破壊者と呼ばれた勇者
初めて短編小説を書いてみました。
「何で私、こんな力を手に入れちゃったんだろう」
荒野と化した街の中心で一人、呟く少女の姿があった。
彼女の名は、駿河セカイ。
地球より、この地≪グランド・ワールド≫に召喚された勇者───というのも、過去の話だ。
今では国に指名手配されたテロリストである。
といっても、彼女は王様若しくはその親族を暗殺した訳でも、城や街に爆弾を仕掛けた訳でもない。
況してや、国の法に触れるようなことは一切していないし、未遂もない。
ではなぜ彼女は国に追われる身となってしまったのか。
それは彼女が≪破壊の勇者≫だからである。
その名の通り全てを破壊する力だ。
あらゆるものを無と化し、永遠の静寂を齎す存在。
それが彼女がこの世界で与えられた能力。
チート能力と言われればチート能力なのだが、正直貰って嬉しい物ではなかった。
直に元の世界に戻してくれればいいものを、犯罪者扱いにした挙句殺そうとしている。
本当自分勝手な連中だ。
なんとか国から逃げ出すことが出来たが、それからは波乱の日々が続いた。
道行く先でモンスターや盗賊、魔王の手先を名乗る悪魔たちが襲って来るのだ。
何度も何度も・・・・
飽きることなく奇襲を仕掛けてきて。
その度に返り討ちにしていった。
周囲の環境を死滅させることを代償に。
お陰で国の追手に足取りを掴まれてしまい、何度見つかりかけたことか。
もう、勘弁してほしい。
そして今日、取り返しのつかないことをしてしまった。
街を、破壊してしまったのだ。
そこに住む人々全てを、皆殺しにしてしまったのだ。
昨日、追手から逃げている途中で訪れた街で、王都から離れているにも関わらず活気に溢れていた。
街の人々は優しく、余所者である自分を向かい入れてくれた。
温かい食事を分け与えてくれて、おまけに寝床まで用意してくれた。
どうやら昔からの風習で、冒険者や旅人は手厚くご奉仕することになっているらしい。
それでも、嬉しかった。
ここまで優しくしてくれたことなんて、初めてこの世界に来た時以来だ。
向こうは当たり前のことのように感じているかもしれないが、それでも何かお礼しようと考えていた。
でも───
目が覚めた時、全てが消え去っていたのだ。
笑顔も、幸せも、その人たちの未来も跡形もなく。
この時初めて、自分の能力が無意識のうちに発動することを理解した。
セカイは徐に辺りを見回した。
当然誰もいない。
分かっている。
でも内心少しだけ、いるかもしれないと期待していた。
いや、それが最後の救いでもあった。
この能力で死なない人もいる。
一緒に居ても大丈夫な人。
この世界で生きていくにおいての≪仲間≫。
それは、セカイが最も欲しているものだった。
そう、元居た世界のように。
「・・・・何で・・・・何で、何で何で何で!何で私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?私が何かした?してないよね!何で?何でよ!?」
瞳から大粒の涙が溢れ出し、心に秘めた思いを喚き散らす。
それが無意味な行為であっても、こうすることでしか満たすことが出来なかった。
「・・・・・・壊、して・・・・やる」
頬を伝う滴を袖で拭い、歯を噛み締める。
「あんたらが拒絶するってんなら、私は!」
この世界の全てを破壊し尽くしてやる!
少女の瞳には希望はない。
全てが≪破壊≫するだけの対象。
街も、国も、そこに住む人々も───。
何が正しくて間違っているかなんて関係ない。
≪本能のままに暴れる≫
ただそれだけだ。
いかがだったでしょうか?