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第一層 ①

 俺がダンジョンマスターとして召喚されてから十一日目――

 

 未だに『第一層』すら作ることに成功していない俺とカルロッテは、この日も朝からせっせとダンジョン作りに取り掛かっていた。


 ちなみに『第一層』のダンジョン作りは、ダンジョンマスターと女神見習いの二人で行う。

 彼女いわく『第二層』を作れるようになればメイドなるお手伝いさんがやってきてダンジョン作りを手伝ってくれるらしいのだが、なぜそのメイドさんは最初から派遣してもらえないのだろうか…

 

 ダンジョン作りの素材である「壁」や「扉」、そして「廊下」などパーツはご丁寧に用意されている為、それらをパズルのように組み合わせていけばよいのだが、まあこれが結構時間がかかる。

 

 『第一層』を全て作り終える頃には夕方になっていることだろう。

 そして夜が来ればすぐにシンニュウシャであるゴーレムがやってくるのだった。

 

 

 そして、俺は知っている…

 

 もしこのまま何も考えずにまともにダンジョンを作っても、これまでと全く同じ結果が待っていることに…

 そこで俺は一心不乱にパーツを組み立て続けるカルロッテに声をかけた。

 

「なあ、カルロッテ。ちょっといいか?」


「なんじゃ? もうお腹すいたのか?」


「いやいや… 俺はどんだけ食いしん坊な設定なんだよ…」


「ん? タケトは気付いていないのか? よくお主は寝ている間に『子猫ちゃぁん、いだだきまぁぁす』と、よだれを垂らして、鼻息荒くしながら寝言を言っておるではないか。しかし、猫を食べるとは、お主も趣味が悪いのう」


 あきれ顔で眉をしかめるカルロッテに対して、俺は必死に抗議した。


「ば、ば、ば、ば、ばかぁぁ!ね、猫なんか食べるはずねえし!それ全然違うから!」


「何をそんなに顔を赤くしておるのだ? 別に食欲旺盛なのは、悪いことではなかろう」


「そ、そ、そうだ!その通りだ! 俺は食欲旺盛だし、肉食だし、子猫みたいな可愛い子が好きだし…ってそんな俺の趣味など、今はどうでもいいだろ!! ダンジョンだよ! ダンジョン!」


 ますます訳が分からないといった風にカルロッテは首をすくめている。

 俺は「ごほんっ」と咳払いを一つすると、真面目な顔をして言った。

 

「このまま昨日と同じようにダンジョンを作っても、また同じ結果になると思うんだ」


「そう言われれば、そうだのう… お主は馬鹿みたいなブレスしか吐けないからのう」


「おい!ちびっこ!馬鹿って言った奴が馬鹿なんだからな!」


「な、な、なんじゃとぉ!この未来の女神を捕まえて、バカじゃとぉ!」


 ぶんぶんと腕を振り回しながら頬を膨らませているカルロッテに対して今日の俺は冷静に対処した。

 

「ひとまず喧嘩をしている場合ではないからな。今日のところはこの辺で許してやる」


 すると急にトーンダウンしたカルロッテ。


「むむぅ!? なんじゃ? らしくないのう…」


 その声が心なしかつまらなそうなものであることを俺は見逃さなかった。

 

「あれぇ? なんか寂しそうですね? カルロッテちゃん」


「な、な、な、何を言うか! ぜ、ぜ、全然寂しくなんてないもん!お主と喧嘩出来なくてつまらなくなんてないもん!」

 顔をリンゴのように真っ赤にしながら唾を飛ばすカルロッテ。

 何という分かりやすい幼女だろう。

 しかし俺はそんな彼女に付き合って喧嘩してやるほどお人よしではない。ここはきっぱりと言わなくては。

 

「いいか、お前と俺は、言わば雇用主と従業員の関係。つまり、ビジネス上の付き合いに過ぎんからな。お前の昇進試験のクリアという目標達成の手助けはしてやるが、お前のわがままに付き合うつもりはさらさらない」


「むむぅ… 言っている意味の半分以上は分からんが、とにかく今は喧嘩はダメということじゃな」


 明らかにシュンと肩を落とした彼女を見てチクリと胸が痛むのはなぜだろう。

 

 しかし俺は心を鬼にして「ごほん」と咳払いをすると話を続けた。

 

「いいか。今日こそは、この『第一層』をクリアしたいと思う! その為の作戦会議をしよう!」


「おお!『サクセンカイギ』とは、また響きがかっこいいのう! うん!したい!わらわは『サクセンカイギ』がしたいのじゃ!」


 すぐに機嫌を直して目を輝かせているカルロッテだが、恐らく俺が何をしたいのかよく分かっていないに違いない。まあ、ここは彼女のテンションを下げる必要もないのでそのまま俺は続けることにした。

 

「まずは前提の確認。カルロッテ、俺たちがこの『第一層』で作ることが出来る部屋の数を教えてくれ」


「五つじゃ!」


 カルロッテは五本の短い指をいっぱいに広げて即答する。

 俺は大きくうなずいた。

 

「うむ。では、配置出来るモンスターの数と種類は?」


「全部で10体で、レベル2のスライムが5体に、レベル3のゴブリンが5体じゃ!」


「うむ、いいぞ!カルロッテ!」「てへへ」


「では、今回のシンニュウシャの情報は?」


「はいっ! 今回のシンニュウシャは1体でレベルは5。勇敢な青年の設定で、バハムートになったお主を見てもひるむどころか立ち向かっていくほどじゃ!」


「ああ…そうなんだよな…俺の姿を見て逃げ出してくれれば、これほど楽なことはないのに… まあ、仕方ない。では最後に、俺たちの勝利条件は?」


「はいっ! これはどの階層でも同じことじゃが、シンニュウシャの撃破、または撃退、つまりゴーレムがダンジョンからいなくなれば、わらわたちの勝利じゃ!」


「そして、その勝利が決まるまで、俺たちは次の階層を作ることが出来ない…ということだな。よしっ!カルロッテ良く出来たぞ!」「てへへ」


 俺はカルロッテの頭をなでる。すると彼女は嬉しそうに頬を赤らめながらお尻をふりふりさせていた。

 

 決してそっちの趣味のない俺にとって、彼女のそんな反応など興味の欠片(かけら)もない。

 

 俺は彼女の頭を撫で続けながらも、いかに勝利をものにするかということをひたすら考えていた。

 

 ちなみに今までは五つの部屋をせっせと作り、それぞれにモンスターを2体ずつ配置して、シンニュウシャを迎え撃った。そして結果としては多少のダメージは与えられるものの、ことごとく撃破されて、俺…つまり『ラスボス』のいる部屋へと侵入されてしまったのである。

 

 しかし本来ならば、これで良いはずなのだ。

 

 なぜならゴブリンやスライムとの戦いに傷ついたシンニュウシャに対して、ラスボスであるダンジョンマスターがとどめを刺す形で撃破するのが模範回答なのだろうから。

 

 しかし…

 

 いかんせん俺の力がチートすぎるということを俺をカルロッテのもとへ派遣した神様も見過ごしていたに違いない。

 

 

 ではどうしたらよいのか…

 

 

 こうなれば答えはただ一つしかない。

 

 それは…

 

 

 

 シンニュウシャを俺のいる部屋の前で撃破すること――

 

 

 

 しかし今までの結果の通り手持ちのモンスターではシンニュウシャに多少ダメージを与えることは出来るものの、撃破までにはおよばない。

 

 この『第一層』では部屋と廊下そしてモンスター以外を作ることが出来ないとなれば、この時点で手詰まりではないか…

 

 

 そう半ば諦めかけていたその時であった…

 

 

「キャアッ!!」



 と、カルロッテの可愛らしい悲鳴が聞こえたのである。

 どうやら普段は「じゃ」とか言っている割にはびっくりした時は普通の女の子のような声になるらしい。

 しかし可愛い声に弱い俺は、条件反射的にキリッと表情を引き締めて「どうした!? 大丈夫か!?」と問いかけた。

 

 すると彼女はその悲鳴の原因に向かって口を尖らせたのであった。

 

「な、何をするのじゃ! び、びっくりしたではないか!」


「す、すみません… しかし、わたしはどこで待機すればいいんですかね?」


 ひたすら頭を下げたのはこのダンジョンに配置する予定のゴブリン。どうやら彼はダンジョンのどこに行けばいいのか分からずに、カルロッテに声をかけたようだ。

 

 そして彼女は涙目のまま恨めしそうにゴブリンを睨みつけた。

 

「むむぅ… 急に背後から迫られたら、誰もパニックになるのじゃ」



 その言葉を耳にしたその瞬間に…



    ーービビビッ!ーー



 と、俺の中で電気が走ったーー

 

 

「そうか! その手があったか!!はははっ!!」



 俺は思わずカルロッテの手を取る。


 そして顔を真っ赤にさせて「ど、どうしたのじゃ!?」と、心なしか嬉しそうにしている彼女に対して、俺は宣言したのだった。


 

「喜べ! 今日で『第一層』をクリア出来るぞ!」



 と。


 

 


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