20.練習は大切
取り敢えず、明日翔達はクレープを買った。希はイチゴチョコクレープを頬張っている。
「このクレープ美味しい~!」
「ですよね~♪」
久しぶりに食べたのだろう。希にとっては10年間も一瞬だったかも知れないが。すると美果が、
「ところで、明日翔さん達はこの後どこに行く予定なんですか?」
「えーと…………次は第7区をモノレールから観光しながら第20区に行きます」
「隊長! 私達の次のパトロールの場所、どこですか?」
「次? 第20区と第21区だったかな」
「行き先同じじゃないですか!…………一緒に行きましょうよ、明日翔さん!」
「いいですね!」
クレープを食べた明日翔達は駅に向かった。絵留は改札横の路線図を確認している。
「君たちはどの路線で行くの?」
ここから第7区経由で第20区に向かう路線は2つある。一つは「一七線」。その名の通り、第7区の南東を経由し、そこから北に進路を変え第20区に入る。13区方面への路線と直通運転をしているのも特徴だ。もう1つは「第7区北西線」。こちらも名前通り第7区の北西を走っている。
「確か第7区って、東側は殆どが倉庫で、西側は普通のビルばかりですよね」
藍華市の中でも第7区は「流通の町」と言われている。宅配業者だけでなく、色々な企業の倉庫が集中しているのだ。コンテナが大量に積まれているところもある。
「第20区に行くなら北西線の方が早く着きますけど…………ビルばかり見ててもつまらないので一七線を使おうと思っているのですが、絵留さん達はどうしますか?」
AAFの人達だし、きっと忙しいだろう。
「別に遅れても大丈夫だし……てかもう遅れてるし…………付いてくよ」
しかし、この人達は違った。AAF……結構緩いのだろうか。明日翔達は一七線に決め、モノレールに乗った。
「そういえば希さんって、明日翔さんと同じ重力使いですよね? どれくらい強いんですか?」
美果がそんな話題を切り出した。明日翔は嫌な予感がした。
「私? ランク96で藍華市第3位だけど…………」
「第3位って……超強いじゃないですか!」
この発言を聞き、ミイのキーボードを叩く手が止まった。
「え゛? 希さんが…………第3位?」
「そこまで驚かなくても…………」
希が知らないようだったので、明日翔が教えた。
「ミイさんは第4位なんですよ…………」
「そうだったの!?」
「はい…………」
するとミイが、
「ずっと超えられなかった第3位が、まさか希さんだったなんて…………一度、戦ってみたいです!」
「えっ、私と? まあ、別にいいけど…………」
戦うといっても、アビリティの撃ち合い程度だ。この人達にも言えることかは分からないが。
「そういえば、明日翔ってどれくらい重力制御使えるの?」
「まだ浮かせたり、押し付けたりする程度しか……」
そう言って、明日翔は持っていた地図を浮かせてみせた。
「ふーん…………まだ向きは変えられないのね」
「向き……ってどういうことですか?」
「こういうこと!」
希は椅子から浮き上がり、モノレールの窓に立って見せた。そして横向きのまま歩いたりジャンプしたり…………けれど落ちることは無かった。つまり、重力が窓の方向に働いているのだ。
「そんなこと出来たんだ…………」
「えっ、知らなかったの?」
「ちょっとやってみますね」
明日翔は地図で試してみたが、下に落ちたり変な方向にぶっ飛んだり…………。
「今度練習しようか…………」
「はい…………」
ちょっと目立ち過ぎたかと思い周りを見渡したが、明日翔達の他には誰も乗っていなかった。こんな半端な時間にコンテナを見に来る物好きも少ないだろう。
「あれ?」
「零愛さん、どうかしましたか?」
「うん、もうすぐ次の駅に着くのに…………全然減速してないなぁと思ってね」