魔王城
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グランデア大陸。
世界にある5つの大陸中、最も最大ではあり、9つの国と細々とした村で構成された大陸で、その北部40%は魔族領が占めていた。
魔族領との境界線付近では度々領土争いが起きていたのだが、各国の協力のもと、魔王を倒すことで終わらせたのが、元勇者で現魔王の俺なのだが。
俺は魔王との戦いの最後、今後人間領への侵攻をしないこと、自分の消滅の証である角を差し出すことを条件にこの魔王城がある大陸最北部に少しだけ魔族領を残してほしいとの懇願を飲み、この魔王城とその周囲一帯を魔族領として残した。
この行動は監視役達からおおいに反感を買ったが、自分達だけでは魔族達に抵抗できないということが分かっているのか、俺がこれ以上戦わない態度を見せると「必ず国王に報告してやる」とだけいい、それ以上の文句は言わなかった。この行動は結果として良かったと思う。
さて、アリステル王国から飛び立った俺とフレンは、今魔王城最上階にいる。
最上階には、魔王と戦った広間や執務室等があり、その一部屋でメリザをフレンが用意した仮設のベットに寝かせ、室内にある執務用デスクに腰掛けた。
「フレン、魔王との戦いの後はどうなった?」
俺と魔王の戦いから数ヶ月の月日が経っている。何かしらの動きがあるのが必然だろう。
「レノン様が魔王を倒したことで新たに魔王を擁立しようということにはなったのですが…自己主張の激しい奴らばかりで意見がまとまらなかったようです。当然なのです。初代魔王以降は受け継がれてきた魔王の角に選ばれた者が魔王になっていたのだから。それよりも、残った魔王領の配分で大きな争いが起きそうな状況ですね。すでに残った兵士が多い種族に関しては領地確保に向け、戦支度を始めているようです。」
大陸の40%あった領土が30%程度削減されたのだ。領地を失った種族は行き場をなくし、路頭に迷っているのは容易に想像できる。
「行き場をなくした大半のものは魔王城の城下に移って来ていますが、城下にも限度があって、入りきれなかったものは、徐々に飢えに苦しみ始めています」
「早急な対応が必要ということか…ちなみに城内には誰がいる?」
「先代魔王様の娘と娘を使って魔王国を再建しようとする奴が残ってるみたいですね」
「そいつはどこに?」
「おそらく娘の部屋か自室のどちらかと思われます」
「そうか……とりあえずこの最上階にいなかったのは良かった。ここは使わせてもらおう。さて話は変わるがフレン、お前を俺の秘書として雇おうと思うのだがどうだろう」
パーティにいる時から、鋭い観察眼や状況把握能力、判断力は長けていた。その力は必ず必要になる。
そして何より、俺は魔王になったとはいえ、それを他の魔族に認められたわけではない。今後魔王と認められるためにも、今は味方が欲しい。
「はい、ありがたく受けさせていただきます」
軽く頭を下げ快く了承をしてくれた。
結果は分かっていたとはいえ、今まで散々な目にあった分少し嬉しかった。
「よろしく頼む。では、最初の仕事だフレン。各地に散らばった魔王軍を集めてくれ」
まずは何より仲間を集めをしなければならない。
魔王軍を再編しなければ、人間どもと戦うことはできない。
いくら俺が大陸最強だったとて、それと同格の強さを持っている人間を知っている。
あの戦いに参加したのは猛者揃いだったからな……
未だになんであそこで優勝したのか分からないレベルで。
「わかりましたレノン様」
そういうとフレンは部屋から出ていった。
俺はフレンがいなくなった部屋で少し息を吐いた。
さてこれからどうするか。
何より娘と利用しようとしている奴のことも気になる。俺は元人間だ。元人間の俺で魔王として認められるのは難しいだろう。
やることは多い……が、まずは…
「メリザ」
俺はメリザが横になっているベットに座る。
するとメリザは顔をこちらに向け、微かな声で「にいさま」と俺のことを呼ぶ。
魔王の姿になった俺を変わらずそう呼んでくれることに俺は感謝しつつ
「もう大丈夫だ。二度とお前にこんな目には合わせない。俺が絶対に守ってやるからな」
手を握ると、そっと握り返してくれた。
そのかすかな手の温もりに再び俺は泣きそうになるが、グッと我慢をした。
「そばにいるから……安心して休むんだ」
表情をなくしていたメリザの顔が微かに和らいだようにみえた。
そしてしばらく経つとスウスウと寝息が聞こえ始める。安心したのだろうか。
そして引き出しの中にあった地図を広げ、自分が魔王から取り返した土地と現在の魔王領、そして人間領を書いていった。
現在大陸の90%が人間領となっており、地図の北側にポツンと魔王領がある状態だ。
「この状態にしたの俺なんだよな…」
後悔しても意味がない。今できることをやっていかなければなどと考えているとフレンが戻ってきた。
「早いなフレン。もう終わったのか?」
「はい、手紙を私の部下に渡して届けさせております。今日中には届くのではないかと」
やはり手際がいい。
そういえば以前にもフレンが誰かに手紙を書いていたことがあったが、もしかしたら魔王宛だったのかもしれないな。
「助かる。で、どのくらい集まりそうだ?」
「正直に言いますと、今回手紙を送ったのは、比較的常識のある8種族です。はなから召集に応じないであろう種族に送る必要はないので。そのうち集まりそうなのは3種族といったところでしょうか。なにぶん血の気の多いのが魔王軍ですから。実力を見ないうちは従わない連中ばかりですし」
常識のあるといったところに甚だ疑問を感じずにはいられなかった。
もしかして頭のおかしな連中ばかりなのか魔王軍って。
「……まぁそうだよな。少し待つことにしよう。気になれば向こうから来るだろうし、来ないなら俺から出向いてやるまでだ」
実力の差を知らしめてやれば俺に従う。
強者に従うのが魔王軍のルールというのであれば、その流儀に従うべきだろう。
「実力の差を示すのですね。ならば1番に味方にするならば龍族のドゴラが良いかと思います。力と知性を持ち合わせた魔王幹部の中でも上位に位置していた男です」
「龍族か……確かに仲間にしたら強いだろうが、味方になってくれるか?」
「龍族は必ず強者に従います。レノン様なら軽く倒せるでしょ?」
俺の方を見てニヤッと笑った。
……妙な期待をされるのは嫌だが、魔王を倒した俺だ。
龍族だろうがなんだろうが、軽く捻ってやろうではないか。
「…分かった。返答を待って来なければ龍族を訪れるぞ」
「分かりました!」
ひとまず8種族の返答を待つことにする。
一番いいのは労せず仲間を増やせることだから。
◇◆◇◆
「で、返答は?」
数日後、俺はフレンにそう聞いた。
「1種族だけですね…今ここに来ているのは」
俺の目の前はスライムがいる。
丸々とした青色のボディ。
うん、よく見るスライムだ。
「……喋れる?」
俺がそう聞くとスライムはフルフルと横に揺れた。おそらくできないと言っているのだろう。
しかし喋れない相手との会話は少し厄介だ。
「俺の仲間になりに来たので間違いない?」
縦に揺れた。
「ならば…契約だ」
俺はスライムを中心に魔法陣を展開した。
人間だった時、俺の魔力は人並み程度であったが魔王の証というものが付き、魔王になってから溢れんばかりの魔力を感じる。フレン曰く、魔王の角には歴代魔王の記憶が刻まれており、魔王となったものに力を引き継いでいるとのことだ。
『我と契約し、配下に加わることを了承するか?』
縦に揺れる。
『契約成立だ。汝に新たな力を授けよう』
するとスライムは人型へと姿を変えた。
少女のような可愛らしい見た目だ。
「すごい!喋れるようになった!!なんで!?」
「俺が授けた力は『変化』。これは見たものになら何にでも変化できる。さらに少しくらいならアレンジもできるという優れものだ」
俺が使った契約の魔法は能力付与という特典がつく。
対象を強化できるという点からも有用なことから、今後も仲間が増えたときには利用しよう。
「ほんと!?すごいね!?あ、自己紹介がまだでしたね!お初にお目にかかります、魔王様!僕はスライム族代表のスラメといいます。魔王様が復活されたと聞き、飛んで参りました!」
すごくフランクにそして積極的に話すスラメにレノンは少し引きつった顔を浮かべ、
「う、うむ。よく来てくれたぞスラメ。我が部隊に加わり存分に働いてくれ」
「分かりました!僕たちスライム族一同魔王様に従います!」
友好的でよかった。とりあえず1種族仲間が増えた。
ただ8種中7種来ないか…やはり一筋縄ではいかんか。
「すみません、魔王様…自分勝手な奴らばかりで…」
俺の表情を見てそのことを察したのかフレンはそう言った。
「なに、フレンが謝ることはないさ。全員俺から出向いて実力を見せろって言ってんだろ?やってやるさ。そして分からせてやる。新たな王の実力ってやつをな!」
人間と戦う前に、俺の仲間を集める戦いが始まろうとしていた。
◇◆◇◆
「なに!?魔王が復活しただと?」
「はい!正確には魔王を名乗るものから手紙が届いたとゴブリン族の長から情報が入りました」
「なんてことだ!私が娘を使ってアホどもを支配しようとしているところを……」
ここで邪魔をされてはせっかく立てた計画がパーだ。
そんなことは許されない。
「おい!種族全員に使いを送れ!偽物の魔王が現れたから従うなと。そして魔王の娘の下に集結せよとな!」
邪魔などさせない。
娘を使って私が王になるのだ。