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火星から来た転校生

作者: キャシヨ

「えー、今日から一人新しいクラスメートが加わります。『中村ライト』君……何でも父親が外国人で北欧の方から転校してきたそうだ。それじゃあ一言自己紹介いいかな?」

「ハイ、火星カラ転校シテキマシタ『中村ライト』デス。ヨロシクオネガイシマス!」


 教室は一瞬の静寂の後、多少ザワついたが、すぐに静かになった。

 これは寒い、かなりの寒さだ。転校一発目からやっちまったな。ハーフだからって調子に乗ったか。それとも北欧では受けるのか?どちらにしろ、つかみは失敗だったな。しかし北欧って曖昧だな……。

 一番後ろの席で、そんな事を考えていると先生と目が合った。

「田中!お前の隣に席用意するから、面倒見てやってくれ。日本の生活にもまだ慣れてないだろうからな。何なら自己紹介の時の冗談のお手本も教えてあげてくれ」

「えっ?!ハ、ハイ……」

 教室からクスクスと笑い声が漏れる。

 って、マジか!イヤイヤ荷が重いな。只でさえ憂鬱な高校生活が、余計憂鬱になるわ……。

 そのスラッと背が高く、肌の白い金髪の転校生は、周囲の反応も意に返さず、笑みを浮かべながらスタスタと近づいて来て右手を差し出した。

「ライトデス、ヨロシクオ願イシマス」

 目は笑っていなかった。


 休み時間、右田と取り巻きの柏木、増岡がライトの机を囲んだ。

 コイツラは嫌いだ。素行の悪いヤンチャグループで、本物の半グレと繋がりがあるという噂もある。出来れば関わりたくないのだが、ライトをからかいに来たようだ。

「おい、転校生!お前火星から来たんだって?」ニヤニヤしながら右田が声を掛ける。

「ハイ、ソウデス!火星カラ来マシタ」

 涼しい顔をしてライトが応えると、右田たちはわざと爆笑してみせた。

「へえーすごいね、どうやって地球まで来たんだ?」

「ハイ、モチロン宇宙船デス。イワユルUFOトイウモノデス」

「おいおいUFOときたか、そんなの目立ってしょうがないだろ!」

「ハイ、デスカラ、ステルス機能ヲ使用シ、見ツカラナイヨウニ来マシタ」

「ほー、すごいね、火星の科学力!やっぱ、地球よりも全然進んでるんだ?」

「ソノ通リデス。比ベモノニナリマセン」

 右田は躊躇い無く真顔で答えるライトに、ちょっと苛ついてきたようだ。

「お前なぁ、もう、そうゆうのいいんだよ!滑ってんだよ!北欧から引っ越して来たんだろ!」

「アァ、先生ニハ、申シ訳ナク思ッテイマス。コチラノ都合デ、噓ノ情報ヲ与エテシマイマシタ」

 う〜ん、しつこい。横で聴いてても疲れてくる。どうしてもその設定で行きたいのか……。案の定右田は怒り出した。

「お前なぁ、バカにするのもいい加減にしろよ!お前どう見ても白人じゃねぇか!どこら辺が火星人なんだよ!」

「アナタノ火星人ノイメージハ知リマセンガ、火星ノ地表ハ生物ガ住ムノニ適シテイナイ為、地中ニ都市ヲ築イテイマス。太陽光ヲ浴ビナイ為、皆肌ハ白イデス」

 ライトは臆することなく、もっともらしい事を答える。

「いい加減にしろ、この野郎!……」

 右田が今にも掴みかかろうとした時、教室のドアが開いた。

「おい、何やってんだ授業始めるぞ!」

 先生が入ってきた事で、右田達は舌打ちしながら席に戻って行った。


 ふ〜、間一髪だ、冷や冷やしたよ。しかし、ライトは全く動じてないのか涼しい顔してるな……。俺がライトの顔をまじまじと見ていると、それに気付いたライトはニコリと微笑み話しかけて来た。

「エート、タナコァ君……」

「あっ、田中ね、田中ユキト」

「田中ユキト君。サッキノ人ハ何故アンナニ怒ッテイタノデスカ?」

「えっ!それは、そのぉ……ライトの答えが気に食わなかったんだよ」

「何故デスカ!正確ニ答エタハズデス」

「正確にねぇ……」

 ライトは真顔だ。なかなかの危ない奴なのかもしれない。

「オイそこ!喋ってんじゃないぞ、教科書開け!転校生には見せてやれよ」

 先生に言われて仕方無くライトと一緒に教科書を見る。

「アリガトウゴザイマス、田中ユキト君!」

「いや、ユキトでいいよ」

「アリガトウゴザイマス、ユキト!」

「……どういたしまして。ところで、日本語上手だけど、読むのも出来るの?」

 今は歴史の授業で江戸時代に入ったところだ。

「ハイ、問題アリマセン。少シ見セテクダサイ」

 ライトは教科書を持つと、黙り込んだ。どうやら一行ずつ目で追っているようで、眼球が左右にせわしなく動いている。

3ページ程同じ動作を繰り返すと口を開いた。

「ワカリマシタ。関ヶ原ノ戦イ、徳川家康、江戸幕府……約400年前ノ日本デノ出来事デス。コノ頃ノ日本ハ武力デ指導者ガ決定サレルノデスネ。恐ロシイコトデス」

「あ?う、うんそうだね」まぁ間違いではないか。しかし、日本語もスラスラ読めるみたいだな、まるで機械で文字を読み取ってる様な感じだったけど……。


 歴史の授業は無事終わり、次の授業は……体育だ。

「ライト、次体育なんだけど、体育着って……」

「ハイ、支給サレテイマス。制服ヤ体育着ナド着衣ハ支給済デス」

「あー、それなら良かった」だったら教科書も支給しとけって感じだけど。

 着替えの時、チラッと横目でライトの身体を見た。特に変わったところは無い。何が火星人だ、やっぱ只の外人だ。当然だけど……。


 生徒が校庭に集まる。今日はサッカーをやるそうだ。ふと、横を見るとライトが困った顔をしている。

「ライト、どうかしたかい?」

「オォ、ユキト!サッカートハ何デスカ?」

「えっ、サッカー知らない?北欧でも盛んだと思うんだけど」

「デスカラ、私ハ火星カラ来マシタ。一種ノゲームダト思イマスガ、ドノヨウナルールカ教エテクダサイ」

 火星から来たという言い訳は鬱陶しいが、どうやら本当に知らないようだ。

「えーと、2チームに分かれて、ボールを蹴って相手のゴールに入れるゲームだよ」

「ボールヲ足デ蹴ル?ソシテゴールトイウノハ、アノ白イ網デスカ?ソノ中ニ蹴リ入レル?一体何ガ楽シイノデスカ?」

「いやいや、言葉にするのは難しいけど、ボールを奪いあって、チームで協力してゴールまで持ってくというのは、楽しいんじゃないかな?」

 実際は上手い人は楽しいけど、俺みたいにそうじゃ無い人は、ボールに触る機会さえなかなか無くて、つまらないんだけどね。

「まぁ試しにやってみればいいよ。とにかくボールが来たら相手のゴールの方へ蹴ればいいよ」

「ワカリマシタ、ヤッテミマス」


 何となく始まったサッカーの試合。ライトの運動神経はどうなんだろう?ふとライトを見ると……何だか一生懸命走っているようだが、前にツンのめりそうな、たどたどしい走り方。背が高いから余計滑稽に見えるな。かなり運動神経悪いのかもしれない……あっ、ライトの方にボールが!

 すると「ズザザアァー」と大きな音と共にライトは派手に転倒してしまった。膝からは血が流れている。

「ライト大丈夫か!」俺が駆け寄ると、右田がニヤニヤしながら近づいて来て嫌味を言う。

「ダッセーなお前、あんなコケ方するか?」

「失敗シマシタ、地球ノ重力ニマダ慣レテイナイモノデ……」

「はぁー?まだ火星人キャラ貫いてんの?血だって赤いじゃん、火星人は緑じゃないのかよ!」

「血ガ緑色トイウノハ、勝手ナイメージデス。火星人モ血ハ赤イデス」

「はぁー?」

 やばい、またイザコザが始まった。

「せ、先生!ライトが怪我したので保健室連れていきます!」

「おぅ田中、すまない頼むよ!」

ふぅ、これでとりあえず引き離せる。

「行こうライト、歩けるかい?」

「ユキト、アリガトウ。問題アリマセン」

 ライトとゆっくり保健室へ向かった。出血はもう止まっている。ふと、見るとライトは微笑んでいる。

「ユキトハ優シイデスネ」

「いや、そんなんじゃないよ。授業もサボれるしさ」

「ソウデスカ、デモ暖カサヲ感ジマス」

「ハハ、でも右田には気をつけた方がいいよ。あまり、言い争いにならないようにさ」

「私、間違ッタコトハ言ッテマセン」

「う〜ん、仮に間違ってなくても、相手が気に食わない答えだと、うまくいかないんだよね」

 しかし、ライトはどうしても火星人設定貫きたいんだな……。

 保健室で治療を終え、3、4時限目の授業を無難にこなした。ライトは数学でも英語でも問題無いようだ。教科書の内容は初めて見るかのような反応だけど、例のサーチするような読み方で教科書を見て、すぐに理解してしまう。言動はあれだけど頭はかなりいいのかもしれない。


 昼食の時間になった。俺は売店でパンを買ってきたが、ライトは席に着いたままのようだ。

「ライトお昼は食べないの?お金持って来て無いとか?」

「イエ問題アリマセン。食欲ガ無イダケデス」

「食欲無いって、体調悪い?怪我したダメージが残ってるとか」

「イエ、違イマス。ドウモ地球ノ食べモノガ合ワナイダケデス」

「うん?そ、そう……まぁ無理に食べる事は無いよ」

 北欧とそんなに違うのかな?ライトはうつむいていたが、何か決心したようにこちらを向いた。

「イツマデモ避ケテイテハ駄目デスネ、郷ニ入リテハ郷ニ従エ。ヨロシケレバ少シ分ケテ頂ケマセンカ」

「む、難しい言葉知ってるね……これで良ければ少しあげるよ。ソーセージパンとヤキソバパンどっちがいい?」

「ソーセージパントヤキソバパン?ナルホド、パンニ挟ンデイル食材ガ異ナルノデスネ。エー、ソーセージトハ……」

 ライトは額に手をあてて何やら思い出している。まるで頭の中のハードディスクを検索しているかのようだ。

「エー、ソーセージトハ……豚等ノ肉ヲ加工シタモノ……豚……食ベル為ニ飼育シタ生物……ハイ、現在ノシステムデハヤムヲ得ナイデスネ……モウ一方ノヤキソバトハ……小麦粉ヲ原料トシタ中華麺ヲ使用シタ料理……エッ!ヤキソバノミデ成立シテイル料理デス。ソレヲパンニ挟ムナンテ!パンノ原料モ小麦粉デス、何カ間違ッテイルノデハナイデショウカ」

「いや、そんな事言われてもね、美味しければいいんだよ。ほら、食べた事無いなら両方少しづつ食べてみな」

「アー、ソーセージハ結構デス。豚の生成過程ノ画像イメージガ頭に残ッテイテ……ハイ、ヤキソバパンヲクダサイ。ヤキソバパンニ挑戦シマス」

「挑戦て大袈裟だな。ヤキソバパンね、はいどうぞ」

 俺は3分の1ほどちぎり、ライトに渡した。

「アリガトウゴザイマス。イタダキマス」

 渋い顔をしながら少しづつかじる。せっかくあげたんだから、もう少し美味しそうに食べて欲しいものだ。

「どうだいライト、悪くないだろ?俺は2日に1度はヤキソバパンを食べてるんだ」

「ハイ……食ベレナクハ無イデスガ、口ノ中ノ水分ガカナリ失ワレテシマイマシタ。アマリ気分ハ良クアリマセン」

 ライトは持参の水筒を取り出しゴクゴク飲み始めた。

「あぁ、パサパサするよね。味は……どうだった?」

「ハイ、微妙ナ味デス……」

「そうか、ライトの口には合わなかったか」

「ハイ、スミマセン。セッカク頂イタノニ」

 ライトは申し訳なさそうにしている。

「いや、いいんだよ。誰にでも好みの違いはあるから。ハハ……」

 しかしハッキリ言うね、お国柄なのかな。まぁ、変に気を使われるよりいいけど。

 何を考えてるか良く分からないけど、悪い奴では無いのかなと思う。この先も何とかやっていけるかな……。

 

 そんな感じで午後の授業も問題無くこなし、帰宅の時間になった。

「ユキト、今日ハアリガトウゴザイマシタ。マタ明日モヨロシクオ願イシマス」

「いや、いいよそんな。ところで何処に住んでるの?」

「ハイ、駅ノ向コウノ森ノ中ニ宇宙船ヲ隠シテアリマス」

「ん〜、公園の横の雑木林の事?そんな広くもないけどね」

「ハイ、ステルス機能ヲ装備シテオリ、人間の視覚情報デハ処理デキナイ為、見ツカル事ハアリマセン」

「あ〜そうなんだ……まぁ、また明日な」

 ライトはクラスメートに会釈をしながら教室を出て行った。家まで尾行してやろうかと一瞬思ったが、バカバカしいのでやめた。


 次の日の休み時間、ライトの席に数人の女子が集まって来た。昨日は「火星から来た!」という自己紹介で皆引いていたが、おそらく俺と話しているのを見て、それ程おかしな奴では無いと思ったのかもしれない。まぁルックスだけ見たら背が高くてシュッとしてて、欧米のモデルみたいだけど、クラスで一番可愛い森田さんまで来てるのが、ちょっと嫉妬してしまう。


 女子の一人が声を掛ける。

「ライト君て本当はどこの出身なの?」

「ハイ、火星デス」ライトは笑顔で答える。

「……そこは譲れないんだね。親の仕事の都合で日本に来たの?」

「ハイ、極秘プロジェクトノ為ニ来マシタ」

「極秘プロジェクトって大袈裟だな。政治的な関係だったり」

「イエ、政府ハ無関係デス。地球ノ現地調査ミタイナモノデスガ、極秘ナノデ詳シクハ教エラレマセン」

「ふーん……」

 顔から生気が失われていく。この子はライトとのコミュニケーションを諦めたようだ。

 別の女子が声を掛ける。

「ライト君て日本の食べ物苦手なの?」

「苦手トイウカ、食ベ慣レテナイダケデス。慣レレバ食ベレルヨウニナルト思イマス」

「そっか〜、好きな食べ物って何?」

「好キナ食ベ物トイウカ、飲ミモノデスガ、コノスペシャルドリンクガアレバ他ノモノハイリマセン」と言いつつ持参の水筒を取り出した。

「えっ、ドリンクだけ?それって栄養ドリンクとか?」

「ハイ、良クワカリマシタネ。鉱物ヤ塩基類と線虫の内臓ヲスリ潰シタモノト原始脊椎動物ノ血液ナドガブレンドサレテイマス。少シ味見シマスカ?」

「いや、いいわ……」

 大分引いている。この子も諦めたようだ。

 端にいた森田さんが声を掛けた。

「ライト君て背高いよね、何センチなの?」

「エート、センチメートルデ表スト、180センチメートル位デス」

「へー高いね、結構モテるでしょ」

「背ガ高クテ異性ニ好カレルトイウコトハアリマセン」

「そうなんだぁ。それじゃあライト君は、どういう子がタイプなの?」

「好ミノ異性ノタイプトイウ事デスカ?ヤハリ生殖能力ノ高イ人デスネ」

「えっ!……」

 完全に引いている。女子達はすごすごと自席へと戻って行った。

 ライトは少し困惑した表情をしている。

「ユキト、ワタシ何カ悪イ事言ッタデショウカ」

「あぁ、言ったとも、何だよ生殖能力って?」

「子供産厶、子孫残ス。生物トシテ最モ大事ナコトデス」

「いや、そうかもしれないけど、あそこはそうゆう答えは求めてないんだな。森田さんがあんな事聞くなんて、ライトに気があったかもしれないのに」

「気ガアルトハ、ワタシノ子孫ヲ残ス気持チガアルトイウコトデスカ?」

「だから、飛躍し過ぎなんだよなー。あんな可愛い子と仲良くなれたかもしれないのに」

「可愛イイデスカ……」

「アレ?可愛いくない?ライトから見ると違うのかな?」

「正直ニ言ウト、アマリ見タ目ノ違イハワカリマセン」

「え〜!結構違うと思うけどな」

「ダッテ、ミンナ目ガ2コアッテ、鼻トクチガ1コヅツデ同ジジャナイデスカ」

「はぁ〜?それマジで言ってんの?」

 ライトは真顔だ。う〜ん、やっぱりコイツとはわかり合えないかも。

「トコロデユキト、アレハ何ヲシテイルノデショウカ」

 ライトは一人の生徒を右田達が囲って騒いでいるのを見ている。

「あー、陳君か……中国出身なんだけど、よくからかわれるんだよな」

「中国ハ日本ノ隣国デスネ、人種的ナ違イハ、アマリ無イデスガ」

「うん、ヨーロッパとかの人からしたら分からないだろうけど、お互いの国を嫌ってる人もいて、中国ってだけで嫌悪する人もいる。でもどんな国でも良い人と悪い人はいる訳で、陳君は優しいし、まぁ大人しいから、からかわれやすいんだろうけど」

「陳君、顔ハ笑ッテルケド、辛ソウニ見エマス」

「そうだね、良い事では無いよな」

「私止メテキマショウカ?」

「イヤイヤ!やめときな、今度はライトが標的になる。あんまり酷かったら先生に言おう」

「……ハイ」

 ライトは意外と熱い男だな。しかし、右田は危険だ、出来れば関わりたくない。


 2日目も終わり、今日は駅までライトと一緒に下校した。

「じゃあなライト、また明日」

「アノー……」

「ん、何か?」

「アノー、急デ申シ訳アリマセンガ、ユキトノ家ニ遊ビニ行ッテモイイデスカ?」

「はっ?何で?本当に急だな!」

「スミマセン、地球ノ人々ノ生活ヲ勉強シタクテ」

「地球の人々ってねぇ。いやー、家アパートだし、汚いしなぁ」

 まだ知り合って2日目なのに随分フレンドリーな奴だ。

「少シダケデイイデス、ユキトノ部屋ニチョットオ邪魔スルダケデ構イマセン」

 どうやらライトは本気の様だ。

「じゃあ、仕方無い1時間だけだぞ、それ以上いると両親帰ってくるから」

「アリガトウゴザイマス!」

「その代わり、明日はライトの家な!?」

「ハイ、OKです」

 マジか、言ってみるもんだな。謎の転校生の正体が分かるかもしれないぞ。でも、案外普通の家なんだろうな……。

「ドウシタンデスカ、早く行キマショウ」

「あ、あぁそうだな。ところで電車乗ってくんだけど、お金あるの?」

「ハイ、パスモトイウ、オールマイティーカードヲ既ニ入手済デス」ライトがドヤ顔でカードを見せびらかす。

「いや、オールマイティーじゃないし、そんな顔されても普通の事だし。まぁいいや、ちゃんとチャージされてるんだろうな?3駅だからすぐ着くよ」

 程なくして二人で電車に乗った。乗客がチラチラこちらを見てくる。まぁ金髪の外人が高校のブレザー着てるって珍しいかもな。ライトはそんな視線が気にならないのか、それとも慣れているのか、堂々としている。

 そして、最寄り駅に着き10分程歩くとアパートに着いた。

「ここのアパートの205号室が、俺が住んでるトコ。本当に少しだけだぞ」

「ハイ、1時間以内ニ帰リマス」ライトは笑顔で答える。

 階段を上がり鍵を開けて部屋に入る。

「奥が俺の部屋ね、人入れるなんて思ってないから散らかってるけど、まぁ上がってよ」

「ハイ、オジャマシマス」

 ライトはズカズカ部屋に入る。

「ココガユキトガ生活シテイル部屋デスカ。……失礼デスケド狭クテ汚イデスネ」

「本当に失礼だな!だから散らかってるって言ったろ!狭いのはしょうが無い」

「イエ、語彙ノ選択ヲ間違エマシタ。一人デ過ゴスニハ適度ナスペースノ落チ着ケル空間デアリ、書物ヤコンピュータゲームナド趣味ノアイテムニ囲マレタ快適ナ部屋ダト思イマス」

「えっ、フォローのつもり?遅いけどね」

「チョット見テイイデスカ」

 ライトは俺の言葉も意に返さず、机の上のマンガを手に取った。

「コノ書物ハ……殆ド絵デスネ、途中ニ字が記載サレテ……アァ、登場人物ノセリフナンデスネ」

「マンガって知らない?ライトの出身地には無かった?」

「ハイ、オモシロイ形態デスネ、チョット読マセテモラッテモイイデスカ」

「あぁ、いいよ。それ今人気の『シャドウヴィジター』の最新刊。この前買ったばっかり」

 ライトはいつものサーチする様な読み方で数ページめくると机に置いた。

「コレ、オモシロイノデスカ?話ノ意味ガ全然ワカラナイノデスガ」

「いきなり8巻じゃね!前の展開を知らないとわからないでしょ!何なら1巻から読む?」

「エェ、デモソレハマタノ機会ニ……ソレヨリモ、ソノコンピュータゲームガ気ニナリマス」

「んっ、ゲームやる?ゲームとかはやった事あるの?」

「ハイ、火星ニモゲームハアリマスガ、軍事シュミレーターミタイナモノガ多イデス。地球ノゲームヲヤッテミタイデス」

「(相変わらず火星ネタ挟んでくるな)まぁいいや、じゃあ取っ付きやすい所でこれでもやろうか『モリオカート』っていうレースゲーム」

「イイデスネ、自動車レースデスカ?火星ニモアリマス」

「よし、じゃあ行くぞ。まずはキャラセレクトから」

「ナルホド、キャラニヨッテ、レーススタイルガ変ワルノデスネ。私ハコノ速ソウナ、緑のモンスターのキャラニシマス」

「おっと、重量級キャラじゃん。悪い事は言わない、重量級は止めときな。最高速度は速いけど加速が遅いからクラッシュしたらおいてかれるぞ」

「クラッシュシナケレバ、イイノデスヨネ?大丈夫ヤッテミマス」

「どこから来るんだその自信は?まぁやってみれば。俺はバランスの取れたモリオで行くし。あと、只のレースゲームと違って、アイテムで攻撃とか出来るから」

「エッ!何デスカソレ?」

「まぁ、やりながら覚えればいいよ。取り敢えずAボタンがアクセルで、スティックで方向な、よし、スタート!」

 軽快にスタートを切った。俺のモリオはすぐトップに踊り出た。ライトは初めてのくせにクラッシュもせずについて来る。2周目に入ると2位まで順位を上げてきた。

「ライト上手いじゃん、本当に初めて?」

「ハイ初メテデス……」

 横目で顔を見るとメッチャ真剣な表情だ。奴はゲームでは本気になるタイプと見た。

 ライトの選んだキャラは重量級なので、最高速度はモリオよりも速い。徐々に差を詰められる。しかし初心者に負ける訳にはいかない……。

 ここでアイテム「バナナ」をゲット!そしてリリース!真後ろまで迫っていたライトは見事にバナナを踏んでスピン!

「オーノー!何カ踏ミマシタ!バナナ?バナナデ車ガ、スピンシマスカ?」

 そのまま、モリオが1位でゴール。ライトは体制を立て直すのに手間取り5位でゴールだ。

「どうだい、これがモリオカートだよ。アイテムを有効に使うのが勝利への道だ!」

「悔シイデス!シカモ私ガスピンシタ時、モリオガ笑ッテマシタヨ、高イ声デ『ハッハー!』トカ言ッテ……」

 ライトは本当に悔しそうだ。

「モウ1試合オネガイシマス」

「おぅ、いいとも」

 それから数試合遊んだ。ライトも最後の方は勝てるようになってきた。

「ライト上手いなぁ、覚えが早いよ」

「コノゲーム、トテモ楽シイデス。硬い甲羅ヲ持ッタ爬虫類ヲ投ゲツケルトカ、現実ノレースデハ、アリ得ナイ事ガ出来ルノガオモシロイデス。火星ノゲームハ、リアルバカリ追求シナイデ、モット想像力ガ必要ト思イマシタ」

「はは、楽しんでもらって良かったよ。まぁ、そろそろ時間なんで……」

「ハイ、今日ハ帰リマス。アノー……マタ遊ビニ来テモイイデスカ?」

「あぁ、また来なよ!」

 俺も楽しかった……かなり変わり者だけど、ライトとこの先も仲良くやって行けそうな気がする。


 しかし3日目に事件は起きる。


 昼休みの食事中(ライトは持参したスペシャルドリンクとやらを飲んでいるだけだが)、教室の真ん中あたりで「ガシャン!」と大きな音がした。

 見ると陳君を右田達が取り囲み、床には弁当箱がひっくり返っている。どうやら右田が陳君の弁当箱を落としたようだ。「中国人は中華料理だけ食ってろ」等と、わけのわからない事を言っている。

「あっ、ライト!」

 止める間もなくライトが右田の元に向かう。

「右田君!何ヲシテイルンデスカ!」

「何だお前、何か文句でもあんのかオイ!」

「文句アリマス!何ノ意味ガ有ッテ弁当箱ヲ落トシタノデスカ!」

「そんなの決まっている、オモシロイからだよ!コイツが切ない顔するのが笑っちまうんだよ」

「人ガ悲シムノガ面白イナンテ、アナタノ感情ハ、バグヲ起コシテイマス。病院デ治療スルカ、ソレデモ駄目ナラ廃棄スルシカアリマセン」

「はぁ?!何言ってんだテメェ!人を欠陥品みたいによ!お前、初日から気に食わなかったんだよ!何が火星から来ただ、このクサレ白人がぁ!」

 とうとう右田がライトに殴りかかった!……が、「ガシャーン!」と派手な音を立てて机の上にひっくり返ったのは右田の方だ。一瞬で良く見えなかったが、殴りかかった腕を掴んで、合気道の様に投げたみたいだ。

「お前何してんだ!」

 柏木と増岡がライトに突っかかるが、同様に床に叩きつけられる。

「クッソー!何なんだコイツ……!オイ行くぞ!」

 右田達は多くの生徒が見ている中、無様な姿を晒したのが恥ずかしかったのか、教室を出て行った。


「ライト……」立ち尽くすライトに声を掛ける。

「アァ、少シヤリ過ギタデショウカ……」

「いや、あいつらが悪いんだよ、調子乗り過ぎなんだ。……それにしても、格闘技とか出来るんだ?いつものライトじゃないみたいだったよ」

「エェ、異郷ノ地デ、ドンナ危険ガアルカ分カリマセンカラ、多少ノ戦闘術ハ身ニ付ケテマス」

 う〜ん、この男、ますます謎めいた奴だ。

 散らかった弁当を拾い終わった陳君が声を掛ける。

「ラ、ライト君……ありがとう。僕の為にこんな事……」

「イエ、抵抗シナイ他者ヲ苦シマセテ楽シム、イワユル、イジメトイウ行為ガ許セマセンデシタ。イジメヲ行ウ事コソ、己ノ心ノ醜サヲ現ス、恥ズベキ行為ダトイウ事ガ、地球デハ認知サレテイナイノデスネ」

 普段見て見ぬふりをしている俺は、強く言えないのが情けない。ライト位強かったら良かったんだけど……。

「それにしても、右田達悔しそうにしてたからなぁ、何か仕返しとかされないか、少し心配だよ」

 ライトは黙っている。何か思い詰めるように……。


 結局、右田達は戻らないまま、下校時間になった。昨日、ライトの家に遊びに行くと言ったけど、覚えてるかな?

「ライト、昨日言ったこと……」

「ハイ、今日ハ私ノ家ニ遊ビニ行クノデスヨネ、ワカッテマス」

「よっしゃ、それじゃ早速行こう!」

 しかし、どんなとこ住んでんだろう。散々、火星から来たーとか、ステルス機能がーとか言ってたけど、着いたら冗談でしたとか言うのかな?まさか、本当じゃないだろうに。


 騙してゴメンとか言われたら、何て応えようか。そんな事を考えながら、駅の近くまで来た。何食わぬ顔で歩いているライトに話し掛ける。

「確か駅の向こう側にある公園の横の雑木林に……」

「ハイ、宇宙船ヲ隠シテアリマス。幸イマダ誰ニモ見ツカッテイマセン」

「だろうね、見つかったら大騒ぎだろうからな」

「ハイ、デスカラ入ル時ハ、人目ニ気ヲツケテクダサイ……」

 う〜ん、まだ引っ張るか。どのタイミングで白状するんだろう。こっちがヒヤヒヤしてくる。

 その時、後ろから声がしたーー


「オイ外人!ちょっと待てや!」

 右田だ、取り巻きの柏木と増岡もいる!

「ちょっと顔貸してもらってもいいか〜?」

 ヤバイ、待ち伏せしてるなんて、昼の仕返しをする気だ。

「私達、コレカラ用ガアルノデ、アナタニ付キ合ッテル暇ハアリマセン。マタ今度ニシテクダサイ」ライトはムッとして答える。

「うるせぇ!ちょっと格闘技出来るからっていい気になってんじゃねえ!

 お前に合わせたい人がいるから、ちょっと来いや!そんで、田中、お前は帰っていいぞ、ついてくんなよ」

 右田が半グレと付き合いがあるという噂を思い出した。まさか集団でライトの事を……!

「右田ゴメン、今日ライトと用があってさ、それで……」

「あぁん!お前立場分かってんのか?拒否権なんてねぇんだよ!怪我しないうちにとっとと失せろ!」右田の凄味にビビッてしまう。

「ユキト、彼ラハ私ニダケ用ガアルミタイデス。言ウ通リ帰ッテ構イマセン」

「でもライト、コイツら何するか……」

「心配シナイデ、大丈夫デス」ライトが優しく声を掛ける。

 そこへ、右田が割って入る。

「そうだ、わかってるじゃねえか。な〜に、ちょっとお話しするだけさ、だから、田中は今すぐ帰れ。それで、今日は、コイツとは駅で別れた。下校中は誰にも会わなかった。イイな?」

 そう言うと右田達は、ライトを取り囲み、向こう側へ歩き出す。

 ライトは一度振り返り、笑顔を見せ頷いてみせた。そして何処かへ行ってしまった。

 俺は暫く動けずにいた。本当は誰かに助けを求めた方が良いのだろうけど、報復が怖かった。

 ライトには悪いけど、いくら何でも大怪我させられる事は無いだろうと考え……いや、思い込んだに近いけど……自分の情けなさを嘆きつつ、モヤモヤした気持ちのまま帰路についた。

 夜中になっても、その日はなかなか寝付けなかった。ライトの事が気になる。そういえば電話番号さえまだ交換していない。

 とにかく明日だ、考えてもしょうが無い。案外、何とも無い顔して「オハヨウ」なんて言ってくるんじゃないか?

 そんな希望的な思考を巡らせ、無理やり眠りについた。遠くでパトカーのサイレンが聴こえた気がするが、気にしないで寝た。


 次の日の朝、学校にライトが来ない。ライトだけではなく右田と取り巻き二人も来ていない。

 何かあったに違いない。不安に押し潰されそうになりながら、でも誰にも話せずにいた。

 午後、急遽全校集会が開かれることになり、生徒全員体育館に集められた。

 一体何だと生徒がざわついている中、一人冷や汗をかいていた。嫌な予感しかしない……。

 やがて段上に校長が現れ、重々しい口調で話し始めた。

「……今朝、我が校に警察が身元の確認に来ました……。

 昨夜未明に川で4名の水死体があがり、うち3名が我が校の生徒という事でした」

 集まった生徒達が一気にざわつく。

「死体は……2年1組の右田、柏木、増岡で、もう1名は職業不詳の男で半グレ集団の一員だそうです。何か事件に巻込まれた可能性もあります。皆さん本日は寄り道などせず、真っ直ぐに帰宅するように。

 また、昨日この3名は午後の授業前に早退したと聞いております。その後の事を何か知っているものがいれば情報提供して欲しい。以上です」

 俺は血の気が引いた。右田達が死んだ?!昨日、あの後何があったんだろう……ライトは無事なんだろうか。


 ーー事件から1週間経った。俺は結局あの日、右田達に会った事は言わなかった。

 風の噂で事件の詳細を聞いた。川上の人気の無い河原に死んだ彼等の指紋の付いた鉄パイプやナイフが見つかった事。死体は肺には水が入っていない、つまり溺死ではなく、死んでから川に流された事。しかし流されて出来たすり傷以外に特に損傷は無かった事……。


 その日の帰りの会の終わり際に担任が言った。

「そういえば、このところ欠席してた中村ライトだが、家庭の事情で国に帰ったそうだ」

 俺は呆然とした。


 それから1ヶ月、右田達の真偽不明の話題は聞くが、ライトの話題は聞かなくなった。それはそうだ、3日しか登校していない。まともに会話したのは俺位だろう。何か心に空白が出来た様だ。

 

 帰り道、家に着く手前の路地で後ろから呼び止められた。

「ユキト!」

 振り向くとライトが立っている。見慣れない服を着ているが、確かにライトだ。

「ライト!戻って来たのか」

「いえ、ちょっと寄っただけです、ユキトにはお世話になったから……」そう言ってライトは微笑む。

「ライト、無事で良かった」元気そうな姿を見て、安心した。しかし、ライトに会ったら確認しなければいけないと思っていた事がある。

「……ライト、あの日右田達を……」

「はい、私が殺しました……」ライトは、躊躇う事なく答えた。

「当初私は日頃の行いを改めてもらおうと話し合うつもりでしたが、彼らは凶器を持ち危害を加えようとしてきました。ここまで精神が壊れていては、修復出来ない可能性が高い。火星の判断基準からすれば廃棄です」

「火星って……」俺が呆気に取られていると、ライトは続けた。

「火星から来たって、冗談だと思ってますよね?地球の人々を試す為に、あえて本当か冗談か分からない態度を取っていました」

「えっ、試すって何の為に……」

 ライトは真剣な顔をして答える。

「火星は人類が住みづらい環境になってから久しく、人口が減少する一方です。それで地球に移住する事を検討する為、私の様な者が地球に何人も降り立って調査しました……私が来た本当の目的は、地球の人類が共存に値するか、それとも駆逐するべき存在かを見極める為です」

 俺は声が出なかった。今聞いたことを把握しきれなかった。これも冗談だと思いたかった。

 ライトは、俺の表情を見て、微笑んで言う。

「でも、安心してください。意見は拮抗しましたが、取り敢えず共存する道が採択されました」

 俺は恐る恐る訪ねた。

「ライトは……どっちを選んだんだい?」

 ライトは、ニッコリと笑って言う。

「はい、少し悩みましたが、共存を選びました」

 俺はホッとすると同時に訪ねた。

「あんな酷い目に合ったのにかい?」

「ええ、あれ位は想定内です。他の国で調査にあたった者は、もっと酷い目に合ったといいます。ですが、皆いざという時の装備はあるので問題はありません」

「そ、そう……」

 ライトは話を続けた。

「何より私が共存を選んだのは、ユキト、あなたの影響です。こんなわけのわからない者に、あなたは優しく、親切に接してくれた」

「えっ?いや、そんな、普通の事しかしていないけど……」

「ええ、それが普通と思える感覚が重要なのです」

「そ、そうかな……」

 少し複雑な気分だ。特別優しくしたつもりは無いし、何ならあまり関わりたくない、変な奴と思ってたぐらいだ。最後の日も見捨てた様なものだし……。でも、ほんの少しの間だけど、ゲームしたり、一緒に過ごした時間は悪く無かった。

 ライトは言った。

「ともかく、地球人、特に日本人に興味を持ちました。私は容姿を日本人にカスタマイズして、移住しようと思っています。日本語も上手くなったでしょう?」

 確かに、学校にいた時より流暢に話している。こんなに早く言葉をマスター出来るんだな。しかし、容姿をカスタマイズ?

「容姿って、変えられるんだ?」

「はい、簡単ではありませんが、大きく変更可能です。ネイティブな日本人と見分ける事は不可能でしょう。それで、何処かの都市で住居を構えるつもりです。今後ユキトと、もしすれ違っても、元『中村ライト』と気付くことは無いでしょう……」

「!!……ライト……」

「はい、これでお別れです」

 これでお別れ……ライトは寂しそうな顔をしている。

「そっかぁ……でも、こんな事、俺に……地球人に話して良いのかい?」

 ライトはニヤッとして答える。

「えぇ、本当はいけません。でも、ユキトには知って欲しかった、本当の私の事を。偽ったままでは気持ちが悪かったのです。それとーー」

「それと?」

「地球人と共存する道を選んだのは、あくまで暫定処置です。今後、他方に方針転換する可能性がある事を覚えておいてください」

「他方というと……駆逐する……」

「はい、ザックリ言うと皆殺しです」

 あっさり話すライトに俺は血の気が引いた。それを見てライトは笑顔を作り言う。

「でもそれは、あなた達地球人次第です。今のままならギリギリ大丈夫ですが、これ以上惑星に害をなす存在になると、よろしくありません。ですから、是非一人一人が気を付けてください……では、あまり長居も出来ないものですから、そろそろ帰ります……さよならユキト」

「あっ……さ、さよならライト……」

 ライトは最後に大きく手を振って路地を曲がり去って行った。

 俺は頭が真っ白になったまま、無人の部屋へ帰った。


 それから半年が経ち、今日から3学期だ。取り立てて何も無い日常が続いている。ライトを思い出す事は殆ど無くなった。最後の話も含めて、全部冗談だったんじゃないかって今は思ったりもする。だって結局火星人の証拠は1つも見ていない。きっとそうだ、凝った芝居しやがって……。

 そんな事より、そろそろ大学受験について考えなくてはいけない。あー頭が痛い。


 ガラガラとドアを開けて教室に担任が入って来た。後ろには見慣れない背の高い生徒を連れている。

「えー、今日から一人新しいクラスメートが加わります。『川上光かわかみ ひかる』君……父親の仕事の都合で他県から転校してきたそうだ。それじゃあ一言自己紹介いいかな?」

「はい、神奈川県から転校して来ました『川上光』です。ニックネームは『ライト』です。よろしくお願いします!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 結構ライトくんえげつないなーと思いながら読んでいました。理解できない存在とも仲良くなれるというのは、ちょっと夢がありますね。面白かったです!
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