08.もう一人の重力使い
栞凛と別れた後、明日翔は学校内をうろうろしていた。本館、東館、西館、北館に体育館、そして練習場。いくらなんでも広すぎる。彼女は場所を覚えるだけでも苦労していた。
「う~ん……ここどこだろう。あー、もう! 地図の読み方が分からない!」
家を探すだけでも自分で出来なかった明日翔にとって、この十環女子高等学校は迷路のようなものなのだ。
すると偶然にも大図書館の前に着いた。ミイの授業が終わるまでまだ時間があったので、明日翔は本を読んで待っていることにした。
約100万冊という市内屈指の蔵書数を誇るこの図書館は1階から4階まで吹き抜けになっていて、棚には本を取るための装置が付けられていた。
「えーと、どこの棚にあるんだろう…………」
明日翔がここに来た理由はもう一つあった。先程、栞凛が言っていた『もう一人の重力使い』について調べておきたかった。結局、明日翔は『ニュース』の棚を見つけられず、受付にいた司書に案内してもらったが。
「一昔前の重力使い?」
「はい、消息不明だと聞いたのですが……」
「ああ! あの子のことね。ちょっと待ってて」
そう言って司書は何やらパネルに入力した。すると、機械のアームが動きだし、7メートル程上にある本を引き抜いて下まで降ろしてくれた。渡されたのは深緑色の本だった。タイトルは…………「十環女子高等学校 第13期生名簿」と書かれている。
「何で生徒の名簿なんですか?」
「あなたが探してる人、確かこの学校の卒業生だったはずよ? しかも学年主席だし」
表紙を捲ると生徒数等のデータが、そして次のページから卒業生一人一人の名前が記されていた。1人目のところには「主席」の文字。ん…………?
どういうことだろうか。「主席」の横が真っ黒に、何かで塗りつぶされていた。このままでは到底読むことはできない。だが、同じ家にどうにかして読めるようにできそうな研究者がいることを思い出した明日翔は、
「あの、これお借りしてもよろしいでしょうか?」
表紙には「貸出禁止」のシール。しかし司書は、
「本当はダメだけど……これが必要なんでしょ? 特別に貸してあげるわ」
「あ、ありがとうございます!」
明日翔は大事な本を慎重に鞄にしまい図書館を出た。本を探している頃、ミイ達の学年は放課となっていた為、図書館の前でバッタリ会った。明日翔は帰り道、今日の出来事を笑顔でミイに話したという。