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また会う日までに

 星花女子学園から駅と反対方向に歩いて15分のところに回転寿司のお店があるということは、実は生徒たちの間であまり知られていない。外食となるとだいたい駅方面か、そこから電車で市の中心部に行くかの二択になるからだ。


 しかしこの回転寿司のお店にはありがたいサービスがあった。雨の日には90分で食べ放題ができ、男性は1500円で、女性はなんと1000円という破格のお値段で楽しむことができるのだ。


 この店を教えてくれたのは、同じソフトボール部の一学年上の先輩、美波奏乃(みなみかなの)だった。先月卒業したばかり美波先輩は桜花寮に住んでいて、桜ヶ丘結奈(さくらがおかゆな)というルームメイトとお付き合いをしていた。入学したてでまだ恋人どうしでなかった頃、雨の日に桜ヶ丘先輩に連れられて外食したのがこの店だったという。


 桜ヶ丘先輩は美波先輩より一年先に卒業していったが、その直後に美波先輩が私、三津谷椿(みつやつばき)ともう一人、私の恋人である氷室真弓(ひむろまゆみ)をこの店に連れて行ってくれた。


 真弓は私の同級生で放送部に所属しているが、同じく放送部だった桜ヶ丘先輩にいろいろと面倒を見てもらっていた。私と真弓が両想いにも関わらずなかなか想いを口に出せずにいたとき、真弓を後押ししてくれたのは桜ヶ丘先輩だった。私も美波先輩に後押しして貰って、ようやく恋人になれたのだった。


 その後もいろいろ気にかけてもらって、特に桜ヶ丘先輩が卒業した後も美波先輩は真弓の相談も引き受けてくれて、何度助けられたかわからなかった。


 その美波先輩も今年巣立っていった。食べ放題の最中、真弓との話題は必然的に両先輩のことになった。


「椿もだけど、美波先輩もたくさん食べてたよねえ」

下村紀香(しもむらのりか)という偉大な先輩も超大食いだったけど、美波先輩はマネージャーなのに下村先輩と食事量が変わらないんだもの。あれにはビックリしたよ」


 私もすでに20皿は超えていた。真弓は私のまだ3分の1にも届いていない。


「美波先輩とは連絡してるの?」

「まあ、ちょくちょくとね。大学でもソフトボール部でマネージャーやってるけど、高校と違って仕事量が滅茶苦茶多くて大変だって言ってた」

「そっかー」

「真弓も桜ヶ丘先輩とはお話してる?」

「してる。今度映画研究会の作品でナレーションやるって言ってた」

「へー。どんな映画か知らないけれど癒やし系の声だし、ほのぼのした内容なんだろうな」

「ううん。未解決の殺人事件を追ったドキュメンタリーだって」

「ええ……あの声で? 想像できないや」


 私は少し食べるペースを落とした。真弓は私ほど大食いではないので追いつくことはないが、今日は余程お腹が空いていたのか、いつもよりかはハイペースだ。


「このたらマヨ軍艦ヤバすぎ。めちゃ美味しい」

「真弓、あまり食べると太るよ?」


 と意地悪言ったら、真弓もちょっと意地悪っぽい笑みを返した。


「いいんですー。これでも去年より3キロ減ったんだから」

「え、マジ? そんなに減ったの?」

「うん。椿よく言ってるじゃん、筋トレは正義だって。だから私も半年前から1Lペットボトル使って筋トレ始めたの。その成果が出てんのよ」

「知らなかった……ていうか、私に言ってくれたらもっと効果的な筋トレメニュー教えてあげるのに」

「フフン、実は美波先輩からソフトボール部でやってる筋トレメニューを間接的に教わっちゃったの。桜ヶ丘先輩を通してね。美波先輩も実践してたみたいだよ」

「あ、そういうこと」


 私たち選手と運動量が違うのに、美波先輩があれだけ食べても太らなかった理由が今になってわかった。


 ちなみに私は入学前は少食のヒョロヒョロで、背丈だけは170センチを超えていたからマッチ棒みたいな体型だったけど、筋トレのおかげで体格が良くなった。運動量が増えたおかげか食欲ももりもりと湧いて出るようになって、今やすっかり大食いに。それでも私より背丈が小さい下村先輩の方がパワーがあるのだからまだまだ鍛えなきゃ、と思わされる。それにはまず食べて栄養をつけないと。私は流れてきた寿司を、ネタを見ずに三連続でよそった。


「うわー、美波先輩みたいな取り方してる」

「えへへ、後輩は先輩を見て育つんだよ」


 もちろん真弓も、桜ヶ丘先輩を教材としてきたことだろう。真弓もまた、桜ヶ丘先輩みたいな癒やし系の声の持ち主で、お昼の放送は聞いて心地良い。


 真弓はまたたらマヨ軍艦を取って、2貫のうち1貫を、私側にある空の皿に乗せてきた。


「私たちも最後の一年だからお互い忙しいけど、時間取れたら先輩たちを誘ってダブルデートしたいよね」

「お、いいね!」


 やっぱり、スマホでちまちま連絡しているだけじゃダメだ。元気にしている姿を見せて、先輩たちがいなくなっても私たちはちゃんとやっていけていますよとアピールすることこそが恩返しになる。


 それまでに少しは成長しておかないとね、と私が言ってたらマヨ軍艦を頬張ると、真弓も大きくうなずいてたらマヨ軍艦を口にしたのだった。

この作品は新井すぐ様作『さよなら、私のラプンツェル』(https://ncode.syosetu.com/n5827fj/)の前日譚である『雨の日はお寿司屋さんに行く』の設定を織り込みました。なお『雨の日はお寿司屋さんに行く』は『Liliest EXTRA 稲妻』(東京大学百合愛好会発行)に掲載されています。


主な登場人物

・三津谷椿

立成20年4月時点でソフトボール部三年生。苗字に三がついていることから察する通り、三塁手である。守備が上手い。

・氷室真弓

放送部三年生。内気な性格を直したいために放送部に入ったという経緯がある。お昼休みの放送ではおっとり癒やし系のボイスで生徒たちを昼寝へと誘う。

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