魔力測定1
本日2話目の更新です!
ついに学園が始まった。今日は予定通り魔力測定が行われる。
校門で登校順に受け付けを済ませ、数か所に分かれた会場にそれぞれ受け付け順に案内される。私は学園の敷地内、校舎の横に併設されている競技場だった。これも1度目と同じだ。
競技場にはすでに多くの生徒がいた。時間になり、集まった生徒全員で監督役の教師から説明を受ける。この学園は平等を理念としていて、この場所にも貴族は高位、下位に限らず混じっているし、中には特待生として入学している平民もいる。
「エリアナ、緊張している?」
同じ会場だったカイゼルが隣に立ちながら声をかけてきた。わざわざ探してきてくれたらしい。こうしていると1度目の最後が嘘のようだと思う。あの記憶があるにもかかわらず、仲のいい幼馴染の頃と変わらない。それが少し嬉しいのは事実だ。わだかまりが全くないと言えば嘘になるけど。
そしてカイゼルが何を指して聞いているかはわかる。それは私の魔力について。
「していないと言ったら嘘になるわ。私、魔法適性ありになるのかしら?」
「分からない。魔力は確かに感じるからそうなるんじゃないかとは思うけど、エリアナの魔法適性が何か僕にも分からないんだよね」
「そうなの?あなたでも分からないことがあるのね」
思わずそう返す。
「こんなことはほとんどないさ。なんとなくも分からないなんて、かの聖女様の例の力とエリアナくらいだ。まあ、普通の魔法で時を巻き戻すなんてできっこないから、エリアナも何か特別なのかも」
カイゼルはプライドが傷ついたのか少しむっとしながら言い始め、最後には思案する顔になった。
特別な力なんて言われてもよく分からない。相変わらず、自分に新たに魔力が備わった感覚すら一切ないのだ。もちろん時を巻き戻した自覚も記憶もない。いまだにカイゼルの見た巻き戻りの瞬間の光景はただの偶然で、私の力などではないのでは?とも思う。
小さく息を吐きながらちらりと周りを見る。少し離れたところにミハエルも見つけた。
ジェイド殿下は違う会場にいるはずだ。
魔法系列と普通系列は校舎が別棟になる。選択する授業次第でそんなことを感じないくらい同じ授業を受けることもあるが、淑女科であり、主だったことは王子妃教育として王宮で学んだ私は殿下と授業で一緒になることもほとんどなく、1度目の私たちは学園で同じ時を過ごす機会はあまりなかった。
最初の頃は昼を共に過ごしていたが、デイジーが聖女になってからはいきなり環境の変わった彼女のサポートとして殿下が側にいることが増え、そのうちにみるみる2人の仲が変わっていったため、途中からはそれもなくなっていった。
ふと考えてしまう。
私が魔法系列になり、殿下の側にいる時間が増えれば、それだけで何かが変わるのではないか。なんとなく、胸元に手をやる。そこにあるのは殿下に頂いたネックレスだ。
もちろんそれだけでいいとは思わないし、デイジーの力も気になる。聖女についても調べるつもりだ。ただ、どうしても甘い期待を捨てられない自分がいた。
生徒は促されるままにいくつかの列に分かれ、魔力測定をしていく。会場には監督役の教師が数人いて、全員平等に測定するとはいえ最初からある程度はふるい分けられている。今の時点で魔法適性ありと分かっている生徒は魔法の知識が深い教師が監督する列につくのだ。
会場分けの時点でそうしないのは、魔力測定で初めて魔法適性があると判明する場合も、多くはないが確実に年に数人はいるからなのだとか。
カイゼルはもちろん魔法系列の教師が監督する列に並び、私はそこからかなり離れた列に並んだ。
「あの……大丈夫ですか?」
思わず声をかける。
相手は私の後ろに並んだ女子生徒。
「はっ、はい!すみませんっ!!大丈夫でしゅっ!ひぃぃっ」
盛大に噛んだわね……。
列に並んですぐ、どうも後ろから荒い息遣いが聞こえてきて気になっていたのだ。
様子を窺うと顔を真っ青にして大量の汗をかいていたので、驚いて声をかけずにはいられなかった。
これは……緊張しているのだろうか。
赤茶色の髪を両肩でおさげにした、青い瞳が印象的な女子生徒。どうやら平民の特待生のようだ。
「あの、」
「――次、エリアナ・リンスタードさん、前へ」
あまりに緊張している様子なので続けて声をかけようとしたが、順番が来てしまったようだ。
「はい」
気を取り直して返事をし、列の前に出る。
教師の前には水晶がある。この水晶は特別なもので、ここに手を添えて魔力を込めると、適性の有無と、自らの適性魔法が分かる。水晶の中に魔法が強制的に展開され、具現化するのだ。
例えば火魔法なら赤い炎が揺らめき、水魔法なら煌めく青い水が溢れ、風魔法なら小さな緑の竜巻が渦巻き、土魔法なら白い砂がさらさらと満ち、光魔法なら眩い金色の光が放たれる。他にも希少魔法があるが、大体そんな風に分かりやすい形で現れるようになっているのだとか。
私は少し緊張しながら、水晶にそっと手を添え魔力を込める。
―-やはり、変化はなさそう……
と、思ったその時
「きゃあああ!?」
「なんだっ!?」
そんなざわめきとともに、数列離れたところにある列の水晶が、目を開けていられない程の眩い黄金色の光を放った――…
光が落ち着き、その中心にいたのは、忘れもしない。
茶髪に桃色の瞳の愛らしい女子生徒。
デイジー・ナエラスだった。
デイジーの周りに、わっと令嬢が集まった。同じ列に並んでいた彼女の友人だろうか。
周りの騒めきは会場中を包み、止まらない。
「すごい!これほど強い光魔法適性は見たことがないぞ!」
「眩しくてまだ目がチカチカしますわ……」
「これは神殿にも報告しなければ――」
「――こんなに強い光魔法適性……もしかして聖女様なんじゃないか?」
そんな。
「早すぎる……」
ぽつりと呟いた私の声は誰にも届かない。
その時、動揺の中、体の中心がじわりと熱くなるのを感じた。
ゆらゆら、ゆらゆら、青い炎が私の中で揺らめく――。
「青い、炎……?」
声に出したのは誰だったのか。
監督教師はデイジーを取り巻く騒ぎに呆気に取られていた。
呆然としたまま、手元の水晶に目をやる。
水晶の中で、私の胸に燻っているものと同じような、青い炎が静かに揺らめいていた。
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出来るだけ毎日更新ができるように書いていきたいと思います。