11.塗り潰された文字
セントラルツリーから帰宅後、早速零愛は例の作業に取りかかっていた。
「うーん……やっぱりこれ、普通のインクっぽいなぁ」
「それ落とせないんですか?」
「落とせるけど、これ本だから下の文字まで落ちちゃうのよ」
すると地下に降りてきたミイが、
「それなら、落とさないで読み取ればいいじゃない」
「えっと……どうしろと?」
「明後日までに読んでやるから、私に貸して」
「まあ、出来るならいいけど。はい」
ミイに任せて大丈夫なのだろうか。「爆発させちゃった」とか言ってボロボロになって返されても困るのだが……。
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月曜日の朝、ミイは明日翔を叩き起こした。
「起きろー! 今日は早く出るぞ」
「え、何で…………」
「いいから、早く準備して」
時計を見ると……いつもより1時間も早い。零愛達はまだ寝ている。私達は朝食もとらずに家を出た。
「何でこんなに早く出るんですか? 眠い…………」
明日翔が大きくあくびをすると、
「何でって……。この本、読んで貰う為に決まってるじゃない」
「読める人居るんですか?」
「ええ、私と同じ学年にね」
学校についた私達は、大図書館に向かった。ミイ曰く、その人は毎朝そこにいるらしい。
「アレを読めるって、どんなアビリティ何ですか?」
「んー。説明しづらいから見た方が早いと思う」
ミイの予想通り、図書館には一人だけ、眼鏡を書けた女子生徒がいた。分厚い、難しそうな本を読んでいる。ミイは彼女の横に座り、
「ちょっと、頼みがあるんだけど……いい?」
すると女子生徒は本を閉じて、
「あら、ミイじゃない。今日は早いのね。で、頼みって何?」
ミイは例の本を開き、塗りつぶされた場所を指で差した。
「分かった。ここを読めばいいのね」
彼女は右手の人差し指を本に乗せ該当箇所の上をスライドさせると、
「『六ノ瀬 希』……。そう書いてある」
次に彼女は手のひらをページに当てて目を瞑る。ミイは明日翔を手招きして、頼んだ。
「今から言うこと、メモっといて」
「あっ、はい。分かりました」
明日翔が鞄からメモ帳を取りだすと、女子生徒はブツブツと話し始めた。
「ベッド……点滴スタンド…………多分、ここは病院……窓からは…………うちの学校が見える……斜め下には…………モノレール……」
明日翔は急いでメモをとり終えると女子生徒は本から手を離し、ミイに聞いた。
「彼女は誰?」
「ん? 明日翔のことか? 私と同居している1年の後輩だよ」
明日翔からも自己紹介をすると、
「私は憑読 文乃。ミイと同じ3年よ。以後よろしく」
「文乃のアビリティはやっぱり凄いわ」
「そんな凄いものじゃないわよ。私のアビリティは『原本読取』。損傷がある部分に元々何が書かれていたか、そして本が傷つけられた場所の状況が分かるの。だから、古い書物の調査を手伝ったりしてるんだけど……正直、変な能力でしょ?」
「いえいえ、凄いアビリティだと思います」
「あら、そう? また、何か読めないものがあったら頼んでね」
「はい! ありがとうございました!」
六ノ瀬 希……。そして病院らしき場所の状況。『一昔前の重力使い』に、ついて、大きな手がかりを得ることができた。あとは零愛達にこれを伝えて調べてもらえば場所が分かるかもしれない。明日翔はそう思っていた。
その後、彼女は司書に本を返し、1時間目が始まるまでずっと教室で寝ていたという。