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大学入学共通テスト

 大学入学共通テスト。それは人生の中で大きなイベントの一つと言ってもいいかもしれない。


 受験会場に向かう電車の中、乗り合わせた他校の受験生たちは参考書を読むなり、友達と会話して気を紛らわせたりしていたが、私は座席に座って瞑目し、アップテンポの音楽を聞いて気合を入れていた。


 星花女子学園の大学進学組のほとんどは系列の星花女子大学に進む。私のような外部受験組は少数派だが、志望校は自分の出身地にある大学かS県内の大学、もしくは都内の大学といった感じで、私みたいに縁もゆかりもない土地の大学を目指す者は少数派の中のさらに少数派となる。


 いや縁もゆかりもない、はさすがに語弊がある。実は、私の大切な人が今京都に住んでいるのだ。その人は一学年上の同じ部活にいた先輩で、入部して面倒を見てもらっているうちに恋仲にまで発展して、というありがちなパターンでお付き合いを始めた。


 先輩は商業科だったので、県東部にあるバイクメーカーの本社に就職をしたのだが、入社直前になって急遽諸事情で京都にある営業所に配属されることになってしまったのだ。いきなり遠距離恋愛になってしまった上、最低でも三年はS県に戻れないと言われたから途方に暮れた。


 三年も待てるはずがない。しかも三年経っても戻れる保証がどこにもない。それならばと私は単純な頭で考えた。


 じゃあこっちから向かうしかないじゃない、と。


 もともと私は外部進学希望だったが、志望校を全て国公立私立問わず京都の大学にした。私の強い意志を進路希望調査に書き込んで、進路相談の日にそれを読んだ担任の巨勢先生から「節操ねーなー」と呆れ混じりに笑われてしまったが。


「要はどこの大学、どの学部に行きたいじゃなくて京都に行きたいんだな?」

「その通りです」

「だけどあなたの今の学力じゃ第一志望の京都大学はちょっと厳しい、としか先生は言いようがないな……」

「京大は一応目標を大きく持って、ということで。とにかく京都が第一です」

「そうか。だけど同志会大学と立秋館大学でも余程頑張っても厳しいし、京都実業大学、龍樹大学はギリ合格できるかってところだな。それでも京都に行きたいか?」

「はい。行きたい、じゃなく行かなくちゃいけないんです」

「そこまで意思が強いんだったらやめとけ、とは言えないな。だけどせっかく目指すんだったら一つでも上のランクの大学に入れるように頑張らないとダメだぞ。目標だけ大きくもって京大、じゃなしに本当に京大に行ってやるぞって気持ちを持って勉強するんだ。星花でも旧帝大に行った生徒はいないことはないからな」


 巨勢先生はそう仰ってくれた。私の成績は中の下ぐらいだったし先生だって本音では京大なんか絶対無理だと思っていたはずだけど、完全に否定しなかったからやる気になれたのである。


 私は巨勢先生の言葉通り猛勉強を重ね、先輩から励ましのメッセージを貰いつつ盆も正月も関係なく机に向かい、だけど部活は引退までちゃんとやり通して。そして気がついたら受験本番といった感じだった。


 最終的な志望校は、京都大学はやはり諦めることになったものの、私大はとにかく有名無名問わず共通テスト利用入試の願書を出した。大学、学部学科によって受験科目数や配点がまちまちなのだが、とにかく受ける科目は全て頑張るしかない。例え全滅しても一般入試がある、という甘い考えは捨ててこの共通テストで決めてやるという意気込みで本番に臨む。


 ブルッブルッ、とコートのポケットの中のスマホが震えた。


 先輩からのメッセージだ。


『おはよう』

『いよいよ共通テスト本番だね』

『春に会えるのを楽しみにしてるよ』


 最後に『頑張れ!』とエールを送るウサギのキャラクターのスタンプが送られてきた。


 瞳が燃え盛るかのように熱くなってくる。


「やってやるぞー!」


 私はここが電車の中であることをすっかり忘れ、拳を突き上げて絶叫した。やってやる前にやってしまった……。


 しかし不思議なことに恥ずかしい思いをしたからか、本番ではほとんど緊張することはなく思う存分に実力を発揮できたのである。そしてその結果、奇跡的に志望校の中では最難関の同志会大学に合格することができたのであった。


 先輩からおめでとうのメッセージが届いたけれど、やはり先輩に会って直接褒められたい。私の春が来るのはそのときだ。

担任の巨勢悠乃先生は『だから歩いていくんだね』登場キャラです。

https://ncode.syosetu.com/n6827hx/

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