10.AAF(エーエーエフ)
高い展望台からの景色を満喫した後、明日翔達はエレベーターに乗ってセントラルツリーの下へ向かった。
「この後どうする?」
「それなら……下でクレープ売ってたので食べていきませんか?」
「おお、それいいね♪」
下に着き、ツリーから出ると……何だか騒がしい。何かあったのだろうか。
「ここは危険です! 何をするか分からないので、絶対に近寄らないで、出来るだけ早く安全な場所に逃げてください!」
サイレンの音と拡声器による大声が辺りに響いている。人々の視線の先には……真っ白で手足の細い、二足歩行のセキュリティロボットがいた。頭には緑色の一つ目。でも何だか挙動がおかしい。
「あの胸のバッチ、AAFの人まで来てるって結構ヤバいんじゃない?」
そう零愛が推測していた。AAFというのは「Anti Ability Force」の略で、藍華市の対能力者特殊部隊を指す。時々、能力者相手で無くても出動することはあるらしい。
「隊長、上の方から連絡が……」
先程まで誘導をしていた女性隊員が隊長さんに話していた。
「え? 破壊しろだって? 全く、面倒だな……。って、アイツ動きが急に…………」
ロボットの頭がグルグルと回り始め、足の運びもガタガタだ。関節からは放電が発生している。
「よし、お前は引き続き誘導を。破壊するとなると爆発の可能性があるからな」
「了解です、隊長!」
「私はアイツをぶっ飛ばし……たいんだが止まってくれないと私の力じゃ無理か……」
零愛は何を思ったのか隊長さんに話しかけると、
「ちょっと! 君達も早く逃げなさい!」
「アレの動きを止めたいんですよね? それなら、明日翔ちゃん! やっちゃえ!」
「えっ、私ですか!?」
「ほら、押さえつけるのなんて簡単でしょ?」
明日翔は仕方なく両手を前に出し、ロボットの真下に意識を集中させる。
「えいっ!」
下向きに物凄い力で引き付けられたロボットは徐々に体勢が崩れ、終いにはうつぶせの状態になった。
「おお、凄いな。そのまま、出来るだけ維持しててくれ」
明日翔にとって、まだ慣れないアビリティを継続して使い続けるのはかなり厳しい。が、頼まれてしまったからには止める訳にはいかない。
隊長は銃を構え、目を大きく見開いた。すると彼女の目がみるみる深い青色から水色に変化してゆく。そして、銃をロボットの一点に向かって連射し始めた。しかし、全て弾かれてしまっている。
「全く効いてないじゃないですか!」
「まあ、焦るな。私のアビリティがあるから」
銃を握る右手には光の粒が見えた。やはり長時間アビリティを使い続けるのは容易ではないのだろう。100発程撃った頃、
「よし、これで終了だ」
そう言い、隊長の目の色が元に戻った瞬間、先程まで撃っていた部分が一気に陥没し、爆発してバラバラになった。
「私のアビリティは『衝撃遅延』。今のは、100発分の力を1つに纏めたんだ。一点に衝撃を与え続けないといけないから、今回は助かった。協力してくれてありがとう」
「あ、いえ……どういたしまして……」
すると、後ろから聞き慣れた声がした。
「おーい、明日翔ちゃーん! クレープ買ってきたよー!」
「って、見てなかったんですか!?」
「いや、だって近寄るなって言われたし……」
さっきからずっと見当たらないと思っていたら……そういうことか。
「おっと、自己紹介をしていなかったね。対能力者特殊部隊隊長の白金 絵留だ。君は……明日翔さんでいいのかな?」
「はい。また、何かあったらお手伝いします!」
「その時は、よろしく頼むよ」
避難誘導をしていた女性隊員がこちらに駆けてきた。
「対能力者特殊部隊隊員の月谷 美果と申します! 今回は、我々の任務にご協力頂き誠にありがとうございました!」
「いえいえ、この位なら全然……」
絵留は背伸びしながら美果に、
「よし、月谷! 私達も任務終わったし、クレープでも食べていくか! 今日は誘導頑張ってたし、私が奢ってあげる!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
明日翔は満足げな表情でチョコバナナクレープを頬張った。