勇者、魔王になる
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「よく魔王を倒してくれたぞ!勇者レノンよ!」
魔王を倒し国に帰還した俺たちを迎えたのは街道を埋め尽くす人々、そして屋外に設置された玉座に座る国王だった。その全てが俺は憎らしい。
勇者?ふざけんな。俺はお前の奴隷だろうが。
そう全ては仕組まれたものだった。
とある大陸最強を決める戦いに俺の剣の腕ならば通用するという友人の勧めでなんとなく参加した俺は、あろうことかそこで優勝しまったのだ。
アリステル王国に戻ると早速王城へと呼ばれ、国王から魔王討伐の任を命ぜられた。
だが俺はその任を断った。俺には自宅に大切な妹がいたからだ。両親を早くに亡くし、二人でなんとか暮らしてきた。妹をおいて何処かに行くなんてことは俺にはできなかった。
俺の返答に王は激昂。
大声で捲し立て、そして最後に「今後この国で暮らしていけると思わぬことだ」という言葉を投げ捨てられ王城を追い出された。
この時は俺もやってしまったなとかまぁ別の国に引っ越すしかないなくらいにしか考えていなかった。
しかし家路へと向かう途中で違和感に気がついた。
近所の人が誰も話しかけてこない。それどころか俺をみるなり目を晒すのだ。いつも俺たちのことを心配して野菜をくれる八百屋の店主も、近所のおばさんたちも……急に態度が変わったことが理解できず、ようやく自宅が見えた時、さらに違和感が増した。
夕暮れ時なのに自宅に明かりがついていないのだ。
妹が外出している可能性は十分に考えられる。
しかし、今日の出来事を遡るとその違和感は恐怖心へと変わり始めた。
足を早め、自宅の扉を勢いよく開け、
「メリザ!!」
と叫ぶも、返答はない。
明らかに数人が押し寄せた痕跡とシンとした暗い部屋が眼前に広がっている。
その光景から全てを察した膝から崩れ落ちた。間違いなく国王の仕業だと。そして妹は……
言うことを聞かなかった俺に国王に逆らうとどうなるか教えるためだと。
いや、それにしては早すぎる。
間違いなく王城での俺の返答次第ではこうすることを計画していたのだろう。
「ごめん…ごめんな…メリザ!!」
そうしていると自宅の玄関が開かれた。
訪問者は国王からの使いと、騎士団たち。
妹を人質に取られた俺は抵抗する事を封じられ、縄で括られ先ほどまでいた王城に連れていかれた。
そしてそのまま国王の前に連行され、無理矢理魔王討伐の任を受けることになったのだ。
その後も俺はどんな無茶な要求も断ることが出来ず、勇者という称号をつけられ、ただひたすらに魔王軍と戦った。
冒険の仲間達もほぼ国王が選定した奴らばかり。
いわば俺の監視役だ。
しばらく街道を進み王の前に到着する。
「魔王討伐の任完遂いたしました、国王陛下」
「うむ。よくやってくれた」
「つきましては国王陛下。我が妹を…メリザを返してはいただけないでしょうか」
「ハッハッハッ!!まぁそう焦るでない。まずは魔王討伐の証を見せてはくれまいか?」
そう笑う国王。俺はしぶしぶ懐に入れてあった魔王の角を国王に差し出す。
「おお!これが…ふふ…フハハハッ!!ついに手に入れたぞ!魔王の角を!レノンよ、これはわしが預からせてもらうぞ」
そう言って側近に角を渡す。
「さて、レノンよ。次の任なのだが…」
「は!?ちょっと待ってください!魔王は討伐しました!妹をメリザを返してください!」
立ち上がってそう叫んだ俺を国王は見下すように
「…レノンよ、わしは別に魔王を討伐したら妹を返すなんて一言も言ってないではないか。わしは任を終えたら妹を返すと言ったのだぞ?魔王討伐はその任の1つに過ぎんからな!」
気持ちが悪い顔でそう言った。
俺は膝から崩れ落ちた。
涙がとめどなく溢れる。
その姿を見ても民衆も仲間も反応を示さない。
ただ惨めな目を向けるだけだった。
ただ1人だけ…俺が魔王討伐の道中で仲間にした魔法使いのフレンだけは俺のもとにきて背中をさすってくれている。
「まぁわしもそこまで残酷なことはせんよ。ほれお前、女を連れてこい。無事なことを確認させてやれ」
王が使いのものにそういうと使いは隅の方に設置されたテントの中から妹を連れてきた。
首、手首は鎖で繋がれており、足には逃走出来ないように重りがつけられている。
目に光が無く、体は痩せ細り、綺麗だったストレートの長い髪はボサボサになっていた。
以前の…あの可愛かった妹とは思えないほど別人となっていた。
そして妹は俺の姿を見るなり、
「にい……さん」
と、その細くなってしまった腕を力なく伸ばし、掠れた声で俺を呼んだ。
その時俺の中で何かが弾け飛んだ。
俺を騙した国王が許せなかった。
妹をこんな風にした国が許せなかった。
こんな状況を見ても何も言わない民衆が許せなかった。
俺の中に闇が生まれる。
「じゃあ……滅ぼしちゃいなよ」
俺の背中をさする手が止まり、耳元でそう囁かれた。
「…………」
「滅ぼしてしまえばいいんだよ、レノン」
「…………ああ、そうだな」
俺は自分の中に発生した何かを受け入れる。
こいつらをこの国を滅ぼせるなら、妹を救えるなら俺は……
すると先ほど国王が側近に渡した魔王の角が急に紫色に光り始めた。
「ひ、ひっい……!」
側近が驚きその角を手放すと、角は宙に浮き、俺の頭部の右側に刺さった。
『我が力を受け継ぎしものよ…滅びの力を授けよう』
頭の中でどこかで聞いたことのある声が聞こえたかと思うと、得体の知れないなにかが体の中に流れ込んできた。
「ぐ、ぐあぁあああァッ!!!」
体が焼けるように熱い!!
頭の中で響く声のせいで頭が割れそうだ!
『これは記憶…我らが人間どもに虐げられ苦しめられた記憶』
目の前に広がる魔王やその配下が人々に殺されていく映像。
戦場にいるかのような血と硝煙の香り。
『我らの力を受け継ぎしものよ…魔族に安寧を』
最後の声とともに今まで感じていた全てがなくなった。
肉体の変化はないものの、黒髪が色をなくし、真っ白になった。
そして膨れ上がる人への憎悪をここでぶちまけたい衝動に駆られる。
「上手くいったね!じゃあ景気付けに一発大きいのかましましょう!レノン様!…いえ、魔王様!」
「……フレンか?」
人間だったはずのフレンは、頭から角が生え、尻尾がある。
「はい!私はあなたなら魔王になれる素質があると信じておりました!」
「……どういうことだ?……いや、今はいい。俺はあいつらを殺せればなんでもな」
俺が国王の方に向く。
「な、ななななんなのだ貴様!!わしに逆らうというのか!!」
「……逆らう?違うな。だってそうだろう?人間はゴミに従ったりはしないんだからな!」
「ゴミだと!!今貴様わしをゴミと言ったな!?もう良いわ!そいつを殺せ!!」
王の命令に使いが剣を抜き、妹を殺そうとする。
「バカが!!」
俺が右手を振るうと使いの首が飛び、一瞬で絶命する。
そして俺は妹のところまで瞬時に移動し、繋がれたら全ての鎖を切り、解放する。
「にい…さま……?」
「待たせたな…メリザ。辛かっただろう?こんな兄を許してくれ」
するとメリザは細い腕を俺の首に伸ばし、力なく抱きついた。
メリザの温もりを感じる。
「さて、国王陛下……いや、ゴミ王。覚悟は出来てるんだろうな?」
「い、いやだっ!し、死にだくないっ!!あ、謝るがらっ!ゆるじで…!!」
尻餅をつき、失禁しながら後ずさる愚王。
「……はっ、貴様みたいなゴミなどゴブリンに処理させるので十分だ」
俺が民衆に向けて右手を振るうと、民衆の一部が紫色の炎に包まれ、叫び声とともに姿をゴブリンへと変える。
広場には絶望的な光景が広がる。
逃げ惑う人々。
ゴブリンに殺された者がゴブリンに姿を変え、増殖するゴブリン。
「フレン、俺はどこへ行けばいい?」
そう問うと、
「もちろん!行き先は、我らが魔王城です!」
俺はメリザを横抱きで持ち上げ、背中に生えた翼で空へと飛び立った。
こうして世界に新たな魔王が生まれた。