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第二層 ①

 確かにこの猫のメイドは口にしていた「あとはコップだけでダンジョンが完成する」と。

 いや、バカな! そんなはずないだろ!?

 まだ昼前だぞ! そんな事絶対にありえない。


 するとミャアは顔を上げて、大きな瞳をくりくりさせながら元気な声で答えた。

 

 

「はいにゃ! ゴシュジン様! ミャアがダンジョンを完成させましたにゃ!」


 

 ふーん、ダンジョンを完成させたのか…

 

 

 

 …って、おい!

 

 今なんて言った!?

 

 ダンジョンが完成しただとぉぉぉ!!?

 

 俺が驚愕のあまり口をパクパクさせていると、カルロッテが先に口を挟んできた。

 そうだ! カルロッテ! ここはビシッと言ってやれ!

 俺は心の中で彼女にエールを送った。



 …だが…

 

 

「おお! ミャアは仕事が早いのう!」


「へへへ! 褒めてもらえてうれしいにゃ!」



 そうじゃないだろ! 何を勝手にダンジョンを作っているのかを突っ込むところだろ!

 

 そんな俺の心のツッコミなどまるで関係なしに、カルロッテはミャアを「よし!よし!」と言って撫で始めた。

 ミャアの方は、まさに猫のように四つん這いになって頭をカルロッテの方へとすり寄せている。

 形の良いお尻がぐいっと短いスカートを押し上げ、大胆に露出された太ももが眩しい。

 

 その姿が妙にエロいと感じてしまうのは仕方のないこと。なぜなら俺は『オス』なのだから。

 

 しかぁぁぁし!

 

 今はそんな風に目の保養にうつつを抜かしている場合ではない!

 俺は肝心なことを聞くことにした。

 


「おいっ、ミャア! 誰の言いつけでダンジョンを作ったんだよ!?」



 俺のなじるような問いにミャアはムッとした表情でエプロンのポケットから何やら取り出した。それは小型の端末のようなもの。そして彼女は口を尖らせながら答えた。

 


「『先生』にゃ! 『先生』に聞いて作ったにゃ! なんか文句あるかにゃ!?」


「先生だとぉ? その小さなスマホみたいのが『先生』だと言うのか?」


「はにゃ? すまほ? なんだ、それ? 美味しいのかにゃ? とにかく『先生』は『先生』にゃ!」



 ミャアはグイッとそのスマホのようなものを俺の前に突き出してきた。その形状、そして液晶の画面…明らかにスマホそのものだ。

 


「やいっ! これをスマホと言わずして何と言うんだ!」


「これは『先生』ったら『先生』にゃ!」


「じゃあ、実際にその『先生』とやらに登場していただこうじゃねえか! ほれほれ!」



 俺の煽りにミャアは顔を真っ赤にさせると、液晶の画面を自分に向けて、端末の横にある電源ボタンと思わしきものを押した。するとその端末から抑揚のない事務的な女性の声が聞こえてきたのである。

 

 

「こんにちは、あなたの検索ライフを手助けいたします。ご質問をどうぞ」



 なんかどっかで聞いたことのあるようなフレーズだな… 大丈夫なのか? これは色々と…

 そんな風に思っている間に、ミャアは画面に向かって大きな声で話しかけた。

 

 

「タケトについて教えて欲しいにゃ!」



 するとシーンとした静寂が包む。それはまるで『先生』と呼ばれた端末が考え込んでいるように思えるから不思議なものだ。そしてしばらくした後、端末から再び声が聞こえてきたのだった。

 

 

「『タケト』の検索結果について読みあげます」



 なんだかすごく嫌な予感がする… しかしそんな俺の戸惑う様子など全く意に介することなく、端末の女性は淡々と続けたのであった。

 

 

「タケトについての概要。タケトは異なる世界からの来訪者。種族はヒト。25歳のオス。以前彼女はいたがキスすら出来ずに別れた為、未だに童貞」「ぐはぁっ!!」



 いきなりとんでもない傷からえぐってきやがった。

 ぐぬぬぅ! しかし俺はこの程度なら耐えてみせる!


 しかし『先生』は容赦なかった。変わらぬ抑揚のない口調で続ける。



「元の世界では、冴えない、時間がない、お金がないの三拍子そろった典型的な非モテ男」「げふっ!」


「奇跡的に出来た彼女からは『つまらない男』と烙印を押されて振られた」「があっ」


「こちらの世界に来てからは『バハムートに変身』のスキルを得るも、全くそのスキルを活かせず今に至る。むっつりスケベ。次に来歴について…」「もうやめてくれっ!!」



 涙目で懇願する俺。それはまるで1R数秒でノックアウトされたボクサーのようだ。


 一方のミャアとカルロッテは今にも吹き出しそうに「ププッ…」と口元を膨らませて堪えている。

 

 くっそ…最悪だ!

 なんでこんなところでこんな辱めを受けねばならんのだ!


 そして、俺は嫌と言うほど思い知ったのだ…

 ミャアの言う『先生』の有能さと、自分の名前で検索などするべきではないというどの世界でも普遍的な事実を…

 

 俺は無慈悲に踏みにじられた心の痛みから気をそらそうと話を進めた。

 

 

「ぐすっ… じゃあ、ダンジョン作る時に『先生』は何て教えてくれたんだよぅ?」



 ようやく俺がその端末の事を『先生』と言ったことに、「へへへ! 『先生』は何でも教えてくれるにゃ!」と、なぜか勝ち誇ったように胸をそらすミャア。

 その胸の大きさがさらに強調されるのがまたエロい。

 そして彼女は端末に向けて大きな声で問いかけた。

 

 

「理想のダンジョンについて教えて欲しいにゃ!」



 と。

 

 再びしばらくの静寂が続く。その後『先生』は淡々とした口調のまま「『理想のダンジョン』の検索結果を読みあげます。冒険者たちの匿名掲示板より…」と、怪しげな掲示板の内容を読み上げていったのだった。



◇◇

名無し冒険者「理想のダンジョンについて語ろうぜ」

名無し冒険者「理想とか言われても、人それぞれじゃね?」

名無し冒険者「うわぁ出た、いきなり議論の根本を覆そうとする奴w」

名無し冒険者「理想って言うからには、こんなダンジョンなら行ってみたいってやつでいいんじゃね?」

名無し冒険者「それならベッドとお風呂があってくつろげるダンジョンしかないでしょ」

名無し冒険者「それにゆっくりお茶できるスペースも欲しいよな」

名無し冒険者「あと宝箱が大量にあって、その中に外れがないやつ」

名無し冒険者「うけるwwwそんなダンジョンありえねえしww」

名無し冒険者「そんなんあったら住むわw」

名無し冒険者「誰か作ってくんないかな?そんなダンジョン」

◇◇



 そこで音声は途切れた。

 

 ものすごく嫌な予感しかしないんだが、まさかそんなことはないよな…

 

 

「なあ、ミャア。一つ聞いていいか? お前まさかこの『先生』の言いつけ通りにダンジョンを作ったんじゃないよな?」


「タケトは冴えない上に、相手の話も聞かないのかにゃ? さっき僕は『先生』の言いつけの通りに作ったと言ったにゃ!」



 その言葉を聞いた瞬間、俺はポップコーンが弾けたように飛び上がりながら叫んだ。

 

 

「な、なんだとぉぉぉぉ!!」



 そしてカルロッテに「おい! 水晶だ! 水晶でダンジョンの中の様子を見せろ!」と彼女の肩をゆすって声を荒げた。彼女は「わ、分かった! 分かったから落ちつくのじゃ!」と渋々水晶を取り出す。俺はそれを奪い取るようにして中を覗き込んだ。つまりダンジョンの様子を確認したのであった。

 

 一階は…変わらない。昨日俺が作ったダンジョンのままだ。それもそうだ。昨日、ダンジョンが無傷なままシンニュウシャを撃退したのだから。

 

 問題は二階である。俺は急いで二階に視点を切り替えた。するとその光景を見たカルロッテから「わあ! すごいのじゃ!」と思わず声が上がったほどであった。

 

 その光景とは…

 

 1階から階段をのぼってきたその瞬間から、中は大きな部屋。それは1階とは比べ物にならないほどの明るさであった。その明かりは天井からつるされたシャンデリアによってもたらされているようだ。

 地面には真っ赤な絨毯が敷かれ、真ん中には大きなテーブル。そこにはティーカップやお茶が入ったポットが置かれている。

 そしてその部屋を中心として、大きな風呂が設置されたバスルーム、それにふかふかのベッドが置かれた寝室があった。

 まさにそこは旅の疲れを癒すにはうってつけのホテルのような作りだったのだ。

 その『ホテル』から抜けると両脇に小部屋。片方には、大きな十字架がつるされている、つまりそれはゲームならセーブが出来そうな教会。ここで懺悔でもすれば、心の疲れも癒えることだろう。

 つまり心身ともに全快可能な作りなのだ。

 しかもそれだけではない。

 もう片方の部屋には所せましと宝箱が並んでいる。

 つまり「これでもか!」という程に、冒険者にとっては『理想的なダンジョン』なのである。

 

 そしてその廊下を抜けると『ラスボス』が待ちかまえる部屋。そこはいつも通りに薄暗く、ただ広いだけの何の変哲もない部屋だ。他の部屋に比べて「手抜き」とも言えなくもないのは、この部屋を作る頃にはミャアはダンジョン作りに飽きてしまったのであろうことが容易に想像できた。

 

 

 俺はその様子を見たその瞬間、ぐらりと立ちくらみを覚える。

 

 なんと言うことだ… 

 これでは心身ともに万全の態勢を整えたシンニュウシャを迎え撃たねばならないということじゃないか…

 

 

 全く状況が分かっていないカルロッテは「すごいのじゃ! ミャアはすごいのじゃ!」と目を輝かせながらミャアを褒めれば、「へへへ! 嬉しいにゃあ!」とミャアは顔をカルロッテにすり寄せる。

 そうしてキャッキャッとはしゃいでいる二人を白い目で見ながら、俺は何とも言えぬ嫌な予感で胸の内を曇らせていたのである。

 

 そして嫌な予感だけは的中率が異常に高い俺。

 

 そんな俺の特殊能力は、この場合もいかんなく発揮されることになるのであったのだが…

 

 



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