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第三層②

◇◇

第十五日目 昼 ダンジョンの中――



 カルロッテ、ミャア、そしてリズの三人はコツコツとダンジョン作りに取り組んでいた。

 そんな中、カルロッテが眉をしかめて自分の体のあちこちを触っている。

 


「あれ? おかしいのう…」



 そんな彼女の困った声にメイドであるミャアとリズは一旦手を止めて、彼女のもとまでやって来た。

 

 

「どうしたにゃ? ゴシュジン様」


「うむ… 見当たらんのじゃよ。わが水晶が」


「水晶… でございますか」


「うむ… ダンジョンの中を覗いたり、その中にいる者に声を届けることが出来たりする水晶のことじゃ」



 きょろきょろと周囲を見渡すカルロッテ。

 そこにミャアが彼女の体の隅々までぺたぺたと触りだした。

 

 

「ちょ、ちょっとミャア!? 何をするのじゃ!? くすぐったいのじゃ!」


「ゴシュジン様の服の中のどこかに隠れているかもしれないのにゃ! だからぼでぃちぇっくしてるにゃ!」



 その様子にリズの顔がみるみるうちに真っ赤になった。

 そして唾を飛ばしながらミャアに言ったのである。

 

 

「な、何を羨ましいことを… もとい! 礼儀知らずも程があるぞ、ミャア殿!」



 するとミャアはカルロッテの背中に回って彼女の背中やお尻をぺたぺたと触りながら言った。

 

 

「んにゃ? リズも手伝うにゃ! リズは正面からぺたぺたするにゃ!」


「な、な、な、なんですとぉぉぉ! わ、わ、わ、私がカルロッテ様の正面から!? ふー、ふー」



 既になぜか鼻息の荒いリズに対して、カルロッテは顔を青くして言った。

 

 

「よく分からんがリズよ。お主から良からぬオーラを感じるのじゃ」


「そ、そ、そ、そんな事あるわけございません! カルロッテ様! わ、わ、私がカルロッテ様の体をタッチ出来るからって興奮してしまったなんて、そんな事あるわけないではございませんか!」


「そうか… それなら良いのじゃが… では、リズも頼む」



 リズはそのカルロッテの言葉に戸惑っていた。

 

 ああ、私はアルテ様に身も心も捧げると誓ったのだ。

 それを事もあろうことか、そのご息女様に初めての『タッチ』を捧げることになるとは…

 しかしこれも全てカルロッテ様がお困りの様子であるがゆえのこと。

 アルテ様、私はカルロッテ様をお助けする為に、カルロッテ様のあんなところやこんなところを『タッチ』して差し上げるのです。

 どうか、この罪深きヴァルキリ―をお許しください。

 

 

    ぐへへ…

 

 

 と。

 

 そしてリズは手をぷるぷるさせながら、そぉっとカルロッテの平らな胸にその手を伸ばした。

 

 そして…

 

 ピタッ…

 

 その手がカルロッテの胸に触れた瞬間…

 

 

「ぐわああああああ!」


 

 とリズは叫び出した。

 

 

「どうしたのじゃ!? まさか、みつかったのか!?」


「おお! リズすごいにゃ! ふぁーすとたっちで見つけちゃったにゃ!」



 しかし!

 

 それは単に感動したからゆえの叫び声だったのである!

 

 そしてリズはこう心に誓ったのだ。

 

 

    一週間はこの手を洗えない!

    

    

 と…

 

 ところがもちろんそんな彼女の感動などカルロッテとミャアが分かるはずもない。

 

 まずい! 取り乱した!

 ここは的確な報告で挽回をしなくてはならぬ!

 

 リズはそう思いなおして姿勢を正した。

 そして目を輝かせながら見つめてくる彼女たちに、リズは「ゴホン」と咳払いを一つして言ったのだった。

 

 

「いえ、ここには『何も』ございません。いかなる凹凸すらございません。単なる固い平面でございます」



 そのリズの淡々とした口調の報告に、カルロッテは青筋を立てながら言った。

 

 

「リズ… お主、わらわに喧嘩を売っておるのか…?」


「い、いえ! 滅相もございません! 私は…」


「もうよい! タッチはもう終いじゃ! どうせどこかで見つかるだろう! もう水晶探しは終いじゃ!」



 明らかにぷんぷんと怒っているカルロッテ。

 

 そんな彼女を見てリズは首をかしげていた。


 なぜだ…?

 なぜカルロッテ様は私に対して猛烈な怒りを向けておられるのか…

 てんで見当もつかぬ…

 

 

 しかし…

 

 彼女の頭の中にピンと、とある考えが浮かんだのだ!

 

 そうか…

 カルロッテ様は『タッチ』で水晶を見つけることが出来なかった私の不甲斐なさを嘆いておられるのだ!

 このままでは『閃光のヴァルキリー』の名がすたる!

 なんとか汚名返上をしなくては…

 

 しかしどうしたものか…

 

 もうボディタッチが使えないとなると、探す手段がないではないか…

 

 とその時だった。

 

 

――ゴツン…!



 と、レンガが床に落ちる大きな音がした。

 その大きな音にびっくりして飛び跳ねたカルロッテが口を尖らせる。

 

 

「のわっ! びっくりしたではないか!? ミャア、注意いたせ!」


「ごめんなさいにゃ! 手が滑っちゃったにゃ!」



 何の事はない。

 単にミャアがレンガを床に落としてしまった音だった。

 

 

 …と、その瞬間だった。

 

 

 リズにとある考えが浮かんできたのである。

 

 そうか…

 モノというのは、落ちるものなのだ。

 

 ならば…

 

 

    ふるい落とせばいいじゃないか!

    

    

 と…

 

 そして彼女はおもむろにカルロッテの前に立った。

 リズの口を引き締めたその表情に、カルロッテの表情も引き締まる。

 

 

「どうしたのじゃ? リズ」


「カルロッテ様、両手をよろしいでしょうか?」


「両手? こうか?」



 カルロッテはその小さな手をリズの前に差しだした。

 

 するとリズは、その両手をぎゅっと握った。

 

 そして…

 

 

「カルロッテ様! しばらくの辛抱です! これで必ずや水晶を見つけてみせましょう! やあっ!!」


「な、なにをするのじゃ!? うわっ! うわあああああ!!」



 なんとリズは自分の体を軸にして、カルロッテごと回転し始めたのである。

 

 

――ブン! ブン! ブン! ブン、ブン、ブン!



 そのコマのような回転はどんどん早くなっていくと、もはや目で追う事がかなわないほどになっていく。

 


「うぎゃああああああ!!」



 カルロッテの叫び声が聞こえる一方で、

 

 

「キャハハハ! ゴシュジン様、すごいにゃ! ミャアもやって欲しいにゃ!」



 と、ミャアは目を輝かせながらその様子を見ていた。

 

 しかし当のリズは至って真剣。

 

 おかしい… ここまでやっても水晶が出てこないとは…

 くっ…! かくなる上は『重力』に頼るしかあるまい!!

 

 そのように考えた彼女は、ぐっと腹に力を入れる。

 

 そして…

 

 

「どりゃあああああ!!」



 という大きな掛け声とともに…



――ブオオオオオオン!!

 

 

 と、カルロッテを大空へと投げ飛ばした。

 

 

「うわああああああ!! た、助けてえええ!!」



 カルロッテの絶叫が大空にこだます。

 しかし彼女のその声は虚しく木霊すだけであった…

 

 

  ――ピンッ!!――

    

    

 彼女は青空の中に消えていった。



「おお! ゴシュジン様が飛んだのにゃ! 鳥さんになったのにゃ!」



 ところが…

 

 水晶はどこにも落ちていなかったのだ。

 

 

「これでもダメなのか… 流石はカルロッテ様の水晶! なかなかやるな!」



 まるで突然現れたライバルに向けるような言葉を漏らすリズ。

 ミャアは「次はミャアの番にゃ! ミャアも鳥さんになりたいにゃ!」とリズにまとわりついている。

 

 

 そして…

 

 

――ギュイイイイン!!



 という轟音とともに、点が落下してきた。

 

 

「ぎゃあああああ!! 助けて欲しいのじゃあああああ!!」



 それは泣きながら手足をばたつかせているカルロッテだ。

 するとリズは素早く彼女の落下地点に回り込む。

 

 

――ズドォォォォン!!



 カルロッテを見事にキャッチしたリズ。

 豪快な音とともにリズの足が石の床にめり込んだのだが、

 リズは涼しい顔のままだ。

 

 そしてなおも恐怖に顔が引きつっているカルロッテに向けて、リズは淡々とした口調で報告したのだった。

 

 

「カルロッテ様、どうやらカルロッテ様の服の中には水晶はございません」



 と――

 

 

 この時、カルロッテはようやく理解した。

 

 なぜ母のアルテが、長年仕えてきたリズを側に置こうとしなかったのか、


 ということを――

 

 



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