16.半機械少女
そして日曜日。六ノ瀬 希が居たはずの病院に行く日だ。零愛とこころは忙しいらしく、明日翔はミイと二人だけで行くことになった。家を出て、モノレールに乗り、いつもの駅で降りる。モノレールの下を潜り、少し歩くと藍華中央病院が見えてきた。
「明日翔ちゃん、ここで合ってるよね?」
「多分……」
二人は病院に入り、エレベーターに乗った。
「えーと、最上階だから……」
そう言ってミイは『7』のボタンを押した。エレベーターがゆっくりと上昇する。
「ところで……」
「何ですか?」
「最上階の……どの病室なの?」
「…………それ、考えて無かったですね……」
二人は零愛に『最上階』としか言われてなかった。この病院、結構広いのだ。全部の病室に当たるのはちょっと……。すると明日翔が閃いた。
「あ、分かりましたよ!」
「おお、どこなんだ?」
「この病院から見て、学校はモノレールを挟んで東側にありますよね? ということは、学校から見たらこの病院は西側にあります。藍華中央病院は全ての病室の窓が南側になるように設計されてるので、上から見ると東西に伸びる長方形のような形をしている訳です」
「でも、それだと病室から学校は見えないでしょ?」
「いや……各階に二つだけ、南側以外の窓もついた病室がありますよね? そう、角部屋です! しかも東側に窓がついた角部屋は一つだけだから……これで病室が特定できましたよ!」
「あれ? 明日翔ちゃんって地図苦手じゃなかった?」
「紙に書かれてるから分からないんですよ……実際に歩いた場所なら分かります!」
エレベーターが7階に着き、ドアが開く。私達は降りて東側に向かった。端の病室よ扉についている名札を見ると……
『六ノ瀬 希』
明日翔は目を疑ったが、確かにそう書いてあった。
「嘘でしょ……まだこの病院に居たなんて……」
つまり、六ノ瀬 希は10年間、ずっとここに居たことになる。入院だったとしても長すぎではないだろうか。二人が入ろうか迷っていると、
「あら。あなた達、希の知り合い?」
「ぴゃっ!」
知らない女性が話しかけてきた。明日翔は驚いて変な声を出してしまった。超恥ずかしい。
「あ、えーと、あの……私達、十環女子の生徒で……」
「あら、希と同じ学校なのね」
女性は「希」と呼んでいる。親しい関係なのだろうか。
「それで、ご用件は?」
「その……六ノ瀬さんにお聞きしたい事がありまして……」
明日翔が答えると、
「そう…………入りなさい」
女性はそう言って、病室の扉を開け、中に入っていった。私達もそれに続く。窓際に置いてある純白のベッドには、白と銀と青が混ざったような髪の、不思議な女性が横になっていた。
「えーと……あなた達、お名前は?」
「私は白雨 珠彩と申します。こっちは後輩の花束 明日翔」
明日翔がペコッとお辞儀をすると、
「私は、希の姉で藍華中央病院院長の…………六ノ瀬 祈」
「い、院長!? それに、お姉さんだったんですか!?」
明日翔達は、祈の予想外の肩書きに驚いた。
「ところで、何を聞きに?」
明日翔は話すよりも早いと考え、持っていたメモ帳を浮かせて見せた。それを見て察した祈は希を見て、
「この子はもう…………目が覚めることは……ない」
「え……」
祈は希の腕を指で差した。そこには腕時計のように、機械が付けられていた。
「この子の脳の半分は……機械なのよ」
「……どういうこと?」
「知ってると思うけど、希は重力使いなの。10年前、彼女は偶然、銀行強盗に遭遇したの。勿論、彼女は捕まえようとしたわ。強盗の男達は建物の屋上からヘリコプターで逃げようとしていた。お金が積まれている以上、墜落させる訳にはいかず、希は自分自身を浮かせて、飛ぶヘリコプターを追いかけたわ。でもね、彼女は飛ぶ前にエレメントを溜めておくのをうっかり忘れていたの。捕まえようと必死だったんだと思う。そして、彼女は地球の重力によって、地面に叩きつけられたわ。ほんの少し、残った力を使って減速していたから一命はとりとめたけど……後頭部を強打して、脳の一部が機能しなくなったの」
祈は一度、二人を見てから話を続けた。
「私は、とある技術者と話し合って、希の失った脳の機能をコンピューターに代わりに行わせることにした。手術は私がやった。そして、私が希の腕の機械にデータの入ったカードを差し込むと…………彼女はゆっくりと起き上がった。手術は無事、成功したの」
「それじゃあ、何で……」
「希の脳の機能は完全に元通りになったわ。だから、あの事故の前と変わらず、重力使いとして活躍していたの。でも、手術の成功から二週間後、今度は立て籠り事件が発生したの。希は犯人の前に立って、重力で押さえつけようとしたわ。でも、そいつは……咄嗟に持っていたナイフを捨てて、ポケットから拳銃を取り出して…………彼女に向けて撃った……。その弾丸はよりによって、彼女の腕の機械に直撃したの」
「そんな……」
「機械に当たったから、希が死ぬことは無かった。機械の予備はあって、簡単に交換ができたわ。でも……データカードだけは予備が無かったの……」
祈は希に目を向けた。
「でも…………希望が無いわけじゃない……。実は、彼女の机の引き出しから色の違うデータカードが見つかったのよ。技術者の人がデータのバックアップとして彼女に持たせていたらしいの。でも、それには……彼女が自らロックを掛けていたわ」
「つまり、そのロックを解除できれば……」
「ええ、きっと希はもう一度起き上がるはずよ。でも、私達でも解くことは出来なかったわ。セキュリティソフトのパスワードが分かれば開くんだけど……強引に抉じ開けようとしたけどダメだった……」
希はノートパソコンを開き、カードのデータを見せてくれた。そこには『CODE』、つまり『暗号』という名前のテキストファイルがあった。そこには……
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これを見た二人は呆然とした。でも、これを解かなければ希は……。
※暗号が解けちゃった方!言いたい気持ちは分かりますが我慢して下さい!(ノ_<。)