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中編

 吉岡さんの言っていた、ゲームをするだけのコラボ配信の日。

 その配信は、これといって問題なく始まっていた。

 吉岡さんがコラボしていたのは、『まんまみあーの』という名前で組んでいるグループだった。初めての配信ということだからかどこか浮わついた空気が漂っていて、ただ吉岡さんの動画を見ているだけのわたしでもわかるくらい素人じみていた。


 けど、少し気になったのは、みんなやけに吉岡さんとの距離が近かったこと。緊張してるとグループ同士で固まりたくなることがあるのはわかる、けど、それってコラボ先の吉岡さんに対しても、そうなの?


『ままゆちゃんうまいじゃないですかぁ、やべぇやべぇ』

『ほんとに初めてなの? うまい、あぁそこすげぇ、そうそう!』


 どんどんくだけた口調になっていく『まんまみあーの』メンバーたちに、『えぇ、そうですかぁ~?』と、どこか鼻にかかったような声で笑っている吉岡さん。

 動画を見てコメントしている人たちのほとんどが、コラボするとして名前を挙げられていた『ままゆ』――吉岡さん目当てなのを思うと、その様はまるで、吉岡さんを褒め称える為だけに集められた、吉岡さんのファンクラブ会みたいな雰囲気だった。


 気持ち悪い……ご飯食べてから見たのは失敗だったかな。

 なんとも言えずグロテスクで、吐き気を催すような時間。

 けど、いつも見てしまう――彼女という人間への嫌悪感を自分のなかで証明するように。悪い子ではない一方で、無自覚に人を不快にさせていく彼女に対する嫌悪感を高めるように。

 だけど。

 少し時間が経ってから、様子がいきなり変わった。


『じゃあ、ままゆちゃん! 次のゲームやりましょっか!』

『えぇ、次はなんですかぁ? ままゆ負けませんよ♪』

 次の瞬間、ニコニコ笑っていた吉岡さんの身体が、後ろから羽交い締めにされた。


『え?』

『次はさ、リアルで遊ぼっか』

『『『おぉぉぉぉぉ!』』』

『え、え? リアル? なに? え、えっ?』


 わけもわからずに狼狽えている吉岡さんを取り囲むように、『まんまみあーの』のメンバーが立ち上がる。そして、彼女の正面に立った男が、笑いながら話し始める。


『え、ここまでしてりゃわかるっしょ? 次はさ、俺らと身体で遊ぼうっつってんの!』

『えげつなwww』

『いいでしょ、ままゆちゃんも? だってこんなミニスカで来てんだからさ、オフパコのひとつやふたつは期待してたんじゃねぇの、ねぇ?』


 下卑た声で笑いながら、必死にジタバタともがく吉岡さんの脚に乱暴な手つきで触れて、そのままスカートのなかにまで手を入れていく。

『え、ちょ、や、だめっ、やだ、やぁぁっ、』

『ヘーキヘーキ! すぐ気持ちよくなるって、ね?』

『やだっ、だってゲーム、ゲームって、』

『ゲームは終わりだよ、今度は別の遊びだって~』

『なんでっ、やだ、やだよ、こわいから、ねぇ、ねぇっ!!!』


 ガンっ!!

 鈍い音と共に、泣きながら抵抗していた吉岡さんの声が止まる。映っていたのは肩で息をする男の背中と、少しだけ赤黒くなった頬をこちらに見せて呆然としている吉岡さんの姿。

 え、え、と声を漏らす吉岡さんに対して『うっせぇんだよ、このブス!!』と暴言を吐きながら、男はまた吉岡さんの頬を殴る。

『てめぇは黙って股開いてろよ! どうせお前あれだろ、オタサーの姫的なやつだろ!? そんならこれくらい慣れっこだろうがよ、あぁっ!!!?』

 さっきまでとは違う、相手を萎縮させるような態度。画面の向こうの空気までビリビリ震えるような怒声に、吉岡さんも完全に動きを止めてしまった。

 ポロポロと宝石みたいに涙をこぼしながら、もう抵抗すらできずなすがままになっている吉岡さん。彼女を殴った男が、笑いながら覆い被さって。

 そこからは、ただ地獄のような時間だった。


『なに、なに、なに、え、やだ、やだ、やだやだやだやだっ、え、だめ、やぁぁぁ、やだぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!』

『っせぇよ、また殴られてぇか!?』

『やぁぁぁぁ、なぐらない、で、いた、い、いた、痛いから、いたいの、いたい、うごかな、やぁだぁぁ、』


 終始泣いている彼女を代わる代わる踏みにじって、笑っている男たち。画面の前にいるわたしは、ただ呆然としてその様を見ていることしかできなかった。

 血なのか他のものなのか、よくわからないものでまみれた彼女の部分を、男たちがカメラの前に見せびらかして嗤っている。いつも甘ったるい声をあげて、嘘臭い笑顔を振り撒いている吉岡さんなんて、見る影もなくて。


「やめてよ、」

 こんなのが見たいんじゃない。

「やめなさいよ、」

 もっと自業自得みたいな失敗でよかった。

「もうやめてよっ!」

 こんな、理不尽で恐ろしい不幸なんて、望んでなかった。


 彼女の笑顔が少し曇ればよかった、その自信が少し揺らげばよかった、ちょっと怖がるくらいのことが起こればよかった……それだけなのに。

 こんな胸が痛くなること、願ったわけじゃない。

 けど、凶行は止まらない――彼女が必死に逃げようとしても捕まえられて、引きずられて、踏みつけられて、ぼろぼろにされて、弄ばれて、嗤われて、押し付けられて。


 最後、もう彼らのもので穢された身体を、カメラで舐め回すように撮影している男の声で、おぞましい配信は終わった。

『超サッパリしました~。こんな雰囲気出してんのにまさかの処女だったっていうね!www ていうか何回カナちゃんカナちゃん言うしwwwほんとうるせぇwww』

 彼女の尊厳すら嘲笑うような声で、『じゃっ! また次の捨て垢で人気者ヤりますんで、よろ~www』という言葉で撮影は終わった。


 呆然としていた。

 何が起こったのか、わからない。

 え、なんだっていうの……?


 少し思考がフリーズしていたわたしは、気付いたら吉岡さんに電話を掛けていた。なかなか繋がらない通話にやきもきしていると、ようやく繋がって。


『かな……ちゃん、』

 聞こえた声は、怖いくらいに憔悴していた。

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