存在の証明
カクヨムにて1話から連載しております。
是非そちらもご覧下さい
未だ土埃は晴れず、新たに獣の咆哮の様なものが聞こえる。一体何が襲ってきたのか気になるのだが、全身に走る痛みのせいで俺はまだ動けずにいる。
この場で何か役に立ちたい。が、こんな状態では完全に足でまといである。こうもタイミングの悪い時にいつもの何か起きるのはなんなんだろうか。俺は自分の間の悪さを恨みながら無理やり体を起き上がらせる。なんとか立てるが痛みのせいでよろついた足取りになってしまう。それに両足に力が入らない。地を這ってでも何か今の自分に出来ることをなければ、昨日決心した俺の気持ちが偽物に、嘘になってしまう。それだけは絶対に嫌だった。
芋虫のように両手を使って這いつくばり、なんとか木がある所まで行きなんとか立ち上がる。
「怪我人は大人しく寝てろ」
知らない声。急に話しかけられて驚き尻もちをついてしまう。突然現れた金髪の男は事が起こっている山の方をじっと見ながら俺に言う。
「あんた……誰だ?」
初めての顔。今まで話したこともなければ見たことも無いその着物を来た金髪の男は今度は俺の方を向いて言う。
「そんな状態で何をしようと言うんだ」
「何をするって………決まってんだろ!街の人の避難の手伝いとか」
男はじっと俺を見つめる。
「全身の打ち身に加え、動悸が激しいな。両足に力が入らないのもアレが得体の知れないもだからビビっているんじゃないか?」
それを言われて少しだけドキッとする。たしかに、役に立ちたいと言う思いで隠していた。見栄を張っていた。正直ビビっている。だけど、ここで動かなければ行けない。
「っ、それでも!俺はやらなきゃならない!足でまといでもなんでも、俺はここで動かなきゃ昨日の俺は、俺の思いは嘘になってしまう。それじゃあ昨日の決意も謝罪も無駄になってしまう」
俺は男に向かって叫ぶ。男の目はじっと俺を見つめている。その目はスイとは違っているが、でも俺の頭の中を見ているような目をしている。
「その覚悟、見せてもらおうか」
男は裾の中から小さい巾着袋を取り出し中から飴玉っぽいものを取り出して俺に渡した。
「これは?」
「そいつを口に入れて噛み砕け。そうすればお前は以前よりももっと動けるようになる」
「本当?!」
驚いた。そんな万能薬みたいなものがこの世界にはあるのか。俺はじっとその飴玉を眺める。
「ただし、副作用として服用してから二時間後にお前は激しい腹痛、頭痛、吐き気に襲われる。それでもやるか?」
デバフ効果が多すぎる気がするが、一瞬で動けるようになるならやるしかない。俺は頷き口の中に飴玉を放り投げ噛み砕く。すると中から辛味と酸味を含んだ液体が溢れだし、口いっぱに広がった。
「っんぐ?!」
あまりの刺激の強さに吐き出しそうになるがなんとか持ちこたえる。すると全身が軋みだし、内側からだんだんと熱くなっていき、全身から力が湧き出るような感覚に陥った。
気がつくと口の中にあった刺激も飴玉の欠片も全て無くなっており、全身の痛みも無くなった。俺は立ち上がる。今まで以上に体が軽いことに驚く。
「すげぇ……なんだこれ……」
俺はその事に感動しつつも男に礼を言おうと周りを見回すが既に姿は無くなっていた。この世界の人、直ぐに姿を消すなぁ。俺は自分の成すべきことをなす為に急いで山を降りた。
飴玉のおかげでいつもより数倍早く下山することができ、シラヌイさんの所へ向かう。
「シラヌイさん!何か俺にも手伝えることってありますか?」
全力疾走してきたのにも関わらず、全く持って息が上がってない。その上時間が経つにつれて体の底から力が湧いてくる感覚に陥る。
「えっ、君大丈夫なの?」
「はい!傷っていうかそっちの方はなんか知らない人がくれた飴玉で何とかなりました!」
「飴……玉?」
シラヌイさんは少しだけ考えるとハッとなってすぐに納得した。どうやらあの金髪の人に心当たりがあるようだ。
「でも、今起こってるのって結構日常茶飯事だから何もすることないんだけど……」
「え?」
今の状況が日常茶飯事?山が吹き飛びそうな勢いの物が降って来るのが日常茶飯事?どうなってんだこの世界。
「でも、面白いものは見れると思うよ」
そう言うと彼女は少しづつ土埃が晴れてきた山を指さす。スイが少しだけ慌てた様子で行ったのに面白いとは………。知りたい欲が強くなってしまった為、俺は自身の恐怖心から目を逸らし山をスイのいるところに向かった。
「ガルルルルルルル………」
山につくとスイともう一人、黒いパーカーを来た男の人がいた。その人は四つん這いになり、スイに向かって威嚇している。頭から普通のとは別の獣耳が生えてて太く毛深い尻尾、鋭い爪と牙をもつその男は先程スイに教えて貰った亜人種だろう。見た目からすると狼とか犬とかそこら辺だと思われる。
「っ?!お前………なんでここに?つか、それって……」
俺が到着するとスイは俺の方を警戒して振り向く。すると今の俺の状況に疑問を抱く。
「なんか金髪の人の飴玉食ったらこうなった」
「なんだそれ。ってか、金髪、飴………。あぁ、なるほどな」
「スイくん、状況は?」
遅れてやってきたシラヌイさんがスイに聞く。シラヌイさんはスケッチブックを取り出して銃と注射器みたいなものを描き始める。
「んー、フェーズ2って所かな。一応準備よろしく」
スイはパーカーの男の方をじっと睨みながらシラヌイさんに言う。シラヌイさんはスケッチブックから先程描いたものを具現化して銃に注射器を装填する。麻酔銃と言うやつか。
「おい、シュウ。おめぇも手伝え」
「え、お、俺も?」
見た目からして完全に敵意むき出しだし、肉体強化系の能力が暴走したと見れるパーカーの男との対峙に俺も参加するということか?たしかに今の俺には体の内側から謎に力が湧き上がっているし、いつも以上に軽いが戦闘なんてした事ない。一体どうすればいいと言うのだ。
「大丈夫だって、ちょっとだけ注意を引いてくれればいいから」
スイがそう言うと後ろから誰かに蹴っ飛ばされた。振り返ってみるがそこには誰もいなかった。
「いった、え?え?誰だよ……」
俺が蹴っ飛ばされてスイの近くに飛び出るのと同時ぐらいにパーカーの男が大きく唸り出す。
「ど、どどど、どうどう……」
何とかして宥めるがそんな物が通じるわけでもなく、パーカーの男は俺に飛びかかってくる。
たった一蹴り、一瞬で俺の目の前に現れる。凄まじい速さ。俺は避けることも出来ず、咄嗟に腕をクロスしてガードの体勢に入る。
大きく振りかぶった腕は俺を後ろまで吹き飛ばした。衝撃が強すぎて木々は耐えることが出来ず、貫通して倒れていく。
「いっつつ…………」
背中に走る鈍い痛みになんとか耐えつつ起き上がる。俺が吹き飛ばされた後を見ると何本もの木が粉砕されているが、不思議なことに俺の体は無事である。
これも飴玉のおかげだろう。凄いな。
「大丈夫かー!」
「なんとかっ………!」
俺が返事をしようとすると目の前にまたパーカーの男が現れる。またも大振りの攻撃を仕掛けてきたのでなんとかそれを躱す。転がりながら男の懐から抜け出し、スイ達の方へ戻る。
振っただけなのに、振った先の木々は皆粉砕されてしまっている。
「な、なんだよ……あれ……。つか、あれを食らって生きてる俺ってすげぇ」
「まぁ、お前じゃなくてお前が食った飴の力なんだがな」
するとスイはシラヌイさんから麻酔銃を受け取る。
「よし、アイツの動きを止めてくれ」
正直、あんなに素早くて強いやつの動きを止められるかは不明だがここで止められなければ今ここでの俺の存在価値は皆無だ。何かの役に立つために副作用の強い飴玉を食って来たので、ここで引き下がるわけにも行かない。
俺は全身に力を入れて、ゆっくりとこちらに向かってくるパーカーの男を睨みつける。男は立ち止まり、俺の方をじっと見て隙を伺う。
一瞬の間、相手が動き出したのと同時に俺も走り出す。スピードも力も圧倒的に相手の方が上だ。が、俺はなんとか男の体にしがみつき動きを抑制する。
「っ!くそ!なんつー力だよ!」
無理やり剥がそうとしてくるがなんとか抑え込む。
「やりゃあ出来るじゃねぇか。上出来だぜ」
スイが軽く呟くと注射器が飛んできて男の体に突き刺さる。すると少しづつ男の動きと力が収まっていき、完全に寝てしまった。
俺は男から離れると全身に筋肉痛のような痛みが走る。
「あっ!」
ものすごい痛み。先程の吹き飛ばされた時とは比べ物にならないものだった。全身を外側にちぎれるまで伸ばしてくる感覚。あまりの痛さに俺は気絶してしまった。
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