3.出会い
なんというか、早速破綻してたので、あわてて修正。 これも4->3に差し替え済み
■3.出会い■
ゴブリンの騒動から数日後、シャドウは相変わらず掃除と畑の世話に明け暮れていた。
しかし、教会の前を通る村人達は、シャドウを見かけると気さくに話かけてくるのが、これまでとの大きな違いだ。
本来ならゴブリンはこの辺りには生息せず、ゲームには存在しなかった壁といわれるものの向こう側にしかいないらしい。 しかし、その壁といわれるものにはいくつかの穴があいており、極稀にそこからゴブリンがこちら側に侵入してくるらしいのだが、この村まで来たのは初めてだったようだ。
「おう、来た来た。」
シャドウと立ち話をしていた村人が、村のはずれの方を見る。 そこには荷馬車がこちらに向かってくるのが見えた。
「誰ですか?」
シャドウが村人に尋ねる。
「商人だよ。 たまにああやってやってくる。」
村人は、シャドウに手をふると、そそくさと戻っていく。 おそらく商人との取引の準備をするのだろう。
商人が到着すると、村はちょっとした騒ぎになる。 商人からしか手に入らない日用品、嗜好品があるので、ここぞとばかりに村人達が群がっていた。 一方で、村で作ったものを商人に売っているらしい。 シャドウはその様子をながめていたが、リトランが話をしている集団が目に留まる。
リトランがシャドウのほうを向くと、シャドウと目があい、シャドウを呼び寄せた。
「シャドウ様、こちらはスルメ団のトーマスさんです。」
「始めまして。 シャドウです。」
シャドウはトーマスと紹介された男に頭を下げる。
「おう、スルメ団のトーマスだ。 よろしくな。」
年はリトランとあまり代わらない感じではあったが、2m近い体躯の男が、シャドウの身体をバンバン叩く。 思わずシャドウはよろけそうになる。
「ほう、これに耐えるか。 見た目より出来そうだな。」
挨拶を兼ねたテストだったのだろう。 トーマスがニンマリと笑う。
「同じくシャルと申します。」
トーマスの隣にいたスリムな女性が、シャドウに挨拶する。 が、その目はシャドウを値踏みしているかのようだった。
「あたしはサンドラ。」
もう一人、体格のよいほうの女性もシャドウに声をかける。 サンドラは剣を持っていた。おそらく剣士なのであろう。
「早速ですが、一度オムロにいかれてみてはいかがでしょうか。 こちらのスルメ団の方々もこのあと護衛でオムロに行かれるようですので、ご一緒に。」
「オムロですか?」
シャドウが記憶を探る。 たしかにオムロという場所には覚えがある。
「はい。 オムロはこのあたりでは、一番大きい町でございます。およそ1週間ほどの旅にはなるかと存じますが、スルメ団の皆様がご一緒であれば、安全かと。」
特にオムロに用事があるわけではないが、というかオムロといわれてもクエストで訪れた町のひとつという認識しかないのであるが、せっかくなのでいろいろ見てみたいという好奇心もある。 ましてやリトランが保証するであろう護衛つきというチャンスだ。
「確かに行ってみたいですね。 よろしいんですか?」
シャドウはトーマス達に目を向ける。
「おう、俺達はかまわねえ。」
「商人の方には、私から同行の許可は頂いておりますゆえ。 それでは2日後にオムロに向けて出発ということで。」
それから2日後、シャドウは商人の荷馬車に揺られていた。 村人達に挨拶周りをするも、半日もかからずに終わってしまうほどの村で、荷物をまとめるにも、もともと荷物らしいものは、村人に貰った着替え数着程度である。
しかし、暇をもてあましたシャドウは、とあるものを発見していた。 そう、ストレージである。
ゲームの機能としてストレージは存在していたため、ひょっとしてと思いいろいろ試した結果、ストレージを発見していた。 ゲーム同様におよそ100アイテムが収納可能であるが、残念なことに時間が止まるようなことはないため、なま物をいれると数日後には残念な結果になりそうではあったが。
最初の数日、特に何事もなく一行は進んでいった。 村では売ることが中心だったようで、仕入れした物は多くないため、荷台の空きスペースにシャドウは据わりこんでいる。そして特にやることもないため、馬で併走するスルメ団の一行からいろいろな話を聞いていた。
「まあ、街道沿いに凶暴な獣がでるってことは、あんまりねえな。 むしろ、出るのは盗賊だ。」
剣や盾の手入れをしながら、トーマスが話し続ける。
「そういやシャドウよ、鬼獣たおしたらしいけど、人とは戦ったことあるのか?」
シャドウは首を振る。
「鬼獣の大半はバカだが、人はそれなりに頭使ってくるからな。 ちょっと厄介だ。」
シャドウはLv8ほどに上がっているため、おそらく序盤としてはほぼ問題なく戦えるであろう。 しかし、どちらかというと人と戦うという事自体に戸惑いを感じる。 ゲームでいえば単なるPVPと割り切ることもできるのであろうが。
「結局、慣れよね、慣れ。 あたしも最初は戸惑ったけど、あっという間に慣れたし。」
「貴方は単純だからね。」
シャルに単純といわれたサンドラがむくれる。
「お二人は仲がいいんですね。」
身長はそれほど変わらないが、体格が正反対の二人はある意味でこぼこコンビといったところだろう。
「それはないわ。 ただの腐れ縁よ。」
サンドラが苦笑してみせる。
「ですね。 サンドラとは学園以来の仲ですが。」
「学園?ですか。」
「実はあたしら、あのファーレン学園でてんのよ。」
サンドラがまんざらでもないようなそぶりを見せる。
「はあ?」
おそらく有名な学校なのではあろうが、ゲームに出てきた記憶はないようだった。
「まあ、知らない人は知らないはず。 モルト国では結構有名な学園ではあるのだけど。」
シャルがシャドウにファーレン学園についての説明を始める。
もともとは貴族の子息を対象にした学校であったが、優秀な市民の受け入れを開始し、現在ではすべての希望者が試験を受けることになっており、実質モルト国の最高学府に位置するのだという。
つまり、この二人は、日本でいえば東大卒に相当するのだろう。
「とはいえ、学園を卒業したあと流れ者をしているのですが。」
ファーレン学園の説明のときとは打って変わって、シャルは自虐的に笑ってみせる。
「流れ者ですか?」
「まあ、冒険者とかいう人もいるけどさ、流れ者ってのが一般的じゃないのかな? まあ、あたしらぐらいだよね、学園出て流れ者やってるの。」
サンドラがうんうん頷きながら、補足する。
「トーマスさんもそうなんですか?」
しかし、トーマスは苦笑いして首をふる。
「バカいえ。 おれはただの漁師の倅だ。 学園なんぞ、こいちらの年のころは存在すら知らねえし、すでに流れ者やってたぞ。」
シャドウは、微妙な雰囲気に耐えかねて、周りを見渡す。 荷台には売れ残ったであろう弓矢や鍋などがいくつかあるが、特に目を引くようなものがあるわけではなく、周りの景色を眺め始める。
「あ!」
突然、シャドウが声を上げる。
「どうかしたか?」
トーマスがシャドウに声をかけた。
「なんか居ます。」
シャドウは答えながらも、マップを凝視する。
「剣を振るうしか脳がない女は目の前にいますね。」
「それを言ったら、理屈っぽいだけの女もいるじゃない。」
シャルとサンドラがお互いを見合わせ、フンとそっぽを向く。
「いや、そうじゃなくて。 盗賊? あっちです。」
シャドウは、マップの赤が表示されてる方角を指差す。 トーマスの動きは早い。 シャルとサンドラに声をかけるとシャドウの指差す方角へと向かっていった。
そしてしばらくすると、戻ってきたトーマスが、商人といくつか言葉を交わすと馬車が停止する。
「いやがった。 盗賊だ。 やつらこの先で待ち伏せしてやがる。」
その言葉に、シャルとサンドラの表情が変わる。
「サンドラ、頼めるか。」
トーマスに頷くと、サンドラは剣を軽く叩き、盗賊の居るであろう方向へと走っていく。
「ちょっと、どうするんですか?!」
一人で走っていくサンドラを目で追いながら、シャドウが思わず声を上げる。
「サンドラなら大丈夫。 盗賊程度に負けるわけがありません。」
冷静にシャルが答える。
「ああ、それにサンドラの役目は相手を引きずり出すことだ。」
トーマスは盾を構え、荷馬車の前へとでる。 そしてシャルもバックからなにやら筒のようなものを取り出す。
「なんですかそれ?」
シャルの持つそれを、シャドウは思わず尋ねた。
「私の武器。 剣とか弓とか使えないから。」
シャルがそれを構えて、トーマスの後ろに付く。 シャドウはシャルのもつ大型の拳銃のようなものから目が離せなかった。 ゲームの世界は、あくまでも剣と魔法で、拳銃などは存在していない。 しかし、それは今目の前にあった。
「来た。」
トーマスの声に反応するように、道の向こうからサンドラとそれを追う盗賊達が現れる。 それにあわせるようにシャルの銃が発射され、盗賊の一人が倒れた。 拳銃のような発射音はなく、発射されたのも弾丸ではなく、しいて言うならファイア系の魔法のようだった。 どうやら魔法を使うための媒体のような役目をはたすらしい。 しかし、連射はできないようだ。
咄嗟にシャドウは荷台にある売れ残りの弓矢を手にする。 Lv5であれば、強力なスキルはないものの弓は使えるはずだった。
「援護します。」
シャドウは声をかけると、サンドラから一番離れた盗賊を狙う。 おそらく外しても、サンドラに当たることはないであろう。
シャドウが盗賊の胸をねらって矢を放つと、矢は盗賊の足にヒットした。 狙ったとおりではなかったが、当たったことにシャドウは安堵する。 さらに次の矢を放った。
シャルとシャドウの援護を受けている間、サンドラはトーマスと合流して盗賊に立ちはだかる。 盗賊達がゆっくりとトーマスとサンドラを囲むように近づいてきた。 その数は5。 混戦に近い形になってしまったため、誤射を恐れてシャドウは弓を下ろす。 シャルも銃をおろしたようだ。
盗賊の一人が切りかかるが、トーマスが鮮やかにその剣を盾で受け流す。 剣を受け流された盗賊が体勢を崩したところに、サンドラの剣が襲い掛かる。 残り4。 トーマスの動きを見た盗賊は一瞬怯むが、お互いに目を見合わせると、トーマスへと向かう。 二人で同時に仕掛けるつもりだろう。
しかし、トーマスはあわてるそぶりすら見せずに、ゆらゆらと盾を動かしている。 まるで何かのリズムを図るように。
盗賊が仕掛けるより先に、トーマスが動く。 左側の盗賊に盾を叩きつけるように向かった。 突然盾を叩きつけられた盗賊は、思わず大きくよろけるが、さらにトーマスの蹴りが男の腹を襲い、思わず跪くと、トーマスは剣でその男の首を一閃する。
左の盗賊も、トーマスの突然の動きに気を取られていたが、次の瞬間にはいつの間にか構えていたシャルの銃に吹き飛ばされていた。
サンドラの動きも早い。 シャルの射線上に入らないように、すばやく後ろに控えていた盗賊へと向かうと、あっさりと切り捨てていた。
それはまるで、トーマスが動いた直後に盗賊が全滅したかのように見えたに違いない。
ゆっくりと盗賊の死亡を確認すべく、トーマス達が動き出す。 その時、突然シャドウが弓を構えた。
シャドウは、街道の影に潜む赤の点を捉えていた。 場所的におそらく弓兵だろう。 弓を打つその瞬間に身体を乗り出すのをシャドウは見逃さない。 シャドウの矢が一瞬早く盗賊を捕らえる。 盗賊の放つ矢はトーマス達に届くことなく、ポツリとおちる。
「ん? まだ居たのか?」
「ええ、これで最後だと思います。」
「すまねえ、助かった。」
トーマスが頭を下げるが、シャドウは逆に恐縮してしまう。 シャドウがふと横を見ると、そこには大きく目を見開いたシャルがいた。
「なぜ、あそこに居ると分かったのですか?」
「おい、シャル。」
トーマスが咎めるように言い放つ。
シャルは一瞬びくっとするが、その答えを待たずに盗賊の死体の始末へと向かった。 スルメ団の一行と商人は慣れた手つきで死体を処理し始める。 盗賊の死体をそのまま放置すると、疫病やら死肉を求める獣を呼び寄せるため、流石に放置はできずに処理が必要となる。 幾度と無くやってきたのであろう。 そんななか、シャドウは道端でゲーゲー吐きまくっていたのだが。
再び、一行はオムロへのたびを再開する。 その夜、結局アドレナリンが切れた状態で死体を見たショックから立ち直れずにぐったりするシャドウに、トーマスがスープを運んでくる。
「今日は助かった。 礼をいう。 あと、シャルの件もすまん。」
トーマスがシャドウに謝罪する。 その横にきたシャルもシャドウに頭を下げる。
「シャルさんの件って?」
「ああ、リトラン様から、お前のことは詮索不要と言われていてな。」
シャドウにしてみれば、取り立てて詮索されても困ることはない。 ただし、信じてはもらえないだろうが。 そう言う意味では詮索されないことには感謝するしかない。
「ああ、気にしないでください。 ところでリトランさんって偉い人なんですか?」
トーマス以外も、リトランの名前は様付けで呼んでいた。
「あんたね、リトラン様っていったら……」
「サンドラ!」
トーマスが鋭くたしなめる。
「悪りいが、リトラン様についても説明不要と言われてるんでな。」
トーマスが苦笑いする。
夜も更けてきたところで、シャドウはさっさと寝るように促される。 見張りは免除されたようだ。
シャドウはふと空を見上げると、片膝をつき、神へと祈りをささげる。
「神の御心のままに」
それはまったく心のこもってない一節であったが、それなりには神力にはなるのであろうか。
次回予告:あれだよ、あれ。