03.ミイせんぱい
「明日翔ちゃーん!起きてるー?」
零愛の声で明日翔は飛び起きる。
「うーん…………今起きました……」
「ほら、明日から学校なんだから。色々準備することあるんじゃないの?」
「あ゛、忘れてた!」
明日翔が引っ越してきたこの町、藍華市は能力研究の中枢となっており、強い能力者を目指す学生が集まっているのだ。明日翔もその一人である。
そして、全ての高校は明日が始業式となっているのである。しかし、明日翔はまだ制服等の必要な物をまだ買っていなかった。
「今日はとりあえずINDIGO-BLUEに行きましょうか」
INDIGO-BLUEというのは地下3階から5階までの8階層全てで服を売っている大きなファッションビルのことだ。多分、市の名前からつけたのだろう。明日翔は引っ越し前に下調べをしていたので存在は知っていた。
「あそこには藍華市中の全ての高校の制服が売ってるからね。ついでに私服も買えるし…………そういえば、昨日何も食べずに寝ちゃったでしょ? 下に準備してあるからね。あとシャワーも浴びてきたら?」
「そうだ、私寝ちゃったんだった……」
明日翔は急いで朝食をとり、サッとシャワーを済ませた。お気に入りのピンで髪を留め、いつも以上にファッションに拘る。憧れの場所に行くのだから。
「ミイ! 行くよー!」
「めんどくさいなぁ……はいはい、今行きますよ…………」
ミイのやる気の無さは予想通りだが…………
「ミイさん、来るんだ…………」
「うん、あの人も制服買わなきゃいけないからね」
ミイさんは一応高校生……なのか?まぁ、きっと後で分かることだろう。
「あれ? こころさんは来ないんですか?」
「買い物済んでるみたいだから。あと研究やりたいらしいし」
「研究、熱心なんですね」
そんな訳で3人で出かけることになった。正直不安だらけだが。
2分程歩くと「INDIGO-BLUE」という藍色の、大きな看板が見えてきた。明日翔は予想以上の近さに驚いた。
「ここ、結構立地いいのよ。モノレールの駅も近いし」
確かに、「シェアハウスここのぎ」を選んだのは地理的な理由もあった。この周辺には殆どの施設が備わっているのだ。
「歩くの疲れたんだけど……」
ミイが愚痴り始めるころには店の正面まで来ていた。見上げてみると屋上には重機が見える。フロアガイドを取って見てみると、5階の部分に「改装中」となっていた。
「は!? ここまで来たのに5階やってないの!?」
「え? 私達5階には用無いはずだけど…………」
「5階って何の売り場だったんですか?」
明日翔が零愛に尋ねると、
「確か4階は全ての店が服屋なんだけど、5階だけは服以外の物も売ってたのよ。例えば、本とか電子機器とか…………って、さてはミイ! ゲーム買おうとしてたでしょ!」
「あ、バレた…………」
「だから初めから妙に乗り気だったのね…………こんなの放っておいてさっさと行きましょうか」
私達は制服売り場のある3Fまで上った。そこには沢山の生徒達がいた。市内の全校の制服を取り揃えているだけある。
「そういえば…………明日翔ちゃんってどこの学校に通うの?」
「私は、十環女子高等学校です……」
「あら、それならあそこの引きこもりと同じ学校ね」
ん?あそこの引きこもりってまさか…………。案の定、零愛の視線の先にはミイがいた。
「引きこもりとは失礼ね」
「ミイさんって何年生ですか?」
「私?3年だけど」
「え、ということはミイ……せんぱ………い………?」
「まあ、そういうことだ」
頼もしいような頼りないような…………。
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制服を買い終えた私達は私服を買いに2階に降りた。フロアガイドには「服(女性用)」と書いてある。地下1階まで全部そうだが…………。
「さて、ミイの服選ぼう! そろそろ新しい服買わなきゃいけない頃でしょ?」
「えー。このパーカー気に入ってるんだけど」
「ちょっとぐらい気分変えたらどう? 少しだけ色違うやつとか……」
「何で服にお金かけなきゃいけないのさ。私はその分ゲーム買いたいんだけど……」
「ミイだって一応女の子なんだからさ。ファッションにも興味もって欲しいわ…………」
零愛は呆れて物も言えなかった。
「それじゃ、明日翔ちゃんと勝手に選んでくるね」
「え? あっ、はい」
何故か巻き込まれてしまった明日翔は仕方なく手伝うことにした。
フロア中を散々探し回った挙げ句、選んだのはピンクの線が入った黒パーカー。今のと殆ど変わらないがミイが気に入ったのはこれだけだった。
帰り道、私達がINDIGO-BLUEを出ようとしていた時、道路を挟んで反対側にある宝石店から爆発音が聞こえたのだ。そして異常な量の煙が出ている。この事態に真っ先に気づいた零愛は、
「もしかして、強盗じゃ…………」
するとガラスの扉を突き破って男達が出てきた。彼らの手には、いかにも頑丈そうなアタッシュケース。中身はきっと宝石だろう。目の前にあった車にそれらを積み、アクセルを踏んで走り去る。
そして明日翔はあることに気づく。
「あれ?ミイ先輩は…………」
ミイがその場にいないのだ。
「大丈夫。ミイなら、きっとやってみせるから」
すると零愛は道路に駆け出し、車の方向に手を向ける。手のひらを銃の形にして。そして指先からレーザーを放ったのだ。彼女が放った光の矢は運転席側のサイドミラーを直撃した。
「何だこの光! 前が見えねぇ!」
車は蛇行した後にガードレールに当たって止まった。諦めない男達は車を降り、走って逃げようとした。しかし、不運にも彼らの前には…………
「あらあら派手にやっちゃって……あんた達、逃げるつもり?」
ミイが立っていた。零愛が気づいた時に走って先回りしていたのだ。
「あ? お嬢ちゃん高校生だろ? 俺達に歯向かうなんて度胸あるなぁ」
そういった男はポケットから取り出したのは拳銃だった。武器として隠し持っていたのだ。彼はミイに銃口を向けた。
「よりによって私に対して能力粒子が入った銃弾を使うなんて…………手加減しないわよ」
右手を上に上げていたミイは男が引き金を引こうとした瞬間、指をパチンと鳴らした。銃を中心に物凄い衝撃波が発生した。一瞬にして銃は砕け散り男達を吹っ飛ばした。アスファルトはヒビだらけになったが。
アタッシュケースが頑丈だったお陰で宝石は無傷だった。ミイはそれを拾って宝石店に届けた。
「ミイ先輩って…………強いんですね」
「ええ。あの子、ああ見えて結構エライところもあるのよ」
ちなみに、男達はその後駆けつけた警察によって逮捕された。全員気絶していて、銃を持っていた男は指を骨折していたらしい。後日、ミイは「やっぱりちょっとやり過ぎた」と反省していたとか……。