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吸血鬼と犬

本日2度目の更新!

 

「お初にお目にかかります、魔王様」


 金髪美女は部屋に入ってくるなり、俺の前で跪いた。

 見たところ身体中傷だらけで、ところどころ出血をしている。

 おそらく何かと戦闘をした後なのだろう。


「スラメ、早急に彼女の手当てをしてやれ」


「分かったよー!」


 スラメが金髪美女を体内に取り込もうとするが、彼女は手を上げ静止する。


「手当てをしていただけるのはありがたいのですが、今はそれどころじゃないんです。魔王様、我らをお救いください!」


 跪いた状態で彼女は頭を下げる。

 何やらただならぬ雰囲気だ。


「…何があったの、キツケ?」


「人狼族が我らの居城を攻めてきたのです。突然の襲撃だったため、我らはなすすべなく壊滅させられました。我が同胞は族長である私を逃がすために命をはってくれました。そのおかげで私はなんとかここまでたどり着けました」


「魔王軍同士で争うことがあるのか?」


 そこまで秩序のない集団とは思えなかったが……

 少なくとも俺たちが戦っていた時は、なんだかんだ連携をとったりして苦労したこともあった。


「我ら吸血鬼族と人狼族は犬猿の仲。魔王様が不在となった今、犬どもの枷が外れたものかと思います。それに奴らは、先の戦いで領地を失っております。それもあって運良く残った我らの領地を奪いに来たのかと思われます」


「なるほどな。事情は分かったが、キツケよ。我は自分で言うのもなんだが我はまだ魔王を名乗って日が浅い。なのに元魔王の娘を頼らず、我のもとに来たのだ?」


 俺は純粋に疑問に思ったことをキツケに聞いた。

 普通であればまだ本物の魔王かすら怪しい男のところに助けを求めに来るとは思えない。


「私が魔王様のもとに来たのは、娘様よりもあなた様の方が強いと思ったからです。実際に実力を見たわけではありませんが…魔力量もカリスマ性も娘様よりも上とお見受けします。我らを救えるのはあなた様です」


「……なるほどな。正しい判断だ。フレン、助ける価値はあるか?」


 俺は勇者時代吸血鬼と戦ったことがない。

 それ故に吸血鬼の実力がイマイチわからない。

 討伐に行った冒険者たちが尽く返り討ちにされていたと言う話は聞いたことがあるが、それは中堅冒険者の話で、上級あたりになってくると倒すこともできるらしい。

 それすら明確な情報ではないのだが。


「吸血鬼族は数は少ないものの、幻術や魔術の扱いに長けている器用な種族です。助ける価値はあるかと」


「ならばよかろう。キツケよ、俺を頼ったこと後悔はさせない。必ずお前の仲間たちを救ってやろう」


 俺がそう言うとキツケはパッと顔を上げ、


「よろしくお願いします、魔王様!我らを救っていただいた暁には、我ら吸血鬼族は魔王様に忠誠を誓います」


 忠誠を誓ってくれた。


「その前にスラメ、キツケを治療してやってくれ。これから戦うというのに、その状態じゃ力は出せぬだろう?」


「分かったよー!じゃあキツケちゃん!ちょっと失礼するよ!」


 スラメがキツケを治療している間に俺たちは戦いの準備を行い、治療が終わると吸血鬼の居城へと向かった。



 ◇◆◇◆



「なに?キツケを逃しただと?」


 部下から報告を受けた人狼族の族長ワンズは苛立ちを隠せなかった。


「すみませんワンズ様。思いのほか他の奴らの抵抗が激しくて…」


「言い訳はいい!さっさと探して捕まえろ!」


「は、はいっ!」


 部下は走って拠点から出て行った。


「くそったれ!!」


 足元にあった空箱を蹴り上げる。

 箱は壁にぶつかり粉々に砕け散った。


「ワンズ兄…少し落ち着いたら?キツケを逃したのは痛いけど、もう吸血鬼たちはほとんど倒したんだし」


「あ?雑魚はいくら殺しても関係ないんだよ!俺はキツケを殺せないと意味がねぇ!意味がねぇんだよ!」


 吸血鬼族とは昔から因縁があった。

 どちらから仕掛けたか、何が原因かなんて事はしらねぇが、代々俺たちは目があうたびに喧嘩ばかり繰り広げてきた。

 そんな中、当時魔王就任したばかりだった魔王様に人間どもを根絶やしにするまでは休戦しろとの命令で仕方なく休戦していた。

 しかし、魔王様が倒された今、俺たちを縛る命令はない!吸血鬼を根絶やしにして、長年続いた因縁に終止符を打ってやる。


「吸血鬼の掃除をやっている奴らの半分をキツケ捜索に回せ!必ず見つけて俺の前に連れてこい!!」


 俺はキツケを自分の手で殺したい。

 あいつだけは俺が絶対に。


 ワンズにとってキツケはすぐにでも殺したいリストナンバーワンなのだ。

 それは今まで幾度となく魔王城において恥をかかされてきたからだ。

 休戦を命じられているからと言っていざこざが収まる訳じゃない。

 事あるごとにちょっかいをかけてくる。

 例えば進路に罠を仕掛けたり、敵を俺になすりつけたり……

 ああ、考えるだけでも腹立たしい。

 しかもあいつの領地だけ残ってるなど許せるか。


「はぁ…私も少し出てくるわ。ワンズ兄といるとストレスが溜まるわ」


「クミン、俺の妹のくせに兄になんてこと言いやがる。妹は兄についていればいいんだよ。だからここにいろや!」


「ワンズ兄、そういうのがウザいって言ってるんだよ。じゃあね」


「ちょ!テメェ、クミン!兄に向かってウザいとはなんだ!!」


 クミンは俺を無視して拠点を出て行ってしまった。全く…思春期ってやつは面倒だ。

 でもな…ウザいか…兄ちゃんちょっと悲しいぜ…


「ワンズ様!!ご報告が…ってどうしたんですか!?」


 目元を押さえている時に、タイミング悪く部下が拠点に入ってきた。


「なんでもねーよ。で、なにがあった?」


「はい!キツケの行方が分かりました!どうやら魔王城に向かったようです。おそらく魔王様の娘に助けを求めに行ったものと思われます」


「魔王様の娘だ?はっ!娘に助けを求めたところであの娘には何もできないだろ!全く無意味なことを!じゃあさっさと吸血鬼族を根絶やしにして、魔王城に行くぞ!」


「はい!」


 ワンズが拠点から出ると妙な寒気とともに


『その必要はない、犬っころが』


 聞き覚えのない声が響いた。

 全身の毛が逆立った。

 なぜ?なんで魔王様と同じ魔力を感じるんだ?

 背後を振り返ることができない。

 それほどの威圧感を感じる。


「な、何者だ!?」


 俺の声は震えていた。

 強大な魔力に完全にビビってしまった。

 まさか魔王の娘か?

 いや、そもそもあいつがこんな魔力を持っているはずがない。

 しかもこんな男の声を出すはずもない。


『俺か?俺は……新たな魔王だ!』


 男はそう名乗った。





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