伸びる影
美都は多加江が自分のために作ってくれた特大のケーキを慎重に冷蔵庫の中にしまった。パタンと扉を閉じると安堵の息をつく。
彼女が用意してくれたそれは、自分の予想を遥かに上回るものだった。プロのパティシエが作ったのかと思う程だ。今年は随分と気合が入っているなと思って「すごいですね……」と呟いたところ、「だって彼氏くんと食べるんでしょう?」とニコニコと返された。その瞬間はうっ、と声を詰まらせ赤面したものだ。否定が出来ないのがまた何とも歯がゆい。当時の状況を思い返すと恥ずかしさで渋面を浮かべる他なかった。
結局、常盤の家には寄らなかった。寄ってしまってはダメだと思ったのだ。今日円佳と顔を合わせたところで互いに気遣ってしまうのは目に見えている。そうなると居心地も良くない。それに常盤の家にいると問答無用で思い出してしまうことになるのだ。そして期待もしてしまう。そんなこと意味がないと、ここ数年で学んだはずなのに。
しかし円佳には「電話する」と報告した手前、今日中に連絡を入れなければ。どうしても嫌なことは後回しにしたくなってしまう。だがいずれは避けられぬのだ。それは三者面談のことも同様か。
致し方なし、と観念し部屋に戻ってひとまず制服を脱ごうと思ったところ、スカートのポケットに入れておいたスマートフォンに着信があった。
(? 四季──?)
画面を表示すると、彼の名前が目に入る。そのままメッセージの内容を確認すると、既に家にいるのかという趣旨のものだった。
(「いるよ」っと──……)
やはり、というか予想通り四季の方が帰りが遅くなったようだ。もともと和真たちと予定が入っていたため当たり前と言えば当たり前だ。今日が誕生日であると判明してしまったため断る姿勢を見せていたところ、自分がそれを制した。それなのに食事当番を代わってもらってしまい、何だか申し訳ないなという気持ちもある。妥協案とは言えもう少し何か考えればよかったなと反省した。しかし、と先程ケーキを入れる際開けた冷蔵庫の中を思い出す。
昨夜、彼自身が無心で作り過ぎたといって余った惣菜が割と残っているのだ。冷蔵庫で保存してあるとはいえ、夏場なのでこれは今日中に食べ切った方が良い。そうなると今日の調理はほとんど無いに等しいものだと言える。まあ彼なら意地でも何かを作るだろうが。
ふぅ、と息を吐く。暦の上では今日から季節は秋になる。しかし8月が終わったばかりなので陽が沈むにはまだ早いのだ。四季はまだ帰ってこない。それまでこの広い部屋に一人か、と思うと少し気が滅入る。まるで何かを待っているかのようで。
(……もう少ししたら、公園にでも行こうかな)
窓から覗く空は、夕方近い時間とは言えまだ明るい。昼間が暑い分だけ、この時間は子どもたちが遊ぶのに最適な気温なのだと予測出来る。だからあと少しの辛抱だ。もちろんそれまでに四季が帰ってきてくれれば良いのだが。
一人だと良くない思考が働いてしまうので、何か楽しいことを考えようと思い至った。今日から二学期だ。二学期は二大行事がある。体育大会と文化祭。運動部にいたので身体を動かすことは好きだ。出場競技が決まれば上位を目指して練習することは当然だし、他にも各クラス対抗の応援合戦もある。文化祭は企画の段階からいつも楽しみなのだ。未来のことを考えただけで顔が綻ぶ。
(未来──……)
そうだ。体育大会や文化祭はどちらもこれからのこと。今日が終わればまた新しい一日が始まる。そうして日々は過ぎていく。一日、一日と。それがこの世の摂理だ。
そして今日が終われば、また一年。いつになったら、という気持ちが拭えない。この先もこの想いを引きずっていくことになるのかと思うと不健康だなとさえ思う。それとももう少し歳を重ねれば諦めがつくのだろうか。
胸がざわつく。制服のリボンを巻き込むようにして、手を握りしめた。先日ここでした千咲との会話を思い出す。
『美都ちゃんが大丈夫になったときに話してあげて』
と、彼女はそう言っていた。四季にはまだ、話せる段階ではない。千咲が自分の境遇を知っているのだとしても、彼に伝えるには勇気がいる。積み重なってきたものは、そう簡単に話せるものではないのだ。
思わずハッと思考を切り替える。結局ネガティブなことを考えてしまった。ダメだなぁと自己嫌悪に陥る前に、一度紅茶でも淹れようと再びキッチンへと足を向けた時だった。
「──っ!」
甲高い音でインターフォンが鳴り響く。それに心音が跳ね上がった。目を見開きゆっくりと首を玄関の方へ向ける。
違う。だってここの住所は教えていないのだ。だからそんなはずはない。期待してはダメだ。それでも──。
グッと喉を引き絞り、モニターの近くへ歩く。走ってもいないのに心臓が早鐘を打つ。呼吸を、整えなければ。液晶画面を見る前に目を伏せた。自分に言い聞かせるように一度、首を横に振る。そして唾を飲み込み思い切って顔を上げた。
(あ……)
そこに映っていたのは脳裏を過ぎった姿と似ても似つかない人物だった。長い息を吐いて肩を落とす。わかっていた、のに。違うと。だから期待していないつもりだったのに。想いと感情は裏腹だ。
自分自身の中にある矛盾に思わず苦笑いを浮かべる。結局自分はどうしたいのかと。そんな思考を振り払うように、そのまま玄関へ足を進めた。鍵を開けてドアノブに手をかける。ギィという鈍い音が耳に届いた。
「みとちゃーん!」
「! なっちゃん!」
扉を開けた瞬間、足元に飛びついてきたのは那茅だった。液晶画面には映っていなかった幼子の存在に驚く。
「こんにちは、美都ちゃん。急にごめんね」
「弥生ちゃん。ううん、全然。どうしたの?」
後ろに控え、恐縮しながらも微笑ましく二人のことを見ていた弥生が口を開いた。美都が訊ねた用件を弥生が答える前に、短い腕を美都の足に回していた那茅が顔を上げる。
「あのね! はい、これ!」
「? お手紙?」
「あけてみて!」
勢いよく言う幼子に促され、美都は那茅から手渡された封筒に入った紙を取り出した。なんだろう、と首を傾げながらおもむろに折りたたまれていた用紙を開く。
「……しょうたいじょう?」
「うん! あのねぱーてぃーなの! みとちゃんの!」
開いた紙には日時が幼子の字で記されていた。今週末の夜、場所は櫻家で。美都は思わず目を瞬かせた。わざわざ「みとちゃんの」と言うくらいなのだからと思い招待状から顔を上げて弥生を見る。
「お誕生日おめでとう、美都ちゃん」
「おめでとー!」
ニコリと微笑んで言う弥生に続いて、那茅も同じように復唱した。突然予期しないところからの祝辞に驚いて目を見開く。すぐさまハッと我に返り二人に礼を伝えた。
「ありがとう……! びっくりしちゃった」
素直に感想を言うと弥生はさらに柔らかい表情を見せた。
「ふふ、サプライズ成功ね。その日、大丈夫そう?」
「うん、平気! でもいいの?」
「もちろんよ。久々にみんなでご飯食べましょ。凝ったものは作れないけど、美都ちゃんが食べたいもの作るから」
彼女の心遣いに胸が温かくなる。その優しさに顔が綻んだ。那茅が心を込めて書いてくれた招待状も本当に嬉しい。先程まで考えていたことを忘れさせてくれるようだ。
美都はふと一つの疑問を口にした。
「でもなんで今日じゃないの? 瑛久さん遅くなるとか?」
「いいえ? だって今日の夜は四季くんと一緒なんでしょう?」
突然出された名前にうっ、と言葉を詰まらせる。そもそも同じ家で暮らしているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、弥生が示しているのはもう一つの意味の方だろう。さすがに彼女は気が遣える。恥ずかしくなって口元を手で隠し目を逸らす。
「今は一人なの? 四季くんは?」
「まだ友だちと遊んでると思う。でも連絡来たからそろそろ帰ってくるんじゃないかな」
「まぁ。誕生日に彼女をほっぽっておくなんて」
もう、と不服そうに弥生は頬を膨らました。これについては事情がある。しかし彼女の反応が可愛らしくてついクスリと笑みが溢れた。今弥生たちが来てくれて良かったな、と感じる。気を紛らわすことが出来たから。
ちょうどその時ポケットに入れていたスマートフォンが振動したためそのまま取り出し画面を表示する。
「四季くん?」
「うん。やっぱりもう帰ってくるって。わたし下に行ってくるね」
案の定連絡は四季からだった。弥生たちと話すため玄関にいたため、そのまま靴を履く。
「なちもみとちゃんとあそびたいー!」
「今日は我慢ね。その代わりパーティーの日はたくさん遊んでもらいましょ」
遊びたいと主張する娘を上手く宥め、弥生は美都に微笑みかけた。彼女の言葉に是という意味を込めて頷きそのまま彼女たちと外へ出る。自分を見上げる那茅の頭に手を置いて優しく撫でた。
「パーティー楽しみにしてるね」
「うん! なちも!」
いつもの幼子の表情に安心して美都は微笑んだ。今はこの無邪気さに救われる思いだ。
美都は二人に手を振り、そのままエレベーターへ向かった。また一人で家にいると余計なことを考えてしまう。それならば公園で四季を待った方が良い。夕暮れが近付く最中、美都は一人公園を目指した。
◇
予想通り、既に公園に子どもたちが遊ぶ姿はなかった。まだ完全な日暮れではないが帰宅を促す音楽が鳴ったからだ。『遠き山に日は落ちて』のメロディが先程響いているのを耳にした。子どもたちがいなくなった公園は赤い夕陽が照らし、遊具が影を伸ばしている。
静かだ。だが家で一人でいるよりはまだマシだ。そう思いながら美都は空いているブランコへと歩を進めた。二つ並んだブランコの一つに腰掛けてほぅ、と息を吐く。
あと数時間後には今日が終わる。そして新しい明日が来る。当たり前の話だ。それが摂理なのだから。今日という日が、ただ自分の誕生日であるというだけ。世間は特に何もない一日で。だから早く終わって欲しい。そう願う自分は、やはりマイノリティなのだと思う。
「──……」
こんなときに口ずさむ歌がある。意識か無意識か自分でも判らない。ふとその旋律を口から零す。曲名は知らない。いつ作られた曲なのかも。それでも気付いたときにはもう歌えるようになっていた。聞きこんだという記憶は一切ないのに。
(……不思議だな)
やはり、心のどこかで期待してしまっていたのか。今年こそは何かが変わると、信じていたのかもしれない。そんな上手い話あるわけないと、きっと明日になれば思えるはずだが。
『…………──いい子で……』
脳裏を過ぎるその映像に、俯いたままブランコの鎖を握りしめる。自分も大概、懲りないなと苦笑いを浮かべる。望まなければ、期待しなければもっと楽なんだろう。否、そう考えていたつもりだった。無意識とは恐ろしいものだ。
真っ赤に燃える夕焼けが、時々怖くなる。飲み込まれてしまいそうで。不安になるのだ。このままずっと──。
「続いて──……」
「──! 美都!」
呟いた瞬間、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。耳馴染みのあるその声を探すように視線を動かす。小走りでこちらに向かってくる四季の姿を捉えることが出来て、美都はブランコから立ち上がった。
「おかえり、四季」
「あぁ。ってなんでこんなとこに……」
走ったせいか少しだけ息を切らした四季が、さも不思議そうに首を傾げた。確かに彼から帰る旨連絡をもらっていたが肝心の自分の居場所は伝えていなかったなと思い出す。
「んー。まぁなんとなく外にいたくて。ちょうど会えて良かった」
四季からの疑問に答えるため、視線を宙へ泳がせたのちその顔に笑みを作った。彼も納得したのか一度息を漏らしその大きな手を美都の頭へ乗せ優しく反復させる。
「一人にさせて悪かった」
「ふふ、なんで四季が謝るの? 元からそういう話だったでしょ。楽しかった?」
そう言う声色が申し訳なさを表していたため、それを払拭すべくカラッと笑い自分のいなかった時間について訊ねる。決して嫌味ではない。ただ知りたかっただけだ。自分のいない場所で四季がどう過ごしているのか。彼はその問いかけにすぐには答えずただ何かを考えるように自分を見つめた。
「? 四季?」
あまりにも沈黙が長いのでどうしたのか不思議に思い、彼の名を呼ぶ。瞬きをした後、四季は目線を逸らした。
「やっぱり違うな」
「何が?」
「お前がいるのといないのとじゃ。全然違う」
言いながら、四季が腕を引いて身体を寄せる。突然の動作に逆らうことが出来ず足が動いた。
「ちょ──! 四季、外だから……!」
「わかってる。けど──」
嗜める美都の言葉を話半分で聞いているかのようないなし方をし、四季はそのまま彼女の身体を包んだ。家の中でならまだしも、誰が通るかわからない公園では緊張感が増す。誰かに見られたらと思うと恥ずかしくて顔が紅潮する。しかし四季の方はまるでそんなことは気にしていないようだ。彼はそのまましばらく温もりを確かめるように身体を覆った。そして不意に、耳元で声が聞こえる。
「好きだ」
「……! あ、ありがと──……」
改めて想いを口に出され、美都はまごつきながら礼を返す。顔が見えないだけに彼が何を考えてその言葉を口にしたのかは解らない。しかしやはり直接的な想いは嬉しくもあり恥ずかしくもある。だから動揺して更に顔が赤くなるのだ。
ようやく身体が離れ彼と向き合う体勢を取る。
「どうしたの? いきなり」
突然の彼の所作に驚いてその意味を問うた。すると今度は渋い顔をしてポツリと呟く。
「俺は──なんとなく寂しかったんだ。お前に誕生日を教えてもらえなかったことが」
真っ向からそう言われて美都はさすがに息を呑んだ。彼に気を遣わせたくないと言う一心から自分で決めたことだったが、よもやそんな想いをさせてしまったとは。逆に気を遣えなかったなと反省せざるを得ない。
「ご……ごめんなさい」
「いや、お前の考えもわかる。俺もその立場だったらそうするだろうし。ただ──……なんとなくな。やっぱり彼女の誕生日に何も無いって言うのは俺自身が嫌なんだ」
素直に申し訳ないと詫びると、四季がフォローするかのように理由を付け加えた。まさかそこまで考えさせてしまっていたとは思わなかった。自分としては早く過ぎ去って欲しいものなのだが、理由を知らない彼にとってはやはり特別なのだ。
シュンとして俯いていると四季が一拍置いて言葉を続けた。
「だから……まぁエゴだよ」
「──?」
そう言って制服のポケットから小さな箱を取り出した。丁寧に包装されリボンがかけられたその小包を、美都の手を取り彼女の手のひらに乗せる。
「──っ、四季……!」
手に乗せられたその小包を見て目を見開いた後、彼を見上げた。これは、と次の言葉を紡ぐ前に四季が遮る。
「誕生日、おめでとう」
予想だにしなかった彼からの贈り物に目を瞬かせる。しばらく気持ちが追いつかず四季と小包とを交互に見た。呆気にとられていると、何も言葉を発しない自分の反応が心配になったのか四季が覗き込むように首を傾けた。その所作にハッとして我に返る。
「いいの……?」
「いいも何も、完全な押し付けだよ。むしろいらなかったらごめん」
「ううん! 開けてもいい?」
四季の恐縮する言葉に首を横に振る。いらないと言っていたのは自分だ。それなのにまさか用意してくれるなんて。まだ上手く感情が掴みきれていないが、彼の想いが素直に嬉しかった。四季に促され破れないように包装紙を外していく。露わになったそれは上品な白い長方形の箱だった。境目に指をかけ、ドキドキしながらゆっくりと開く。
「! ブレスレットだ……!」
開けた瞬間目に飛び込んできたのはキラキラと輝いている石だった。ローズクォーツとクラッツ水晶がとても可愛らしい。均等に並ぶ石の間には、デザイン性の高い金色のパーツが挟まれている。
「それくらいならこれからの季節学校につけていけるだろ?」
「そうだね。四季が選んでくれたの?」
「あぁ。まぁ最終的な判断をしたのは違うけど、選んだのは俺」
最終的な判断、と言うくらいだ。これを選ぶときに助っ人がいたのだろう。和真と遊んでいると思っていたのだがその場には恐らく春香もいたのだろうと予測出来る。もしかすると凛もか。この控えめなブレスレットなら、凛がくれたヘアピンにも合わせやすい。それを見越しての判断なはずだ。その様を思い浮かべると自然と笑みが溢れる。その反応に首を傾げ、四季が名前をなぞった。
「美都?」
「ううん。嬉しくて。……ねぇ、四季がつけてくれる?」
小首をかしげ、彼にお願いをする。少しだけ驚いた後、四季は懇願に応じるように渡した箱の中身をそっと手に取った。彼が手にすると小さく見えるな、とその様を見つめながら左手を差し出す。優しく指を介しながら、四季はブレスレットを美都の手首へと通した。見栄えを確かめるように手を顔の位置まで上げる。
間も無く沈む夕陽に当てられて輝く様がとても綺麗だ。
「可愛い……」
「似合ってる。良かった」
四季も実際に着けている様を目にしないと不安だったようだ。美都の手首に収まったブレスレットを見て安堵の息を漏らした。
現実を確かめるように、美都はもう一方の手で水晶に触れる。先程まで考えていたことを拭い去ってくれるような想いに胸が詰まりそうだった。こうして想ってもらえるなんて。どれだけ幸せなことだろう。こんなに幸せで良いのかと、逆に不安になってしまう。彼からの想いが、ただ一心に自分に向けられている。これが事実だ。
「──ありがとう、四季」
ここにいて良かったのだと、そう思える。呟いた言葉は彼に届いたようでふわりと優しい笑みを見せた。釣られて自分も顔が綻ぶ。幸せだ、とても。だからこれ以上望んではいけない。それは贅沢だ。だから。
美都は目を瞑って心の内にその感情を落とす。一度深呼吸をした後、目を開いていつも通り彼に話しかけた。
「帰ろっか」
目の前の彼と、共に暮らす家に。一人じゃないんだ。それだけで心が少しだけ和らぐ。
彼女の言葉に四季も微笑んで頷いた。彼に駆け寄ろうとした瞬間、突風が吹き抜ける。風が公園の砂を煽ったため思わず顔を覆った。
同じくその風に制服を乱される。胸ポケットに入れていた生徒手帳とシャープペンシルが零れ落ちた。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
更に吹き飛ばされてしまう前に拾わなければ。帰ったら四季に今日の出来事を詳しく聞こうと他愛ないことを考えながら体勢を屈ませた。
土の上に落ちたそれらに手を伸ばす。生徒手帳、そして。
「──っ⁉︎」
それに触れた瞬間、驚くほど強い光が放たれた。美都は反射的に強く目を瞑る。
予想出来るはずがなかった。だって自分は特別ではないから。
その光に抗う術も無く、美都はいつもと違う空間へ飲み込まれていった。