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召喚ゲーマー  作者: tamazo
第一章
6/26

6.猿祭り

あとちょっと書き溜めあり。 チェック完了済みからUP予定

■6.猿祭り■


 その日、シャドウを訪ねてきたのは、例の二人ではなく武器屋の主人だった。


「おう、出来たぞ。 しかし、いいとこ使ってんな。」


 武器屋の主人がいうには、シャドウのいる酒場はこの辺りでは高級な部類に入るらしい。 一般的な酒場はもっと殺伐としており、喧嘩などのトラブルが絶えないようだ。

 そもそも、スルメ団のように、貴族や大手商人の令嬢というメンバーがレアであり、通常は荒くれ者の方が多いのである。 さらに、禁制品の運び屋や、暗殺などをメインに請け負う者達すらいる。 シャドウは人に恵まれているのであった。


 武器屋の主人と一緒に武器屋へいくと、早速試着が始まる。 ゆるい場所、キツイ場所を手早く直すと、そこにはゲームで見たことのあるようなシャドウの姿があった。

 

「まあ、こんなもんだな。 ところでおめえ、さっきから気持ち悪いぞ?」

 

 革に硬質化の加工を施し、いくつかの金属のプレートで補強がしてあるそれを見て、シャドウはにやけ笑いが止まらない。 ゲームの画面では分からない本物がそこにあるのだから。

 武器屋の主人は、そんなシャドウを見てドン引きしていた。


「んじゃ、次は剣だ。」


 武器屋の主人が2本の剣をシャドウに差し出す。


「2本ですか?」


 差し出された剣は、材質、形とも同じもののようで、どちらかを選べというわけではなさそうだ。 もっともこの剣はシャドウの特注品であるため、どちらかを選んだ場合、残ったほうをどう処分するかという問題も発生するのだが。


「ああ、丈夫に作ったつもりだが、実際どのくらい耐えられるのかは使ってみねえと分からんからな。 一本はつぶすつもりで使ってみろ。 そしたら、どんくらいなものかわかんだろう?」


 シャドウは頷き、剣を受け取る。 受け取った剣を軽く振ってみると、それはまるでシャドウの腕の延長であるかのような感覚を覚える。 思わずシャドウの顔がにやけるが、やはり武器屋の主人はドン引きしていた。


「そうだ、これもやる。 こいつは防具のあまり革で作ったからサービスでいい。」


「はあ。 ありがとうございます。」


 シャドウが受け取ったのは、腰につけるバックのようなものだった。 まじまじとバックを見るが、やはりそれは普通のバックである。 たしかに身に付けていても動きの邪魔にはならなそうであるが、殆ど物ははいらなそうだ。 防具と同じ革でできているため、ファッション性としては悪くないであろうが、その必要性は感じられないし、武器屋がつくるようなものとも思えない。


「こないだ、いきなり何もねえところから剣だしただろ? それがあれば、まだマシになる。」


 武器屋の主人が言うには、ストレージというものは存在していないが、魔法カバンなるものは、伝説上に存在するらしい。 どうも魔法カバンなるものは、ストレージほど容量はないが、その外見からは想像できないほどの物が入るようだ。

 では、そのような伝説級のものをシャドウが持っていいのか、という話はあり、実際かなり狙われるであろうが、もともとが単なるカバンであり、盗まれたとしても別なものを買えばすむだけなので、実害はほぼないであろうとのことだ。


 シャドウは早速受け取った品をカバンにつめる振りでストレージに詰め込むと、代金を払い礼をったのち、武器屋を跡にする。

 ちなみに代金は、ほぼシャドウの全財産に相当した。



 シャドウが酒場に戻ると、そこにはスルメ団の面々がシャドウを待っていた。


「ああ、来た来た。」


 サンドラがシャドウに手を振って見せる。 シャドウが席につくと、トーマスが口を開く。


「依頼だ。」


 依頼は群れ猿と呼ばれる猿の討伐だった。 その名の通り、群れをなしており村の農作物を荒らす害獣となっているようだ。

 固体としては強くないのだが、群れをなすため村人だけでは討伐しきれず依頼がでるらしい。 村レベルの依頼であるため報酬は期待できないのだが、猿の肝が薬の原材料として高額で取引されるらしく、そちらは出来高払いとなるのだが結構な金額が期待できるらしい。 よって、参加を希望する流れ者は多いが、肝を着服するケースも多いらしく、依頼されるのはある程度信頼のおける流れ者だけになっているそうだ。


「おめえの一式だが……」


「はい、さっき受け取ってきました。 おかげでほぼ文無しですが……」


 シャドウが苦笑する。


「どこにあるのでしょうか?」


 シャルが首をかしげる。


「ここですよ。」


 シャドウがバックをポンポン叩いて見せると、トーマスとサンドラは頷いて見せるが、シャルは狐につままれたような顔をしている。

 シャドウは周りを見渡すと、数人ほどの流れ者がいたため借りている部屋へと移動して、バックから受け取ったものを出してみせる。


「おお、こりゃいいな。」


 トーマスが興味を示したのは、案の定ホームベース型の小型のバックラーだった。 トーマスがバックラーを振り回してみせる。 本来盾は振り回すものではないのだが、トーマスにとっては振り回すものだった。


 サンドラが興味をしめしたのは、当然剣。 しかし、その無骨で丈夫さだけを追求したような剣には、あっという間に興味を失う。

 シャルはひたすら固まっていた。


「そのバックはなんのでしょうか?」


 ようやくシャルが口を開く。 トーマスとサンドラは武器屋でみていたが、シャルはその時始めてみたのだ。


「ああ、リトラン様にいわれた、触れるなってやつだ。」


 トーマスがため息を突きながらシャルに答える。


「ちょっと手を入れてみてもいいでしょうか。」


 シャルの目が輝いていた。 シャドウはおずおずとシャルにカバンの口を向けると、シャルはおっかなびっくり手を差し入れる。

 しかし、シャルの手は手首が隠れる程度しか入らず、頭をかしげていた。

 

 シャドウはふと、とある機能を思い出す。 パーティ機能である。 ゲームではパーティを組むことで経験値がパーティ全体に入る仕組みだが、この世界では経験値は意味を成さない。 ためしに先日からリストに現れていたスルメ団のメンバーをパーティに入れる。


「ひゃっ。」


 突然シャルが小さな悲鳴を上げた。 シャルの手が、肘ぐらいまでバックに入っていたのだ。


「な、難なのですか……、これは……」


 シャルは手をいれたり、出したりして、いろいろ試していた。 ふと、シャドウは思いつくと、グローブとヘッドギアをバックにしまう。


 そして、グローブを選択してシャルに手を入れてもらう。


「あ、なんかあります。 これはグローブですね。」


 シャルがそれを取り出すと、はたしてグローブであった。 選択したものを取り出せるようだ。 自分で取り出すときには、無意識のうちに選択しているようだが、明示的に選択することでパーティメンバーも取り出せるのだろう。

 そして、いろいろ試した結果、パーティメンバーのみが利用でき、シャドウが指定したものを取り出せることが判明した。

 また、パーティメンバーは、お互いにある程度の信頼関係がないとリストに表示されないであろうと思われる。

 

 シャルがやたらとそれを欲しがったのだが、単なるバックであり、ネタはシャドウのストレージであることをシャルに説明すると、シャルはがっかりしていた。


「早速だが、明日には出る。 ほかのところはすでに出発してるみてえだしな。」



 翌日、スルメ団の一行は商人の馬車で現地に向かっていた。 たまたまその村に向かうというか、肝目当ての商人に同行する形であった。 当然、護衛としての若干の報酬はいただいているようだ。



 特に何事もなく、現地の村に到着すると、スルメ団が最後だったようで早速打ち合わせが始まる。 スルメ団のほかにもいくつかのチームがおり、いずれも熟練の流れ者といった風貌を兼ね備えていた。 打ち合わせは、ほぼ同じようなメンバーで何度も行われているようで滞りなく終わる。


 スルメ団の一同は、翌朝に備えて早めの夕食をとっていた。


「あの、肝とかって解体もするんですかね?」


 シャドウは気になっていた疑問を口にだす。


「シャドウさん、食事のときにその話題はいかがなものかと。」


 シャルがシャドウを睨み、思わすシャドウは首をすくめる。

 だいぶこの世界に慣れてきたシャドウであるが、解体系はまだなじめなかった。 影山であったころも、魚をさばくことすら躊躇するほどであったのだ。


「いや、そっちは村の連中がやってくれる。 まあ、やつらの方が慣れてるしな。」


 ある意味、村の特産品ともなっているだけあり、村人達は熟練しているようだった。 それに下手に素人がやって、肝心の肝に傷をつけると大変である。 シャドウはほっとする。


「まあ、シャドウ。 お前はやっといた方がいいかもな。 何事も経験ってやつだ。」


 思わずシャドウの手が止まり、そっとトーマスを見上げる。 しかしトーマスの表情はいたって真面目であった。

 シャドウは大きくため息をつく。



 翌朝、担当エリアへと向かったスルメ団の一同は、早速周囲の確認を始める。 シャルがなにやらリュックから取り出しているものを広げていた。 ネットだった。


「それって、罠かなんかですか?」


「それ以外に何か考えられますでしょうか?」


 シャルが首をかしげる。


「あ、いや。 討伐ってイメージでいくと、猿を次々と切っていく感じなのかな、と。」


「まあ、そういうイメージを持たれることは勝手ですが、最大の目的は農作物の保護ですから。 ひょっとしてシャドウさんは英雄願望とかお持ちですか?」


「あ、いや。 そういう訳ではなくてですね。」


 シャルが意地悪く笑う。 シャドウはばつが悪そうに頭をかくと、そそくさとネットを広げる手伝いを始める。 いきなり中二病とか言われるようなものだった。 罠の設置が終わると、一同はそれぞれの配置場所につく。 トーマスとシャドウがネットのそば、そしてシャルとサンドラが後方に控える。 今かと待ち構えているとなにやらがさがさという音が聞こえ始め、シャドウのマップに緑の点が大量に現れる。


「げっ」


 シャドウは思わず口にだす。 およそ100を超える数の猿の群れがシャドウ達めがけて向かってくるのが見えた。


「来たぞ。」


 トーマスが後方に控える二人に声をかけると、一斉に武器を構えた。


 猿達は、狙ったかのように次々とネットに引っかかっていき、トーマスとシャドウはひたすら引っかかった猿を剣で刺していく。

 胸から上を狙えとは言われていたが、シャドウにはそんな余裕はまったくなく、ただひたすらに剣を刺していくだけだった。


 群れの一部がネットを潜り抜け、後方のシャルとサンドラへと向かっていく。 シャドウはそれを横目で見ながらウォークライの発動をしようとするが、マップの点は緑。 つまり猿の狙いは農作物であり、シャドウには敵意を持たないため、効果はない。 シャドウはウォークライを諦め、ひたすら目の前の猿と格闘し続ける。


 一方シャルとサンドラは、10匹ほどの猿が向かってくるのを冷静に見ていた。 そしておもむろにシャルは無数の穴があいたバケツのようなものをサンドラと抱える。 次の瞬間、そのバケツのようなものから、無数の玉が発射された。 シャルの銃の散弾バージョンである。 玉が小さいため殺傷能力には欠けるが、猿にダメージを負わせるのには十分かつ、一瞬にして10匹ほどの群れは壊滅する。


 さらに次の群れが、シャルとサンドラに向かってくる。 サンドラが前にでて次々と猿を葬っていくが、いくつかは撃ち漏らしたようだ。

 ネットの猿を始末し終わったシャドウがその後を追おうとするが、トーマスがそれを止める。 数匹程度なら後ろに控える村人が退治してくれるとのことだった。



 こうして猿の討伐は終わりを迎えたかのようだったが、村に戻ったスルメ団を更なる問題が待ち構えていた。

 村に戻ったシャドウがみたのは、包帯を巻かれた数名の流れ者だった。 巨大な猿が出現し、なんとか追い払ったものの無事ではすまなかったらしい。 さっそく対策会議が開かれる。


 会議の結果、トーマスとサンドラがが巨大猿を担当し、ほかのチームはその援護と取り巻きを担当することになる。 シャルは二人の援護、シャドウは取り巻き担当である。


 翌日、巨大猿が出現したエリアに、流れ者達が隊列を組んで待ち構えていた。


「来ました。」


 マップに点が表示されるのを見たシャドウが声を上げる。 しかし、シャドウは点をみつめて首をかしげる。 昨日の猿は緑であったが、今表示されているのはすべて赤である。 そして、一番奥の赤はほかよりもはるかに大きい。

 ほどなくして、巨大猿と思われる咆哮がきこえてくる。 咆哮にあわせるように、一斉に猿達が姿を現した。 シャドウも猿の相手をすべく、マップから目を離すと猿たちへと向きあう。


 猿達は明らかに人を狙っていていた。 しかし、個人の技量、人数で遅れを取らない流れ者達は、さしたる被害もなく猿を葬っていく。


 ついに、巨大猿が姿を現す。 それは熊ほどの大きさで、猿と呼ぶのを躊躇うほどに明らかに邪悪な容貌をしていた。


「鬼獣かよ……」


 一人の流れ者がつぶやく。


 巨大猿に初撃を食らわせたのはシャルだった。 シャルの銃が巨大猿の顔にヒットする。 しかし、人間を一撃で吹き飛ばすそれさえ、巨大猿にダメージはあたえたものの致命傷には程遠い。


 すかさずトーマスが盾をたたきながら、巨大さるの注意を引くべく突っ込んでいく。 そしてサンドラもそれに続いていく。

 巨大猿の一撃に、トーマスが完璧な受け流しで答えるが、わずかにその身体が後ろにぶれる。 攻撃が重すぎて殺しきれないようだ。 その隙をついて、サンドラが巨大猿に切りかかるが、シャルの一撃すら耐えるその外皮に剣はかろうじて傷をつける程度のようだった。


 取り巻きの猿の対応に手の空いた流れ者達が、巨大猿にヒットアンドアウェイを仕掛ける。 しかし、必死の攻撃も巨大猿の動きを止めるほどの効果は見られない。 トーマスも必死に攻撃を受け流しているが、次第にその動きが鈍り始める。


 突然、巨大さるが足をとめ、大きく息を吸い込みはじめる。 おそらく敵の動きを止めるか、行動を制限する系と判断したシャドウが動く。 巨大猿が息を吸いきったと思われる瞬間に、シャドウはバックラーでその胸めがけてバッシュを叩き込む。 バッシュを叩き込まれた巨大さるは、奇妙な呻き声をあげてふらふらとよろめくが、行動阻止はできたもののダメージにはなっていないようで、すぐさま体勢を立て直して、更に突進を始める。


「くっそ」


 トーマスがその突進を止めるべく、一人で立ちはだかる。 それはダンプカーに立ち向かうようなものだった。 しかし、あわやという瞬間に、サンドラがトーマスに体当たりすることで、二人はもつれるように巨大猿の進路から外れる。 もはや巨大猿の突進を止めるものはないと思われた、その時。


「スラッシュか、連撃か……」


 シャドウが剣を構えて、ぶつぶつとつぶやいていた。 スラッシュは距離があっても攻撃が届くが、範囲攻撃のためダメージは期待できない。 連撃は強力な接近技ではあるが、接近技であるがゆえに、万が一止めきれない場合には逃れるすべはない。


「スラッシュだよな。」


 シャドウは迫りくる巨大猿にむけて、スラッシュを放つ。 しかし、それは剣先に微妙なコントロールを加え範囲を絞ったスラッシュだ。 サンドラやトーマスとの訓練で、スキルの更なる可能性をみつけたシャドウのオリジナル技とも言える。

 シャドウのはなったスラッシュは、巨大猿のわき腹へと突き刺さるが、突進は止まらない。


「コントロールがイマイチ、と。」


 シャドウは迫りくる巨大猿に恐怖を覚えていた。 しかし、目の前にある可能性がシャドウを突き動かしていた。 ゲームキャラのシャドウであること、というのも関連性はあるのだろう。

 さらにシャドウはスラッシュを放つ。 こんどは顔を直撃するが、巨大猿の腕が顔をガードしていた。 しかし片腕をやられ、もう片腕を上げたことで巨大猿の速度が落ちる。


「ちっ」


 シャドウは剣を見る。 見た目まだいけそうだと判断し、さらに剣を構える。

 それを見て、巨大猿は動きを止める。 スラッシュの威力を自分の突進でカウンターとなり、それを受けることに耐えられないようだ。 しかし、その手はがっちりと顔をガードしている。 鬼獣といえども、顔は致命傷なのであろう。


 巨大猿はシャドウのほぼ目の前まで迫っていた。 シャドウの体が大きく前に振り出される。 シャドウの連撃が巨大猿の胸元めがけて炸裂した。


 巨大猿は口から血のようなものをはきながら、ゆっくりと倒れていく。


 一瞬の静寂のあと、流れ者達がシャドウの勝利を確信するように、鬨の声を上げる。



 戦いのあと、村人や流れ者達が猿の死骸を運んでいる最中、シャドウは座り込んで一人震えていた。


「や、やっべえよ。 あれ、下手したらしんでるじゃんか。 何やってんだよ、俺。」


 どうもアドレナリンがきれて、自分のやったことを理解したようだった。


「シャドウさん、よろしいでしょうか。」


 シャドウは震えながら、顔を上げる。 シャルがわなわなしながら立っていた。 思わずシャドウは震えながらも頷く。


「先程のあれ、なんですか、一体!」


 シャルの声は小さいが、鋭い。


「あれ、法力ですよね?」


 シャドウは思わず「へ?」という表情をする。 スキルとは法力だったのか。


「私の銃も法力なんですよ。」


 突然、法力談話が発生する。 法力とはなにか、法力を使える人と使えない人の違い、そして法力の可能性について……


「てめえら、遊んでんなら手伝えや!」


 そんな二人に、トーマスの怒りが爆発する。



 その夜、宿として借りていた民家の一室で、スルメ団の一同は打ち合わせをしていた。


「ってことで、出発は数日後だな。」


 猿の数が予想より多かったこと、そして巨大猿。 巨大猿の肉や肝は、使い物にならないようであったが、その皮は商人が高く買い取るようだった。 本来の目的である群れ猿の肝の処理や、巨大猿の皮剥ぎなどで、数日は要するのだという。

 とすると、肝の処理は村人に任せるべきであり、革剥ぎは力仕事ではあるが、シャドウに勤まるわけもなく力自慢の流れ者が請け負うようだ。

 こうして数日間の休暇となった訳だが、シャドウにはやることがあった。 そう、スキルは法力かどうかの検証である。



 翌日、スルメ団の一同は、村のはずれに集まっていた。


「じゃあ、やりますよ。」


 シャドウが手ごろな木にむかってスラッシュを放つ。

 シャルは、じっと見つめ、なにやらメモをとっていた。


「絶対、法力だと思います。 サンドラも使えるんですよね。」


 シャルは確信したようだ。


「そうなんだけど、まだまだって感じかな。」


 サンドラはまだ狙って出せるほどではないが、確実に発生させるコツを掴み始めているようだ。


「そもそも、法力は術式があれば多少の差はあれ、どなたでも使えます。」


「ん? あたし術式とか使ってないけど?」


 サンドラが首を捻る。


「術式と一言でいっても、いろいろありますので。 たとえば言葉による術式、物に刻み込む術式などですね。 ちなみに私の銃は刻み込む術式を使ってます。」


「じゃあ、動き自体が術式になってる、ってことですか?」


 シャドウの言葉にシャルが頷く。


「そしたらさ、剣に術式刻み込んでも使えるってこと?」


 シャルがサンドラに頷いてみせる。


「理論上はそうですね。 しかし、どのような術式になるのか検討もつきません。」


 一瞬、サンドラの目が輝くが、あっという間にシュンとしてしまう。


「なあ、大ざるが息を吸い込んだときよ、なんかやってたみたいだが、あれを止めたのもそうなのか?」


 シャドウがトーマスに頷く。


「へー、便利なもんだな。」


「いや、トーマスさんも似たようなもの使ってますって。」


 きょとんとするトーマスに、シャドウは受け流しの説明をする。 ゲームでは受け流しは侍のスキルだが、トーマスは盾で確かに発動させていた。


「ちなみに、あれってどうやってるんですか?」


「そりゃおめえ、剣の起動を想定して、そこにこんくらいの角度で当ててやれば、身体がこうくるだろ? で、それが手前ならこうだし、奥ならこう、盾の中央でうければこう来るが、端だとこう……」


 トーマスは感覚の人と思いきや、意外と理論の人であることが判明した。 そして、猿の処理が終わるまで、スルメ団の一同はスキルについての検証を続けるのだった。





次回予告:しんどいんだけど

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