようとするが、ヒールのせいで体勢を保つことができずに一緒に倒れてしまう。


「コニールさん!? ……全然負けてるじゃないですか!?」


「くそ……! これが異邦人の“ステータス”か……!」


 ユウキ達から事前に聞いていた異邦人のステータス。コニールたち現地民には無い、外付けの力。先の植物を操るインチとの戦いではコニールは直接相対することはなかったため、ユウキ以外の異邦人相手では初めての経験であったが、やはり見た目の筋肉量に対して、異常な力を発揮していた。


「どういう経緯であのような力を手にしたのか、本当に気になるが……」


 コニールは体勢を崩したアオイを引き上げながら立ち上がる。シズクの攻撃を防御した腕がまだしびれており、少し手間取りながらになってしまった。


「大丈夫ですか……?」


 アオイは自身を引き上げるのに手こずっていたコニールに心配して声をかける。コニールは腕をぶらぶらと振りながら答えた。


「大丈夫だ。……多分」


「多分て……」


 ユウキや他の異邦人とは違い、シズクの強さは確かな根拠に依るものだともコニールは直感していた。だからこそ惜しいと思っていた。なぜ彼女がこうやって道を踏み外すことになったのだろうと。


 そして先ほど自分で言った通り、それなりに推察できるものがあった。“挫ける”に足る何かがあったのだろうと。――ただそれは自分も同じだ。だからこそコニールは心に思うものがあった。


「多分……彼女に”わからせて”やれるのは私だけだろうから」


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