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デッドエンド・アンド・スタート

 アラヤは、いわば“奇妙な”少年だ。

 私がダンジョンの低層で、最初に彼を見つけたとき、彼は袋小路の一番奥で、一心不乱に足踏みをしていた。私が通路の入り口に立つまで何の気配も察することができなかったらしく、正面から声を掛けたときは幽霊でも見たかのように驚かれた。

 奇天烈(きてれつ)な登場もそうだが、彼の言動は一々奇天烈だ。

 例えば、見るからに異国の服装をしていて、こちらが一言、二言喋りかけても「まるで意味が分からない」という風の反応を見せたが、三言目にはいきなり思い出したかのように流暢(りゅうちょう)なジェーム語で応答してきた。

 例えば、私も初めて見るような魔物の生態から特徴、弱点まで的確に当て始めたかと思えば、普通に生活していれば民間人でも知っているような祈りの作法を知らなかったりした。

 挙句の果てには“師匠”だ。

「戦いぶりに感動しました、師匠と呼ばせてください!」

私の殺陣を、相手が魔物とはいえ命を(むし)(わざ)を、あまつさえ「美しい」と形容したときは、流石の私も耳と目を疑った。私が対面しているこの少年は、本当に見た目通りの齢と種族なのかと。

 結局、彼が魔族であるとか、外見的特徴の知られていない長寿種族だとかの証拠は見つからなかったが。


 このままでは初めて出来た後輩が不気味なままで終わってしまうから、話を変えよう。率直に言って、後輩としてはこれ以上の人間は居ないだろう。決して目立たず、裏方に徹しようとする反面、へりくだって“師匠”たる私を何かと持ち上げ(むず痒いが、おだてられて悪い気はしない)、実戦経験など無いと言っている割には、ダンジョン探索者としてやるべきことがしっかり頭に入っている。わざわざ指示をしなくとも勝手に次を考えて動くのだから、使う立場としては非常にやりやすい。

 事実、ここ最近は戦利品から消耗品の管理までほぼ彼に任せっきりだ。

 装備品こそ鑑定屋に持ち込むものの、拾った魔道書、巻物や薬については、未鑑定であっても大まかに中身が分かるらしい。鑑定師を生業にしているとか、そういう訳でもなさそうだから、何かタネがあるのか尋ねてみたところ、「占いみたいなもんですよ」と、そんな答えを返された。曰く、呪われているか否かまでは判断できないそうだが、十分に実用範囲の能力である。

 それ以外にも、鑑定した結果使い物にならない装備や魔物が落とす端材は売り払って金に変え、その辺から雑草にしか見えない植物を摘んできては錬金屋に持って行って薬に変える。

 先月末などは、税金対策するから所持金を教えてくれなどと訳の分からないことを言い始めて、まさかと思って教えてみたら、その月の税金が確かに前の月に比べ一割ほど減った。日を重ねるにつれて増える一方だった税金が一割も減った、という事実に、さしもの私も随分と目を丸くしたらしい。


 目覚ましい活躍を見せるアラヤだが、私を“師匠”と呼び、自ら弟子を名乗るからには、私から学びたいものがあるそうだ。こちらとしては主に資本回りに関して弟子入りしたいくらいであるが、ともかく。

 学びたいものとはずばり、剣術。一度、何かの機会にねだられたことがある。普段は滅多に物欲しがらない子だから、何かしら頼みや相談には乗ってやりたいのが本音だが、私はその道を彼に(おし)える気など毛頭無い。その旨を一歩も譲らず言い聞かせると、渋々といった様子で引き下がってくれた。

 「はぁ、なら、いいです。勝手に真似しますから」

その言葉の真意は分からないが、少なくとも彼が鑑定済みの剣を握っているのなんか見たことが無いから、負け惜しみめいた彼なりの捨て台詞だったのかも知れない。




 そんな彼の奇妙さを、なぜ今思い出しているのか、といえば。

 ある意味、現実逃避なのだろう。

 正体不明の押しかけ弟子が、自分を守りながら戦っているという事実に、納得したくないのかも知れない。




****




 “バフォメット”が初見殺しと評価されるのには、二つの理由がある。

 まず一つ目は、その出現条件。

 プレイヤーがダンジョン攻略の目標とする、ダンジョンコア。ダンジョン最深層にあるそれは、キャラクターが触れた時点で、触れたキャラクターとそのパーティメンバーを存在する階層に応じたランクのボスの居るエリアへ転送する機能を持っている。だから、攻略者のレベルに見合わぬ敵がいきなり出現して詰み、ということは、一般的には無い、ということになっている。

 ところが、極稀(ごくまれ)に、その転送機能がぶっ壊れているものが存在する。それが『欠けているダンジョンコア』である。

 これはダンジョン生成時に低確率で発生する現象で、コアを調べると「欠けている」というメッセージが表示される。それでも構わず触れると、その先に待つのは適正レベル60以上の怪物ども。

 何が出てくるかは出現フラグのある魔物の中からランダム決定されるらしく、時には戦い方次第で何とかなる相手が出てきたりもするが、大抵はどうにもならない。“バフォメット”もそのクチである。

 二つ目に、むしろこちらが問題なのだが、その強さである。レベル60以上は確定されているのだから強いのは当然なのだが、“バフォメット”は、プレイヤー側のレベル上限が99である「Strange Dungeons」において、適正レベル150と言われる調整不足(壊れ)モンスターなのだ。

 いくら『欠けている』だったとして、プレイヤーのレベルが80もあれば大部分は攻略可能なボスモンスターの中で、この数字は明らかに間違っていると誰もが思うはずだろう。

 行動パターンこそ「近づいて、殴る」という単純なものだが、その理不尽なまでのステータスと、意外と多彩な接近行動の数々に、戦士も魔法使いも等しくボコボコにされている。

 そんなだから、某所に投稿された「バフォメットってやつやたら強いって言われてるけど、動画見てみたら殴ってくるだけじゃん。魔法攻撃も遠距離攻撃も使えないアホだな、アホメットだわ」という無礼極まりないコメントは瞬く間に広まり、程なくして「アホ(みたいに強い)メット」などと言われ始めたのは言うまでもない。これだけ見ると寒いネタにしか見えないが、戦う方としては的を射ていると言わざるを得ない。


 そうして今、俺はその悪魔と生身で対峙している。

 戦うのは初めてじゃない。一人で勝ったことも、一応ある。その上、今は師匠という心強い味方がいるのだ。

 しかし、自分に何を言い聞かせても、身も心もガチガチに固まるだけだった。

 そんな俺に目もくれず、レイチェルが“バフォメット”へ向けて駆け出した。

 「はああっ!」

 敵の大振りな攻撃を回避したレイチェルが、手にした剣を両手で上段から振り下ろす。気迫の(こも)った一撃が、“バフォメット”の右腕に直撃したが、しかしわずかにその皮膚を()いだに過ぎず。

 予想外の防御力に、レイチェルの動きが一瞬止まる。その一瞬で、彼女の体が宙を舞った。

 「師匠っ!?」

ショッキングな風景に、逃避気味だった脳が覚醒する。一気に、自分のやるべきことが頭に流れ込んできた。

 開きっぱなしだったアイテムリストから、『青色の薬』を取り出して、落下した地面から動かないレイチェルへ投げつける。コアに触れた本人が死亡すると、その時点で攻略失敗と見なされダンジョンの外に投げ出されるから、彼女が生きていることは分かった。

 投げた薬がどうなったかはここから確認できない。だが、事前に「Lv2ポーション」の未鑑定名が『青色の薬』であることは確認したから、ひとまず差し迫った問題の一つは解決だ。

 さぁ、次は__。


 Gyaaaaaaaah!


 再び、“バフォメット”が咆哮し、突進を開始する。矛先は俺。当然、その速度に生身で対応できるステータスは持ち合わせていない。

 だから、咄嗟(とっさ)に『カビ臭い巻物』を取り出して、そこに書かれた呪文を早口に読み上げた。次の瞬間、視界がガラリと変わった。正解。『カビ臭い巻物』は鑑定すると「テレポートの巻物」になる。

 転移した場所は突進中の“バフォメット”の背後側。突然に目標を失った悪魔は、自ら俺から離れていく形となる。巻物の転移先はランダムだから、危険な賭けではあったが、今回は良い方向に転がったらしい。


 レイチェルが剣を支えにして立ち上がろうと動き始めたのを視界の端に認め、ホッとしつつも、「彼女を守る」という目的を再認識する。

 その為には、ただ相手の攻撃を凌いでいるだけでは仕方ない。今ある戦力と発想で、部屋の主を仕留める必要がある。一応、ボス部屋を含めたダンジョンから脱出する魔法や同等の効果を持つ巻物も存在はするが、俺もレイチェルも魔法職ではないし、地下三階なんていう浅いフロアにはそんな巻物は落ちていない。第一、巻物は読んだ本人にしか効果がない。師匠を置いて自分だけ帰るなんて選択肢はあり得ない。

 だから、ここから出るには何とかして奴を滅ぼさなければならない。

 どんなに贔屓目に見ても、絶望的だ。ゲーム的に考えて、レベル60台の剣士と、職すら持たない村人同然の小僧が並んだところで歯が立つ相手じゃない。しかもこちらが持っているのは、頑張っても三階層までで手に入る小物だけ。ダメージになる手段が少なすぎて、魔王染みたHPを誇る相手を削り切れる訳がない。

 しかし、それはゲーム的な考えの話。現象全てがアナログとなったこの世界なら、或いはデータ的な処理以外にも突破口があるはずなのだ。甘えだろうが、現実逃避だろうが、そこに光を見出だせるならなんだっていい。


 悠長に考えている(ひま)は無い。敵は既に突進動作を追え、次の行動を起こそうとしている。

 『角笛』を取り出して、迷わずほうほうと吹き鳴らす。『角笛』の鑑定先は「角笛」「鼓舞の笛」「治癒の笛」等々、割と多様だ。しかしその全てに共通するのは、同じ部屋に存在する敵対キャラクターのヘイトを使用者に惹きつけるという効果。万全でないレイチェルに敵を向かわせる訳にはいかない。

 二階層で拾ったものだし、大方「角笛」だろうと高を(くく)っていた。万一副次効果が起こっても角笛系アイテムがデバフに相当する効果を引き起こすことは無いから問題無いと踏んでいたし、実際その通りで、俺が吹いたのは確かに「角笛」だったのだが、一つ予想外の出来事が起きた。否、考えが足りなかったと言うべきか。

 響き渡る角笛の音に呼応するように、空気が揺らめく。「ん?」と疑問を感じた途端、異変は起きた。

 気付けば、俺は魔物に包囲されていた。それも、通常攻撃に複数の凶悪な状態異常を孕む狼「バンダースナッチ」、属性を持たない代わりにそこらの竜族より二回りはでかい体躯とステータスを持つ「ドラゴンロード」、様々な魔法スキルとMP無限という特性がウリの「リッチ」という錚々(そうそう)たる面子である。

 絶体絶命に見えるが、内心では狂喜乱舞するほど嬉しい誤算である。どうやら「角笛」には《呪われた》のエンチャントが付いていたらしい。呪われた角笛系アイテムは、本来の効果と共に、使用された階層に応じた魔物を数体、使用者の周囲に召喚する。

 そして、ここからが重要なのだが、召喚された魔物は敵対せずに中立となる。つまり、こちらから危害を加えない限りは襲ってこないし、別の魔物から攻撃を受けるとそちらにヘイトを向けるようになるのだ。

 しかしなぜそんな怪物級の魔物がホイホイ出現したかというと、答えは簡単。「このフロアが地下80階相当だから」。コアマスターと対峙するフロアは、それまでのダンジョンとは独立して難易度等が設定されている。つまり、元のダンジョンが三階というちっぽけなものだったとしても、『欠けているダンジョンコア』の転送先であるここは、システム的にレベルカンストしたプレイヤーが挑むような人外魔境と同じ扱いだということだ。


 思わずニヤリと口元が歪む。分が悪いのは相変わらずだが、勝機は見えた。“バフォメット”が新たな存在を知覚して近づいてきたのを確認し、召喚された魔物達を刺激しないよう細心の注意を払ってその場を抜け出す。

 振り返れば、丁度“バフォメット”とドラゴンロードによる怪獣大戦が始まったところだった。遠目に見ると壮観だが、ロマンに浸っている場合ではない。

 “師匠”、レイチェルを見つけて駆け寄ると、彼女の方もこちらに気付いたようだった。

 「怪我はどんな具合ですか」

真っ先に尋ねると、彼女らしいきちんとした返事が返ってきた。

「おかげで悪くないよ。もっとも、仮にも“師匠”と呼ぶ相手に謎の薬を投げつけるのは勘弁だな」

「それは……すみません」

ぐうの音も出ない正論である。まぁ、本気で俺を責めるつもりなど無いのは分かっているが。

 「謝るべきはこっちの方だ、弟子の前でこんな無様を晒すとは、自分が情けないよ」

「止してください、先に忠告しなかった責任は」

「私の判断力不足だ」

俺のフォローの言葉を遮って、レイチェルは言い切った。言いたくなる気持ちは、正直分かる。敵と圧倒的な力量差があったとは言え、今でも地面に立てた長剣に重心を預け、体幹がしっかりしていないその姿は、俺からは哀れと形容するしか無い。

 「そんなことより。今、僕を弟子と認めてくれましたね?」

「……は?」

「帰ったら、剣の稽古、付き合ってくださいよ。師弟な訳ですから」

「……ハハ、本当に、分からないやつだよ、お前は」

「言質取りましたからね。守ってくださいよ」

 よし、幾分か心が軽くなった。師匠も笑ってくれた。帰る動機も出来た。後は、実行するだけだ。

 「それじゃ、これ読んでおいてください」

言って、「バリアの巻物」を手渡す。一度だけだが、あらゆる攻撃を無効化する防御を得る巻物で、数少ない外から持ち込んだ鑑定済みの巻物の一つだった。

 「待て、こんなもの、お前が読んだ方がよほど」

「“師匠”がやられたらお(しま)いです、問答無用で外に出されてしまいます。そしたら、アレを仕留められないでしょう?」

「だが」

 「僕なんかより貴女が生きてる事の方がよっぽど重要なんだ!」

この世界では死んだらそれで人生終了だ。ゲームではプレイヤーこそコンティニュー扱いで街に戻されるが、パーティメンバーのNPCはそうではない。HPが無くなって死亡したら、生き返らせる手段は無い。教会で祈れば解決、なんていう甘い世界設定ではないのだ。

 そして当然、ゲームでなく現実であるこの世界にコンティニューも蘇りもある訳が無い。一ヶ月半くらいの付き合いとは言え、命懸けの冒険を何度も共にした。そんな相手を、可能性を残したまま失ってなるものか。

 そんな意地に任せて言い切ってから気付いたが、これはともすれば戦場の愛の告白と相違無いのではないだろうか。いや、確かにレイチェルは若くて美人だし、敬愛こそしているが、しかしそれが恋人になるというのは禁断というか。

 ともかく、言葉の意味を彼女がどう受け取ったかは分からないが、少なくとも心には響いたようで、次に発された言葉は質問だった。

 「……お前はどうするつもりだ」

 答えは決まっている。

 「やるべきことが見つかったので、やるだけやってみます」

先程まで未鑑定()()()短剣を取り出し、“バフォメット”に目を向ける。と、そこには。

 「どうして……」

 目に映ったのは、あちこちからドス黒い血を流しながらも、両足でしっかり立ってこちらを睨む“バフォメット”の姿。続いて、頭蓋を砕かれぐったりとしているドラゴンロードが、妙に鮮明に見えた。

 理解が追い付かない。なぜだ。当然“バフォメット”側のステータスの方が高いが、ドラゴンロードはこんな短時間で決着されるほどヤワではない。側にはバンダースナッチとリッチもいて、そうそう簡単に負ける状況ではないはずだった。

 なるほど、「はずだった」だけなのか。いくらゲームが元の世界で、いくらドラゴンといえど、生物なのだから、頭を砕かれてなお活動できる訳など無いのだから。

 と、悠長に結論を出している間に、“バフォメット”が正真正銘最悪の行動に出た。

 大きな跳躍。両腕を振り上げ、幅跳びの五輪選手もかくやという格好で上空から飛び掛ってくるその攻撃こそ、数多のプレイヤーを葬った事実上の即死攻撃。予備動作無し、発生からの猶予ターン無しという鬼畜っぷりから放たれる一撃は……言葉で表現するまでもない。

 「アラヤ!」

「早く巻物(ソレ)読んでください!」

発動してしまったからには仕方ない。腹を括った。俺はもうどうしようもないが、レイチェルには「バリア」がある。相手もそれなりに消耗しているはずだから、彼女ならもしかしたらやってくれるかも知れない。

 そう信じて、目を瞑る__が、予想していたものとは違う衝撃を受けて、俺の体は無防備のまま吹き飛ばされた。

「がっ……!?」

 直後、響き渡る轟音、次いで振動。部屋が崩れるんじゃないかというくらい尋常でない地震が起こった。ゲームではただの範囲攻撃だったが、現実になると二次被害が半端じゃない。

 しかし何より、問題はそこじゃない。

 「師匠おおおおおおおおおっ!」

衝撃に驚いた一瞬、目に入ったのは純白の鎧の一部。レイチェルが俺を突き飛ばしたのだろうという推測は簡単にできた。……そして恐らく、彼女はあの一撃の直撃を受けたのだろうということも、また明らかだった。巻物を読んだ上で俺を避難させるなど、クロックアップでもしない限りはいくら何でも不可能だ。

 証拠に、視界が徐々にブラックアウトしていく。ゲームのデバッグの過程で幾度も見た現象だ。ダンジョンコアに触れたパーティメンバーがプレイヤーではなかった場合、そのメンバーが死亡すると、こうして暗転演出が入る。目が覚めると、ダンジョンの入口前、という訳だ。

 暗く塗り潰されていく世界の中、悔悟と自責の念に押し潰されそうになる。コアの特異性にもっと早く気付ければ。敵の危険性と行動パターンをレイチェルにきちんと伝えていれば。会話を交わしつつも戦況にきちんと目を向けることができていたなら。

 何より、俺自身がゲームの記憶に自惚(うぬぼ)れることさえ無かったら。

 しかし、いくら悔いようとも、結果が覆る訳でもない。自暴自棄気味に思考を停止した俺は、静かに目を閉じた。








~~~~








 それから、二年が経過した。

 あっという間だった。ひたすら「強くなる」ことだけに執着した俺は、いつしかレベル80の大台に乗っていた。

 それも、ただのレベル80ではない。鑑定師、錬金術師、調理師、鍛冶師、エトセトラ。所謂サブクラスと名の付くものは粗方制覇した。後から考えてみれば、無茶苦茶だと我ながら思う。

 それでも、“師匠”を超えた、という実感や感動は無い。今の俺は、今でも尊敬する彼女の域には達していないから。何が足りないかは漠然としているが、ともかく何かが足りていない。

 だから、かつての師匠と同じように、旅に出ることにした。世界中を回る旅だ。師匠は俺に気を遣ってか、共に暮らした一ヶ月少々の間に拠点を変えることはしなかった。

 その拠点というのも、ゲームの舞台だったジェームという国の都市の一つ。目指すは国外だ。国境より先は、ゲームを知り尽くした俺にとっても未知の領域。良い経験になるだろう。


 かくして、18歳、この世界での成人を迎えた俺の、波乱万丈な人生が始まった。



【序章・完】

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