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殿下とのデート1

 

「リッカ、お土産を買ってくるわね!」


「エリアナお嬢様、とてもご機嫌ですわね」


「当たり前でしょう?街にお忍びで出かけるだなんて随分久しぶりだわ!リッカも一緒に行けたらよかったのだけど」


「ふふ、お嬢様ったら、お出かけが楽しみなのではなく、殿下とデートされるのが嬉しいのでしょう?」


「えっ、あ……そ、そうね」


 リッカの揶揄うような笑みに思わず苦笑してしまう。

 でも、そうね……デート。デートでいいのかしら?いいのよね?

 珍しく、浮足立っているのを自分でも感じる。

 王宮や学園では会うけれど、ジェイド殿下と2人で、お忍びで街へ出かけるのは実は初めてのことだ。

 街へ出かけること自体も私にとっては久しぶりで、楽しみに思うのも当然だった。



 お忍びなので、いつも着るようなドレスではなく、簡素なくるぶし丈のワンピースを着る。髪も今日はおさげにまとめている。そうして殿下の迎えを待った。





 ジェイド殿下は、いつもの装飾の煌びやかな王宮の馬車ではなく、紋章のない小さな馬車に乗り迎えにきてくださった。


「エリアナ、そういう庶民的な姿でもすごく綺麗だね」


 馬車を降りるなりそう言って嬉しそうに微笑む殿下に私も思わず笑顔になる。

 殿下もシンプルなシャツにスラックスという出で立ちで、綺麗な金髪は帽子で目立たないように隠していた。


「殿下も、そういう格好も新鮮で素敵ですわ」


 私も心からの笑顔で返す。

 殿下のエスコートで馬車に乗り込み、街へ向かう。馬車はそれでもさすが王宮の馬車と言ったところか、中はシンプルながらも座り心地の良い椅子に、あまり揺れない仕様とその上質さが窺える。


「今日は特に行く場所を決めてないんだけどいいかな?エリアナと歩いて色んな店を見て回りたいと思って」


「もちろんです、楽しみですわ!」


 馬車の窓から街が見えてくる。今日は天気も良く、絶好の散策日和だ。

 私がうきうきとしているのが分かったのか、目が合うと殿下は嬉しそうに笑った。



 なんて穏やかな時間なんだろうかと思う。

 デイジーの力についても、過去の作られた聖女についても、調べなくてはならないことはたくさんあるし、1度目と同じようにこれから起こるかもしれないことを思うと不安にもなる。


 けれど、それとは別に、私は今確かにこの時間を生きているのだ。

 今の時間を大事に生きたいとも思うし、楽しい時間を楽しむ余裕はなくしたくはない。

 幸せを奪われないために奮闘する時間で、幸せをないがしろにしては本末転倒なのだから。




 そうしているうちに、あっという間に町の広場の側までついた。

 ここからは馬車を降り、殿下と2人で街や店を見て回るのだ。もちろん護衛もいるが、基本的には私にも分からないようにこっそりとついてきてくれるし、殿下は自身の身を守れるほどには強いので、そんなに人数はいない。


 今日だけは、頭を悩ます色々なことは忘れて、思う存分楽しもうと決めた。





 馬車を降りてすぐ、殿下に手を差し出される。


「……?」


 エスコートをしてくださる時のように手のひらをこちらに向けるのではなく、下に向けて差し出された手にどうしたものかと戸惑っていると、苦笑した殿下に手を握られる。

 咄嗟のことに反応する前に、私たちはそのまま手を繋いで歩きだした。



「あの、ジェイド様……」


「どうかした?」


 殿下は優しく私を覗き込みながら、それでも足は止めずに歩き続ける。

 その余裕の仕草を見ながら気づいた。私に合わせて随分ゆっくりと歩いてくださっているのだ。


「手を……繋いでいますわね」


「うん?繋いでいるね?」


 殿下はそう言いながら手に力を入れにぎにぎと握ってくる。それが無性に恥ずかしくて、思わず顔に熱が集まるのを感じる。私の恐らく赤くなった顔を見て殿下は笑った。

 な、なんだか遊ばれている気がするわ……。


「あはは、ごめんごめん。でも手を繋ぐのは許してくれる?これから人通りが多い方に向かうからはぐれたら大変だし。それに……エリアナとのデートを楽しみにしてたんだ。こうして歩いているのってすごくデートっぽいだろう?」


 殿下のストレートな物言いに思わずドキドキしてしまう。

 そっか、やっぱりこれってデートなんだわ……。

 嬉しくて顔が緩むのを感じる。ふと顔を上げるとそんな私を見て殿下も優しく微笑んでいた。その様子がすごく甘くて不覚にもきゅんとしてしまう。

 そして同時にほんの少し、胸が痛んだ。


 結局繋いだ手はそのままに、店が立ち並ぶ通りに入っていく。


 店はどこも活気づいていて、皆が笑顔を浮かべあちこちで話をしている。

 軽食の店や街の服屋、薬草をたくさん置いている薬屋など、気になる店を殿下と2人で片っ端から見て回っていった。


 次に立ち寄ったのは店主が手作りしているというアクセサリー店。店内で、ふと小ぶりの石が付いた華奢なブレスレットが目に留まった。

 これ、メイが話していたブレスレットかしら……?


『今街で、手作りアクセサリーのお店の可愛いブレスレットを友達同士お揃いでつけるのが流行っているらしいんです!王都の流行りって素敵ですよね!私が住んでた村じゃそんなお洒落なこと考えられなかったなあ……ほら!あの女子生徒たちがつけているのもそうですよ!』


 王都にも学園にもあれほど緊張していたのが嘘のように、基礎魔法授業の令嬢たちとあっという間に仲良くなったメイ。情報収集をして放課後に街に出かけるようになるまでもあっという間で、今では1人で安くて素敵なお店を探すのが楽しみなのだとか。


 気軽に街に出ることができない私やサマンサ様によく街のちょっとしたお菓子を買ってきてくれたり、そういう街での流行りの話などを聞かせてくれていた。



「それ、気になりますか?ラピスラズリのブレスレットなんですよ」


 店主の女の人が近寄り話しかけてくれる。


「ラピスラズリですか?」


「はい!ラピスラズリは魔除けの石でもあり愛を守る石とも言われていて人気が高いんですよー!心にある誤った考え方を正し、判断力を高める効果があるとも言われているので、何か迷いや悩みがある方にもおススメです」


 お客様は幸せそうなので、愛を守る石としてのお求めですかね!とジェイド殿下を見ながら店主が明るく微笑む。


 けれど私は全く逆で、『魔除けの石』『迷いや悩みがある方におススメ』と言う言葉が心に響いていた。特に、魔除け。この石が、少しでもデイジーの力から私たちを守ってくれるかしら……。


 魔法を付与されているわけでもない、気休めでしかないのは分かっていたが、だからこそ無性に気になってしまった。そして単純に、メイから聞いた『友達同士お揃いでつける』という話も私の心をくすぐるのだ。



「あれ?同じものを買うの?」


 会計をしようとする私に殿下が不思議そうに聞いてくる。

 買ってあげるよと言ってくださったけれど、これは自分で買いたいと断った。

 友人に渡したいと言うと殿下は少し驚いて、そして嬉しそうに「それは確かに自分で買いたいね」と頷いてくださった。


 結局、自分の分と、サマンサ様とメイに渡す分、3つお揃いのラピスラズリのブレスレットを購入してその店を後にした。



 店を出ると、すぐに殿下が私の手を握る。当たり前のように繋いだ手にも慣れてきて、単純に嬉しくなってきた。殿下の方を見ると、にこっと笑ってくれる。


「お昼を少し過ぎてしまったね。そろそろ何か食べに行こうか」


 そういえば楽しくて気づかなかったけれど、確かにお腹がすいている。

 お店に入るか屋台で食べるか、どんなものが食べたいかなんて話しながら広場の方に向かって歩いた。



 途中、「私も何か君にアクセサリーを贈りたかったな」と言われたので、私にはこれがありますからと殿下に贈ってもらった胸元のエメラルドのネックレスに触れてみせると、私と繋いだ殿下の手の力が少しだけ強くなった。




いつも読んでくださっている皆様に感謝です。

そしていつも誤字報告してくださる方もありがとうございます!

毎話毎話、私の誤字脱字が多すぎて本当に申し訳ないです……心から感謝しています><

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