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ショートショート5月~3回目

イケボの僕が、彼女に逃げられてしまった、切実な理由につきまして(。>д<)

作者: たかさば

 ……今日は、SNSで知り合った彼女と初デートなんだ。


 半年前に、知り合って。

 毎日いいねボタンを押し。

 毎日リプして。

 たまにDMで盛り上がって。

 スペースで一緒にはしゃぐようになって。

 毎晩電話で『おやすみ』を言い合う仲になって。


 彼女、僕のこと、大好きって言っているんだ。

 僕も、もちろん……、彼女の事が大好きなんだ。


 毎日、毎日、僕の気持ちを、伝えたんだ。


「ああ…、出会う事が出来て…本当に僕は幸せだ!」

「声だけじゃ、……足りないんだ。美咲ちゃんに、早く会いたい。」

「君がいるから、僕は今…、こんなにも満たされているんだよ?」

「美咲ちゃんの存在に、どれほど僕が救われている事か!ありがと…。」

「ふふ…その恥ずかしそうな声、一生の宝物にするね。」

「ね…、もっと好きになっても、いい?」

「許可されなくても、恋に落ちるのは自由だよね?」


 毎日、毎日、愛の言葉を、囁き続けたんだ。


「ね…、そっと抱きしめるって約束するから、僕の所に……落ちておいで。」

「美咲を見つめたくてたまらない僕の瞳は今…寂く夜空を見上げてるんだ…、あ!今流れ星が!」

「うん…?願い事?もちろんしたよ、美咲を早く抱きしめることができますようにって!」

「大丈夫、僕がいるよ!僕はずっと美咲だけを…愛してる。」

「何を心配しているの?おばあちゃんになった美咲もかわいいに決まってるじゃないか!」

「恥ずかしがってもダメ、僕は80歳になっても、毎日キスをするからね!」

「どう?そろそろ……愛される覚悟、できた?」


 彼女、僕の声が大好きなんだって!


 ずっとずっと、僕の言葉を聞いていたいんだって。

 ずっとずっと、僕の言葉を聞いていきたいんだって。


 ああ……よかった、僕のことを、好きになってもらえて。


 気持ちを込めて、声に出したから…伝えることができたんだ。

 気持ちを込めて、言葉を伝えたから…分かってもらえたんだ。


 今日、ようやく……僕の美咲と、会う事ができる。


 美咲に会ったら、その姿をじっと見つめよう。

 美咲に会ったら、その声を間近で聞こう。

 美咲に会ったら、その体をギュッと抱きしめよう。

 そして……。


 おや、あの曲がり角の所で、きょろきょろと辺りを見回しているのは……、僕の愛する、美咲!!


 ああ、お化粧がうまくいかなくて、焦っているんだね。

 そんなの僕は、気にしないのに。

 どうしよう、どうしようって…心の声が、漏れ出しているじゃないか。


 ……本当に、かわいいな。


「美咲?初めまして、侑司です。」


 慌てている美咲のもとに駆け付けて、自慢の声で、気持ちを込めて……愛する人に話しかけた。


「会いたかった!思った通り…とってもかわいい!」

「……どうしたの?僕の前で、緊張なんてしなくていいよ!」

「僕?全然緊張してない、むしろうれしさで胸がいっぱいで、今すぐ美咲を抱きしめたいくらい!」


 ……なんだろう、美咲の様子が、少しおかしい。


「今から、一緒に美味しいものを食べに行こうと思うんだけど…そっか、食欲ないんだ、残念。」

「じゃあ、僕の生歌聞かせてあげるよ、いいカラオケボックス知ってるんだ…そっか、耳が痛いなら仕方ないね、残念。」

「だったら、今から手を繋いで散歩しよう、見晴らしのいい場所知ってるんだ…え、なんで、もう帰るの?」


 ……明らかに、美咲の顔面バランスが崩れている。


 上部弓状毛ジョウブキュウジョウモウイビツ、及び眼瞼ガンケン痙攣ケイレン眼球赤発ガンキュウセキホツ口唇コウシンの著しい崩壊様変形ブサイクヘンゲとそれに伴う切歯セッシの露出、表皮温度低下ヒヤアセタラタラ鼓動機能シンゾウバクバク呼吸機能ヒイイイイの…暴走パニクリ?!こんな見た目が別物化する人間など、見たことがない!!これはもしやレアもの、絶対に……欲しい!


「え、待って!なんで?!あんなに僕のこと好きって言ったじゃん?!逃げないで!!…え?!顔が変?!そんな馬鹿な、だって僕のプロフ見てかっこいいって言ってたよね?!…はあ?!おかしい?!何が!!…表情がない?!どういう意味?!いいでしょそんな(ツラ)の皮なんか動かなくても!!…ちょっと待って、おばけって何?!僕はあんな肉体を持たないレベルの低い存在じゃなくて、わざわざ地球上に降りてきた……って!!!み、みーさーきー!!!」


 愛する美咲が、せっかくの伴侶候補が、やっと捕獲できると思った人体が……、僕の目の前から逃げ出してしまった……。


 ……ああ、ケチって顔面モーションを導入しなかったばっかりに。

 ……でも、不具合が出て回収騒ぎがあったからさあ。

 ……くそ、あとちょっと、あとちょっとだったのにイイイイイ!!!


 ……だいたいさ、人間ってのは本当に…、変なところで繊細なんだよ。


 どこの宇宙に、表面の歪みで感情を表す奴がいるって言うんだ……。

 よっぽどの人類オタクじゃないと、喜びとか悲しみとか見分けなんかつくはずないじゃないか……。

 そもそも、感情なんて不可解なものを持つ生命体なんてのは、この辺りじゃ地球だけで……。


 ……ホント、研究ってのは、一筋縄じゃ、いかないな。


 僕は微塵も動かない顔面をつるりとなでながら……、他人の顔を見ようともせず、前に進み続ける人々の群れに、混じった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 会ってしまえば、声とか関係ないですよね。見た目。というか、中身!! イケボで、見た目がダメだったのかと想像しながら読み始めましたけど。まぁ、人にあらざるものでしたか〜。
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