09.セントラルツリー
学校から家に着いた後、明日翔は零愛に今日の話をして、借りてきた本を渡した。
「これ、どうにかなりませんか?」
「うーん。まずは何が塗られているか、調べないと……これ、いつまで借りていられるの?」
「司書さんが『1週間後くらいに持ってきてくれればいい』って言ってました」
「分かった。それまでに出来る範囲で解析しておくわ」
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藍華市は、全ての高校で土曜日と日曜日を何らかの行事が無い限り、原則休日にするように指定している。今日が学校が始まってから初めての休日だ。
「そうだ。皆でこれ行ってみない?」
「えーと、『セントラルツリー』……ですか?」
「そう、今日だけ入場料半額なのよ」
セントラルツリーとは、第1区の中央に聳え立つ、藍華市で最も高い電波塔のこと。その高さ723メートル。展望台があり、通常は1200円程で上ることが出来るが、なんと今日は開業5周年記念の日で特別に半額なのだ。
下に立った明日翔はその高さに圧倒された。するとミイが、
「そういえば、まだ上ったこと無かったな」
「そうね。まあ、ミイの場合は『1200円ケチればゲーム買える』っていう理由だろうけど」
チケットを購入し、エレベーターに乗る。このエレベーターもまた、藍華市最速を記録したとか。扉が開き降りたところは全面ガラス張りの展望台。その高さ591メートル。
「うわぁ、凄い……」
「お、まあまあ高いな」
「ねぇ、明日翔ちゃん。セントラルツリーは電波塔以外にもう一つ役割があるんだけど……知ってる?」
こころが明日翔に訪ねると、
「電波塔以外…………うーん、分からないです……」
「正解は、藍華市最強のスーパーコンピューター『Ε02』の本体そのもの! 入り口からこの展望台までの空間には大量のコンピューターが積まれてるの。藍華市の9割以上の通信はここで処理されるのよ」
「それって、セキュリティは大丈夫なんですか?」
「セントラルツリーがハッキングされたら多分藍華市は崩壊するけど……。大丈夫、『SSS』が有ればね。SSSっていうのは『Satellite Security System』の略よ。各区には1台ずつ『サテライト』と言われるメインコンピューターがあるの。区内の通信は一度、各区のサテライトを経由してから、セントラルツリーに送信されるように出来ていてね。その時に危険なプログラムを弾けるから、安全なのよ。」
「でも、そのサテライトがハッキングされた場合はどうなるんですか?」
「いい質問ね。実はサテライト同士は互いにセキュリティが施されていてね。ある一つのサテライトがハッキングされた場合、瞬時にその区の通信を別のサテライトに移行して、孤立させることで広がらないようになってるの。そして、ハッキングされたサテライトを残りのサテライトが撃退して取り返す仕組みよ。まあ、全てのサテライトがハッキングされちゃったらヤバいけど、そんなことな無いでしょ」
殆ど理解出来なかった明日翔は取り敢えず首を縦に振っておいた。