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色違いの魔法の秘密2

 

 結局その後も2人と相談し、しばらくは私が聖女であることは内密にしようと言うことになった。

 まあ、それ以上にやはり自分が聖女であるなんてまだ信じられないのだけど。


 とは言え、聖女の証について知っているだろう神殿の限られた人物の目にだけ気を付ければ、魔法を使ってはいけないということもないらしい。


 さっきミハエルが言っていた通り、『そうである』と知らない限り、色違いの魔法に気付いてもそれが聖女の証ではないか?とは絶対に思い至らないものらしい。せいぜい、色違いだ!珍しい!と思われて終わりなのだとか。

 不思議だが、そういうものだと言われてしまえばそうなのだろう。ある種の認識阻害みたいな力が働くのだろうか。


 カイゼルを秘密の共有者としたのは、今日たまたま私とともにいたからというだけでなく、ミハエルとしては考えがあってのことらしい。


 まず、何かあったときに私を守れるだけの魔法の才があること。これには同意だ。

 カイゼルは4大主属性と言われる火・水・風・土全ての属性適性持ちの上、1つ1つの能力の強さも随一である。


 そして、カイゼルには私の加護がかかっていること。

 加護。そんなのまるでアネロ様のようではないか。思わずそう思ってしまい、おこがましさに戦々恐々とする。


 そんなことをした覚えはないと思ったのだが、思い当たる節が1つだけあった。

 カイゼルは時を巻き戻る際、そのために使った(であろう)私の強い魔力を直で浴びたのだ。

 彼だけが記憶を残したままだったのも、その時に受けた魔力で加護とやらがかかったと考えれば説明がつく。


 カイゼルは秘密を守ることを、ミハエルは神殿の中のことや、デイジーを取り巻く神殿側の動きなどを調べてくれることを互いに約束した。



 それから、


「僕の知る聖女様の力について簡単にお伝えしておきます」


 そう言ってミハエルが教えてくれたことは興味深かった。



 まず、聖女の魔法はいつだって『色違い』として現れること。


 しかし色違いであれば火でも水でも、もちろん他のどんな属性でもありえるらしい。

 元々聖女の力はその人の奥深くに眠っていて、感情を激しく揺さぶられた時に覚醒すること。属性はその感情に由来するのだとか。


 ……私は婚約破棄のあの瞬間、悲しみと怒りという激情によって覚醒したということらしい。「心当たりはありますか?」とミハエルに聞かれたけれど、すぐには思い出せないと言っておいた。もちろん全てを覚えているカイゼルはおおいに心当たりがあるわけで、何とも言えない複雑な顔をしていたけれど。


 だから、胸の内に湧いたように感じた青い炎がそのまま私の魔法になったのか。あまりにもできすぎているな、と思っていたけれど、なんだか少し納得してしまった。



 さらに、聖女の力はその属性魔法に限らない、ということ。

 私の属性魔法は『青い炎』。だが、単純に青いだけの火魔法というわけではなく、『青い炎であらゆる魔法現象』を行えるということらしい。どういうことか分からないって?私もあまりイメージが湧いていない。


 ただ、実際に私は、時を戻している。これについてはそろそろ私の仕業なのだと諦めた。恐らくこの青い炎の魔法で。一番使いやすいのはその属性をかたどった魔法(私の場合は火)と、やはり聖女というだけあって治癒らしい。


 青い炎で治癒だなんて、ますますイメージが湧かない。こればかりは実際に使っていって身に着けていくしかないらしい。使えば使うほど、魔法は磨かれていく。さらに聖女は、普通の鍛錬での熟練スピードが普通より速い上に、覚醒してから感情が揺さぶられるたびに一足跳びに能力が向上するのだとか。なんてチートな能力だろう。

 ただ、最初の覚醒の時のような苦しい目に合うのは正直ごめんだと思った。





 そうして大事な話が大体終わった頃、ミハエルが急にそわそわと落ち着かない様子を見せ始めた。


「あの……よろしければエリアナ様の魔法を見せていただくことはできませんか?」


 どうやら、私の青い炎に興味があるらしい。


「あ、それは僕も見たい!僕はまだ一度も見ていないからね」

 便乗してくるカイゼル。


「でも私……魔力測定以来、この魔法を使っていないの」


 なんなら意識して使ったのはあの時だけ。それも実質は魔力測定のために魔力を注いだだけだ。一言でいえば自信がない。

 しかしミハエルは引き下がらなかった。


「聖女の力に大事なのはイメージだと言います。でも、さすがに何もなくいきなり見せてほしいと言われたのでは何をイメージすればいいか困りますよね……では」


「っ!?なにをするの!?」


 おもむろに神官服の袖の奥から取り出した小さなナイフを、自らの腕に押し当てるミハエル。

 カイゼルも「おい!」と慌てたように声を上げるが当のミハエルはしれっとしたものだ。


「エリアナ様、もしよかったらこの傷を癒していただけませんか?」


 長い付き合いの中でも見たことがないような、とてもイイ笑顔だった。



「……ミハエルにこんな無茶なことをする部分があるなんて知らなかったわ」


 私の呆れ顔にもニコニコ笑っている。

 諦めて、意を決しミハエルの傷ついた腕に手をかざした。


 ゆっくりとイメージする。

 私の中で揺らめく青い炎。そこに、さらに私の癒しのイメージを乗せる。

 優しく、穏やかで、温かい……青い炎が全てを包み、痛みを、傷を、飲み込み、癒していく……。


 そうしているうちに心が凪いで、かざした手のひらが徐々に温かくなってきた。


「すごい……」


 そう呟いたのはミハエルだったのか、カイゼルだったのか。


 気が付けばミハエルの傷はイメージ通りの青い炎に包まれていた。

 ゆらゆら、ゆらゆら。静かに炎が揺らめくたびに、傷口に仄かな光が灯っていく。


 傷は、あっという間に消え去った。



 ******



 その後、いつものように礼拝堂で祈りを捧げ、神殿書庫の本をいくつか借りて帰ることにした。正直ミハエルが話してくれた内容以上の物はなかったが、広く知られている聖女の伝承や、アネロ様の神話などを数冊。何がヒントになるか分からないから。

 大神官様の姿は見えなかった。どちらにしても会うつもりはなくなっていたけれど。



 帰り際、カイゼルは真剣な顔で言った。


「テオドール殿下に、君が聖女であると伝えるかどうかはエリアナに任せるよ。僕はあの人は信用できると思う。ただ……ジェイド殿下に全てを伝えることについては、僕は反対だ」


「どうして?」


「うまく言えないけど……1度目、デイジーの力に絡めとられた者は僕をはじめ数多くいた。それでも、1番の目的はジェイド殿下だったと思う。同じ時をやり直しているとはいえ変わったことが多すぎて先が読めない。1度目の影響がどれほど残っているか分からないうちに、ジェイド殿下に全てを打ち明けるのがいいことだとはどうしても思えない。……胸騒ぎがするんだ」


 確かに、私もそう思う部分がある。カイゼルの言葉に私は静かに頷いた。



 色々なことが起き、分かったこともある。

 それなのに……調べれば調べるほど、パンドラの箱をあけるかのような不安を感じるのは、なぜだろうか。



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