05.目覚め
零愛に説明を受けた後、明日翔はずっと、あることを考えていた。私もアビリティを使えるようになりたい…………。理由はただ一つ。彼女が明日から通う予定の「十環女子高等学校」は能力者率99.9%なのだ。一応、能力者でなくともずば抜けて頭が良ければ入ることはできるが、入試にアビリティチェックがある。アビリティチェックというのは、名前明日翔は何故自分が入学出来たのか、ずっと疑問に思っていたが、今考えてみれば「素質」があったからなのだろう。
「明日翔ちゃん…………一つ提案があるんだけど」
零愛が何やら引き出しから小さな箱を持ってきた。真っ黒で右上にピンクの丸いシールが貼ってある。
「そろそろアビリティに目覚めたいんだよね…………だったらこれ、試してみる?」
箱の中には一つだけ、錠剤のようなものが入っていた。何なのかを問うと、
「これはね、私が3年間研究し続けて出来た試作品の第一号。"理論上"だけど、これを飲めば……「素質」がある前提だけど、アビリティを使えるようになるはずなのよ。あ、勿論違法なものじゃないわよ!? 万が一失敗しても安全なものだし…………」
この薬に対しては不安だらけである。しかし、明日翔はもう、これに頼らざるを得なかった。
「(死なない……なら大丈夫だよね……)」
明日翔は口に水を含み、薬をゴクンと飲み込んだ。少し経つと次第に視界がグニャグニャしてきて…………明日翔は倒れてしまった。
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地下に2人を呼びに来たこころは倒れている明日翔を見て、
「え!? なんで倒れてるんですか!」
「あ、こころ……明日翔ちゃんがアビリティ使いたい~って言うからさ。ところで、お昼ご飯できた?」
「それどころじゃないですよ! 零愛さん……まさか明日翔さんにアレ、飲ませちゃったんですか?」
「うん、そうだけど……何か?」
「あの薬! 今日の午前中に再検査したら毒性が見つかったんですよ!後で伝えるつもりだったのに…………ってあれ? それピンクの方じゃないですか……」
「ん? 方……って?」
「もう忘れたんですか! 完成したときに本物には赤いシールを貼ってもっと奥にしまってありますよ! 万が一盗まれたりしたら大変だからって…………ということは明日翔さんが飲んだのは、ダミーの強力な睡眠薬じゃないですか……」
「あ、忘れてた。ってことはこれじゃ、アビリティに目覚めることはないのね…………」
「まあ、そうなりますね……」
「研究者として、この子の願い、叶えてあげたいんだけどね…………」
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日が沈み、外が真っ暗になった頃、
「う~ん…………あれ? 私何してるんだろう。ああ……確か、薬を飲んだあと倒れて……」
「あら、明日翔ちゃん起きたのね。もう夕食の時間よ」
テーブルにはミイ達が座っていた。明日翔はずっと寝ていたのでとても喉が乾いていた。グラスに手を伸ばそうとしたその時、
「えっ……」
思わず声を上げてしまった。
「どうしたの? ってグラスが…………浮いてる……」
「ホントだ……もしかして明日翔さんアビリティが……」
零愛もこころも驚きを隠せない。
「物が浮いてるってことは……観念動力かしら……」
「いや、これは…………ちょっといいか? そのまま保っておいてね」
正面からこれを見ていたミイは立ち上がり、指でグラスの横をちょんと突いた。するとグラスはゆっくりと180度回転し、逆さまになったのだ。
「これは……念力の類いじゃない。もしそうなら、触っても動かないはずだもん。ということは…………」
明日翔はつばを飲んだ。
「明日翔ちゃんの能力は…………重力制御……だと思う」
「グラスの周りの重力を無くしてるってこと?」
「多分……ね。明日翔ちゃん、その力、上向きにかけられる?」
まだ慣れていない明日翔には不思議な感覚だった。自分が……グラスを浮かせているのだ。上手く制御できるか分からないけど……えいっ!
グラスは天井近くまで持ち上がったと思うと一気に下に落ちて、バリンと床に飛び散った。
「今の見たでしょ? コップが回ったまま上昇して、落ちるときには一気に加速した……これは重力加速じゃないかしら。もし観念動力なら普通、加速はしないはずよ」
ミイの説明には誰もが納得した。
「零愛さんのお陰ですよ! あんな薬作れちゃうなんて凄いです!」
「あ~…………あ、あんなの私の手にかかれば楽勝よ! ね、こころ?」
「う、うん! 零愛さんは凄い研究者だもん!」
2人とも、明日翔が飲んだのは只の睡眠薬だとは言い出せなかった……。