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メイド ミャア①

 シンニュウシャを撃退し終えてダンジョンから出てきた俺。そんな俺の方へカルロッテは弾けんばかりの笑顔でてくてくと駆け寄ってきた。


「やったのじゃ!クリアしたのじゃ!キャッ!キャッ!」


 喜びを爆発させながら俺の周りをクルクルと回り続ける彼女。しかし俺はそんな彼女を目にすると、ようやく収まった怒りがまたぼこぼこと熱湯のように沸いてくるのが抑えられなかった。そして口を尖らせながら小言を並べたのである。


「やいっ!あんな力があるなら最初から使えよな!」


 気分が良いところにバシャっと冷水を浴びせられたカルロッテは眉をしかめ、ぷくりと頬をふくらませながら抗議してきた。


「なんじゃ!その物言いは!お主がピンチだったところを助けてやったのではないか!感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないのじゃ!」


 彼女の言い分はもっともだ。しかしこの12日間もその力を使わなかった理由にはならない。ここは感情を抑えて聞いてみるとするか。


「ああ、助けてくれたことには感謝してるさ。いくらダメージはないとは言え、痛いのは嫌だからな。だが、なぜ今日はさっきの力を使ったんだ?」


 俺がその表情を不思議そうなものに変えると、まるで鏡のようにカルロッテも不思議そうな表情になる。


「むむぅ…それはわらわにも分からんのじゃ。なぜか急に力が湧いてきたかと思った瞬間に水晶へとその力が吸い込まれていったのじゃよ…」


「水晶へと…か… 今はどうだ? その力とやらは、明日も使えそうか?」


「むむぅ…分からんのじゃ。でも、今は全く力が湧いてこないから、今すぐにもう一度同じことをせよと言われれば、それは無理そうじゃ」


 ションボリする彼女の様子からして本当に自分でも自分の使った力がよく分からないのだろう。そう考えると怒りや疑問はふいっと消えて、単純にクリアしたことの喜びが残った。


「そうか… まあ、しかしお前にすごい力があることが分かっただけでもよしとするか!それにやっと『第一層』をクリア出来たんだしな!」


 俺がそう笑顔になってカルロッテの頭を優しくなでると、カルロッテは「てへへ」と嬉しそうに顔を赤らめている。

 

 結局のところ彼女のスキルについてはよく分からないままだったが、何はともあれこの力があれば、余程強い相手が現れない限りは、スーパーゴブ男とゴールドスラきちによってダンジョンの平和は保たれるだろう。もう口が裂けても『最弱モンスター軍団』なんて言えないな。


 そしてそれはすなわちダンジョンの完成を意味する。つまりあと四日あれば『第五層』までクリアすることはほぼ間違いない訳だ!


 あははっ! なんという超展開!


 そして、あと四日後にはこのへんてこな女神見習いから解放され、晴れて異世界モテモテライフが送れるのだ!

 おのずとテンションが上がってしまうのも無理はないだろう。


 この12日間の苦労がまるでセピア色の思い出のように頭をよぎる。これまでの苦悩の日々があったからこそ、こうしてハッピーエンドが待っているのだと思うと余計に感慨深い。

 やはりこの世界にも仏様や神様はいたのだ!

 一時期はその存在を疑ってごめんなさい。


 そして俺にはもう一つのお楽しみが待っている!


 それは…


 メイド!!


 『第一層』をクリアしたことによって派遣されるその存在は、まさに俺の心の中のまだ見ぬオアシスのようなものであった。

 なにせ俺は彼女に振られたばかりの傷心の身。人肌が恋しいのは当たり前と言えよう!

 そんな中、実に12日間も古めかしい言葉遣いの幼女と共に過ごさねばならなかったのだ。その筋の趣味はない俺にとっては何の慰みにもならなかった。


 しかし! 耐え忍ぶ日々も今日までだ!

 この世界に神様がいるんだと確信した今、必ずやここにやって来るメイドさんと俺は運命的な恋に落ちるに違いない。


 既に俺には一つの光景が頭に浮かんでいる。



ーーああ、タケト様いけません。タケト様とわたくしとでは身分が違いすぎます。なにせタケト様は異世界最強のドラゴン。この世界の希望の星なのですから…


ーーなにを言っているんだ。仮に俺がこの世界の星だとするならば、君は俺にとってのキラ星なんだ。


ーーああ、タケト様… 抱いて…



 ムフフ! この展開はもはや避けられない『宿命』だろう。


 と、テンションが上がってきた俺に冷水を浴びせるような視線が向けられた。


「ちょっとタケト! 何を鼻の下を伸ばして、ダラシない顔をしているのじゃ? 気持ち悪いったらありゃしないのじゃ」


 この挑発的なカルロッテの言葉すら今は心地よいメロディーだ。


「ムフフ、そうか気持ち悪いか。うんうん、気持ち悪いのは仕方ないな。さあ、今日はもう寝るか!早く明日がこないかなぁ!ムフフ」


「うげぇ、気持ち悪い…」


 本当に気持ち悪そうに顔を青くしながら舌を出しているカルロッテ。そんな彼女に俺は笑顔で促したのだった。


「早くパジャマに着替えてこい。ムフフ」



………

……

 そして翌日… つまり十三日目ーー

 それはまだ夜明け前のこと。



    ガバァァァ!!



 俺は勢いよく起き上がると、寝泊まりしている小屋の裏手にある井戸まで急いだ。その理由は単純だ。

 洗顔に、歯磨き!

 男としての身だしなみを入念に整える為である。

 なにせ今日はメイドさんが俺との運命的な出会いを果たしに来るのだ。男は第一印象が重要なことは、チャラい先輩から散々聞かされてきた。その教えが異世界で発揮されることになろうとは…


 毛穴という毛穴を丹念に洗う俺。

 それはダンジョン作りよりも真剣だった。


 そして実に二時間後…すでに空は白み始めている中、ようやく洗顔と歯磨きが完了した!


 俺は最後の仕上げとばかりにパンと頬を叩く。


「よしっ! 俺のお肌、絶好調!!」


 その後、俺はいつも通りに小屋の前の広場に出ると朝の体操を始める。


「いっち、にっ! いっち、にっ!」


 それはもうキレキレッのダンスのような体操であった。そこにカルロッテが眠い目をこすりながらやってきた。


「なんなのじゃ? 今日はいつにも増して騒々しいのう…」


「おはよう!カルロッテちゃん!今日もいい天気になりそうだな!あはは!運命の出会いの日にはもってこいだな!」


「運命の出会いの日? 一体何を言っておるのじゃ?」


 いぶかしい顔つきの彼女に対して、俺は白い歯を輝かせながら親指を立てた。


「いいから早く着替えて顔を洗ってこい!何事も第一印象が重要だからな!あはは!」


 そんな俺に対して首をすくめた彼女は「全く意味が分からないのじゃ」と言いながらも、素直に小屋の方へと戻っていったのだった。


 広場に一人残ってソワソワしている俺。その妄想は膨らむばかりだ。


(以下、妄想)


 恐らくメイドさんは可愛らしい女の子。歳は十八くらい。新しいご主人様と上手くやっていけるのか、不安に胸がいっぱいになっているに違いない。そして広場までやってきた彼女。でも目的の小屋(おやしき)が見つからない。そこで彼女を待っていたのは優しい男性の声。


「お嬢さん、何かお困りかな?」


 彼女の心はときめく。そして彼女の視線に映ったのは…運命の男性…


 俺、タケトだったーー


(以上、妄想終了)



 うん!いいっ! すごくいいっ!


 俺はそんな『偶然』の出会いを果たすべく、小屋から少し離れたところでメイドさんの登場を待つことにしたのだった。






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