2:対策会議
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調べて分かったことは、事故物件検索サイトには、コーキ以外にも何人も未来の事件が書き込まれている人がいるということだった。
具体的には4人ほどいた。
「データのソートは出来なかったから、手作業で調べた。もしかしたら抜けがあるかもしれないけど、でもたぶん間違っていないと思う」
コーキの報告を聞いたみのりは目を丸くした。
「だから、その一つを通報して削除してもらったんだ……それで、これが削除してもらった物件」
コーキは言いながらスマホを操り、目的のページを表示してから従妹に見せる。
ページには大学にもほど近い住宅地の地図がズームアップされている。
「ここ、今は事故物件が何も登録されていないだろ」
「はい」
「で、これが一週間前のスクリーンショット」
コーキは画面をスワイプし、別の画像を映しだした。
そこにはしっかりと炎のマークが描かれ、その上には
*****************
* 平成32年4月1日 *
* 京都市左京区×××町〇‐□ *
* 火事 *
*****************
と書かれていた。
みのりが視線を上げる。
「それで、起こったのですか? この火事は」
コーキが次に見せたのは、翌日の新聞のコピーだった。
地方欄の小さな記事がその火事のことを伝えていた。
「幸い、死者は出なかったそうだよ」
「そうですか……」
みのりは表情をやわらげた。
「でも、この事件についてもあのサイトの予言は正しかったのですね」
「どうやらそうらしい」
コーキは頷いた。
沈黙が舞い降りた。
確かに2件の事件について予言が成就された。
1件だけなら偶然かもしれない。けれど2件連続となると説得力が違うだろう。
やはり、この事故物件検索サイトの予言は正しいのかもしれない、そう思う気持ちがないわけではない。
けれど、それでもコーキは単純に頷くことは出来なかった。
コーキの常識が邪魔をした。
この世の中はとても複雑である。
複雑な現象を予言することは難しい。
例えば一年後の天気を予言することが出来ないように。
あるいは一年後の株価を予言することが出来ないように。
予言と言うのはとても難しい。
そう、コーキの常識は言っている。
だからこの予言にも、何か裏があるんじゃないかと、そう思ってしまう。
みのりは呆れたように言った。
「すでに2件の事件が正しく予言されているのですよ? それなのに、何を悠長なことを言っているのですか!」
コーキにはぐうの音も出なかった。
みのりは目線を上げ、強い視線をコーキに向けた。
「兄さん」
「なんだい」
「すぐに部屋を引っ越しましょう」
「……」
「そうすれば、あの予言の被害者は兄さんでなくなるはずです」
「……」
コーキはすぐに答えなかった。
「兄さん?」
「いや……それは最後の手段だ」
「なぜですか!?」
みのりはびっくりしたようにコーキを見た。
「なぜって……そんなの決まっているだろう?」
コーキは答えた。
「引っ越しはめんどくさい」
みのりは脱力したように机に突っ伏した。
確かにちょっとひどいかなとコーキも思った。
けれどこれは彼の偽らざる本心である。
引っ越しと言うのはめんどくさい。
新居を探して、荷物をまとめて、引っ越し業者を手配して……
いきなりの転居には違約金もかかるし、とにかく時間と手間がかかるのだ。
だからコーキとしては引っ越しは最後の手段としておきたい。
「それに、まだ、必ずしも予言が成就すると決まったわけじゃない」
みのりは上目遣いにコーキを見る。
「何か、方法があるのですか? 解呪の方法が?」
「具体的にあるわけではないよ。でも、僕たちはまだこの予言がどういう性質のものかよく知らない」
何らかの対策を講じるためには相手のことを知る必要がある。
原因は何なのか。
どうやって予言しているのか。
そして、この予言がなぜ行われているのか。
「だからまずはその辺を調べてみようと思うんだ」
「……調べるのは良いですけど、具体的にはどうするんですか?」
「さっきも言ったけれど、まだ僕以外にも予言されている人物は二人いる。幸い僕が死ぬことになっているのは5月8日、その中では一番遅い」
「そうなんですか」
「うん、だからとりあえず、僕の前に被害にあうことになっている二人について調べて……可能ならば阻止してみようと思うんだ」
「阻止?」
「予言の成就を妨害してみようと思う」
みのりが顔を上げる。
「それが出来れば、僕の予言だって妨害できると思うんだ」
「なるほど」
「みのりも手伝ってくれる?」
コーキの問いにみのりは「はい」と頷いた。