19.重力使いも落ちる
土曜日。今日は希を案内する日だ。明日翔はミイと零愛を連れて、集合場所である藍華中央病院の受付の前で待っていた。こころは今日も用事があるんだとか。すると、
「ごめん、ちょっと遅れた!」
希がダッシュでこちらに…………10年間も眠っていたのに筋力とか大丈夫なのだろうか……。
「いえいえ、私達は大丈夫ですけど…………足、動くんですか?」
「ああ、これね。今、自分の重力弱めて補助してるのよ。やらなかったら、もうぶっ倒れてるわ」
やはり、希の体はガタガタなようだ。
「それで、あなた達が明日翔が言ってた……」
「自己紹介遅れてすみません。白雨 珠彩です。あ、ミイで結構です」
「九木 零愛です」
「皆、もう知ってると思うけど、私が六ノ瀬 希。よろしくね! ところで、今日はどこ行くの?」
「まずは第1区に行きますよ! 10年前とはきっと全然違うと思うので、多分……」
4人は目の前の駅からモノレールに乗った。ミイは膝の上にノートパソコンを開いてネトゲをしていた。
「ここがさっきの駅だから…………うーん……」
「貸して、明日翔ちゃん。地図弱すぎよ…………えーと、次の駅で『セントラルツリーライン』に乗り換えね」
「セントラルツリー……どこかで聞いたような…………」
藍華市の交通機関の殆どはモノレールで、それを補う形でバスが運行されている。モノレールの駅間は平均すると700メートル程度で、沢山の路線があるため、地図上ではかなり複雑に入り組んでいるのだ。
「希さん! 祈さんが言ってたセントラルツリーっていうのはアレです!」
明日翔は反対側の窓を指差した。
「おー、結構高いね。で、展望台あるみたいだけど……行くの?」
「はい、その予定です」
明日翔達はセントラルツリー前駅でモノレールを降りた。
「うわぁ……結構チケット売り場混んでるね」
「あ、それなら大丈夫です。祈さんが事前にチケットを買って、うちに送ってくれたので」
「へー、お姉ちゃんやるわね!」
ゲートを通り、エレベーターに乗った。よく考えたらこの前来たばかりだが…………。藍華市最速のエレベーターなだけあって、気がつけば展望台に着いていた。
「高い! 流石にこの高さまで飛ぶのは危ないよね……」
「希さん、一回落ちてるんですから…………」
「ちょっと! それは言わないでよ!」
すると零愛とミイが、
「あ、それで後頭部打ったんでしたっけ?」
「重力使いでも落ちるんですね……」
「勝手に広められてるし!」
展望台を一周し、明日翔達はセントラルツリーを下りた。
「次は何するの?」
「そこでクレープでも食べようかなぁ……って、あれ?」
何だか見覚えのある2人組が座ってクレープを頬張っていた。
「絵留さんも美果さんも、何やってるんですか…………」
「明日翔さん!? 何でここに!? こ、これは別に……さ、サボってる訳じゃないですからね! ですよねっ、隊長!」
「ああ、これはAAFとして活動するためには必要なものの一つだ。パトロールの時間をとっくに過ぎてても、まあ大丈夫だろ。というか隊長の私が許可してるからセーフだ。…………で、その方は?」
「そうでした。この前話した、六ノ瀬 希さんです」
「ああ、例の落ちた人ですか……」
「災難でしたね……」
「何でそんなに広まってるの!?」
◆◆◆◆◆◆◆
「プログラムの起動準備は出来たか?」
「はい、あとはEnterキーを押すだけです」
「標的は?」
「現在、第13区を走行中。乗車率は20%程度です。第1区通過後は更に減少し、第7区では1%以下の見通しです」
「第二次実験は妨害されないといいんだが…………」