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ラピスラズリ

 

 学園で、私はずっと落ち着かない気持ちだった。

 カバンの中のラピスラズリのブレスレットが気になって仕方ない。私のそんな様子を見て、サマンサ様やメイが不思議そうにしているのも無理はないだろう。


 このブレスレットを2人にいつ渡すか迷っていて、ずっとそわそわしているのだ。

 そうこうしているうちに魔法基礎の授業時間になった。


「ねえ、エリアナ様どうしちゃったのかしら?」

「分かりません……でもやっぱり様子がおかしいですよね?」



 サマンサ様とメイはこちらを見て何やらひそひそ話している。きっと、私が不審だから気になっているのよね……。そうは思うのだけど、どう切り出せばいいか分からないのだ。

 こういうプレゼントは、初めてだから。



「それでは、今日は魔力操作を使って、石に魔力を注いでみましょう。これをうまくできるようになると、錬金術の授業で行う魔法付与のコツが掴みやすくなります」


 オリヴァー先生が1人1人の前に石を置いていく。魔力をうまく流せないならまだしも、一気に多量を流しすぎてしまうと媒体が耐えきれずに壊れてしまうこともある。そのためまずは練習としてこの何の変哲もない石に魔力を流すのだ。


 私はそわそわした気持ちを抱えたまま、上の空で授業を受けることになった。






 心ここにあらずの私をよそに、授業は思わぬ盛り上がりを見せていた。


「わ!サマンサ様すごいです!2属性同時流しですか!?」


「ふふふ、この間の授業でエリアナ様の魔力を流していただいてから魔力操作のコツを掴んだみたいなの」


 メイの賞賛にサマンサ様は嬉しそうに答える。少し得意げな様子がとても可愛い。そんなサマンサ様の様子に今日もキースが頬を染めていた。


 物に魔力を流し、しかし付与までは行きつかない場合、魔力を流された媒体は魔力を纏い、魔力の色の光が膜のようにその媒体を覆う。サマンサ様が手をかざしている石は水属性の青と土属性の白が均等に張り巡らされ、さながら小さなオーロラのようになっていた。うまくいかない場合は魔力が霧散するか、流れていてもこうも綺麗な光の膜にはならない。



「ジミーもすごいじゃない!随分魔力操作が上手くなったのね」


 女子生徒にそんな声を掛けられたジミーの石は緑の光を帯びている。彼は風属性の適性のようだ。

 そして、特にすごかったのはメイだった。




「メイさん、これは……?」


「えっ!?私、何か失敗しちゃいましたか……?」


 オリヴァー先生の訝し気な声にメイは一気に挙動不審になる。

 メイの石は何も帯びてはいない。そもそも、反魔法は魔力を流すのに成功した場合、何色になるものだろうか?


「いえ、失敗というか、大成功というか、これは何と言ったらいいのか……」


「大成功?何にもなってないように見えるけど」


「あっ!」


「うわっ!?」


 1人の男子生徒がメイの石を手に取る。珍しくオリヴァー先生が焦ったように声を上げたと思ったら、続いて男子生徒が叫びながら石を投げるように取り落とした。落とされた石はピシリと音を立ててそのまま割れた。


「な、なんだ今の……魔力を弾かれた?いや、吸われたのか……?」


 男子生徒は石を握った手を見ながら呆然としている。

 その様子に他の生徒もざわつく。


「メイさん、先ほどの石は魔法付与に至っていました。反魔法が込められていたので、属性魔法の魔力を持った彼を拒絶したのでしょう」


「えっ?え?えっ?」


「今のは魔力反射と魔力吸収ですか……自分で込める効果をコントロールできるようになるとこれは魔法石としてすごい価値になりますよ。非魔法使いが魔法使いに対抗する手段としてこれほど効果的なアイテムはないでしょう。……魔力操作の練習を頑張っているんですね」


「あっ、うわっ、うえぇ……」



 オリヴァー先生はこれ以上ないほど優しい笑顔でメイを褒める。その心からの賞賛に、メイは顔を真っ赤にしもはや言葉にならないようだった。







「あの、エリアナ様?」


「……」


「エリアナ様」


「……」


「エリアナ様!!!」


「えっ!?」



 大きな声に驚いて顔を上げると、心配そうな顔をしたドミニクが私を見ていた。


「どうしたんですか?先程から様子がおかしいですけど……」


 いけない。どうやら自分で思っている以上に上の空になってしまっていたようだ。

 私が答える前に、ドミニクは驚いたような顔をした。


「というか、エリアナ様が持っているのはなんですか……??」


「え?」



 何って、皆と同じ石だけど……。

 不思議に思いながら手元を見て、そこにある物に理解が及ばず固まってしまった。


 そこにあるのは、どう見ても石ではなかった。



「エリアナさん、あなたもあなたで本当に規格外ですね……青い石、まるで宝石のようですね」


 オリヴァー先生はもはや苦笑している。


 ラピスラズリのブレスレットで頭がいっぱいのまま石に魔力を流し続けていたら、石が青くつるんと変化し、ラピスラズリのようになってしまった。


「ははは……」


 私も笑うしかない。



 ******



「エリアナ様の青い石、綺麗でしたね~!割れちゃったのが残念です」


「メイの反魔法を付与した石だってそうですわよ!私もお2人に負けないように頑張りますわ!」


 私が魔力を流した青い石は、メイの石と同じように間もなく割れてしまった。

 割れた断面も青く、全体が変化していたことにオリヴァー先生が感嘆の声を上げ、なぜか破片を小さな布袋に入れ持たせてくれた。それは今私の手元にある。


 そんなことよりも。



「あの……私、2人に渡したいものがあるんです」


 私はついに切り出した。


「渡したいものですか?」


 首を傾げるサマンサ様とメイに、ブレスレットの入った包みをそれぞれ渡す。

 2人はどんな反応をするだろうか。……迷惑がられはしないだろうか。



「わっ!これって……!」


 中身を見たメイが目を丸くして私を見つめる。


「これは……ラピスラズリのブレスレット!これを、私たちに?くださるのですか?」


 サマンサ様も驚いたように顔を上げた。

 私はもう恥ずかしくてたまらない。意を決して自分の分のブレスレットを見せる。


「あの……仲の良い友人でお揃いのアクセサリーをつけるのが流行っていると以前メイが言っていたから……」


「エリアナ様……!!!」

「すごく、すごく嬉しいですわ!!!」


 メイもサマンサ様も勢いよく私に詰め寄り、瞳を潤ませて喜んでくれた。

 よかった……はっきり『仲の良い友人』と言ってしまったから、否定されてしまわないか本当に不安だったのだ。

 なんだか胸がいっぱいになって、私まで涙目になってしまった。





「ところで、もしかしてこのことを考えてらしたからエリアナ様の石はラピスラズリのように青くなったんですの?」


「え?そうなんですか?」



 それは言わないでほしかったところである。

 私が羞恥に赤くなると、メイもサマンサ様もいたずらっぽく私をからかったのだった。






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