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魔力操作の授業1

 

 それから数日経ち、学園では本格的な授業が始まっていた。


「では、実際に2人1組になり魔力の受け渡しをしてみましょう」


 担当教師であるオリヴァー先生の言葉に、隣の席に座るメイと向き合う。サマンサ様は同じ水属性の適性を持った男爵令息のキースとペアになっている。


 今は魔法系列、魔法基礎の授業だ。

 この授業を選んでいる者は1年生の間はほとんどの時間で基礎的な授業を受けることになる。基礎を学ぶ必要のない者と同じ授業を受けるには基本的なレベルが違いすぎるからだ。もちろん他の生徒と同じように学ぶ魔法系の授業もあるけれど、必然的にこのメンバーで過ごすことが多くなるだろう。


 同じ授業を受けているのはやはり男爵家や子爵家の子息令嬢達と、別のクラスのメイと同じ平民の特待生であるジミー、王国でも有名な大きな商家の息子であるドミニクという生徒。


 なぜかデイジーはいなかった。魔力測定の時に初めて光魔法適性を覚醒した彼女は、確実にこの授業を受けるはずだと思ったのだけど。


 最初の数回の授業では座学で魔法理論を学び、今日は初の実技授業になる。



「エリアナ様、よろしくお願いします!」


「こちらこそ、よろしくね」


 向き合ったままメイと両手を取り合う。


「わっ……!」


 繋いだ両手に意識を集中させ、循環させるイメージでゆっくり魔力を流し始める。


「すごい……これがエリアナ様の魔力……」


 呆けたように呟くメイの様子に、上手くいったみたいだと少し嬉しくなる。神殿でミハエルの傷を癒して以来、毎日1人で自室にいる時間に魔力操作の練習をしていたのだ。


「ねえ、メイも試しにやってみたら?」


「いえ、でも、私は……」


 言い淀むメイの様子にピンときた。


「適性魔法が反魔法だから魔法は受け付けないだけで、あなたも簡単な魔力操作は普通にできるようになると思うわ」


「えっ?」


「だって、こうしているとあなたの魔力の流れも感じるもの」


 魔力操作の練習を始めて、自分の魔力をしっかり感じることができるようになった。

 こうしてメイの体へ魔力を流すように循環させていると、その流れとは別に自分の物とは質の違う魔力が漂っているのを感じるのだ。魔力が漂っているのを感じると言うことは、循環させられるだけの魔力が備わっているということだと思いそう言ったのだが、メイはとても驚いた顔をした。


「私も魔力操作ができる……?」


「多分ね。きっと、反魔法の作用の方が大きくて生活魔法の発動が難しいだけで、魔力自体が扱えないわけじゃないと思うのだけど」


 生活魔法を発動させる基礎魔力と、属性魔法を発動させる魔力は種類が異なる。

 イメージ的には基礎魔力が血液で、属性魔法を発動させる魔力は体力や筋力のようなものだろうか。


 基礎魔力はそもそも生まれた時からその人に備わった特有のもの、属性魔法の魔力は努力次第でその魔力量も増えていく。ただし、私のように突然覚醒する場合はあるものの、生まれた時から資質の有無は決まっているので、体力や筋力という例えは間違っているかもしれないけれど。


 メイの反魔法は無意識に常時発動しているようなので、自らの基礎魔力についても、魔法として発動させる前に打ち消している状態だろう。


 魔法を発動させる前段階である魔力の循環程度なら反魔法も発動しないのではないか。

 この魔力操作の、座学の授業内容からそう思った。


「エリアナさんの言う通り、魔力操作ならば反魔法でもできるでしょう。精度の高い魔力操作が可能になれば、努力次第で反魔法の魔力波を放出することも理論上は可能です」


 私たちの会話が聞こえていたらしいオリヴァー先生がにこやかに言った。

 オリヴァー先生は紺色の長髪を緩くひとつに束ねた、長身で物腰穏やかな男性だ。年齢は24歳とまだ若く、独身らしい。人気のある先生で、女子生徒が噂しているのを聞いたことがある。


「本当ですか!?」


 オリヴァー先生の言葉に、メイは目を輝かせて喜んだ。


「ただし、先ほどエリアナさんが考察していた通り、反魔法の作用が大きい上に常時発動している状態のため、基本的な魔力操作の練習自体がとても難しいものになります。上げて落とすようですが、それを乗り越え自分の魔力を扱えるようになった反魔法適性者の例はほとんどありません」


 反魔法の適性者自体がほとんどいないと言われている。

 実際、学園でも特に魔法に秀でていると言われる教師数人しか反魔法について分からなかった。その数人のうちの1人がオリヴァー先生だ。


「でも、ほとんどいないっていうことは、できた人もいたってことですよね……?」


「はい。実は私は以前、あらゆる国を旅していたことがありまして。その頃に遠い国で反魔法適性者の男性に会ったことがあります。その方が実際に魔力操作で反魔法の魔力を操ることに成功していました。それを目指すには並々ならぬ努力はいるでしょうが……それにしても生きているうちにまた反魔法適性者に出会えるなんて、1人の魔法使いとして私は幸運です」


「先生……っ!私も、私も先生の生徒になれて幸運ですうぅ!!!」


 思わぬ可能性に感激に瞳を潤ませたメイを、微笑まし気に見つめながらオリヴァー先生は続ける。


「そして、メイさんにとってはエリアナさんとの出会いが1番の幸運になると思いますよ。反魔法適性者であるあなたに魔力を循環させることができるなんて普通は無理です。よほど相性が良いのでしょうか?反魔法適性者と相性の良い魔力があるなんて思いもしませんでした。人の魔力循環を感じられるかそうじゃないかで、難易度は格段に変わるでしょう」


 何事も経験は大事だと言うことですよとオリヴァー先生は言った。

 先生の言葉に少しだけどきっとした。

 まさか、「ひょっとして聖女だからかもしれません」とは言えない。

 メイは潤ませた目のまま私に詰め寄り、私に出会えた感激をこれでもかと伝えてくれる。



 そして、思いもよらないことを言い始めた。


「あの、気になってたんですけど……エリアナ様に魔力を流してもらうと、ものすっっっごく気持ちいいんですけど、これって普通ですか?それとも先生が言うように相性がいいからですか?」


 エリアナ様としかしたことないから分からなくて、と続けたメイの言葉に、1番食いついたのはオリヴァー先生だった。


「相性がいいとそうでない場合よりも、温かいだとか、心が凪いでいく感覚があるとは言いますが、気持ちいい、ですか……。エリアナさん、試しに私に魔力を流してみていただけますか?」


 先生までもが興味を示したことで同じ授業を受けていた他の生徒たちもこぞって周りに集まってきた。メイもサマンサ様ももちろん興味津々だ。なんだか思わぬ展開になって来たと思わず遠い目になる。


 こうなったら仕方ないと、私は1つ深呼吸をしてから、差し出されたオリヴァー先生の両手を握った。



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