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第三層①

◇◇

 第十五日目 昼ーー


 女神試験の期限まであと6日。

 残る階層は三つだ。

 ようやくここまで来て折り返し地点といったところか…

 もう一日も無駄に出来ない。

 そしてこの第三層を一から作ることが出来る今日は、最重要といっても過言ではなかろう。

 なぜなら第二層は、エロくておバカな猫によって、ゴージャスでシンニュウシャにとっては快適この上ない作りになってしまったのだから…


 しかし…


 俺はこの日、

 ダンジョンを遠く離れたところから見つめていた。


 つまりダンジョン作りに参加していなかったのである。

 いや、正確に言えば『参加させてもらえない』のだ。


 それは…



「貴様ぁぁぁ! 今、一歩動いたであろう! あれ程『そこから動くな』と命じたのに、余程その粗末な命が惜しくないと見える!」



 と、聖剣に手をかけて叫んでらっしゃる怖いお姉さんに、きつく命じられていたからであった。



………

……

 それは俺がまだ『お馬さん』だった頃の話だ。


ーー貴様のような『ど変態』が、麗しきカルロッテ様に近づくことなど、このリズ・フランツが許さん!


 顔を真っ赤にした美女が、俺に向かっていかつい剣を突きつけて怒り飛ばしてきたのは。


 そりゃそうなるわな…


 パンツ一丁の男が、両手を広げながら「ヒヒィィン!」と言って近づいてきたら、誰でも『ど変態』だと思うわ。


 それは否定しない。


 だからこそ!


 俺には強力な証言者が必要であった!

 そして俺にはその存在が二人もいるではないか!


 俺の『無罪』を、そして純潔を証明してくれる仲間が!


 今こそ俺たちの強固な絆を見せる時!


 苦楽を共にしてきたあの時間は、

 聞いた者を涙させるに違いない。


 そしてこの激おこプンプン丸なお姉さんもこう思うはずなんだ。



ーー私もチームに加われて嬉しい! タケトさんと共に人生を歩んでいきたいわ!



 と…



 しかし…


 期待した俺がバカだったんだ…



    あいつらに…



ーーおお! 誰かと思えばあのリズ・フランツではないか!?



 むむっ!?

 どうやらカルロッテはこのリズなるお姉さんのことを知っているらしい。

 これはまたとないチャンス!

 カルロッテよ!

 さあ、証言するんだ!

 俺の無実を!



ーーカ、カルロッテ様! まさか私ごときの名をご存知でおられるとは…! 光栄至極でございます!


ーー当たり前であろう! お主の忠勤ぶりは、お母様、つまり女神アルテ様からよく聞いておる


ーーま、ま、ま、まさか!? アルテ様が!? そんなぁ! 私は! 私は幸せにございます! うわぁぁぁぁん!


ーーうむうむ、よしよし、泣くでない。こっちまでウルっときてしまうではないか。ぐすっ…



 おいおい…

 なんなんだ?

 この展開は…

 気づけばミャアまでもらい泣きしているではないか。


 肩を抱き合いながら互いの涙を拭いている三人。


 この時点で何やら良からぬ雰囲気なんですけどぉ。

 俺は思わずカルロッテに声をかけた。



ーーあのぉ… カルロッテ。



 その瞬間だったーー



ーージャキィィィン!!



 と、音速で俺の目の前に光る剣が突きつけられたのは…!



ーーおわっ!! 危ねえな! 何をするんだよ!?



 俺はその剣の持ち主であるリズに唾を飛ばす。

 ほ、本当に怖かったんだぞ!

 ぱ、パンツが少しだけ濡れちゃったんだぞ!


 するとドスの効いた低い声でリズは言ったのだった。



ーー貴様のような『ど変態』が、カルロッテ様のことを呼び捨てにするなど許されるはずもなかろう。その首がまだつながっていることだけでも感謝せよ…



 すると…

 その一触即発の雰囲気を見て、俺に手を差し伸べてくれたのは…



    カルロッテだった…!



ーーまあまあ、リズよ。その辺で許してやってくれ


ーーは、はぁ…? さようでございますか…



 カルロッテの言葉に渋々腰に剣を戻すリズ。


 おおっ!

 やはりやる時はやる奴だったんだ!

 この未来の女神様は!


 俺は思わず親指を立ててカルロッテに合図をする。

 すると彼女もそれを見て、力強くうなずいた。



ーーここにいるのはタケト。わらわのダンジョンマスターじゃ


ーーはぁ? しかしダンジョンマスターがなぜこのような変態なのでしょう?


ーー確かにタケトは変態かもしれぬ。しかしその心根はしっかりしておる男じゃ!


ーーは、はぁ…?



 よぉぉぉしっ!!

 これで俺の無実はほぼ確実!

 言ってみればキーパーのいないゴールに向けてボールを流し込むだけの状況だ!


 さあ、決めてしまえ!

 栄光のゴールを!!


 しかし…


 彼女がその状況で選択したのは…


 バックパスだったーー

 


ーータケトは約束をしてくれたのじゃ。『責任を取ってくれる』と。そんな男なのじゃよ


ーー責任…でございますか…



 するとカルロッテは顔を赤らめて続けたのだった。



ーーそうじゃ、わらわの一糸まとわぬ姿を見たその責任を取ってくれるそうじゃ。その心意気、素敵だと思わんか?


ーーな、なんですと…? 今なんとおっしゃいました?


ーー心意気が素敵ということか?


ーーいえ… その前でございます…


ーーわらわの一糸まとわぬ姿を見たということか?



 その瞬間だった!



ーージャキィィィン!!


ーーピッ…



 俺の鼻を音速の剣がかすめていったのだ。

 あまりの怒りに剣は乱れ、そのおかげで辛うじて俺の首は無事らしい。

 もちろんそれは怒りに打ち震えているリズによるものであった。



ーーぎゃぁぁぁ!! な、な、何をするんだよ!? 血が出ちゃってるだろ!


ーーうるさい! うるさい! この『ど変態』!! ずるいではないか!!


ーーはっ…!? ずるい?



 ピタリとリズの表情が固まる。

 しかしそれも一瞬、再び顔を真っ赤にして怒り出した。



ーーもとい!! 下賤の者にも関わらず、高貴なカルロッテ様への不埒な行為!! 貴様だけは絶対に許さん!! 次は外さんぞ!!


ーーちょ、ちょっと待て! おいっ! ミャア! 何か言ってくれ!



 俺は藁をもすがるようにミャアに助けを求めた。

 ミャアは力強くうなずく。


 しかし…


 このおバカな猫に話を振った時点で…


 爆弾の導火線に火をつけたも同じだったんだ。



ーータケトは確かに変態にゃ! でも、とっても優しいにゃ!


ーーむっ! どうせくだらぬ話だろうが、一応聞いてやる



 しかしそれは本当にくだらない話だったんだ…



ーーミャアが一人寂しくしていた夜に、優しく抱き寄せてキスしてくれたにゃ!! とっても優しいのにゃ!



 その言葉の終わらぬ間に…


 タケトは逃げ出した!


ーージャキィィィン!!


 その背中に容赦なく必殺の一撃が襲ってくる。


ーーピッ!


 それは俺の貴重なパンツが裂けた音だった。



「ひぃぃぃぃ!」



 俺は思わずお尻を抑えた。

 まずい!

 このままでは命がいくつあっても足りない!


 逃げろ! 逃げろ! 逃げろぉぉぉ!!



 こうして俺は彼女たちの前から姿を消したんだ。


 そんな俺の背中から浴びせられる容赦のない罵声…



ーー貴様がダンジョンマスターである間だけは生かしておいてやろう! ただしそこから一歩でもカルロッテ様に近寄ってみろ! その首と胴は離れると心得よ!

 


 これが俺とリズ・フランツの出会いだった。


 しかし…


 この時点で誰が予想しただろうか…


 この数日後に、

 彼女が俺を背にして命がけで戦う姿を…



 それは俺を守るためにーー





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