1度目と違う
入学式の日から2日寝込み、殿下やカイゼルの訪問を受け、その2日後に神殿に訪問し……学園が始まるまでに今日を入れて後2日しかない。
初日には魔力測定があり、それによってクラスが分かれる。当日にクラスが決まるのは学園としては珍しい形かもしれないが、事前に他の生徒の適性の有無やその種類、クラスが同じ者が誰かなどが分かっていると学園開始前に色々画策されることが過去にあったらしく、この形になった。貴族のしがらみは何かと面倒くさいのだ。
魔法適性ありの場合は魔法系列に、そうでなければ普通系列に進み、そこから専攻を決め学んでいく。魔法系列には魔法科、魔法騎士科、錬金術科があり、普通系列には騎士科、淑女科、経営科がある。魔法適性があるものは最低限自分の適性に合ったレベルの魔法の基礎を学ぶことが推奨される。そうでなければ、せっかく適性があるにもかかわらず魔法が使えない宝の持ち腐れ状態になってしまうことがあるのだ。
そのような事情もありまずそこで分かれるが、基本的には必修科目が違うだけでその後に選択する授業を自分で選べるので、その科に入らなければその道が絶たれる、ということもない。魔法適性のないものが魔法の道に進むことはさすがに難しいが、普通系列に進んだ後、新たに魔力を覚醒、魔法適性を得て、次学年から魔法系列に移るなんてことも極稀にではあるが、ないわけではないらしい。
とはいえ高位貴族は学園入学前から家庭教師がついていることがほとんどなので、基礎の基礎を学ぶ者は何か特別な事情がある者か、それ以外では下位貴族や平民からの特待生が主になる。
お兄様は2歳年上で今は学園の3年生。最終学年であり、生徒会にも所属しているお兄様は一足先に学園が始まっており、今日も魔力測定の準備などをしているはずだ。
さらにその一週間後には新入生歓迎パーティーがある。
経験するのは2度目とはいえ、しばらくは忙しくなるだろう。
本格的に調べ物を始めるのはその後になりそうだ。
1度目の私は魔法適性なしで普通系列の淑女科に通っていた。
カイゼルいわく、私にも何か魔力が覚醒しているようだから、今回は適正ありとされるのだろうか。もしもそうなるならば、随分と学園生活が変わるはずだ。
ジェイド殿下には強い風の魔法適性があり魔法騎士科、カイゼルは全属性適性ありでもちろん魔法系列の魔法科、リューファス様は普通系列の騎士科、同じく普通系列でもう1人の殿下の側近であるエドウィン様は宰相子息で、本人も次期宰相と期待されていて経営科だったはず。
デイジーは当初魔法適性なしで、クラスは違うものの私と同じ普通系列の淑女科だったが、2年生に上がる直前に強い光の魔力を覚醒し、聖女認定され、魔法系列の魔法科に移っていった。
聖女認定されるには聖女である証明と、さらに何か相応の功績が必要だったはずだが、それが何だったかはあまり知られていなかった。何をもって聖女の証明をするのかも神殿関係者にしか知らされていない。偽る者が出てきては困るからだろう。
カイゼルも言っていた。「はっきりと功績を伝えられない聖女認定の経緯」と。
もしかして、聖女認定自体にも何か裏があったのだろうか。
「失礼いたしますエリアナお嬢様、第二王子殿下から贈り物が届いていますよ」
リッカが嬉しそうに声をかけてくれる。実は、1度目でもそうだった。
殿下は入学に合わせてネックレスを送ってくださったのだ。
『学園でも、いつも私が贈ったものを身に着けていてほしい』
そんな手紙を添えて。
「わあ!綺麗なネックレスですね!」
包みを開け、中身を取り出すと、それを見てうっとりと感嘆の声をあげるリッカ。
「……あら?」
思わず声に出す。
「エリアナお嬢様?どうされたんですか?」
「あ、いいえ、素敵なプレゼントで驚いてしまっただけよ」
「ふふふ、歓迎パーティーのドレスも用意してくださる予定なのに、こんなプレゼントまで贈ってくださるなんて、殿下は本当にお嬢様を愛してらっしゃるのですね」
私は曖昧に笑って返した。手の中のネックレスを見る。
小ぶりのエメラルドに、周りを囲む繊細な銀の意匠が素晴らしいひとつ石のネックレス。
学園で普段使いができるように派手ではないが、よく見るととても高価なものであることは間違いない。
でも。
1度目と、違うものだ。
1度目にもらったものは、金細工に琥珀石のネックレスだった。
殿下がデイジーに傾倒するようになってもずっと大切に身に着け続けていたから、思い出深いネックレスだった。あれがもう一度私のところに戻ってくると思っていたのに、少し寂しく感じる。
それに、2度目と言っても、まだ1度目と違うことなんてほとんどない。私や、すべてを覚えたままのカイゼルがすでにイレギュラーな存在とはいえ、未来を変えたというほどの行動は何もしていないのだ。
些細な変化とはいえ、妙に気になる。
巻き戻りは、それだけで何かを変えてしまっているということだろうか。
ジェイド殿下は金髪翡翠眼。1度目の物も、今私の手にある物も、どちらも殿下の色だ。
1度目のネックレスは気に入っていたとはいえ、一緒に冤罪断罪と処刑の決定という結末を辿った物。そう考えると、少しでも何かが違うことは喜ばしいことなのかもしれない。
そう思うのに、違和感と胸騒ぎが止まらない。
この違いが、何かとても重大なことのような気がして仕方ないのだ。
私は何か、大事なことを見落としているのかもしれない。
「お茶のご用意をいたしますね」
そう言って片付けてくれていたリッカが席を外す。
私もひとまず考え込むのを止めて、殿下にお礼の手紙を書くことにした。
とにかく、2度目は始まったばかりで、今はまだ何も分からない。
分からないことをぐるぐると考えて気にしていても仕方ない。
そう気を取り直した私は、湧き上がる胸騒ぎを無理やり抑えこんで、殿下から素敵なプレゼントを贈ってもらえたことを、素直に喜ぶことにしたのだった。
毎度のことながら誤字脱字が多くてすみません…
いつも誤字報告ありがとうございます!
ものすごく助かっています。