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色違いの魔法の秘密1

 

 次の休み、予定通り私はカイゼルとともに神殿にきていた。


 いつものように護衛騎士のロビンのエスコートで馬車を降り、その後は1人で神殿の中へ。

 礼拝堂に入る前の廊下で偶然会ったように装いカイゼルと合流する。普通に一緒の馬車で行けばいいと思ったけれど、それは彼に拒否された。


「ねえ、こんな面倒くさいことする必要あったの?普通に一緒に来ればよかったじゃない?」


「これでもギリギリだよ……僕はまだ長生きしたい。エリアナはジェイド殿下の独占欲を甘く見てる。」


 後半何かカイゼルがブツブツ言っていたのは私の耳には聞こえなかった。


「?よく分からないけど、まあいいわ。大神官様に会えるかしら?」


「どうだろう、難しいかもね。会えそうになければ、そのまま神殿書庫に行こう」


「そうね……」



 神殿書庫。神殿の教えや、愛の女神アネロ様のお話、この国やアネロ様の加護の歴史など、神殿にまつわる書物が揃えられたいわゆる図書館だ。公にされている書物でどれだけのことが分かるかは不明だが、私たちは知らないことが多すぎる。


 それに、少しでも今の現象について何か分かれば、正式に大神官様に会う時間を作っていただけるように約束できるかもしれない。

 何も分からない今、具体的に聞きたい内容もまとめられずに忙しい大神官様への面会は叶わないのだ。



 とりあえず、まずは祈りを捧げようと礼拝堂に向かおうとしたとき、


「エリアナ様!」


 大きな声に呼び止められた。



「ミハエル?そんなに慌ててどうしたの?」


 息を切らしながら駆け寄ってきたのはミハエルだった。

 カイゼルも不思議そうな顔で見守っている。


「……エリアナ様、大事なお話があります。どうかお時間を作ってはいただけませんか?」


 その真剣な声色に、思わず私とカイゼルは顔を見合わせた。




 ******




「いきなりのご無礼、申し訳ありません」


 ミハエルは深々と頭を下げる。

 結局、私たちは礼拝堂には入らず、横にそれた廊下の向こうにある応接室へ通された。


「無礼だなんて、ミハエルに対してそんなこと思わないわ。気にしないで。それで、大事な話って?」


「あの……魔力測定の話なのですが。僕、エリアナ様の測定の様子を見ていたんです。」


「魔力測定?」

 私が聞き返すと、カイゼルも顔つきを変えて、ぐっと身を乗り出した。


「はい。その後、エリアナ様が火魔法の適性だと聞いて……」


「君は、違うと思っているのか?」


 カイゼルの言葉に首を傾げる。違うって、火魔法適性ではないということ?


「……エリアナ様の魔力を受けた水晶は、青い炎を湛えていたように見えました」


「青?エリアナ、本当か?」


「え?ええ、そうだけど。それって何かおかしいの?」


 答えると、ミハエルは小さく「やっぱり」、と呟き、カイゼルは微妙な顔で考え込む。


「何?なんなの?それって何かまずいの?」


「エリアナ……火魔法適性の炎は、赤い」


「?そうね、一般的に赤い炎が揺らめく、と言うわね。ねえ、色が違うってそんなに重大なことなの?」


 私のその言葉にカイゼルもミハエルを見る。ミハエルは、言い含めるようにゆっくりと話してくれた。



「エリアナ様、よく聞いてください。『火魔法なら赤い炎が揺らめき、水魔法なら煌めく青い水が溢れ、風魔法なら小さな緑の竜巻が渦巻き、土魔法なら白い砂がさらさらと満ち、光魔法なら眩い金色の光が放たれる。』たいていの魔法書の最初に書かれているこの言葉は、例ではありません。それが全てなんです。使い方によって違う様に見えることはあっても、基本的に魔法の色は変わりません。魔力測定の水晶では必ずこの色が現れます」


「……でも、私はそうじゃなかったわ」


「そうです。エリアナ様の炎は青かった。神殿では、大神官になれるだけの資質を持った者には、この特別な例外についても教えられます。神殿以外には秘匿とされていますし、神官も資質があると認められなければ階級が上であっても知らされません」


 ミハエルは肩書こそ神官見習いではあるが、将来の次期大神官と期待され、神殿に上がった頃からそのための高等教育を受けている。実質上の立場は並の神官より上ではないかと聞いたことがある。


「待て、まさか」

 カイゼルが息をのむ。



「はい。……色違いの魔法は、聖女様の証です」





 しん……と一瞬その場の時間が止まったような気がした。


「……っ」


 ――予想もしなかったミハエルの言葉に理解が追い付かず、私は何も言えない。


 私の代わりに疑問を呈したのは、一瞬先に我を取り戻したカイゼルだった。


「……待て、待て。それが本当だとして、聖女の証は秘匿中の秘匿のはずだ。魔法の色が違うなんて誰が気付いてもおかしくないことが本当に証なのか?それに本人であるエリアナはともかく僕にも聞かせたのはどうしてだ?神殿が何も言ってこないのは?まさか君が隠していたの?それはなぜ?」


「カ、カイゼル……」

 あまりの勢いと厳しい表情に、思わず止めに入る。


「エリアナ、これは大事なことだ」


 そう言われてしまうと何も返す言葉がない。


「気づかないようになっているんです。言葉で聞かされそれが聖女の証だと認識しなければ、なぜか気づかないんです。おそらくアネロ様の御業なのか……それは分かりません。あなたに伝えることに関しては、僕も、迷いました。どうするべきかと……でも、きっと僕の手には負えない。エリアナ様が聖女様であるなら、事実を知って守ってくださる方もいた方がいい。……神殿は今、何かがおかしいんです」


 色々と気になることはあるけれど……神殿がおかしいとは?どういうこと?


「エリアナ様も、カイゼル様も同じ会場で見ていたはずです。あの、強い光魔法適性者の眩しい程の光を」


 ミハエルが言っているのはデイジーのことだ。


「あの方は確かに稀に見る適性の強さでした。あれだけの光なら魔力も相当の量だと思います。でも……言ってしまえばそれだけです。神殿ならそんなことは明白なはずです。それなのに、彼女を聖女にしようという動きがあります」


 彼女を、聖女に。1度目のことがよぎる。

 しかし、どうもデイジーは聖女ではないというような口ぶりである。

 真実私が……聖女なのだとしたら、もちろんデイジーが聖女だと言うことはありえないだろう。

 それが本当ならば、もしかして、1度目もデイジーは聖女ではなかった?



「さすがに功績がないので、すぐにどうこうなることはありません。でも逆に言えば、何かきっかけさえあればきっと聖女とされてしまう。本当は、そうではないのに」


「大神官様はなんと?そんなの彼の方が許さないだろう?」


「その大神官様が、誰よりもあの方を聖女にしようとしているのです」


「なるほど……確かにそれは異常だ……」



 大神官様には何度も会ったことがある。

 誰よりもアネロ様を信望し、誠実と愛を以て神殿に仕えてらっしゃる人。聖女ではない者を聖女とするような、そのような方ではなかったはずだ。


 これは……カイゼルが言っていたような、デイジーの普通ではない力の影響なのか、それとも、時が戻ったことで少しずつなにかがおかしくなっているのか。

 もしも本当に時を戻したのが私だとしたら……私のせいなのではないか。




「エリアナが聖女……でも僕に言わせれば納得だ。これで、時を戻した力の説明もついた」



 ミハエルに聞こえないくらいの声でカイゼルが呟いた言葉は、私が今一番聞きたくないことだった。




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