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第三層③

◇◇

ーータケト! あんたまたブツブツと独り言漏らしてたわよ! やめなさい! みっともない!



 なんで今、そんな母さんの言葉が浮かんできたんだろうか。

 まさか俺は今、母さんを求めているのか!?

 俺はホームシックなのか!?

 それともマザコンなのか!?

 なぜ父さんとウザい妹のことは思い出さない!?


 まあ、どうでもいいっか。


 何はともあれ今は…



    暇なのだ!

    

    

 とは言え、何もすることは見当たらない。

 

 仕方ないから寝転んで何か考え事でもするとするか…

 

 そう考えた俺は草むらに仰向けになって空を眺めた。

 そして無心になって、次に胸の内に何が浮かんでくるかを待ったのである。

 

 …と、その時。

 ダンジョンの上空に何か見えた。

 

 ん? 今ダンジョンから何か飛んでいったぞ?

 

 そして…

 

 ん? 今度は落ちてきたぞ?

 

 しかしダンジョンから物を星のように飛ばすことなんてありえない話だ。

 さらにそれが戻ってくるなんて…

 

 何かの見間違いだろう、と俺は思い直して再び無心になることにした。

 

 

 すると浮かんできたのは…

 

 

 ダンジョンにいる三人の事だった――

 

 

 無心なのにあの三人のことが浮かんでくるなんて…

 俺も相当毒されてきちまったのかな。

 あの能天気な落ちこぼれ女神見習い様に…

 

 しかしそのカルロッテはすごい根性の持ち主だよなぁ。

 

 この女神昇進試験を二回落ちても、なおもめげないなんて…

 俺なら完全に諦めているな。

 それだけでも本当にすごいことは認める。

 

 しかも百年に一回しか受験出来ないこの試験。

 彼女は悔しい想いで少なくとも二百年は過ごしてきたんだと思うと、

 こっちまで何だか悔しくなってきたじゃねえか。

 

 あんな可愛らしい顔して、心の中では悔し涙を流した日々を送ってきたのか…

 

 今回だけは何とかしてやりたい!

 あらためてそう思う。

 

 でもこの女神昇進試験が終われば、彼女とはお別れなんだよな。

 なんだかそれも寂しい気もする。

 

 俺はそんな湿った気持ちを振りきる為に次の人の事を思い浮かべることにした。

 

 

 

 次はミャアか。

 

 おバカでエロい猫のミャア。

 パパのくだりを『先生』から聞いた時は驚いたな。

 でもそのパパに大事に育てられてきたんだろうな、というのは何となく分かる。

 あんな風に嬉しい時は素直に嬉しいと言える純朴さを、俺はいつの間にか失っているよな。

 彼女を見ていると自分が失ってしまった何かを思い出す。

 

 素直に羨ましいぜ…

 

 そしてその純朴な態度がまた可愛いんだよなぁ。

 時折見せる潤んだ瞳とか、まじで可愛すぎて反則だろ。

 彼女が猫じゃなかったらコロリと落ちてしまったに違いないだろう。

 

 ほんと、猫じゃなければなぁ…

 

 俺はドキドキした気持ちに区切りをつける為、次の人の事を思うことにした。

 

 

 

 最後はリズか。

 

 正直彼女のことは全く知らない。

 むしろ怖い思いしかさせられていないからな。

 

 ただあの毅然とした態度。

 それに全く剣筋が見えなかったあの剣の腕前。

 それだけで彼女が優秀な騎士であったことは容易に想像がつく。

 

 しかも絶世の美女。

 

 どこからどう見ても手の届くことのない高嶺の花だろ。

 

 おおよそ俺みたいな凡人じゃあ近づくことすら許されないような高潔の美女が側にいるというだけで緊張してしまうのは、仕方のないことだ。

 ただカルロッテにしてみればあんな優秀な騎士がメイドとしてきてくれたのは幸運なことだと思う。

 彼女ならきっと大きな力になってくれるに違いないからな。

 

 いつか俺も彼女ときちんと話す機会が作れたら嬉しいな。

 

 

 

 たかだか十五日間、つまり半月しか共に過ごしていないのに、

 こんなにも彼女たちのことが俺の中の大半を占めるようになったのか。

 

 最初は嫌で仕方なかったけど、今はここに来られて良かったと思っている自分が怖いくらいだ。

 そして素敵な仲間にも出会えたのは、俺の一生分のラッキーを使い果たしちまったんじゃねえかって思えるくらいに幸運なこと。

 

 こんな恥ずかしいこと、面と向かって言えねえからな。

 

 ほんとみんなには感謝している、

 

 心の中だけでもそう言っておくか。

 

 俺はあらためて回りを見回す。

 もちろん誰一人としていない。

 

 それを確認した後、俺は言った。

 

 

   「みんな、愛してるぜ」



 と。

 

 

 

 …と、その時だった。

 

 俺の脇の下に何か固い物が当たっているのに気付いたのだ。

 

 

「なんだ? これ?」



 俺はそれをおもむろに手にした。

 

 しかし…

 

 その瞬間…

 

 俺は一生分の後悔をすることになるのである…

 

 

 俺の手にしたものとは…

 

 

 水晶であった――

 

 

 俺はそれが一体何であるかを知っている。

 そしてこの水晶の持ち主が誰であるかも。

 

 さらに…

 

 その水晶に秘められた機能のことも…

 

 

 俺は恐る恐るその水晶の中を覗いてみた。

 

 すると…

 

 そこに映しだされたのはダンジョンの内部。

 三人の女の子が全員顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうにしているではないか…

 

 

 やばい…

 

 

 絶対に聞かれてしまったよな…

 

――みんな、愛してるぜ――


 って言葉。

 

 俺は慌てて水晶に向かって言い訳をした。

 

 

「なあ、さっきのはあれだ! 前の世界にいた俺の家族を想ってだな…! か、勘違いするなよ!」



 しかし…

 

 

「タ、タケトはわらわとバイバイするのが、そ、そんなにも寂しいのか… うむ、それは仕方がないのう。こ、この試験が終わっても、わ、わらわの側にいることを特別に許すことを考えておこうではないか」



「ミャアは嬉しいにゃ! タケトが可愛いって言ってくれたにゃ! ドキドキするって言ってくれたにゃ! ミャアもドキドキしてるにゃ! ミャアはタケトのこと大好きにゃ!! パパに早く紹介したいにゃ!」



「べ、べ、べ、別に嬉しくなんてないからな! わ、わ、私はお前のような変態に何を思われようとも、ぜ、ぜ、全然なんとも思ってなんてないんだからな!」



 うん、全部ばっちり聞かれてしまったらしい。

 

 

 母さん…

 母さんが口うるさく俺のことを叱ってくれた理由がようやく分かったよ。

 

 今日も空は青い。

 

 俺は今…

 

 

   ――鳥になりたい――


 

 

 



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