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第一層 ②

◇◇

 俺、タケトは元の世界ではどこにでもいる普通のサラリーマンだった。しかし生まれて初めて出来た彼女とそろそろ『大人のカンケイ』を意識をし始めたある日のこと。


ーー前々から思っていたんだけど、タケトくんって、何か普通でつまらないの


 と、衝撃的な一言によって振られた。

 それ以降は仕事にも手がつかなくなり、終いには大きなミスをやらかした。


ーーしばらく休め…


 いつも優しい上司にそう促されると、半ば強制的に有給を取らされることになったのだった。


 何もやる気が起きず家に籠る毎日。

 それでもいつも心の片隅では強がっていたんだ。


ーー俺だって…いつか見てろ…


 そんな時だ。

 

 俺の運命を変える出会いがあったのは…


 それは車に轢かれそうだったワンコを助けたら、その飼い主が美少女だった…


 なんて劇的なものではない。


 単に俺の部屋の中に文字通り『降臨』してきたんだ。


 女神ってやつが…


 緩やかな純白の布をまとい、大胆に露出した肌は透き通っている。背中には大きな翼。ふんわりとした長い銀髪に、美しい顔。その輝く姿に俺は口をぽかんと開けながら見つめていた。


 そして彼女は部屋に降り立つやいなや、突然両手を合わせると俺にお願いしてきたのだ。



「なんでも一つ願いを叶えてあげるから、異世界に転生して、とある女の子を助けてくれないかしら!?お願い!」


 得体の知れない相手とは言え、絶世の美女の頼み事に「No」など言うはずもない。

 親指を立てながら「任せておけ!」と返事をすると、早速一つだけ叶えてくれるというお願いをすることにした。


 それは…


「俺を異世界最強にして転生させてくれ!」


 というもの。そして俺は具体的にどう最強なのかを説明し始めた。


「まずはレベルは99で、魔法の使える剣士…」「分かったわ!異世界最強ね!お安い御用よ!じゃあ、あの子のこと、くれぐれも頼んだわよ!今回ダメだったら、あの子どうなっちゃうことやら…じゃあ、行くわよ!えいっ!」


 その女神はどうやらせっかちな人らしい。

 俺の話を遮って俺に魔法をかけた。

 その瞬間に全身が光に包まれてパニックに陥った俺。


「えっ!?ちょっと、心の準備ってやつが…ああああ!!」


 急に奈落の底へ落ちて行くような感覚に襲われると、そのまま急速に意識が薄れていったのである。


 視界が白一色に染まっていく中、俺は最後に後悔したんだ。



   ーーあの女神様の連絡先、聞き忘れた…


 と。


 そして目が覚めたらカルロッテが覗き込む顔があったのである。彼女は嬉々として俺に告げたのだった。


「お主はバハムートに変身出来るようじゃな! おお!これは異世界最強のダンジョンマスターじゃ!」


 とーー


………

……

 そんな遥かに昔のことにも思えるような思い出に頭を巡らせていると、急にカルロッテの緊迫した声が聞こえてきた。


「来たっ!シンニュウシャがダンジョンに近づいてきたぞ!気を引き締めるのじゃ!」


 その声にハッと我に返った俺は「よしっ!いつでもかかってきやがれ!」と気合いを入れ直す。

 すでにダンジョンの中で『ラスボス』として待機している俺はその姿をバハムートに変えて、シンニュウシャの襲撃を今か今かと待ちかまえているのだ。

 なお『ラスボス』は必ずダンジョンの一番奥にある部屋に配置され、自らの意志でその部屋から別の部屋へ移動することは出来ない。例外があるとすれば、何らかの罠に引っ掛かったりシンニュウシャの力によって移動させられたりした場合と、カルロッテに教えられたが今回はそれはありえないだろう。


 ちなみに女神見習いであるカルロッテはダンジョンの外にいる。

 彼女は中の様子を不思議な水晶で確認し、俺に対しては『女神の力』とかいう能力で声を届けることが出来る。

 そして俺もまた不思議な水晶でダンジョンの中の様子や音、さらにはモンスターやシンニュウシャのレベルや状態まで確認することが出来るのだ。

 なんという親切設計。ここまで至れり尽くせりなのに11日経った今もなお『第一層』すらクリアする事が出来ていないなんて…


ーーやっぱりタケトくんってつまらない人ね…


 という元カノの言葉がふと浮かんでくる。

 

 チクショウ!見てろ!

 これから絶対に面白いもの見せてやるからな!


 ここにいるはずもない元カノにイキがる俺。

 しかしそんなどうでもいいことに気を取られているうちにカルロッテの威勢のいい声が頭にキンキンと響いてきた。



「シンニュウシャがダンジョンに入ったぁ!これより交戦開始じゃぁぁ!!」



 ドクンと胸が高鳴ると同時にぞわりと鳥肌が立つ。

 

 いよいよこの時がきた!

 

 まずはシンニュウシャの状況確認だ。

 その為、俺は水晶を…



 覗き込まなかった!



 なぜなら覗き込む必要がないからだ。

 それはなぜかって?

 ククク…それこそ今回のダンジョンの肝…



「うおおおお!!見つけたぞ!ダンジョンマスター!覚悟ぉぉぉ!!」



 おお!早くも釣れた!シンニュウシャという大物が!

 

 しかしまだ彼はこのダンジョンに足を踏み入れたばかり。それなのに早くも『ラスボス』である俺を見つけた。それが示すことはただ一つ!


 ダンジョンへ入ってきたその瞬間に俺の姿が目に入ったからだ。

 つまりダンジョンの入り口から一直線の先にある小さな部屋に俺は鎮座していて、その間に遮るものは何もない。扉すら設けていないのだ。


 そして勇敢な性格のシンニュウシャ。俺を見つければ脇目も振らずに真っ直ぐに突っ込んでくるだろう。そんな俺の予想はどんぴしゃりと的中した。

 

 そうして彼はこのまま細い廊下を疾風のように駆け抜けてくるはず。その廊下の両脇には二つの部屋があるのだが、今のシンニュウシャならこれらの部屋のことなど見向きもしないないだろう。



ーーダダダダダッ!



 ダンジョン内に響く足音は彼が俺に近づくにつれて徐々に大きくなってくるのが分かる。

 よおし! 全ては想定通りだ!

 これから起こるであろう歓喜の瞬間に向けて俺の興奮も高まってきた。

 

「さあ、こい! 早くこい! そのまま! そのまま!」


 祈るような気持ちで俺はシンニュウシャを見つめ続ける。

 

 そして彼がちょうど廊下の真ん中あたりまでやってきたその時こそ…

 

 

 俺が待ち望んだその瞬間だった!!

 

 

    ――ギャオォォォォォォ!!――

 

 

 と、俺の雄たけびがダンジョンを震わせた。

 

――バハムートの咆哮は大陸中に響き渡る

 

 それだけの音量だ。ダンジョンのどこにいようとも聞こえない訳がない。

 

 そしてその咆哮こそ『とある合図』だったのである。

 

 それは…

 

――バンッ!

――バンッ!


 突如として廊下の両脇にある二つの部屋の扉が勢いよく開けられた。

 その扉の一つはシンニュウシャの前方にあり、もう一つは後方にある。

 そして次の瞬間…

 

「キィィィィィ!!」


 という甲高い声とともに10体のモンスターたちが扉から飛び出してきたのだ。

 つまり前方と後方の二手からモンスターたちによってシンニュウシャを挟み打ちすることに成功したのだった!

 

 突然のモンスターの襲撃にシンニュウシャの顔が驚きに変わる。

 その背中に迫るゴブリンとスライムの群れ。そして前方からも別の群れが迫る。

 

 

ギャオオオオ(よっしゃぁぁぁ)!!」

 

 

 俺は喜びの雄たけびを上げた。

 

 突然10体ものモンスターに前後を囲まれればパニックにならない者などいない。

 それは午前中の、


――むむぅ… 急に背後から迫られたら、誰もパニックになるのじゃ


 というカルロッテの言葉がヒントになった。さすがは我が相棒の幼女!だてに『二浪』した訳じゃないな!


 これでモンスターとシンニュウシャにレベル差があるにせよ、パニックに陥った相手を集団で襲えば撃破できること間違いなし!

 

 これぞまさに『挟撃きょうげきの計』!

 

 ははは!! これほどまでに上手くいくとは思いもしなかった!

 流石は俺!

 見たか!元カノ!!

 

 喜びのあまり小躍りが止まらない。もちろんバハムートの姿のままで。

 さあ、あとはシンニュウシャが可愛い俺のモンスターちゃんたちに撃破されるのを高見の見物をするだけだ。

 

 俺にはその光景がまるでスローモーションのように映っていた。


 不思議と感動がこみ上げてくるのも無理はないだろう。


 わずかレベル2と3の最弱モンスター集団。何度挑んでもかなわなかった高レベルの相手をまさに今この場で撃破しようとしているのだ。

 それはまるで弱小の野球チームが強豪チームに挑み勝利をつかむ、その瞬間と似ている。


 そして俺はそのチームの熱血監督だ。

 

 ゴブ男、スラきち… お前ら最高だぜ…!

 

 目じりに光るものを浮かべながら親指を立てる俺。

 

 いよいよ、九回ツーアウト、ツーストライク。

 

 あと一球!

 

 決めてやれ!!



 しかし… 次に目にした光景に俺は度肝を抜かれることになる。



 それは…

 

 

――カッキーーン!!



 白球が無情にもバックスタンドに飛ばされていくように…

 

 

「ぴきぃぃぃぃぃ」



 と、痛々しい叫び声を上げながら一体のスライムが俺の足元まで吹き飛ばされてきたのだった――




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