第三層④
今回のシンニュウシャはモデルがおります。
「らの」様という作家様です。
この登場人物像は限りなく本人に近い形でお送りします。
※もちろんフィクションです
第十五日目 夜――
私、リズ・フランツにとっての初めてのシンニュウシャ撃退戦が始まった。
女神見習いのカルロッテ様が女神へと昇進する為には、ダンジョンを防衛しながら第五層まで完成させる必要がある。
私はダンジョン作りを手伝うメイドとしてここへやって来た訳だが、そのダンジョン作りを妨害する存在があるとのこと。
それが『シンニュウシャ』と呼ばれる存在だ。
彼らは毎日夜になるとダンジョンの攻略にやってくる。
そして彼らにダンジョンのボスである『ダンジョンマスター』が倒されればその時点でカルロッテ様の女神への昇進の道は閉ざされてしまうのである。
つまりダンジョンマスターを倒されずにシンニュウシャを撃退する。
その為のダンジョンを作り上げるのが、カルロッテ様と私たちメイドに課せられたミッションなのである。
ところが……
肝心のダンジョンマスターがあのど変態のタケトなる男だとは……
私がここにやってきたその日に、素っ裸で馬の真似をしながら「ヒヒィィン」といなないていた変態なのだぞ……
今までよくシンニュウシャたちを撃退出来たものだ。
それも全て今私の隣でダンジョンの中の様子を真剣な表情で見つめているカルロッテ様が優秀であるからに違いない。
ああ…… カルロッテ様はこんなにも幼いのに、大変なご苦労をされてきたのですね。
私がこのままずっと守って差し上げたい。
そしてそのうち私たちは一つに……
ゴホンッ!
高潔の戦乙女であるはずの私が何とはしたないことを考えているのだ!
私は自分で自分を厳しくいさめた。
と、その時であった。
「シンニュウシャが来たのじゃ! 」
というカルロッテ様の緊張した声が響いてきた。
私は視線をカルロッテ様から水晶の方へ移す。
するとダンジョンへと向かう二人の人間らしき姿が目に入ってきた。
あれがシンニュウシャか。
それは人間のような姿をしているが単なる人形だ。
しかし人形とは言え、個々にレベル、顔立ち、性別、性格も違えば、なんと感情も持ち合わせているらしいというから驚きである。
「今回のシンニュウシャは二人なのにゃ! 」
と、メイドの同僚であるミャアが目を丸くしている。
どうやら今までのシンニュウシャはみな一人だったということか。
手ごわいシンニュウシャが二人ともなると、タケト一人ではどうにもならないのではないか!?
そもそもあのタケトという男では……
私はさっと顔を青くした。
しかし、カルロッテ様は引き締まった表情を何一つ変えることなく高らかと告げたのである。
「うむ! 相手が一人だろうと二人だろうと大丈夫じゃ! 」
「カルロッテ様… どうしてそのように自信がおありなのですか? 」
私は思わずそう問いかけざるを得なかった。
それほどまでにカルロッテ様から放たれているオーラが自信に満ち溢れているからだ。
するとカルロッテ様は口元に笑みを浮かべながら明るい声で答えたのだった。
「何を申しておるか!? リズとミャア、そしてわらわの三人でダンジョンを作ったのじゃぞ! 」
私はこの時点でハッとした。
そして強烈な後悔の念が襲ってきたのである。
そうか……
カルロッテ様は信じておられるのだ……
自分の実力だけではなく、私たちメイドの事も。
感動のあまりに目がしらが思わず熱くなる。
ああ…… なんと健気なカルロッテ様……
抱きしめたい!!
そんな衝動をどうにか抑えていると、カルロッテ様は続けた。
「それにわらわたちにはタケトがいるではないか! タケトなら絶対にどうにかしてくれるはずじゃ! 」
「むむっ…! あのど変態のことをそんなに信頼されておられるのですか!? 」
「タケトは変態にゃ! それに冴えないにゃ! でもやる時はやるオスにゃ!!」
「その通りじゃ! タケトはエロくて、モテなくて、本当にどうしようもない男じゃ! でも、やる時はやるのじゃ! 」
なんと……
そこまでタケトなるど変態を信頼されておられるというのか……
私は思わず唖然としてしまった。
と、その時だった。
水晶から何やら沈んだ声が聞こえてきたのである。
――おおい、みなさぁぁん。分かっているとは思うけど、今の声全部こっちに聞こえてるから。俺のガラスのハートはまさにブレーク寸前ですからぁ
「おお! タケトか! そっちの様子はどうじゃ!? 」
――どうじゃ、と言われてもなあ… まあいつもと変わりねえよ
「うむ! ならよいのじゃ! 今回はいかに屈強なシンニュウシャだろうとも早々簡単には破られぬ! 安心してラスボスの部屋で待機しておるがよい! 」
――そうか、その言葉信じてるからな。…んで、今回のシンニュウシャの情報を教えてくれ
「分かったのじゃ! そっちの水晶に情報を映すから、ちょっと待っておれ! 」
その言葉を言い終えるとともにカルロッテ様は水晶を優しく撫ではじめた。
すると水晶にシンニュウシャの情報が映し出されたのである。
▼▼▼▼
シンニュウシャその①
名前:ラノ
性別:オス
レベル:25
得意技:「料理」「口説き」「かばわれる」
特徴:
・イケメンで性格も良い
・思わず守ってあげたくなるオーラを身にまとっている
・今まで何人もの女性と付き合ってきた
・どれほど女を泣かせてきたことか。ただし本人に「泣かせた」という自覚はなし
・年上から可愛がられることが多く、「年上キラー」とか「熟女キラー」とも呼ばれている
・しかし本当に人を好きになったことはないらしい
・こう見えて一途で純情だが、他人からはチャラいと思われがち……と本人は思っている
・料理が上手
・必殺の口説き文句「君の胃袋をつかませてくれ!」
シンニュウシャその②
名前:チャチャ
性別:メス
レベル:35
得意技:「回復魔法」「串刺し」
特徴:
・綺麗系というよりは可愛い系
・ラノの事を心から愛している
・一途
・少し嫉妬深いところあり
・ラノより年上
・付き合って三ヶ月目だが、ラノが最後の彼氏と決めている
▲▲▲▲
な……な……なんなのだ!?
これは……!?
どうでもいいことばかりじゃないか!!
しかもラノなる男からはとてつもなく『軽い』ものしか感じないが、
チャチャなる女からはラノの軽さを遥かに超える『重量感』がある。
いや! そんなことを感じている場合ではない!
こんな情報では何の役にも立たないではないか!?
これではダンジョンの防衛など出来るはずもない!!
私は思わずカルロッテ様の顔に視線を移した。
無論「これ以外の情報はないのですか!?」と問いただす為だ。
しかし、その問いが口をついて出てくる前に水晶から声が聞こえてきた。
――ああ…… 今回はそういう感じなのね。シンニュウシャが男女と聞いた時点で覚悟はしていたけど、やっぱりカップルかぁ
「しかもお主の苦手なイケメンなのじゃ」
――べ、別に苦手じゃねえし! 女連れのイケメンを見たからって嫉妬とかしねえし!
「にゃはは! タケトはカップルが嫌いなのにゃ? 幸せそうな二人を見ていると不幸な自分がみじめに感じるからかにゃ!?」
――おいっ! そこのエロ猫! そういう事言うと俺泣いちゃうからな!
なぜなんだ……!?
なぜこんなにも能天気なのだ!?
私には理解に苦しむ状況と言わざるを得ないだろう。
しかしそんな私の混乱など誰も気に留めることもなく、シンニュウシャたちはいよいよダンジョンの中へと侵入していったのである。
仲良く腕を組みながら……
そして心配そうに顔を暗くしている女の方を見つめながら男が明るい声で言った。
「チャチャ、大丈夫だからね! 僕が君を守ってみせるから!」
言っておくが女よりもお前の方がレベルは低い。
私は心の中でツッコミを入れた。
「ラノ君…… ありがとう。私、一生ラノくんについていくわ! 」
ぐっ…… いきなり重い! 重すぎる!
「ははは! チャチャは可愛いなぁ! 大丈夫! 僕がついているからね!」
もう一度言おう。
貴様の方が、女よりもレベルが低い。
守ってもらうのは貴様の方だ。
「ふふ、ラノ君を見ていると何だか元気が出てきちゃった! 初めての共同作業だね! 」
ぐはっ…… まるで巨大な鉛玉を背負わされたような重さだ!
一体なんなのだ!?
抑えきれないイライラとした感情が胸の中をひっかきまわしてくる。
……と、その時だった!
――キイィィィィ!!
と、ダンジョンに配置したモンスターのゴブリン(メス)がラノ目がけて飛びかかってきたのである。
「なにっ!?」
完全にチャチャのケツの方へと気を取られていたラノの反応が遅れる。
「よしっ! やってしまえ!!」
私の応援は今まで経験したことがないほどに熱が入っていた。
そしてこのままゴブリンの一撃がラノを直撃する、その瞬間だった。
――自動発動スキル!『かばわれる』!!
と、ラノの全身がほのかに光ると、隣にいたチャチャがラノの前に立ちはだかったのだ。
無論それは彼の身代わりにモンスターの攻撃を受ける為であった。
――ザシュッ!!
チャチャの腕をゴブリンの一撃がかすめる。
「チャチャ!! 」
しかし致命傷には程遠い一撃だったようだ。
すぐに態勢を整えたチャチャ。
そしてみるみるうちに彼女の表情が変わっていった。
夜叉の形相に!!
「てめぇぇぇ!! 私のラノに何しとるんじゃぁぁぁ!! このメスブタがぁぁぁ!! 」
と金切り声をあげると、スキルを放った。
――スキル!『串刺し』!!
するとチャチャの手に巨大な光の槍が現れる。
そしてその槍で容赦なくゴブリンの胸を貫いたのだった。
――ギャアアアア!!
無惨にも息の根を止められるゴブリン(メス)。
しかしそんな彼女のことなどまるでいないモノかのように、チャチャはラノの方へと駆け寄った。
「大丈夫!? 怪我ない!? でも、安心して! もしラノ君が傷物になっても私は構わないから! 私も傷に寄り添って一生を添い遂げるから! 」
いやいや…… その男をかばって傷を負ったのは貴様の方であろう。
そして重すぎるぞ、その発言も。
「ははっ! チャチャは優しいな! 僕は大丈夫さ。でもチャチャの方こそ腕に怪我を負っているようだ。見せて! 僕が治してあげる!」
「えっ……!? ラノ君、そんなことされたら私、どうにかなっちゃうわ」
「いいから、いいから! ちょうど薬草が… あれっ? おかしいな? 忘れてきちゃったのかな? 」
「ふふ、ラノ君はおっちょこちょいなんだから! でもそんな所も可愛いぞ! 大丈夫、私自分で治せるから」
――スキル!『回復魔法』!!
チャチャがスキルを放った瞬間に、彼女の負った傷はすっかり元通りになったではないか。
なかなかあなどれぬスキルだ。
しかしそれ以上になんなのだ!?
この甘酸っぱい雰囲気は……
思わず唾を吐きたくなるほどに、口の中が酸っぱい何かでいっぱいになる。
ところが水晶の中の二人はそんな私の苦々しい顔などつゆとも知らずに続けた。
「チャチャ、我慢はいけないよ! 体の傷は治ってもモンスターに襲われた心の傷は癒えていないだろ!」
「ラノ君…… 私なら大丈夫だから。ラノ君さえ側にいてくれれば、それだけで平気だから」
「いや、そういう訳にはいかない! だって君は…… 君は僕の……」
ラノが無駄に溜める。
いつまで続くのだ? このくだりは。
たかだか一匹のゴブリンを倒しただけなのに……
そしてラノはダンジョン中に響き渡るような大声で言ったのだった。
「愛する人だから!! 」
と……
「ラノ君! 私の方があなたを愛してる!! 」
――ガシッ!
チャチャが涙を流しながらラノに抱きつく。
そんな彼女を優しく引き離したラノは、ささやくような声で言った。
「痛いの、痛いの飛んで行け! 」
痛いのはお前だ!
そして…
チュッ……!!
と、ラノは彼女のおでこにキスをしたのだ!
その瞬間にチャチャは顔を真っ赤に染めると潤んだ瞳でラノを見つめた。
ラノもチャチャを見つめる。
そして……
とうとう二人の影は一つになった――
――ドゴォォォォン!!
私は反射的に近くに生えていた大木に、自分の拳を力の限りぶつけたのだった。
言いようのない怒りをぶつけるように……
――メリメリメリ……
高さ30mはあろう大木が私の一撃によって大きな音を立てて倒れていく。
その様子をカルロッテ様とミャアが顔を青くして眺めていたが、それでも私の気持ちは収まらなかった。
「滅してしまえ!! リア充どもぉぉ!!」
天を突きぬけるような私の声が響き渡ると、その声にびっくりした鳥たちが一斉に飛び立っていった。
なぜだ!?
なぜこんなにも私は取り乱しているのか!?
自分でも訳が分からない。
しかし一つだけはっきりしていることがある。
それは……
あーあ、イライラする!
ということだった。
しかし、そんな私と全く同じ思いの人間がもう一人いたようだ。
その人間の声は水晶を通じて響いてきたのであった。
――爆ぜろ…… リア充どもめ……!
その次の瞬間だった。
私は凄まじい光景を目にしたのである。
――ドッカァァァァァァン!!――
耳だけではなく脳内まで揺れる程の爆音。
目をくらませるような眩い閃光。
そして木端微塵に吹き飛ばされていくダンジョン……
まさに刹那の出来事。
私は目の前の光景に釘付けとなってしまった。
先ほどまでの鬱陶しいシンニュウシャたちのことなど、もはや思い出すことすら出来ない。
それほどまでに衝撃的で……
美しかった。
そして……
灰と化したダンジョンのあった場所に佇む一人のドラゴン。
その崇高なる漆黒に私は……
恋に落ちた。
しかし忘れてはならないことがある。
私が恋に落ちたその瞬間……
ダンジョンもまた崩れ落ちたということを――
第十五日目
第三層 防衛戦
失 敗
爆ぜろ! リア充!
を本当にやってみたくて、こんな風にしてみました!
いかがでしたでしょうか。
作家様の「らの」様は「凶から始まる凶同生活!」などを手掛けてらっしゃるイケメン料理長です!
是非こちらの作品もご覧いただければと思います!




