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カイゼルの訪問

 

 庭に場所を移し、テーブルに対面に座る私たち。

 カイゼルは何をしに来たのだろうか。泣きつかれた私の頭はあまり働いてくれない。

 とりあえずカイゼルの出方を窺うことにして黙ってリッカの用意してくれた紅茶を口に運んだ。



 カイゼルは私の幼馴染でもある。父親が王国魔法師団の団長であるカイゼルは、小さな頃から魔法を使えた。今ではすぐにでも魔法師団に入り活躍するだけの能力があり、その才を買われて殿下の側近の1人となった。

 小さな頃は兄も交えて3人でよく遊んだ。思えば私の婚約が決まった頃からこんな風にカイゼルが我が家を訪ねてくることはなかった気がする。来るとしても殿下の供として。


 お茶の準備を全て終え、カイゼルに言われリッカや彼の連れてきた護衛が話も聞こえず、姿も見えないギリギリの場所まで下がったところでカイゼルが口を開いた。


「……エリアナ、体調を崩してたって聞いた。もう大丈夫なの?」


「大丈夫よ。少し疲れが出たみたい。今はすっかりなんともないわ」


 そうかと呟いたきりまた黙ってしまった。

 仕方なくこちらから切り出す。本当は、カイゼルと話すのもまだ怖い。


「こうしてうちに来てくれるのは随分久しぶりよね。今日は突然何かあったの?」


 瞬間、カイゼルの瞳が揺れた。何かを言おうか迷っているようにはくはくと口を開いては閉じてを繰り返す。すごく居心地が悪い。

 何度かそうして、カイゼルは意を決したように言葉を発した。



「単刀直入に聞く。エリアナ……君は、2度目か?」



 ひゅっと息が止まり、言葉が出ない。それは肯定したようなものだった。



 なんで。どうして。カイゼルも、覚えているの?

 あの苦しく辛い時間は、やはり全て現実だったの?

 カイゼルは、知っている。

 私の苦しい時間も、惨めな姿も、あの、婚約破棄の瞬間も。


 混乱する頭で巻き戻る前のカイゼルのことを思う。

 彼も殿下と同じように、デイジーに傾倒し、私を憎み、断罪する側にいた。

 幼馴染としてともに過ごした時間などなかったかのように、まるで親の仇でも見るような目で私を見ていた。

 最後の瞬間、彼の目が少しだけ不安そうに見えたのは、私の錯覚だったのだろうか。

 それとも、いよいよ処刑が現実的になり、彼らの言う罪人が自らの幼馴染であったことを思い出し、かつての友が処刑されそうになっていることを憂いていたのだろうか。



「エリアナ!!!」



 手を伸ばしたカイゼルに肩を揺さぶられ、我に返る。

 肺に空気が送り込まれる。呼吸を忘れていたようだ。



「やっぱり、君も覚えているんだな……」



 じっと私の目を覗き込んでくるカイゼル。

 目を逸らしそうになるが耐える。巻き戻りを知っていようが知っていまいが、こういう瞬間はきっとこれからも来る。私は、恐怖を感じている。だからこそ負けてたまるか。強くならなければいけない。



「なんのことか、分からないわ」



 嘘にしか聞こえないと分かった上で答えた。



「いいや、君も覚えているはずだ。僕たちは同じ時間をやり直している」



 カイゼルも目を逸らさない。こちらを見つめるその目を強く睨みつける。



「……あなたも2度目だと言うなら、今更何をしに来たの?私を笑いに来た?それとも排除に?愛しいあなたたちのお姫様がまたいじめられることがないように今のうちに牽制に来たのかしら?おあいにくさま、私は1度だってそんなことはしていないから、私を排除してデイジーを助けようたって無駄よ」



 一口に言いきると、カイゼルは分かりやすく顔を歪めた。



「違う…そうじゃない…こんなこと言ったって、今更だって、信じられないのも分かる。虫がいいとも思う。だけど……言わせてほしい。エリアナ、僕はもう間違えない。僕は君の敵じゃない」


「は?」


「お願いだ、なんでも答えるから、どうか僕の話を聞いてほしい」



 間違えない?私の味方?何を言っているの?

 だがカイゼルの目は真剣だ。



「……では最初に教えて。なぜ私が2度目だと思ったの」


 私が話を聞く姿勢になったことに少し安堵したような様子を見せた。



「君は、どこまで覚えているかな?……僕は、巻き戻る瞬間、君と一緒にいたんだ」


「……え?」


「その様子だとやっぱり覚えてないか。あの時の君は意識があるようには思えなかったから」


 動揺する私にカイゼルはゆっくり説明する。


「まず、あの卒業パーティーの……婚約破棄の時、エリアナから感じたことのない魔力を感じた」


 カイゼルは魔法師としての才に本当に秀でていて、人の魔力の質なんかを感じ取れるとは聞いていた。でも


「まさか。私には魔法適性はないのよ」



 この国に暮らすほとんどの人は少なくとも魔力を持っており、直接魔力を動かすことで生活魔法を発動できる。それとは別に、属性魔法を扱うには魔法適性が必要だ。だけど、最低限の生活魔法くらいしか使えない私には魔法適性はなく、適性のない人間の魔力はあまり感じ取れないとカイゼルは言っていた。


「僕もそう思った。だから、気になってこっそり1人で、地下牢に入れられた君に会いに行ったんだ」


 地下牢。私はあの時、意識を失った後すぐにまき戻ったわけではなかったのか。


「そこでエリアナの魔力を読み取ろうとしたとき、君の体から尋常じゃない魔力が溢れて……あまりの眩しさに思わず目を閉じて、気が付いた時には巻き戻っていた」


「そんな」



 それじゃあ、まるで。


「……おそらく時を戻したのは君だよ、エリアナ」


 私は何も言えない。

 この巻き戻りは私が引き起こした?そんなこと……信じられない。

 私にそんなことができるわけない。


「それからもうひとつ、君にお礼を言わなくちゃいけない」


 続く言葉に顔をあげる。カイゼルは私を見つめながら続けた。


「あの時、君の魔力を浴びたおかげで、僕は正気に戻った。あれは魔法…いや、呪いだったのか……僕にもよく分からないけど。間違いなく何かの力が働いていた」


「何の話……?」


「エリアナは不思議には思わなかった?はっきりと功績を伝えられない聖女認定の経緯。みんなが彼女の言うことを信じ、彼女を守るために動いた。僕が言えたことではないけど殿下だって……彼女に傾倒したばかりか、君を処刑だなんて、あんな」



 言っている意味は分かるけど、うまく脳が飲み込んでくれない。

 心臓がばくばくとうるさく音を立て始める。



「殿下は王族として精神操作系の魔法に対抗するアミュレットを持っていたし、僕だってそれに屈しない訓練を小さなころから積んできた。だから本当にあれがなんだったのかは分からないけど」



 視界が揺れる。

 カイゼルはいつの間にか私の側に跪いて緊張に冷え切った手を握ってくれていた。




「デイジーは間違いなく……何か普通ではない力で皆の心を操っていたと思う」



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