14.水色の瞳
家に帰ると零愛がモニターに向かって場所の特定を急いでいた。
「作業は順調ですか?」
明日翔が零愛に尋ねると、
「それが……全然見つからないのよ。条件を満たす場所が」
モニターに映し出された立体地図を見て明日翔が気づいた。
「あれ……何でセントラルツリーが映ってるんですか?」
「何でって……建ってるからじゃない」
「いや、見るべき地図は10年前のものじゃないんですか?」
「あ゛……」
零愛は無言のまま、古い地図を探し始めたのだった。
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次の日の帰りのホームルームにて、
「えー、皆さんに大事な話があります」
先生がそう言うと、皆に緊張が走る。大事な話って……。
「実はですね。私、この学校を3月に辞めていまして……」
は?という顔で皆が先生を見つめる。
「私はあくまでもこのクラスの『本当の担任』の先生が来るまでの繋ぎみたいな役割を引き受けていただけなので。明日から私が担当していた物理の授業も新しい先生が行うことになっています。2週間という短い間でしたが、皆さん、ありがとうございました」
明日翔は新しい先生に期待を寄せて家に帰った。
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その次の日、皆は朝から新しい先生の話題で持ちきりだった。取り敢えず怖くなれければいいのだが……。
鐘が鳴ると同時にガラッと扉が開く。入ってきたのは綺麗な黒髪に美しく青い目……あれ、どこかで見たことあるような……。
「今日からこのクラスの担任を務める…………白金 絵留だ。1年間よろしく」
……ってあの時のAAFの隊長さん!?
「聞いていると思うが、物理も私が担当する。おお、丁度1時間目が物理だな。今日は第3物理室に移動してくれ」
ホームルームが終わると、絵留がこちらを向いて小さく手招きしてきた。明日翔が立ち、絵留のところに行くと、
「何だっけ。えーと……『はなたば』……」
「『はなつか』です! 花束 明日翔!」
「そうだ、思い出したわ。まさか明日翔さんと同じ学校だとは思ってもみなかったよ。ただ、学校では『花束』って呼ばせてもらうから、そこんとこよろしく。君も、私のことは『先生』と呼ぶように!」
「はい、先生……」
1時間目が始まると絵留は、
「担任である以上、皆との壁は無くしておきたいからね。今日は授業はしない。一応、今日返す予定のアビリティチェックの結果は見させて頂いた。全員のアビリティがどんなものかは把握しているが……。やっぱり目の前で見ておきたいし、親睦も深めたいから、今から希望者に私と勝負してもらう。誰か、居るか?」
いきなり勝負を挑まれた。まだ絵留がどんなアビリティを持っているか知らないクラスメイト達は誰も手を挙げな…………いや、学級委員長の御波 瑠子が挙げていた。
「学級委員長として、この勝負受けますわ!」
「おお、結構やる気あるんだな。じゃ、ルールだが……かなり単純だ。私が撃つコレを、アビリティを使って止めるだけだ」
絵留はポケットから銃弾を出してそう言った。いや、危ないって、それ。すると瑠子は水道の水からエレメントを吸収し始めた。彼女は水属性だからだ。
「御波、確かアビリティは蒸発制御だったな」
「はい、水の抵抗はかなり大きいですし、止められなくはないかと」
絵留は手を前にだし、指で弾に力を込めた。目の色が水色に変わった。弾には少しずつ、エネルギーが溜まっていく。そして、
「行くぞ!」
その声と共に、瑠子が張った水の壁目掛けて銃弾が放たれた。少し威力が弱まったものの瑠子にはまだ止められず、弾は彼女の真横をすり抜けた。
「ふむ、もっと分厚い壁が張れないと止められないぞ」
「……悔しいですわ。 今度また挑戦させて下さい……」
「ええ、いつでも大歓迎よ。じゃあ、次にやりたい人いる?」
絵留のアビリティを見た後に手を挙げる人なんているわけ…………いや、横に居た。対抗心からなのか、栞凛が手を挙げていた……。