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テオドール第一王子殿下

本日2話目の更新です。

 

 学園が休みの今日、私は王宮にきていた。

 王子妃教育がほとんど終わっているとはいえ、全くないわけではない。

 定期的にこうして教育と、王妃様とのお茶会のために王宮に上がるのだ。



 王妃様とのお茶会を終え、王宮の廊下を歩いていた。

 ジェイド殿下のところへ顔を出して帰ろうと思ったのだけれど、殿下は剣の訓練として騎士団の訓練所へ出向いているらしい。時間が合わなかったのだ。


 そのまま帰路につこうとしていたのだが、王妃様が管理するバラ園の側の廊下を通ったとき、機会は突然やってきた。



 艶やかな黒髪が美しい、背の高い気品溢れるその後ろ姿。



「テオドール第一王子殿下……?」



 思わず出した声に反応して振り向いた殿下の、何もかも見透かすような金の瞳に射抜かれるような思いがした。



「エリアナ嬢、久しぶりだね。やっと私に会いに来てくれたのかな?」


「え……?」


「あれ?違ったかな?あまりにも毎晩のように夢に見るから、てっきり君の仕業なのかと思っていたのだけど」


「夢……?」


 夢に見る?私の仕業?何の話?


 テオドール殿下は少し考えるように首を傾げ、そしてにっこり微笑んだ。

「まあいいや、とりあえず時間はあるかな?ちょっとお茶に付き合ってくれないかい?」



 よく分からないが、とりあえず殿下とは話さなければならないと思っていた。

 だからその提案に、私は一も二もなく頷いたのだった。



 ******



 王妃様のバラ園の近くにあるガゼボに場所を移し、私とテオドール殿下は向かい合って腰を下ろした。

 侍女は紅茶を準備した後、すぐに下がる。何かあったときにはすぐに駆け付けられる距離に護衛がいるのは確認できるが、私たちの話は誰にも聞こえないように配慮されているらしい。



 殿下はおもむろに口を開いた。


「もしも違ったら何をおかしなことをと思ってくれていい。ただ……私に会いに来てくれたということは、君も今を繰り返していると思っていいのかな?」



 いきなり切り出された話に、息が止まるかと思った。

 思わずカイゼルに2回目かと確認された時のことがよぎる。

 良く分からない部分もあるが、時間が巻き戻ったことを指しているのは明らかだ。


 頭が混乱して真っ白になる。しかし、どう切り出そうかと考えていたから、こうして殿下から話し始めてくれたことはありがたい。真摯に向き合おうとしてくれている姿に、私も姿勢を正した。



「第一王子殿下も……全て覚えているのですか?」

 思わず声がかすれてしまう。


「いや、残念ながらほとんど何も覚えていないんだ。記憶がごっそり抜け落ちたように。人の名前や関係性、公務なんかの基本的なことは分かるけどね。起こったことなんかは何も。ただ、なぜか2度目であることは分かる。巻き戻る瞬間の感覚を覚えているよ」


 テオドール殿下は紅茶を一口飲み、言葉を続ける。


「それに、君が毎晩のように夢に出てくるんだ。」


「え?」


「夢に出てきて、聖女の呪いを解きたいのだと訴えてくる。そして必ず最後に『必ず会いに行く』と言うんだ。あまりにも切実に言うから、ただの夢だとは思えなくなってきて。きっと本当に会いに来るのだと思って待っていた。そして……本当に来てくれた」



 聖女の呪いを解きたい……?

 それに、私が会いに行くと言った?


「……色々聞きたいことはあるのですが……私の夢にも第一王子殿下が出てきます」


「ふうん?テオドールでいいよ」


「……テオドール殿下は夢の中で、聖女とは何か考えろと私に言いました。それに、私に会いに来て、とも」


「なるほど……君の様子を見る限り、夢は君が見せているわけではないわけだ」


 まさか、と首を振る。そんなことできるわけがない。


「私の方こそ、殿下が私に夢を通じて何かを教えようとしているのかと思っていました」


 2人揃って夢を本気にして、相手が何かを自分に伝えようとしていたと思っていた。

 普通に考えるとおかしなことだと分かるけれど、それだけの力があの夢にはあったのだ。



「さっき、私も全て覚えているのかと聞いたね。つまり君は覚えているんだろう?君の身に何が起こったのか、教えてくれるかい?」


 その言葉に、覚悟を決めた私は全てを話した。




 デイジーが聖女になったこと、ジェイド殿下とデイジーの関係、私とのこと、謂れのない冤罪での断罪に婚約破棄、あげく処刑されそうになったこと……気づけば巻き戻っていたこと。

 カイゼルが記憶を全て持ったままであることや、彼に聞いた話ももちろん全て。


 ……私が時を戻したのではないかというカイゼルの話も、迷ったが伝えた。自分はそうは思えないと付け加えて。


 そして、2度目の今、私に1度目にはなかった魔力適性が備わったこと、デイジーは2年次にあがる直前に魔力適性と聖女の力に目覚めるはずだったのに、先日の魔力測定ですでに類まれなる光属性の適性を発揮したことなど。



 テオドール殿下は私の話を真剣な顔で聞いてくださった。


「……この話はジェイドにはしたのかい?」


「いえ……」


 できるわけがない。なんて言うの?あなたは聖女になった男爵令嬢に傾倒して、冤罪で私を断罪して、おまけに処刑しようとしたのよって?


「確かに、ジェイドは気にするだろう。覚えていなくても自分を責めるかもしれない。それでも、私はジェイドにも話した方がいいと思う」


「……」


「気持ちの問題だけじゃなくてね。1度目の話、鍵はその聖女と言われていたという令嬢と、君と、そしてジェイドにあるように思うんだ」


「鍵?」


「そう。あとは……もしかしたら私も」


 テオドール殿下も?

 私が戸惑っているのが分かったのか、殿下は苦笑しながら続けた。


「もしかしたら私は全然関係ないかもしれないけどね、まあ王族だし。それに……何か、大事なことを忘れている気がするんだ。その何かが、聖女の力と関係あるような気がしてならないんだよ」


 その言葉を聞きながら思った。

 何か忘れているとしたら……きっと私もだ。

 巻き戻って度々感じる違和感と胸騒ぎ。重大な何かを忘れている気がする。

 カイゼルは全て覚えていると言った。でも、それも間違いないことだろうか?


 全て知ったうえで1度目を回避しようとしていた。

 だけどもしかしたら……すでに私たちは1度目に起こった「何か」に、からめとられているのかもしれない。



「まあ、それはこれから考えなければいけないけど、ジェイドに話すかどうかは君に任せるよ。さっき言ったのは私の考えだ。……何はともあれ、よく、頑張ったね。エリアナ嬢。辛かっただろう?」


 テオドール殿下は少し困ったように、けれど優しく微笑みながら言った。




 突然の殿下の優しい言葉に、思わず絶句し、涙が込み上げてきた。

 巻き戻ってから、私は随分泣き虫になってしまったようだ。




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