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第二層 ②

 十三日目 夜――

 いよいよ第二層のダンジョンを守る戦いが始まった。


 それは、

 

 

    ――シンニュウシャ、来襲!!――

    

    

 というカルロッテの声が俺の頭の中に響き渡ったことで幕を上げたのである。

 

 もちろん昨日までと同じように俺はその姿をバハムートに変えて、シンニュウシャを迎え撃つためにダンジョンの最奥にてスタンバイしている。しかし昨日までと決定的に異なるのは、俺のいる場所が『第一層』ではなく、その上の階にある『第二層』ということだ。

 

 そして『第二層』でのシンニュウシャ迎撃のルールは以下の通りだ。

 

 ◇◇

 ・『木の宝箱』を設置可能。中身は自由

 ・『インプ(レベル8)』という悪魔が2体追加された

 ・インプは小さな羽を持ち飛ぶことが可能。さらに武器は弓で遠隔攻撃が出来る

 ・ゴブリン(レベル3)5体と、スライム(レベル2)5体は変わらない

 ・シンニュウシャは1人でレベルは15。

 ・シンニュウシャの特徴は、心優しい家族思いの青年。病気の妹の為にダンジョンをクリアして報酬を求める

 ◇◇

 

 この条件ならますます『ラスボス』であるダンジョンマスターとシンニュウシャの激突は避けられないじゃないか!

 いや、もしかしたらダンジョンの作り方次第ではインプによる弓矢攻撃を一方的に浴びせることで、シンニュウシャの体力を大きく削ることが出来るかもしれないな。しかし今のホテルのような作りでは絶対に無理な話だ。

 

 ところがそんな状況にも関わらず俺の心に余裕があるのは、カルロッテのチートなスキルを頼りにしているからである。

 その為、俺の背後にはゴブリンとスライムを1体ずつ、そしてインプを2体配置している。

 つまり昨日と同じように彼らがカルロッテのスキルによって極限まで強化されたなら、レベル15ごときのシンニュウシャなどひとひねりで撃退することは疑いようもないことなのだ。

 

 昼間はこの「ありえないダンジョン」に取り乱してしまったが、今は心穏やかにシンニュウシャとの勝負の時を待っていたのだった。

 

 

………

……

 さて、そんな事を考えているうちに早くもシンニュウシャは1階の『元ラスボス部屋』に入ってきた。その様子を水晶で確認した俺は思わず笑みがこぼれてしまった。

 

 ククク… まずは小手調べだ。

 新たなシンニュウシャの実力を見せてもらおうか。

 

 

 その部屋の一番奥には2階へとつながる階段があるのだが、その手前には宝箱を置いてある。

 

 そしてその宝箱を開けた瞬間こそ…

 

 その小さな部屋がモンスターの巣窟に変わる瞬間なのだ!

 

 実はその宝箱には1体のゴブリンを潜ませてある。そしてシンニュウシャがそれを開けた瞬間に、大きな声を上げながらシンニュウシャに飛び付き、それを合図に他の部屋から一斉にモンスターたちが襲いかかるという算段だ。

 

 もしかしたらこの作戦だけでシンニュウシャを撃退してしまうかもしれないな。

 

 ククク…!

 思わず浮かぶ不敵な笑みが止まらない。そして俺はその瞬間を逃すまいと水晶を食い入るように見続けていたのであった。

 

 

 昨日までのシンニュウシャと同じように額に汗を浮かべながら警戒して進んでくるシンニュウシャ。既に腰に差した剣を抜き、どんな不意打ちを食らおうとも対処できるようにずりずりと足を地面にすりながら進んでいる。

 そのおどおどした表情はいかにも気弱な彼の性格を表しているようで、そんな彼をモンスターの罠にはめることにチクリと胸が痛むが、それも仕方のないことだ。

 そしていよいよシンニュウシャが宝箱の目の前までやって来たのである。

 

 

 さあ、開けろ! 開けろ! 開けてしまえぇ!

 

 

 心の中で悪魔のように呪文のように唱える俺。シンニュウシャは木の宝箱をじっと見つめながらその蓋に手をかけた。

 

 

 よしよし、いいぞぉ! さあ、開けるんだぁぁ!

 

 

 そんな風に心の中で唱えながら、俺は目を血走らせて水晶を見ていた。

 

 

 しかし… 次の瞬間、俺の顔から一気に血の気が引いた…

 

 それは…

 

 

    ――ズブリ…――

    

    

 な、なんと!

 シンニュウシャが手にした剣を宝箱に突き刺したのである!

 

 

「ウゲッ…」


 

 小さな叫び声が宝箱の中から響いてくる。

 

 まさかシンニュウシャは俺の仕掛けた完全無欠な罠を、無慈悲な一撃をもって回避したというのか!?

 くそっ!

 暗がりの宝箱の中で一撃のもとやられたゴブリン…それはさながら樽に剣を突き刺すあのゲームの黒い髭のおっさんのようなものだろう。

 あのおっさんの場合、剣がヒットした瞬間に樽から飛び出すのだが、それはリアルに考えれば絶対にありえないよな、ということは幼い頃より思っていた。

 そして今目の前で俺はあのゲームのリアルな結果を目の当たりにして、その疑問は確信に変わったのだった。


 一方のシンニュウシャは、罠を回避したことによる安堵の表情を浮かべている。

 

 

「危なかったなぁ。これも妹のサヤが『お兄ちゃん、部屋の真ん中にポツンと置かれた宝箱をすぐに開けちゃダメだよ』というアドバイスがあったおかげだ。ありがとう、サヤ。お兄ちゃんは頑張っているよ」



 ご丁寧に解説してくれやがった!

 このシスコン野郎め!

 

 ぐぬぬぅ! こうなればせめてモンスターたちで袋叩きにしてくれる!


 俺は目一杯の声で吠えた。

 

 

    ――ギャオォォォォ!!――

 


 俺はもし宝箱作戦が失敗に終わった場合の保険として残しておいた奥の手を使った。

 それがこの大地を震わせる咆哮だ。

 この咆哮とともに部屋を飛び出すように1階のモンスターたちには命じておいたのだ。



ーーバンッ!

ーーバンッ!



 前もっての打ち合わせ通り、ゴブリンとスライムのモンスターたちが一斉に部屋を飛び出してくる。



「うわぁぁぁ!!」



 突然背後を襲ってきたモンスターの群れにシンニュウシャは驚きおののいたのだ!


 昨日までのシンニュウシャなら逆境に追い込まれたことで余計に燃え上がっていたに違いない。

 ところが今回のシンニュウシャはどうやらかなり臆病なようである。


 これならイケる!!


 シンニュウシャが顔を青くして怯んでいる様子は、襲いかかっているモンスターにも十分に分かっているはずだ。おのずと彼らのテンションも最高潮に達して飛びかかっていった。



 ククク!!

 この勝負!もらったぁぁぁ!!



 そして…


 ついにモンスターたちの凶刃がシンニュウシャに突き立てられようとしたその瞬間のこと…


 シンニュウシャの勇気が声となって部屋中に響いた。



  ーーブレイド・スラッシュ!ーー



 それは本当に一瞬のことだった。


 シンニュウシャがグルンと回転したかと思うと、彼が手にした刃はその遠心力をモンスターたちを切り裂く力に変えて襲いかかったのだった。


ーーズバァァッ!!


 シンニュウシャの剣舞によってモンスターたちが切り刻まれていく乾いた音がその部屋の中に響く。


ーードサッ…


 そしてその直後には彼に襲いかかった全てのモンスターが床に崩れ落ちた。



 な、な、なにぃぃぃ!!?

 い…ち…げ…き…だと!?



 つい先ほどとは正反対に、驚きおののいたのは俺の方だった。


 一方のシンニュウシャは危機を脱したと感じたのだろう。額の汗を拭いながら「ふぅ」と大きく息を吹くと、太陽のような笑顔になって言ったのだった。



「またしてもサヤに助けられちゃった。『お兄ちゃん!敵に囲まれたらブレイド・スラッシュだよ!お兄ちゃんのあの大技なら絶対ピンチを乗り切れるから』って教えてくれたもんな!ありがとな、サヤ…愛してるよ」



 またまたご丁寧な解説ありがとうございます。

 そして貴様がシスコンをこじらせているのも、よぉく分かった。



 もうお遊びはここまでだ!


 さあ、こい!


 貴様の息の根はこの部屋で止めてやろう!!



 ただしそれは俺の手ではなく、ここにいるゴブリンとスライムによってだが…



   ーーギャオオオオ!!ーー



 階段をゆっくりと上がってくる彼に対して、俺は挑発するように雄叫びをあげたのだった。




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