ミニカー
登場人物
主人公:社会人。一人暮らし。
マンガン:力は弱いけど、長持ち。全体的に黒い。
アルカリ:力が強くて体力もあるけど、頑張りすぎて息切れする。全体的に金色。
商店街の福引で当たった(五等)ミニカー。
本格的な作りなのか、結構重たい。
このままだと埃を被らせてしまいそうなので、
せめて一度くらいは遊ぼうと思ったのだが――
このご時世に、未だに乾電池式らしい。
「あー……今、暇な奴いる?」
「はいはーい」
テレビのリモコンの中で休んでいたマンガンが手を上げた。
「んじゃあ、ちょっとこの車に乗ってみてくれないか」
「仕方ないですねぇ。シュー〇ッハばりのドライビングテクを――」
そう言いながら、乗り込むマンガン。
いざ発信! とスイッチを入れたのはいいのだが――
…………
遅い。飛んでいる蝶にも劣る遅さだった。
「あー、だめだ。全然走らないよ、これ。壊れてるんじゃない?」
「新品だぞ!? んなわけあるか!」
「マンガンは非力だからなぁ」
ヘッドフォンの中から、アルカリの声がした。
「ペース配分が上手いって言ってくれる?」
「アルカリ。お前も試しに乗ってみるか?」
「もちろん! ちょっと代わって」
『我こそは』と、マンガンを押しのける。
最初から様子を見ていたものの、出るタイミングを逃していたらしい。
一刻も早く乗りたい雰囲気が全身からにじみ出ていた。
「あっ」
乗り込むなりスイッチを入れるアルカリ。
ミニカーがすごい勢いで走りだした。
マンガンが乗っていたときよりも、はるかに早い。
「みてみて! すっごい早くない!?」
「あぁ、お前こそシュー〇ッハだ!」
30分後。
アルカリを乗せたミニカーは縦横無尽に部屋の中を駆け回っていた。
「私はいま――風になる!」
華麗にドリフトを決めるアルカリ。
フローリングに傷がつく。やめてくれ。
「あー……そこらへんにしといた方が……」
「なに? 自分が乗りこなせなかったからって嫉妬してるの?」
「もう! アルカリの事を心配して言ってるのに!」
1時間後。
「か……枯れた……」
精根尽き果て、崩れ落ちるアルカリ。
どこからどう見ても電力切れだった。
「ア、アルカリー!!」
あれだけ重たい車体を、一時間近く走らせ続けたのだ。
当然と言えば当然の結果なのだろう。
「だから言ったのに……」
ため息を吐くマンガン。
結局――
そのミニカーで遊んだのは、それっきりとなってしまった。