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よろず歌詠む、化生守の調べ  作者: 片平 久(執筆停滞中)
第五話【人ぞささやく、汝が心ゆめ】 ~ 上巳/草木萌動
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人ぞささやく、汝が心ゆめ【其ノ伍】(了)

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あかざらば 千代(ちよ)までかざせ (もも)(はな)

(はな)()わらじ (はる)()えねば

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『後拾遺和歌集』巻二 春下・一二九 清原元輔





 雛の祝い、とは言うものの、行事としては特段何かがあるわけでもない。ただ、雛の前で祝い膳をとり、語り遊ぶだけ。仏壇と雛の前に供膳し、イチシと二人で膳を囲む。たわいも無い話をしながら食事を終えて、蝶足膳は広縁に出された。

 今度はシンプルな朱塗りの屠蘇器(とそき)が別の膳に乗って並べられる。朱引盃に注がれる少しとろみのある白い液体。甘い香りがふわりと漂う。イチシがそこに紅白の桃花を一輪落とす。


「どうぞ、一献(いっこん)。お(ひい)さま」


 イチシがちょっとからかう口調で、盃がのった折敷(おしき)を差し出す。受けて盃を手にした為斗子は、口を付けようとしてその違いに気付いた。


「あれ……これ、甘酒じゃない……?」

「そうだよ。もう為斗子は成人したんだし、今年からは本物の白酒(しろざけ)。口当たりはいいよ」


 雛祭りに飲む「白酒」は、れっきとした“お酒”だ。濁り酒ともまた違う、その独特の製法からなる米の旨味と甘さが際立つ味は、飽きがこない上品なものだ。初めて飲むそれを、為斗子は口の中でころがす。甘さの中に、紛れもない酒の辛み。それが絶妙に合わさって、何ともいえない風情があった。


「うん、美味しい」

「それはよかった」


 にっこりと微笑んで、イチシが朱塗りの銚子(ちょうし)で次を注ぐ。黒漆の折敷の上に、盃の赤と酒の白のコントラストが映えて、華やかだ。確かに口当たりの良いそれを、為斗子はゆっくりと飲み干した。折敷に添えられた豆皿には、醤油味の関西風ひなあられ。去年までは甘く砂糖で味付けられた関東風だったのに、白酒にはこちらが合うと思ったのだろうか。こんなところも、去年までとは違う。


「……今年は色々と“違う”んだね……」

「そうだね。“ずっと同じ”もいいけれど――為斗子も、いつもと違うその振袖を選んだね?」


 イチシが、再びあの困ったような笑顔を見せた。愛おしさと、寂寥と、嘆願が込められた笑み。


「……イチシ、いや。そんな顔、しないで」


 自然と為斗子の口から出たのは、そんな言葉だった。それを聞いて、ますますイチシの表情が切なげに染まる。


「為斗子は、その振袖(・・・・)を、誰が、いつ、着たのか知っているくせに。為斗子も意地悪だね」



 祖母が結納の席で着た、その為だけに誂えた振袖。

 祖母が、【化生守(けしょうもり)】たる祖父()選ばれ、同じように祖父()選んでともに歩む覚悟を決めた、その時の晴れ姿。

 祖父は、この化生の手を取らず、共に在ることを選ばなかった。祖母の手を取り、そして人としての幸せを生きた。

 そして、その日は、この化生の望みが、“次”へと遠のいた日でもあるのだ。


「佐保子さんは、それを着たのは一度きりだと言っていた?」

「う、うん……」

「そう。やっぱり言わなかったんだね、佐保子さんは」


 『功にも言っていないくらいだからね』と続けたイチシは、為斗子の背後を見るようにジッと視線を向けた。


「私は、佐保子さんのその振袖姿を、二度見たことがあるよ。彼女は、もう一度だけそれを着たことがあるんだ。この家に嫁いできた、最初の日だった」


 結納の時も、イチシはその場に立ち合ったのだという。『功は私を外の世界に出していたからね』と懐かしげに目を細めて、その時を思い出しているようだった。


「功が彼女を請うて、私の望みは失われたけれど……でも、本当に“功を失った”と思ったのは、二度目の姿の時だね」


 結納の後、守屋の家は今の建物に建て替えられたため、祖母が結婚し家に入ったのは秋の終わりだった。季節が違い過ぎるその振袖を纏い、その日の夜、祖母はこの客間にイチシを呼んだのだという。


「彼女は上座(・・)に一人、きちんと座していてね。私を見て、手を付いたよ。その手は震えていたけれど、私を真正面から見上げた視線には畏れはなかった。あったのは、毅然とした意志と覚悟の思いだけだったね」


 イチシが再び為斗子を見据える。柔らかい、それでいてどこか冷たい視線。優しさは為斗子に、厳しさは纏う振袖に向けられていた。


「……佐保子さんは、私に言ったよ。

『この守屋の宿命を、あなた(・・・)のことを知った上で、私はあの人を選び、選ばれたことを悔いはいたしません。

 私は、この鴛鴦のように、あの人と添い遂げます。この枝垂れ桜のように、運命をごまかしながら、それでも抗いながら生きます。流れ(とど)まらない水のように、変わりゆく生をあの人と共に生きます。この先、どんな定めが待ち構えていようとも、あなた(・・・)が何を成そうとも、私はそれを受け入れ、あの人と共に生きる、人としての(せい)を選び続けます。

 私は、今日この日より守屋の者(・・・・)となります……どうぞ、幾久しくお願い申し上げます』

 ――そう言って、私に頭を下げた。再び上げられた時には、手の震えもなかった。

 この女性(ひと)を選んだ功を誇らしく思ったよ。功を失ったことを改めて思い知って……功を選び選ばれた佐保子さんを称賛したし、羨ましくもあって――少し、憎んだね」


 淡々と紡がれた言葉に、為斗子は唇が乾くのを止められなかった。何を言えばいいというのだろう、こんな“戦い”の記憶に対して。


「でも、為斗子。私は、あの人が――佐保子さんが好ましかったよ。あの日の姿は忘れない。あの言葉も忘れない。周囲から『実の成らない桃の木』だと囁かれようと、心惑わせること無く変わらない強い心のままで在り続けた彼女は、間違えようもなく正しかったよ」



  向つ峰に 立てる桃の木 ならむやと 人ぞささやく 汝が心ゆめ



 万葉の歌を引いて、イチシは祖母を語った。

 『()(こころ)ゆめ』……心惑わせず、心強かれと背を押す、強い言葉。



「イチシ……私は……」

「――この庭を、白花で埋め尽くそうとも。彼女も、あの日の宣言を忘れなかった。彼女は間違えなかった(・・・・・・・)……たった一つだけを除いてね」


 少しだけ不穏な気配を纏わせた笑みを浮かべ、イチシは為斗子に温かい視線を向ける。その“たった一つ”を尋ねようとした為斗子に(さき)んじて、イチシはその白い指を為斗子の唇に押しつけた。もう片方の手が、為斗子の手を強く握る。


「何も訊かないで。為斗子は、自分が感じ取ったものだけを信じればいい。『汝が心ゆめ』……為斗子が、私を最後に選んでくれれば、私はそれでいい。その途中はどうでもいいんだよ、為斗子。私は待てるから。私はそれが、幸せなんだから」


 文庫結びの帯は背中に張り出して、今日のイチシは背から抱きしめてくれない。優しく、切なげに染まるイチシの視線に堪えきれず、為斗子のまなじりから雫が一つこぼれ落ちる。それを唇に当てられていた指が優しく掬い、濡れた指先がイチシの口元に運ばれる。


「……為斗子の涙は、甘いね」

「そんな、こと、無い……」


 上手く言葉が紡げない。為斗子の心の天秤が、グラッと(かし)ぐ。イチシの瞳の奥が、昏く光った気がした。

 握られた手が、引き寄せられる。長い袖が畳を滑り、描かれた桜花が散り落ちた。膝が崩れ、イチシの肩に頭がもたれ掛かるような姿勢になる。その拍子に、耳上に飾られた源平咲きの桃花の枝がずれてイチシの膝に落ちた。


 紅白混ざり合う、定まらない花弁の色。

 想い入り乱れるままに、その色を変えて咲く。

 それでも、それは一つの花。

 混ざらず、分かれず、堪えようのない曖昧さが、果てしなく美しい。


 ……選べない、選びたくない。

 私もまだ、“幸せ”でいたい。


 為斗子が信じる幸せを、目の前の化生が与えてくれるものが「私の、幸せ」ではないと、一体誰が決めるというのだろう。


「…………イチシ。イチシは()、幸せ?」

「そうだよ、為斗子。私は、まだ(・・)失っていない。まだ(・・)失わないと信じることができる……だから幸せだよ」


 優しく降り注ぐ声。孤独を埋める、柔らかな熱。

 偽りでも、誤魔化しでもいい。“今”の幸せを、為斗子は手放せない。



   春と聞かねば  知らでありしを

   聞けば急かるる  胸の思ひを

   いかにせよとの  この頃か



 優しく落ち着かせるように為斗子の髪を撫でながら、イチシが『早春賦』を小さく静かに口ずさむ。お互いの心を現すかのように。


「イチシ……私は、イチシがくれる“今”の幸せを信じてる……」

「うん、それでいいよ……」


 もう一滴(ひとしずく)だけ、為斗子のまなじりから雫が落ちる。今度の雫は、為斗子が自分で(ぬぐ)う。

 誰からも泣かされず、誰をも憎むこともなく。

 そうやって、人は生きていける訳じゃ無い。

 柏原さんが言ったように、もっと“誰かから泣かされて、誰かを恨むこと”も必要なのだと、為斗子だって知っている。


 ……でも、今の為斗子には、そんな“誰か”は必要ない。


 イチシの手が為斗子の肩に降りて、優しく撫でる。穏やかに、愛おしげに、宥めるように。

 ただ“待つ”と。そう言って傍らにある温もり。


「為斗子を泣かせることも、為斗子に憎まれることも。それは私だけのものだよ……」


 心を読んだかのように、イチシがそっと耳元で囁く。残酷に響く、その言葉。

 泣かせない、とも、憎まれるようなことはしない、とも。

 この化生は、決して言わない。

 自らの願いと幸せのために、為斗子を泣かせ、憎まれるのだと、穏やかに微笑んで告げるアヤカシの君。為斗子を孤独に置いて、自分だけが傍に居ると囁くのだ。


 そんな“今”の幸せを――為斗子は、ただ求めるだけだった。



* * * 



 (ひいな)の節句も過ぎた、弥生半ばの午後だった。

 為斗子は居間のコタツでひとり学習書をめくっていた。付けっぱなしのテレビから、ニュースが流れている。時刻の区切りを過ぎて、地域のローカルニュースが聞こえてくるのを、画面を見ることもなく為斗子は流し聞いていた。


『……午前10時頃……本町三丁目の住宅から火が出ていると、近所の人から消防に通報が……火はおよそ一時間後に……火元となった……が全焼し、隣接する柏原税理士事務所の一部を焼き…………この火事による怪我人はありませんでした……消防は……』


「…………えっ?」


 流し聞いていたニュースの音声に、為斗子は思わず振り向いた。既に内容は変わっていたが、聞き間違いでは無いはずだ。

 慌てて他のチャンネルに替える。三つほど送った後に、ちょうど同じ火事が報じられるところに行き当たった。


「……柏原さん……」


 住所も名前も間違えようのない、そのニュース。怪我人はなかったと、こちらのアナウンサーも淡々と告げていた。


 それでも。


「――為斗子、どうかした?」


 テレビの前で呆然としている為斗子に、不意に姿を見せたイチシが声をかける。その手にはまた、見慣れない小さな白い花があった。


「……イチシ……今、ニュースで……柏原さんの事務所が、火事にあったって……」

「そうなんだ。彼も大変だね」


 イチシはまるで関心がないという風情で、居間を通り過ぎて台所に消えた。しばらくして、ガラスのコップに先ほどの花を差して戻って来た。


「はい、為斗子にあげる」


 白い花弁の中に、紫色の雄しべと黄色の雌しべがハッと目を引く、小さな花。手の指ほどの細い茎の先で、ゆらゆらと踊る。目の前に差し出されたそれを、為斗子は受け取ることも出来ずにいた。イチシが困ったように微笑んで、コタツの天板に置く。


「ミスミソウ。葉がね、面白い形をしているんだ。三角形で……だから、三角草(ミスミソウ)

「……イチシ、何もしないでって……」


 いつもの口調で花の説明をするイチシを遮って、為斗子は必死で言葉を紡ぐ。

 震える声、震える指先。

 だが、イチシは困惑したように目を細めて、口元に曖昧な笑みを浮かべるだけ。


「……柏原さんに、何もしないでって……」

「――私は何もしていない(・・・・・・・)よ、為斗子?」


 イチシが駄々っ子をあやすような視線で、そっと為斗子の頬を両手で覆う。添えられた親指が、キュッと頬骨をなぞる。


「そんな泣きそうな顔しないで、為斗子。()は無事だったんだろう? 大丈夫、きっと何ともないよ?」

「でも、イチシ……じゃあ、なんで……」

「――為斗子が信じられないなら、仕方ないね。

 ……でも『まだ彼は(・・・・)為斗子に必要(・・・・・・)』だろう?」


 満足そうな笑み。為斗子に構う(・・)ものを許さない、強者の笑み。

 為斗子の身体が、自然と後ろに下がる。頬から手が離れて、熱が奪われる。


「……今は要らないかな。綺麗に咲いていたんだけれどね」


 ミスミソウが活けられたコップを持ち、イチシはスッと立ち上がる。為斗子に向けられる視線はいつものように温かい。だけど、奥底に冴え凍る昏い光。優しい目付きの微笑みの中で、口元に酷薄な歪み。


「やだ……イチシ、怒らないで……」

「怒ってなんかいないよ? 変な、為斗子。私はいつもと同じ(・・・・・・)だよ?」


 日差しのようにニッコリと微笑んで、イチシは空いた手で為斗子の髪を撫で、指で()く。優しく、穏やかに。そして、捕らえるように、自分の口元に寄せる。


「為斗子を泣かせるのも、憎まれるのも、私の“幸せ”だよ……為斗子、()を独りにしないで。私の傍にいて……」


 優しく、そして残酷に響く、玲瓏な声。その声に刺し貫かれて、為斗子は身動ぎ一つできなかった。

 やがてイチシの手が髪を離れ、そのまま広縁に向かう。カララ……と庭に続くガラス戸が開けられて、まだ少し寒い外の空気が居間に吹き込んだ。


「……っ! イチシ!」


 その背を視線で追っていた為斗子は、思わず声をあげる。イチシは、その白い腕を何気なく振って、コップに活けられていたミスミソウを、水ごと庭に投げ捨てた。


「……今の為斗子には、この花は要らなかったみたいだから。ごめんね、為斗子」


 優しい声、優しい目元、優しい風情。


 だけど、為斗子は、ただ怖かった。



 庭に投げ捨てられたミスミソウ。

 花言葉は――『あなたを信じます』



 そのままイチシは庭に降りてどこかへ行き、居間には為斗子だけが残された。


 三月になって長くなった陽が、それでも陰り始めている。

 少しだけ色を濃くした青い空、少しだけ灰がかった雲に、僅かな茜色が差す。昼とも夕方とも言えない、曖昧な時間。

 信じたい、信じ切れない二人。曖昧に揺れる心。


 “()(かれ)”と告げるまでもない、確かな光の中。

 “心ゆめ”ならない二人の幸せが、ただ静かに残酷に続く。





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《和装のアレコレ》

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【祖母・佐保子の振袖】

:『三尺袖』は振袖の長さが大体110cm位です。床につくギリギリくらいの長さ、いわゆる「大振袖」です。

:『本加賀友禅』は、「加賀五彩」と呼ばれる臙脂・藍・黄土・草・古代紫の五色で描かれる友禅文様です。京友禅より落ち着いたやや沈んだ色彩で、柄の内側に向かってのぼかし(・・・)表現や葉の虫食いなど写実的な描写に特徴があります。京友禅のように、金彩や箔押し、刺繍を使わないのも特徴です。

:柄付けは、枝垂れ桜(ごまかし)、鴛鴦(夫婦和合)、流水文(変わりゆくもの)。一応、全てに理由をつけました。佐保子ばーちゃん、いい女♪


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《花のアレコレ》

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【ミスミソウ】

:作中の説明の通り。別名『雪割草(ゆきわりそう)』とも言いますが、一般に言われる「雪割草」はサクラソウ科の花のほうで、「ミスミソウ」はキンポウゲ科です。

:花弁にみえる部分は、実は(がく)で、花弁がない花です。常緑の葉は三角形……というよりハート型に近い形をしています。

:花言葉は作中通り。他に『自信』とか『信頼』とか。『内緒』なんてのも。

……相変わらず、イチシさんが乙女思考で困ります(?)


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《作中の詩歌たち》

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●其ノ壱(前書き)および其ノ伍(作中) + 表題

【向かつ峰に~】

:第五話のメインテーマ【汝が心ゆめ】

:詩歌での解釈は『誰がなんと言おうとも、あなたは心を惑わせてはいけませんよ』という励ましの言葉です。

:おおよその歌意

 《向こうに見える山の桃の木には、実がならないと人がささやいているけれど、

  (そんなことに惑わされずに)あなたはその心を迷わせてはいけませんよ(私がついていますからね)》

 ※「桃の木に実が成る」は『恋が叶う』の暗喩です。


●其ノ壱(作中・歌詞)

【春の園~】

:其ノ壱「後書き」参照。春の情景を詠った、可愛らしい歌です。


●其ノ参(作中・漢詩)

【春來遍是桃花水~】

:本来の漢詩は、王維『桃源行』ですが、今話では『和漢朗詠集』に出てくる“上巳(三月三日)の歌”として引きました。

:原作(?)はいわゆる七言絶句の詩で、全部で三十二句からなります。今回引いたのは、その最後の二句だけです。全体的に、桃源の地(仙境としての桃源郷)の美しさを、ここぞとばかりに歌いあげています。

:最後二句のおおよその歌意

 《春が来ると、そこかしこに桃花の水がみなぎるので、仙境の所在が分からなくなってしまう

  (この仙境を、これから再び)どこに訪ねればよいのだろうか》*最後は反語

:陶淵明の『桃花源記』に影響を受けたとされています。いずれにせよ、理想の地、仙境としての「桃源郷」を美しく描写した漢詩です。なんと、王維19歳の時の作。さすが“詩仏”、さすが進士及第(科挙合格者)。王維の生涯は結構波瀾万丈なので(楊貴妃で有名な玄宗の代、安史の乱にも巻き込まれています)、それを思うと後年の自然礼賛の詩風は感慨深いです。


●其ノ伍(前書き)

【あかざらば~】

:桃の花つながりで選びました。多分マイナーな和歌。ありがとう、国歌大観DB。

:おおよその歌意

 《飽きることなく、千年も先までも、桃の花を髪に飾りましょう

  その花も変わること無く、また春が終わることもないでしょうから》

※この歌の背景には、『三千歳(みちとせ)の桃」という不老長寿の桃についてのエピソードがあります。

 三千年に一度だけ実を付ける、という西王母が漢の武帝に与えたという桃です。

※つまり、三千年に一度の結実による長い年月、花も変わることがない、という永遠を寿ぐ歌です。


●其ノ五(作中:歌詞)

【春と聞かねば~】

:言わずと知れた『早春賦』の三番。(春は名のみの~風の寒さや~♪)

:作詞は吉丸一昌、作曲は中田章。早春の歌の代表例ですね。

※なお吉丸氏の没年は1916年(作曲者の中田氏の没年は1931年)ですので、著作権(著作財産権)保護期間満了曲です。



***********

-----本当の後書き-----


【化生守】第五話(本編)をお届けいたします。前回までの二話がそれぞれ「故話」(イチシ視点)と「余話」(番外編)でしたので、本編としては「小正月」の第四話以来となりました。

直近の三話分が結構「甘々モード」で書いたため、今話もその影響を受けています……最後で軌道修正してみましたが。


今話の主題は『心惑う為斗子と、全力で(たぶら)かす乙女なイチシ(え?)』だったのですが、それ以上に『佐保子おばーちゃん、無双』な気が。元々「作中で一番いい女」の設定でしたが、ちょっとだけそう感じていただければ幸いです。

字数(話数)の都合上、ばっさり削ったエピソードの一つが『守屋に嫁いだ後の、(佐保子)小姑(イチシ)のバトル(?)』小話だったのですが、そのうちどっかで差し込みたいですねえ。

【佐保子】の名前の由来は、日本古来の春の女神「佐保姫(さほひめ)」です。秋の女神「竜田姫」と共に、染め物や機織を司る女神として位置づけられていて、秋の紅葉は竜田姫が、春霞は佐保姫が織りなす物とされています。

その女神の名にふさわしい、素敵な女性として設定しました。


再び糖分が抜け始めた気配を見せる終わり方になりましたが、この【化生守】は本来こっちのスタイル作品です。次話に「糖分とカカオ」が残っているかどうか、ちょっと作者自身、迷走しています。今話(特に最終話の其ノ伍)も、油断するとすぐイチシがデロ甘モードに入りたがるので……まったく、すっかり乙女思考に染まってます。こまったもんだ。


今後とも作者の趣味全開の【化生守】を、為斗子とイチシのどこか危うい箱庭の幸せを、これからも見守っていただければ幸いです。

次話は、構想としては「桜」をテーマにできる時候、「清明」のあたりが理想ですが、忙しい時期でもあるので確約できません……申し訳ありません。為斗子の誕生日(三月下旬)とか、観桜演奏会とか、色々あるのにぃ……。

桜を逃したら、多分次は立夏。端午の節句ですねぇ。


お読みいただき、ありがとうございます。次話もどうぞよろしくお願いします。

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