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第一層 ⑥

◇◇

 十二日目 夜ーー


 俺はバハムートの姿で静かにその時を待っていた。仄かな松明の灯りに俺の漆黒の巨体は不気味に浮き上がっていることだろう。

 

 そして…



   ーーシンニュウシャ、来襲!!ーー



 というカルロッテの大声を合図にして、俺はカッと目を見開いた。



    ーーギャオオオオ!!!ーー



 ダンジョン全体を震わせるような俺の咆哮。


 いよいよこの時がきたのだ!



     ーー第一層、決戦の刻ーー


………

……

 それは昨日のダンジョンと構造はほとんど変わらないものだ。


 入り口から真っ直ぐにのびた細い廊下。その先にはダンジョンのラスボスである俺が鎮座している約5m四方の部屋…


 違いを挙げるなら、俺がいる部屋は少しだけ広く、大きな扉があること。そして廊下の両脇の部屋の扉は、廊下に面する形には設置されておらず、俺のいる部屋の中に設置してあるところだ。


 つまり昨日と違ってダンジョンに入ってからすぐにシンニュウシャの目に俺の姿は映っていない。その為か、彼は周囲を警戒しながらゆっくりと廊下を進んでいた。


 薄暗い廊下をひたひたと進むシンニュウシャ。


 前後だけではなく天井までにも警戒を張り巡らせながら前進してくる。レベルこそ低いが、かなり訓練を積んでいるようだ。


 そして額に珠のような汗が浮かんでおり、その緊張感が水晶を通してもよく伝わってきた。

 しかし最大限の警戒を張り巡らせている彼には悪いが、ここには一体のモンスターも配置していない。つまり彼は無傷でここを通り抜けることが出来るのだ。


 この廊下はこれでよいのだ。なぜなら、ここで『挟撃』を狙うのは無理であるということを、昨日で嫌というほど思い知ったのだから。


 そしてしばらく経った後、彼は俺のいる部屋の扉に手をかけた。



ーードックン…



 さすがに俺も緊張してきた。


 思い返せば異世界最強のドラゴンにも関わらず、俺はこのダンジョンにおいて無力だ。無力であるがゆえに「つまらない」やり方では勝てるはずがない。


ーー見てろよ… マリカ…!


 きっと君は今も世界のどこかで大きなその瞳を輝かせながら「面白い」ものを追いかけているに違いない。


 そんな君の瞳にはいつの間にか俺のことは映らなくなっていた。なぜなら俺はどんどん「つまらない」存在になっていったから…


 でも見てろよ!


 俺はきっと「つまらない」から抜け出す!

 君が瞳を輝かせて見つめる…そんな男になるんだ!


 これは俺自身との戦いでもある。



   ーーさあ!勝負だ!!ーー

 


ーーギィィィ…



 大きな音を立てて目の前の扉が開けられる。そしてシンニュウシャと俺の目が合った。

 その瞬間だった。



「うおおおおお!!ダンジョンマスター!覚悟ぉぉ!!」



 と、シンニュウシャは弾けるように俺めがけて一直線に飛び込んできたのである。


 一歩、また一歩。


 鉄砲玉のように突進してくるシンニュウシャ。

 その様子を俺は冷静に見ていた。


 まだだ! もう少し! もう少し引きつけろ!


 そして…


 それは俺とシンニュウシャの距離が残り五歩まできたその時ーー



    ーーギャオオオオ!!ーー



 俺は大きな咆哮を上げると、



   ーーブオオォォォォン!!ーー


 と、ダンジョンを壊さない程度の力で翼を羽ばたいた。それでも重心が前のめりになりきったシンニュウシャをぐらつかせるには十分な突風だ。


「くっ…!!」


 突進をやめて思わず後退して身構えるシンニュウシャ。しかし俺は昨日のように追撃は行わない。なぜなら風の力でシンニュウシャを撃退するつもりはないからだ。


 では俺は単に彼の出足を止めたかったのか…

 否!そうではない!



    ーーバタンッ!!ーー



 それは風の力でシンニュウシャの背後で開けっ放しになっていた扉を閉めること。


 そしてこれにより完成したのは…



 わずか5m四方の密室ーー



 俺は胸の内でニヤリと笑う。

 しかし勇猛なシンニュウシャは俺の姿しかその目に映っていないのだろう。すぐに態勢を整えると、再び突進の構えを見せた。



 …と、その時だった…!



    ――バンッ!!――

    ――バンッ!!――

    

    

 と、勢いよく二つの扉が開けられたかと思うと、一斉にゴブ男とスラきち『最弱モンスター軍団』が部屋の中に飛び出してきたのである。

 

「なにっ!?」


 これにはさすがのシンニュウシャも面喰らった。

 昨日とは違って既にシンニュウシャとモンスターたちの距離が近く、その上シンニュウシャの足はまだ止まったままなのだ。どんなに勇敢な者であっても戸惑うのは当たり前だ。


 狭い密室に、大量のモンスターの群れ。


 ラスボスを目の前にしてモンスターに周囲を囲まれて身動きが出来なくなるなんて、俺がこのゲームのプレイヤーなら「ふざけるな!」と怒ってコントローラーを投げ飛ばすだろう。


 これが今俺が考えられる精一杯の「普通じゃないダンジョン」だ!

 

「ぐぬぬっ!こんなダンジョンずるい…!」


 シンニュウシャは歯ぎしりして悔しがっている。

 あはは!どうだ!

 これなら昨日のようなことはないはず!



 さあ、ゴブ男にスラきちよ!

 袋叩きにしてしまえ!

 ガハハ!



 しかし…


 シンニュウシャの目は死んでいなかった。


 むしろ逆境に陥ったことで、さらに燃え上がっていたのである。



 ところが…


 それも俺の想定内のこと!


 その目を見て俺はニヤリと心の中で笑みを浮かべた。そしてとある覚悟を決めたのである。


 ひと昔前の俺なら考えもしなかった覚悟をーー



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