あー! だー!
今日も私の食卓は平和だ。
「あー」
私の口元にご飯が運ばれる。
口を閉じる。
暖かい。
はぐはぐ。
その時、棒状の何かが目の前を横切った。
誰かが数本の棒を目の前に転がしたのだ。
「あー」
手を伸ばす。
が、届かない。
「だー、あー、だー」
手を伸ばす。爪先立ちになる。届いた。
「だー」
私はすかさず棒切れを掴む。
満足した。
私は箸をグーで握り、皿をカンカン叩く。
私の前にご飯が差し出される。
だが、今はカンカンが大事だ。
「こら!」
その大きな声、そして毟り取られる箸。私は目を見開いた。
体が凍る。
体が震える。
大きな声、大きな何か、大きな気配!!
「ぅわぁぁあああああああああああああ! ぁああああああああああああああ!!」
もう叫ぶ他なかった。
掌を一杯に開きわなわなと震え、口を大きく空け、両足を踏ん張る。
そして目を細めて声も枯らさんばかりに泣き喚く。
「ぁああああああああああああああああ!」
「ぅわぁぁあああああああああああああ! ぁああああああああああああああ!!」
おかしい。
いつもならここで誰かが何か言ってくれるはずなのに。
今回に限ってそれが無いのだ。
「ぅわ、ぅわああああああああああああ!」
状況は変わらない。
「もう! 箸をこの子の前に置いちゃダメって言ったでしょ!」
「取り上げたからもう良いだろ!?」
「だって喉を突くから! それに間違ったら目も突くから! そうなったらどうするの、危ない!」
「ご飯食べさせると黙るだろ!?」
「そんな問題じゃないでしょ!」
「もう良いじゃないか、飯が冷めちまう」
「……ごめんなさい、それもそうね」
「ごめん、次から気をつけるよ」
「そうしてくれる?」
「うん」
「ぅわぁぁあああああああああああああ! ぁああああああああああああああ!!」
私は依然、叫んでいる。
顔を真っ赤にして叫ばずにはいられない。
ところがだ。
私の口元に何かが運ばれる。
暖かい感触が唇に触れる。
パク。
私は開いていた口を閉じる。
暖かい。
はぐはぐ。
続けて口元にご飯が運ばれる。
口を閉じる。
暖かい。
はぐはぐ。
今日も私の食卓は平和だ。