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当たり前に平和で

 

「エリアナ様、私のことは是非メイと呼んでくださいっ!」


 懐かれたというのがとてもしっくりくる。



 驚きが大きすぎて逆に緊張のほぐれたらしいメイはとても明るく、よく喋る可愛い子だった。辺境の田舎にあるとても小さな村出身らしく、まず王都に足を踏み入れること自体にとても緊張し、人の多さに緊張し、学園の大きさに緊張し、貴族に緊張し……とにかく、とてつもなく緊張していたとのこと。


 メイは、あるときたまたま不測の事態が重なって村を訪れることになった貴族に特異体質(その時はもちろん属性魔法のせいだなんて思っていない)のことを知られ、自分が推薦するから王都の学園に通わないかと誘われたのだとか。


 自分のように魔法が効かない特異体質や、事情があって魔法を受けることができない人のため、錬金術科に入り魔法を受け付けなくても使用できる魔具や薬などを作りたいと入学を決めたと話してくれた。


 ……おそらく、入学を薦めた貴族とやらは、メイの特異体質を研究対象として目を付けたのではないかと私は疑っている。このへんはそのうちメイから聞こうと思う。


 結局属性魔法が理由だったと判明した彼女は、まずは自分の適性についてきちんと知りたいと魔法科への所属を決めた。もちろん選択授業で錬金術も学ぶつもりらしい。

 メイのおかげで、動揺しきりだった私の気持ちもすっかり落ち着いた。


 同じく魔法科に決めた私とメイは、同じクラスになることができた。

 残念ながら、カイゼルは違うクラスになった。



 ******



 その日の昼食は、ジェイド殿下と一緒にとる約束をしていた。

 メイと別れ、学園内に王族のため特別に用意されている専用のサロンに向かう。

 その途中で、お兄様とカイゼルが一緒にいるところに遭遇した。いや、おそらく私が通るのを見越して待っていたのだろう。


「エリアナ、お前、本当に魔法学科になったのか……?」


 私が来た方向で察したお兄様が驚いた顔で言った。普通系列なら棟が違うので、サロンの位置上、この場所を通ることはない。


「だから言ったじゃないですか。エリアナは魔法適性ありで魔法学科になりましたって」


 カイゼルがうんざりしたように言う。どうやら私が来るまでにお兄様に遭遇して説明するカイゼルと、そんなはずないと信じられないお兄様でひと悶着あったらしい。


「だって、エリアナは今までずっと適性なしだったはずなのに、どうして……」


「まあ、そういうこともあるのを加味して全員魔力測定を受けるんじゃないですか。それよりランスロット様、あなたはまだお忙しいでしょう?早くいった方がいいのでは?」


 カイゼルに促されたお兄様はまだ腑に落ちないような顔をしながら立ち去って行った。

 お兄様は第一王子テオドール殿下の側近でもある。……テオドール殿下に会う算段がどうしてもつかないときは、お兄様にお願いしよう。



「お兄様、なんだったの?」


「エリアナが心配だったんだろう。ランスロット様は君を溺愛しているから。おまけに予想外に魔法系列になったからびっくりしたみたいだ。……それで?適性属性は何だったの?」


 カイゼルと並んで殿下のサロンに向かう。

 話題は私の魔力についてだ。


「火魔法だったわ」


「……は?」


「火魔法だったの」


「いや、聞こえなかったわけじゃなくて……本当に?火魔法?ただの?」


 その言い方に思わずむっとする。


「ただの火魔法よ!適正なしが適性ありになっただけでも私にしてみればすごいことだわ。カイゼルにはつまらないことかもしれないけどね」

 ジト目で睨みつけるのを忘れない。


 不意に、自分の反応の幼さにハッとした。巻き戻ってから、どうも自分が子供っぽくなってしまったような気がする。

 前は孤独で、酷く苦しい毎日で、弱みを見せてはいけないといつも気を張っていたから……久しぶりに温かいやりとりが当たり前のように戻ってきて、気が緩んでいるのかもしれない。


「ごめん、そうじゃない、まいったな……ただ、普通の火魔法なら僕が分からないはずがないと思って」


「巻き戻って鈍っているだけじゃないの?」


「そんなわけない。……本当に火魔法?普通じゃないんじゃないの?監督教師はなんて?」


「別に、特に何も言われなかったわ」


「エリアナは魔法知識があまりない新人教師の列だったな……」


 カイゼルはそれきり何か考え込んでしまった。




 そうこうしているうちにサロンについた。

 カイゼルとともに中に入る。数回に1度は殿下と2人だけの昼食を過ごすことになるが、今日はそれぞれの報告も兼ねてリューファス様、エドウィン様もきている。


「エリアナ!お疲れ様。魔法系列になったんだって?驚いたよ」

 ジェイド殿下はすでに中にいて、私の到着を待っていた。


「ジェイド様、お疲れ様です。これまでずっと魔法適性なしだと思っていたので、自分でも驚いております。でもこれで殿下と同じ棟で学べますね。同じ授業も多く受けられるかしら?」


「そうだね。私も君は淑女科になると思っていたから、思っていたより一緒の時間が多くなりそうでとても嬉しいよ」


 目を細めてほほ笑む殿下。思わず私の顔も緩む。

 殿下が差し出してくれた手を取り、皆のもとへ合流する。



 サロンにある丸いテーブルを囲むように座る。

 殿下の隣に私、その隣にカイゼル、殿下の反対隣りにリューファス様、エドウィン様の順に席に着いた。このサロン専用の侍女がお茶と昼食を準備してくれる。



「エリアナは3組になったんだっけ?」

 魔法系列、普通系列それぞれ3クラスずつある。


「はい。ジェイド様は1組でしたか」


「そう、同じクラスだったらなお良かったけどね。カイゼルは2組でしょう?」

 殿下はお茶を手にしながら言う。


「はい。僕は2組です。普通学科は?リューファスとエドウィンは同じクラスになったのか?」


「いや、俺は2組でエドウィンは1組だ。エリアナ様、3組なら自分の婚約者がいると思いますよ」

 答えたのはリューファス様。


「そうなの?クラスに入ってすぐに出てきてしまったから、誰がいるのかまだ確認できていないの」



 デイジーの騒ぎで予定より随分測定に時間がかかってしまったため、スケジュールが少々変わったのだ。クラスの顔合わせは後回しに、まずは昼食の時間になった。



「そういえば、カイゼルのクラスだったか?例の強い光属性適性者の女子生徒」


 殿下の言葉にどきりとする。

 デイジーのことだ。


「はい。僕はまだ見ていないんですが、同じクラスの人間が随分騒いでいましたね」


「そうだろうね。どんな生徒なのか、それとなく調べておいてくれる?」


「かしこまりました」


 そこで、デイジーの話題は終わった。



 1度目、2年生にあがる際に魔法系列に移動したデイジーは殿下と同じクラスだった。

 その時にはすでに聖女認定もされた後だったから、最初から殿下がサポートとして側にいた。


 今回は光属性の適性覚醒のタイミングが変わったことで最初から魔法系列だ。適性の強さが尋常じゃなく、かなり注目されているとはいえ今はまだ他の生徒と同じに過ぎない。

 この始まりが、私たちのこれからにどういう変化をもたらすだろうか。




 その後は、皆で談笑しながらゆっくりと昼食をとった。

 その時間があまりにも当たり前のように平和で、やはり何度か泣きそうになった。



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